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第四十四話(カイル歴504年:11歳)智のタクヒール

「ソリス男爵次男タクヒール、此度のクロスボウ発注に対し、速やかなる納品、誠に大儀であった」


ハストブルグ辺境伯は、納品に同行した俺に上機嫌で謁見に応じてくれた。



視察から帰った後の定例会議にて、父との取決めがまとまり、俺が新たに対応したことは4点だ。



まず、発注したクロスボウの100台の納品を前倒しで依頼した。

そして素材や装飾、意匠にこだわった追加品5台を発注した。(その内一台は特に最高級品として製作を依頼)


加えて高級志向の特注品エストールボウ5台を新規で発注した。


最後に、フランの町の製鉄所の拡張工事と鉱石集積所の準備を依頼した。



最後のひとつ、フランの町については、俺の裁量ではできない事なので、レイモンドさんを通じ町を治める騎士爵にも根回ししてもらい対応した。



テイグーン鉱山で産出される鉄鉱石は、本来なら採掘から製鉄、一部は鍛冶屋を通じた商品生産もテイグーンの町で一括して行う予定だが、現段階では何もできない。


そのため当面の間はフランの町を頼り、テイグーンで体制が整っても一部はフランの町を利用する予定だ。


フランの町でも継続して恩恵があれば、今後も協力関係が維持できる。

そういった手筈や根回しを行なっていた。



そうした経緯もあり、無理を言ってお願いしていた納期を前倒し、追加発注品など、年末になる前には完成し、辺境伯へ無事納品できる体制が整った。


突貫工事で依頼を達成してくれたゲルド工房長、カール親方にはとても感謝したい。



「今回はいただいたご依頼とは別に、記念品として皆様用に特別に作らせたクロスボウ5台、新種のクロスボウエストールボウ5台も併せてお贈りさせていただきます」



「なんと!これは見事なっ!」



先ずは、素材にも装飾にも贅を凝らした逸品、特別仕様のクロスボウを見て、辺境伯は驚きの声を上げた。



「折角の機会でしたので、辺境伯さま専用の物を一台、ご家族、ご近習の方用に4台、特別仕様で用意させていただきました」



辺境伯の様子に満足した俺は、更にたたみかける。



「そして、此方はソリス男爵家の忠誠の証として、持参した物になります」



とどめとばかりに、俺は貴重な秘匿兵器であるエストールボウも献上した。



「忠義の証か……、ふむ、ソリス男爵家の、いや其方の忠義、確かに受け取った!」



見事な装飾のクロスボウだけでなく、辺境伯の気遣いで発注を行わなかったエストールボウまで手に入り、ハストブルグ辺境伯は上機嫌だ。



「我が領内でも、この新型クロスボウは秘匿しよう。一族のみ狩猟などで活用させてもらうこととする」



「所で今回の件、其方の采配であろう?商売上手とはいえ、無骨者の男爵にはできん心遣いじゃて」


辺境伯は笑っていた。



「折角お土産をいただいたのです。不適切だったかも知れませんが、私もお土産をお送りしたくなり、考えてみました」


以前に指摘を受けたので、敢えて年相応に、真っ直ぐな言葉で伝えてみた。



「また其方には褒美をやらんといかんな、何か望みがあれば遠慮なく申すがよい」


「既に過分なるご厚意は頂戴しております。なので、これ以上のお心遣いは不要でございます」



「ほう、殊勝な心掛けだな、それでは尚更わしとしても何かせねば鼎の軽重を問われるというもの、遠慮なく申すがよい」


「それでは、お言葉に甘えて、私からひとつお願いがございます」



「遠慮せず申すが良い」


「ありがとうございます。私個人から、ひとつ提案がございます。それをここでお話しさせていただく許可を賜る、それを褒美とする事は可能でしょうか?」



「うん? 聞くだけで良いのか? それが褒美か?」


「はい、お聞きになった後のご判断はお任せいたします。そもそも、不躾な押し掛け提案、お聞きくださるだけで過分な褒美かと……」



「相分かった! 存念を心置きなく話すが良い!」


「ありがとうございます。ご高配に感謝いたします」


俺は深く一礼し、話を続けた。



「今回お話させていただくのは、ソリス男爵領の兵力強化について、ハストブルグ辺境伯さまに投資のご提案でございます」



さぁ、ここからが本番だ。

俺は見た目は理路整然と、実は昨夜も遅くまで話す練習をしていた持論を展開した。



「最近になって、ソリス男爵領の辺境区域で、新たな、そして有望な鉄鉱山が発見されました。

それに従い、この鉱山と隣接する開拓地の開発を進め、領内の発展に努めようと考えております。


将来は、この新たに開発する町からも、100人程度の兵が供出できるよう、開発を進める予定です。

私からのご提案は、この開発事業の投資についてでございます」



そこまで話を進め、条件面などの説明も行った。



(投資条件)


