第四百四十一話(カイル歴515年:22歳)戦勝記念式典
(お知らせ)
昨日1/15日にコミック三巻が発売されました。
そちらの応援もどうぞよろしくお願いします。詳細はあとがきにて記載しております。
身内の話が落ち着いた翌日、俺たちは戦勝記念式典に臨むこととなった。
特にこの式典には、魔境公国を救ってくれた盟友として、帝都から俺たちに同行していたフェアラート公国のクリューゲル陛下、そしてカイル王国の国王代理としてクラリス殿下も参加いただくことになる。
そうなると公式には、魔境公国始まって以来の盛大な式典とならざるを得ないが……、その会場は王宮といっても申し訳程度の慎ましいもの、地方貴族の居館程度のものなんだけどね。
一応、大広間だけはそれなりの広さと装飾で、最低限の体裁は保てるようにしている。
「フェアラート公国、クリューゲル国王陛下、カイル王国、国王代理クラリス殿下、ご入来!」
その言葉とともに、居並ぶ全員の盛大な拍手のなか二人は会場に入場し、それぞれが俺と固い握手を交わしたあと、玉座の左右に設けられた貴賓席に着座した。
ってかさ、ちょっと前までは一介の臣下に過ぎなかった俺が、彼らを対等の盟友として迎えることに一番落ち着かなかったりする。
「両国は我らの盟友、今回の戦役で我が国の窮地を救ってくれたことを心より感謝し、それを誠意で示すことによって今後も変わらぬ友誼を結ぶ証とさせていただきたい」
「なんの、礼には及ばぬこと。私自身が公王によって命を救われ、内乱の鎮圧ではお世話になった身。
これは恩返しの一端であり、気に病まれることはない。
今後も『我が友』とは末永く友誼を結びたいものだ」
「カイル国王たる父に代わり申し上げます。そもそも公王陛下はカイル王国の友人であり国家の恩人です。
今回は友邦として当然のことをしたまでです」
「お二方には改めて感謝を申し上げます。
その気持ちとして、先ずはカイル王国に謝礼として魔境公国より別途、王国金貨四十万枚相当を贈らせていただきたいので、クラリス殿下には国王陛下への取次ぎをお願いしたい」
もちろん両国には、既に帝国からの謝礼は支払われているが、俺たちがタダ乗りする訳にもいかないからね。
参戦した一万五千人×金貨20枚に加え、追加駐留経費が五千人×金貨10枚で総額三十五万枚、それに諸経費が5万枚相当という計算になっている。
「フェアラート公国のクリューゲル陛下も同様に王国金貨十万枚相当を贈らせていただき、加えて我が国から感謝の気持ちとして、グリフォニア帝国領と公国との国境を結ぶ街道を無償で整備し、三国の交易を支援させていただく」
これは魔境公国の領域外の工事となるが、既に帝都で俺と新皇帝とクリューゲル陛下、三者で同意ができている。
魔境公国がぞれの国境に通じる街道を整備したうえで国境の関門を建設して譲り渡す予定だ。
この辺りは地魔法士を数多く抱える俺たちには、まさにうってつけの事業となる。
実のところ公国の首都フェアリーから帝国や魔境公国への移動は、遠くカイル王国の西国境を経由するよりも、公国の南側にある間道を抜けた方が遥かに早い。
ただ間道と言っても、これまではまともな道すらなく、難所が多いため少数の軍しか抜けられないものだった。
それを以前の収穫祭で初めて、一軍を率いたクリューゲル陛下が通過して以降、間道は少しずつ整備されているらしい。
今回はそれを街道として整備し、通商道路とするのが俺の謝礼だ。
幸いなことに帝国側の国境のある場所は、新たに伯爵となったドゥルール伯爵の所領であり、余計な気兼ねもない。
そもそも街道が完成すれば三国とも利のある話になるからね。
そんなことを考えていると、レイモンドが前に進み出て先ずは来賓の二方、そして俺に一礼した。
「それではこれより両陛下、及び殿下の御前で各位の論功行賞に移らせていただきます。
先ずは勲功第一位、留守部隊総司令官ソリス・フォン・アレクシス子爵、前へ!」
アレクシスは勿論、誰もが認める勲功第一位だ。
なんせ圧倒的に数に勝る敵軍を退け、第三皇子委任統治領を守っただけでなく、二万五千にも及ぶ敵兵を捕虜とした。
「アレクシス、其方の働きは見事としか言いようがない。よく寡兵で戦線を支え領民たちを守ってくれた。
この働きを認め其方を勲功第一位とする」
なんかさ、跪くアレクシスにそう言ってはみたものの、いつもは論功行賞を受ける側だからさ、自分が賞する側だと違和感が半端ないんだよな。
「なんの、これも全て公王陛下の周到な準備、授けてくださった策の数々、諸将の奮闘の賜物です。
ただ私は陛下の盟友かつ貴重な司令官と、数多くの兵を失いました。お叱りを受けて当然のところ、至らぬ身で慚愧に堪えぬところです。
過分な評価を受ける訳にはまいりません」
