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【6巻11/15発売】2度目の人生、と思ったら、実は3度目だった。~歴史知識と内政努力で不幸な歴史の改変に挑みます~【コミック2巻発売中】  作者: take4
第十一章 魔王編(動乱の始まり)

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第四百二十六話(カイル歴515年:22歳)幕間喜劇(序幕)

各個撃破による包囲殲滅戦に勝利した俺たちは、戦場の後処理を一部の部隊に任せ、取り敢えずカイン王国の王城へと入った。


もちろんその歓迎振りは大変なものだったが、人々で埋め尽くされた街路、その奥に立ち並ぶ建物を見て俺は少し違和感を感じていた。


それはカイン王国の王都に入って始めて気付いたことだが、規模だけで見れば先日見たリュート王国の王都に似ていたが、構成する街並みは大きく違っていた。


どちらかと言うと城塞都市の感が強かったリュート王国に比べ、この国は何かが足らない。

外壁こそ堅固で、かつては城塞であった面影を残しているものの漠然と不安を感じる構造だった。



「それにしても団長、王都の規模は格段に違いますが、商業地区だけで見ればカイラールに匹敵しますね。

それほど豊かだった国が……、何故?」



俺は途中で言葉を切ったが、聞いたところによるとカイン王国は経済的には豊かだが、抱える兵は三か国の中でもっとも弱兵だと言われている。

そう、三国の中では突出して豊かだったにもかかわらず……。


そんな豊かな国が何故、敢えて平時に乱を起こすような出兵に応じたのか?

抱える兵は何故弱兵と言われたのか?


そんな疑問がふと頭に浮かんだ。



「豊かだったからこそ、でしょうね」



そういうことか……。

団長は短く答えただけだったが、それで何となく理解できた。


豊かだったからこそ、他の二国が彼らを差し置いて豊かになることが許容できなかった。

戦乱から最も遠い位置にいたからこそ発展したが、それ故に兵備を怠り戦いを甘く見ていた。

そんなところなのかもしれない。



「指導者不在のこの国は今後、復興も大変でしょうね。王族も率いる将も不在ですが、我らが行く末を見守ることもできませんし……」



そうなんだよな。

解放したけど、俺達にはまだ本命の戦いが控えている。

なのでその先の面倒を見ることはできない。



「せめて王都に住まう者たちには、団長が鹵獲した財貨から戦後補償もしてやらないとね。

奴らが根こそぎ奪っていったなか、明日の暮らしさえままならぬ領民も多いことでしょうし」



「ですね……、我らとて明日は敵軍を追って出立する身です、深入りはできませんが……」



そうなんだよね。

今日はもう日が暮れてしまうので出立は明日の早朝、そう定めたばかりだった。

ただ問題は今後の内政を預ける者や旗印となる者の存在だ。



「誰か後事を託すに足る人物、それが現れれば良いのだけどね……」



この時の会話が、後になってフラグとなっていたことを俺は思い知る。



ひとまず王都に入ると、遠征軍として俺たちに付き従いって来たカイン王国兵たちに依頼し、生き残っていた文官たちを招集した。



「侵略者は追い出したが、俺たちは征服者ではない。ゆくゆくは戦で荒廃した三国をまとめ上げるに足る人物に王位を継承してもらい、戦争責任を果たした上で統治してもらうつもりだ」



「「「「おおおっ!」」」」



この言葉を告げると文官たちは歓喜し、平伏したまま一様に涙を流していた。

そして、ここから先が頭の痛い話だ。



「とはいえ、侵略者たちは王都から全てを奪っていった。これでは領民たちの暮らしも立ち行かない。

そこで緊急措置として、領民には当面の暮らしを支える一時金、商人たちには補助金を支給する。

これはあくまでも一時的措置であって、後日に政治を引き継ぐ者が最終的な配分を定めるものとする」



ここまで宣言すると俺は、自身が何者であるかも告げず後ろに下がった。

そうした理由は三つ。


ひとつ、まだ戦いが終わっていないなか、情報の漏洩は極力避けるべきだと考えていた。

ひとつ、この国をまとめられる人物がいないなか、変な色を残したくなかったこと。

ひとつ、いずれカイン王国も新たな王の元で併合される。ならば彼らの旗印となるのは新王とすべきだ。


そのため俺は、今回の遠征に同行してきた数少ない軍政官の一人に当面の対応を任せることにしていた。



「ショーン、面と向かって話すのは久しぶりだけど、アレクシスからイシュタルの内政面で活躍してくれた話は聞いているよ。大役だけど任せるに足ると信頼しているから、暫くの間は頼むね」