担保にはこの鉱山を当て、毎年配当と返済を行う

投資額に応じ配当を付け、返済期限は10年を想定

万が一返済が滞った際は、鉱山の権利を移譲する



「この開発を通じ、新たな街を起こし、領民を募集する。

それによって、ソリス男爵家の兵力増強に寄与して行きたいと考えております」



ハストブルグ辺境伯には損のない話だ。

初期投資の金貨に余裕があれば、毎年利益がある。



「うむ、智のタクヒール、その名に恥じず見事な献策だ。

男爵の昇爵については私の思うところでもある。以前に話した通り、私も助力は惜しまんつもりだ」



そこで辺境伯は一度、思案顔になった。



「其方の献策は私の意に沿った内容と言える。よって金貨1万枚を投資しよう。

それとは別に、更に金貨1万枚を追加で投資する。此方は返済期間の規定なし、利子も不要だ」



「大変有り難いお話ですが、よろしいのでしょうか?」



「ああ、最初の1万枚は、公の立場としての義務と公平性を担保してのもの、後の1万枚は個人としての気持ちだからの。

今回は、其方のお土産に釣られてしまったな」



そう言って辺境伯は豪快に笑った。



「ありがとうございます。ご恩に対して、益々の忠勤を励む事、お約束させていただきます」



「なに、噂に違わぬお主の智に、わしも投資してみたくなっての。

無事に開発を終え、其方がソリス男爵の一翼を担うようになった暁には、儂の裁量で兄のダレクと同じ、準男爵の称号を与えよう。

益々励めよ」



「過分なるご配慮、誠にありがとうございます。感謝の気持ち、必ず行動で示させていただきます」

俺は平伏して辺境伯に礼を述べた。



結局、予定していた金額の倍、金貨2万枚を投資として借り入れることに成功してしまった。

もうソリス男爵家の年間収入でさえ、超えてしまっている額だと思う。



これでなんとかなる。

俺は飛び上がりたいほど嬉しかった。


予定の倍額、これなら父も文句を言わないはず。

確定ではないが、準男爵の可能性さえ、言及されてちょっとプレッシャーだけど。


早くエストの街に戻って計画を詰めないと。

そして可能な限り早くテイグーンに、視察ではなく領主として移り住み、着工を急がないと。


逸る気持ちで一杯だった。



「アン、これでいよいよ始まるよ!」


「ですね。テイグーンは生まれ変わり、きっと理想の街になりますねっ」



アンは俺以上に嬉しそうだった。



やっと【前回の歴史】とは異なる、【今回の世界】で俺が戦う拠点の目処が立った。


そして、共に戦う仲間は集まってきている。

これから俺は歴史との戦いに備え、力を蓄えるため、理想の【街】を……、今はまだ【町】レベルだが、育んで行かなければならない。


次の災厄まで既に2年を切っている。

そして、更にその次までは5年。

これからは時間との戦いになる。



俺たちは、この先守るべき家族と、共に戦う仲間の待つエストの街へと、帰路を急いだ。

ご覧いただきありがとうございます。

ブックマークやいいね、評価をいただいた皆さま、ありがとうございます。

凄く嬉しいです。毎回励みになります。

これからもどうぞ宜しくお願いいたします。


投稿ですが、50話迄は毎日投稿を目指してみることにしました。

それ以降は、仕事の合間を見て更新を頑張ります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アカンいろんな物語読んできてるせいか辺境伯の手放しの援助に裏を疑ってしまう自分がいる
[気になる点] 細かくてすいません。バリスタとかなら単位は台でいいと思うのですがクロスボウの単位は丁ではないでしょうか。
[良い点] そろそろアンねーちんには良縁を持ってこないと行き遅れてまうのでは
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