そう言ってアレクシスは、改めて詫びたが、ゲイルの喪失は彼の責任ではない。それは俺の責任だ。
しかも犠牲を出さずに勝利することなんて不可能だし、戦没者に哀悼を示すことは当然のこととして、少ない犠牲でより多くの人々を守ってくれることは賞すべきだ。
「確かに苦しい戦いだった。それでもなお、圧倒的に不利ななか、挫けず立ち向かって勝利したことは賞すべきだと思う。アレクシス、前を向いてくれ」
俺はじっとアレクシスを見つめたのち笑った。
実は前日の会議の後も、彼は個別に俺を訪ねてきていた。
『今回の損失の責任を取り、陞爵と褒賞は辞退するか、何らかの処罰を与えてほしい』
と言って直談判に及んでいたからね。
もちろん俺は、『検討して明日の式典で伝える』と返答しておいたけどさ。
「其方には、改めて罪はないと申し渡す。
この先でソリス侯爵の領地を継承することは無くなる代わりに、トライアを含む旧イストリア正統教国の南一郡及びリュート王国より割譲された領地を任せたい」
「そ、それでは……」
「以前に伝えたことと変わらぬ、そう言いたいのだろう? だがそれは違う。
新しい任地は全て元は他国、統治に心を砕く必要もあり、簡単な仕事であろうはずもない。罪を望む其方に、私は面倒ごとと責任を押し付けるのさ」
要は考えよう、言い方(見え方)を変えただけだけどね。
実際に元は敵対した国の土地、それも南一郡は譲り渡されたものでもないからね。
「アレクシスはこれより辺境伯となり、相応の権限を委ねるゆえ国土の東方を固める守り手となるがいい」
「「「「「おおおっ」」」」」
俺の言葉に会場は一気にどよめきに包まれた。
なんせアレクシスは今や、推しも推されぬ魔境公国の出世頭だからね。
元は爵位もない男爵家の次男坊、それが戦功により準男爵となり、つい二年前までは準男爵だった彼が子爵に、そして今度は広大な領地を有する辺境伯になったのだから。
この期に及んでアレクシスも覚悟を決めたようだった。
ちょっとだけ……、『ずるいですよ』と言った目で笑っていたけどね。
「はっ! 非才の身に身に余る栄誉ですが、ありがたく拝領させていただきます」
「なお、ソリス辺境伯には褒賞として金貨十五万枚を与えるゆえ、新領地の防衛強化と開発を頼むぞ」
「はっ、謹んでお受けし、いただいた褒賞で新たな任地の発展に努めさせていただきます」
「では次に第二位、ゴーマン侯爵及びソリス侯爵、前へ」
ここから先は、特にイレギュラーもなく前日に打ち合わせた内容の通りに進んだ。
第三位が命を賭して一万人の民間人を救い故人となったゲイル。
第四位が団長及びファルムス伯爵(辺境伯)及びボールド子爵。
その他にも、戦功により騎士爵や準男爵となった者たちが呼ばれ、それぞれが功績により新たな地位に任じられていった。
その中には新たに騎士爵に任じられた若者たちもいた。
まぁ……若者といっても俺と同い年、かつての学園の同級生なんだけどね。
マーク、ミゼル、ショーン、ハイマン、以前から各部署で頭角を表して来ていた彼らは、今回の戦役を通じて晴れて魔境公国の騎士爵となった。
もちろん俺が推薦した点もあるが、それぞれが他の者からも推薦を受けていた。
ショーンの活躍はアリシア殿下から俺に礼状が送られてくるほどのものだったし、ミゼルはゴルパ将軍から同様に、マークはゴルドやヨルティアから、そしてハイマンはローザから推薦があった。
俺も知らなかったことだが、ハイマンは配下の百騎を率いてローザや孤児たちを救うため死戦し、命懸けで彼女たちを守り通したそうだ。
同じ同級生だった彼らの晴れ姿を見て、なんだか俺も誇らしい気分にさせられていた。
一通り論功行賞が終わると、俺は改めて全員に向かって話し掛けた。
「また魔境公国より式典に参加した諸君には二つのことを伝えたい。
ひとつ、従軍した兵士たちにもそれぞれ先勝分配金が支給されるが、その差配は各領主にお任せする。
ただし戦死者には国から追加で金貨四十枚を支払うと共に家族の生活が立ちゆくようあらゆる支援を惜しまないつもりだ」
そう、残された家族の面倒は国が責任を持ってみるし、仕事などの斡旋も優遇して暮らしが成り立つよう支援する。
これは直轄領に限ったことではなく、全ての兵(国民)が対象だ。
「戦傷を負って長期間の療養を要する者には見舞金として金貨二十枚を追加し、戦いを経て我らに帰参し、新たな兵となることを志願した者には支度金として金貨二十枚を支払うものとする」
因みに帰参した志願兵とは帝国領の遠征で帰参した五千名だけではない。
三国遠征では膨大な数の捕虜を得ていたが、そのうちロングボウ兵千名は魔境公国に、それ以外の捕虜は全て新生リュート・ヴィレ=カイン王国を支える捕虜または新国民候補者として預けている。