「大命、確かに承りました。留守をお預かりさせていただきます」



「少なくて申し訳ないが魔境騎士団からは気心の知れたハイマンと二百騎を付け、一時的にこの王都を守備する兵としてカイン王国兵一千名、ヴィレ王国兵一千名、併せて二千二百名の指揮権を預ける」



「はっ、そこまでお気遣いいただき光栄です。公王陛下の名を汚さぬよう、誠心誠意努めさせていただきます!」



少し緊張して答えたショーンは共に学園に通った同級生であり、俺たちと同じ騎士育成課程ではなく敢えて内政を学び、卒業後は軍政官に志願してアレクシスの下で働いていた。


まぁ……、一時はマークやミゼル、ハイマンと共に『打倒ハーレム男爵』の急先鋒だったけどね……。

子弟騎士団として参加した東部国境戦を境にアンチ反転して『閣下』呼ばわりされ、その後は逆に変に崇拝されて困ったことにもなったのだけどさ。


そんな彼も今や、頼りになる存在に成長していた。



夜になってショーンと文官たちが協議を進めた成果として当面の救済案が整った。

翌朝に出される布告が各官吏に通達される少し前、改めてショーンが訪ねてきた。



「夜分、しかもお忙しい中に申し訳ありません。

面会希望の依頼を受け事情を聞いた結果、明日のご出立前にどうしてもお取次ぎすべきと判断したもので……」



そう言ったショーンの後ろには、今回の遠征でカイン王国の歩兵部隊をまとめていた指揮官が付き従っており、その後ろに更にもう一人……。


いや……、どういうことだ?

俺は予想外の風貌をした面会希望者に戸惑っていた。



「初めて公王陛下の御意を得ます。先ずは不躾にも夜間、しかも事前のご相談もなくお尋ねしたことをお詫びさせていただきます。

何より公王陛下には、この国の王都を暴虐な侵略者からお救いいただいたこと、民たちに代わり心より御礼申し上げます」



「!!!」



俺は王都に入って以降、魔境公国の公王だとは一度も名乗っていない。

兵たちにもそれを告げることは禁じていた。

なのにまだ少女と言っても差支えのない年齢の女性は、俺を公王と断じて礼を取ってきた。


俺は思わずショーンを見たが、彼は慌てて首を振っていた。



「ショーンさまは何も仰っておりませんわ。ただ、侵略軍を撃退された手腕にこれほどの精鋭部隊、規律ある兵士の方々の行動を目の当たりにし、陛下の軍の他には思い当たりませんでした」



片膝を付いて挨拶した少女は、そう言ってクスリと笑った。

彼女の所作にはどことなく品があることから、それが只ならぬ身分の者だと理解できた。

『民たちに代わり』と言った言葉、それだけでも想像がつくけどさ、王族は全て滅んだのではなかったか?



「貴方はもしかして?」



「はい、カイン王国の第三王女だった、アリシアと申します」



やはり王族か。それにしても生き残りが居たんだ?


報告ではカイン王国の王族は正統教国軍に囲まれたとき、王都を捨てて密かに脱出を図ったものの捕縛され、全員が処刑されたと聞いていたが。



「恐れながら申し上げます。アリシア殿下は王都の防衛を支えるため、志願した民兵たちと共に王都に残って戦われていらっしゃいました。城門を破られて王都が陥落した後も領民たちによって密かに匿われ……」



なるほど、そういうことか?