「また、直轄領だけでなく各家のなかで、論功行賞により騎士爵以上の地位に就く者たちには、個別に魔境公国として褒賞を支払う。
これは軍務に就いている者だけでなく、後方で政務に就き前線を支えた者を含めて、だ」
「「「「「なんとっ!」」」」」
まぁ大きな金額ではないので、上乗せが必要なら各家で個別にやってもらえれば良い。
論功行賞で褒賞を与える領主以外、彼らの配下に対し公王として支払う感謝の褒賞なのだから、この辺りは一律で構わないと考えている。
・騎士爵相当 金貨300枚(約110名)
・準男爵相当 金貨500枚(25名 魔法士やその他)
・男爵相当 金貨800枚(12名 妻たちや魔法士)
・子爵相当 金貨1,000枚(ユーカ及びゲイル(特進))
これに加え、俺の直轄領で従軍した者には一人当たり金貨30枚を、留守部隊として後方に残り、領地を守っていた者たちには金貨10枚を手当として支払う予定だ。
この結果……、ここまでで既に帝国からの謝礼と三国からの賠償、その半分近くを使い切ったことになる。
ずっと以前に魔境公国が設立された過程で得た褒賞は、その後の開発や防衛体制の構築、今回の戦費や避難民の受け入れと支援金、食料支援の買い付けなどで使用し、ファンドに回したものを除けばほぼほぼ使い切っている。
なので残った国家としての資金は金貨約三百万枚となる。
なんか……、あっという間に無くなったよな。
三百万枚と言えば凄い数だが国として大きくなった今、兵や官吏(及び受付所員)に支払う人件費も膨大になった。なので内政に手を抜けば、あっという間に消えていくことだろう。
めっちゃ怖いな……。
「公王陛下……、準備が整いました」
いかん、ボーっとしてたな。俺はレイモンドの声掛けで我に返った。
改めて見ると次の準備が整っているようだった。
「今日この日は二国の助力あってのもの、それを感謝し今後も盟邦として友誼を交わすことを誓い、心に刻む式典としたい。そこで先ずは式典の終わり、祝賀会に移るにあたって皆と改めて誓いの盃を交わしたい」
俺がそう発言すると、待機していた給仕の者たちが一斉に式典参列者へ酒杯を配って回った。
この式典に参列していたのは魔境公国にて貴族階級にある者、昇進予定も含み騎士爵待遇以上の武官や文官を含めておよそ百五十名、そしてフレイム侯爵やゴウラス騎士団長など、フェアラート公国やカイル王国の主要武官たち二十名だ。
よくよく考えてみると、魔境公国に所属する参加者だけでも騎士爵待遇以上の者が百五十人近くいる……。
十年ちょっと前のソリス男爵爵家には騎士爵が二名しかいなかった。
そう考えると空恐ろしいことだよな。
全員のグラスが行き渡ったところで俺たちも壇上から降り、列席していた者たちの中に交じった。
ここからが本当の祝賀会、堅苦しい式典のパートは終わりだ。
「では、戦いの勝利と友邦、そして……、友たちに感謝を、乾杯!」
敢えて祝いの席なので言葉にこそしなかったが、心の中では『そして』の後に『戦いで散った』を唱えていた。
「新たな友を交えた新しい未来に!」
「五カ国の新たな未来に!」
クリューゲル陛下とクラリス殿下が応じ、そして全員が……。
「「「「「勝利に! 友たちに!」」」」」
全員が盃を掲げ、大きく唱和し飲み干した。
中には俺と同じ気持ちなのか、亡き友を思いながら目に涙を浮かべている者もいた。
「ははは、嬉しい酒の席なのに、俺を『山賊』と弄る旦那が居ないのは寂しいもんだな」
「全くです、いつもなら祝賀会の後も朝まで連れ回される流れだったんですがね、今となってはそれも……」
「そうだな。俺もいつも『祝いの席なんだから辛気臭い顔はするもんじゃねぇぞ』って……、よく茶化されたものだが、今の俺たちを見たらきっと……」
ラファール、ゴルド、クリストフはそれぞれ寂寥感を感じずにはいられなかったようだ。
こういった席では率先して賑やかに振る舞い、場を盛り上げていたゲイルはもう居ない。
俺は改めて彼らの輪の中に入ると盃を掲げた。
「ゲイルに!」
「旦那に!」
「親方に!」
「友に!」
旦那に親方に友か……。
ゲイルは皆に慕われていたんだな。
「まぁ、俺たちが辛気臭い顔をしていたら旦那に叱られちますよ。タクヒールさまも久々に奥方様と会えたんですから、こんなむさ苦しい所は後回しで良いでしょう。
俺もこれから……、今回は潜入作戦で苦労を掛けたレイムらを労ってやらねばなりませんし」
そう言ってそそくさとラファールは姿を消した。
「「!!!」」
「「そうですね、我らも……」」
そう言って慌ててゴルドとクリストフ、他にも集まりかけていた者たちが一礼すると散っていったが、そのすぐ後ろでは、何本もの酒瓶を抱えたクリューゲル陛下とクラリス殿下が立っていた。
ちっ、目ざとく逃げたな?
まぁ……、その気持ちは分かるけどね。
決して嫌がられている訳ではないのだが、他国の王や王女殿下と杯を交わすなんて、彼らにとっては恐れ多いことだからね。
当の本人は全く悪気もないんだけどさ。
「あら? 先ほどまでは賑わっていたのに、いつの間にか公王陛下お一人ですか?
折角クリューゲル陛下と共に皆さまと祝杯を上げようと思っていましたのに……」
いや、アンタらが追い散らしたんだよ!
今の俺だって一国の王や王女様と一緒に酒を飲むことには遠慮があるんだからさ。
「いや……、久々に会う妻たちの元へ行くようにと、皆に気を遣われましてね」
これは事実だ。
ヨルティアは帝国南部への遠征からずっと一緒にいたし、ミザリーも帝都の旅を共にした。
だけど留守役を引き受けたユーカとは暫く会っていなかった。ただ彼女とは帝国から戻ったあとで話す機会もあったけどね。
それよりもアンとクレアは、テイグーンやイシュタルでの差配が落ち着くまで離れられなかった。
彼女ら二人は身重だったこともあって移動を控えていたし、三国遠征を終えた俺自身も帝都出発まで何かとクサナギを離れられなかったからね。
全ての差配を終えた二人は、ゆっくりと馬車で移動のうえでなんとか式典に間に合うようギリギリに戻って来ていた。
なので久々に会えたのがこの式典、そうなってしまっていたからだ。
「それは良いな、今回の戦を陰で支えられた奥方たち、ならば我らも挨拶せねばなるまい」
いやそれは……、ゴメン。
仕方なく俺は、二人を引き連れてアンとクレアの元に行った。
ただ、恐縮する二人に挨拶と二言三言声を掛けただけで、二人は再び別の輪へと移動していくようだ。
彼らなりに気を遣ってくれたのかな?
ただ最後に……。
じゃじゃ馬はしっかり爪痕を残して行ったけどさ。
「是非、元気なお子様を産んでくださいね。いずれクリューゲル陛下と私の間に生まれる子供と結ばれる、大事なお子様ですもの。そうなれば私たちは親族として、新たな絆で結ばれることになりますね」
「「「!!!」」」
生まれる前から婚姻先が決まるなんて……。
いや、そういう話じゃない!
下手したら王族に……、それだけではなく未来の王を……。
そんな飛んでもない話になる可能性すらあったからだ。
最後の爆弾発言に、俺だけでなくアンとクレアもお腹を押さえて盛大に固まっていた。
十数年後の出来事へのフラグが、まさに今立った瞬間だった。
◆収入
帝国より謝礼 金貨500万枚(王国金貨換算)
戦後賠償金 金貨 30万枚(三か国より)
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合計 金貨530万枚
◆支出
援軍謝礼金 金貨 50万枚
論功行賞(領主)金貨 71万枚
論功行賞(配下)金貨 6万枚
直轄領兵士分配 金貨 80万枚
見舞金概算 金貨 11万枚
新規兵支援金 金貨 12万枚
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合計 金貨230万枚
◆残高 金貨300万枚
(お知らせ)
昨日1/15日にコミック三巻が発売されました。
3巻は何といっても戦場シーン!
陣形図やエストールボウなども詳細に描かれ、ヴァイス団長の不敵な笑みも最高です!
また、巻末書き下ろしは毎回、原作や書籍版にも書かれていなかった同時期の逸話を書き下ろしております。どうかこちらも是非、応援よろしくお願いします。
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まだ読まれたことのない方は是非!お試しくださいね。
次回は01/23『新領地施策①』を投稿予定です。
どうぞよろしくお願いいたします。