カイン王国の指揮官の説明に俺は納得した。



「まさか……、殿下も戦いに参加されていたのですか?」



俺の言葉に対し彼女は沈痛な表情で頷いた。



「はい……、ですが私ごときでは何の役にも立ちませんでした。私は王族に名を連ねる者の務めとして、王都と民を見捨てて逃げ出すことはできませんでした。なのに結局……、私ひとり生き残ってしまい……」



なるほどな、そういう事なら俺にとってもありがたい話かもしれない。



「そんなことはありませんよ。旗印となる方が生き残ってくれた。それだけでカイン王国の人々は喜ぶことでしょう。よくぞご無事で」



「ですが私も、この国が帝国に侵攻し魔境公国の皆様に対し多大なご迷惑をお掛けしたことは存じております。私自身の身で罰を受ける代わりに祖国には寛大な処置がいただけるのであればと、敗残の身ではありますが公王陛下の前に参上いたしました」



ほう……、この年でそれが言えるか!

先ほどの戦いに参加していた話といい、民を捨てて逃げることはできないとの言葉も本当のようだな。



「では私も貴方に本心を伝えたい。帝国と我らは今回、貴国らの軍によって侵攻を受けた立場だ。

故あって三か国を侵略者から解放することに手を貸しているが、これはあくまでも民を救うため。

各国の王家を救うためではないことはご理解いただきたい」



「はい、それは当然のことだと思います。私が公王陛下に名乗り出たのも、罪に対し責任を負う者が必要と考えたからです。生かされたこの身が、この国に住まう者のため役に立てればと……」



ははは、こんな場所でも拾い物だよな。

この王女とリュート王国の第一王子、それにゴルパ将軍、各国には人物がちゃんと居るじゃないか!



「立派なご覚悟に敬意を示し、我らの考えていることも包み隠さず申し上げます。

今回の戦乱で三か国は大きな被害を受けました。今や一国で国を支えることが厳しいほどに。

今後は然るべき方に三国の統治を任せ、その代わりに国としての責務を負っていただこうと考えております」



「はい、これも戦乱を引き起こした我が国の身から出たさびです。当然のことと思います。

私は生き残った者として責任を負い、この国の未来は公王陛下と新王の差配にお任せしたいと思います。

それが、民たちにとって良き未来であることを願って……」



「それでは先ずは貴方にもひとつ責任を取っていただきたい。

明日にでも我々は、領民が当面の間は暮らしていけるだけの一時金、商人には商いができる補助金を精査し、侵略者から鹵獲した財貨から分け与えようと思っている」



「あ、ありがとうございます! ですが……、それでは責任を取る形になりませんが?」



「財貨は王室から奪われたものも一括して管理して分け与えることになる。ただ問題もあるんだ。

一つ目は、奪われた物に等しい分配ができないこと。幾ら奪われたのかを精査できないからね。

二つ目は、正式な返還は新王によって行う。そのため少し時間を要することになるし、全ては戻らない。

三つ目は、王室の財貨は確実に目減りする。残った財貨も国の再建のため新王へと引き継がれる」



「確かに仰る通りだと思います。滅んだ王室の財貨も同じです。

それでは私の役目は、領民たちに不満が出た場合は矢面に立てば良い訳ですね?」



ははは、言いにくいことを自ら言ってくれるのか。助かるな。

そこまで言ってくれるともう俺から言うことはない。



「ショーン、新たに出す布告に一文を追加してくれ。『王室の財貨を削ってまで民への救済を依頼したアリシア殿下の願いにより、先ずは一時金や補助金を支給することが決定した』とね」



「そ……、そんな。それでは公王陛下が……」



「俺はこの国を始め三国を罰する立場だからね。

それに対し民のために矢面に立って毅然と戦う旗印が必要だからさ。貴方にはその資格があると思う」



そう言った瞬間、涙を流す王女の傍らで彼女を連れてきたカイン王国の指揮官は、大きく肩を震わせて男泣きしていた。


なんだかんだで結局、頭の痛かったカイン王国の統治も上手くいきそうだな。

さらにリュート王国の第一王子とカイン王国の第三王女が結ばれれば、三国がひとつになる大義名分もできるだろうし……。


まぁこれらの話は、おいおいで構わないか。



こうして戦いのなかの幕間喜劇は、喜ばしい形でひとつの方向へと走り出した。

だが……、この夜はもうひとつの喜劇、笑えない展開の次幕が控えていた。


新たな来訪者の登場によって……。

最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

次回は10/28『幕間喜劇(本幕)』を投稿予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
魔王さまの孫の代ぐらいにはいい隣人として付き合えそうね、三国もしくは統合国は 歴史の表編ももう少しで決着しそうだし、本命の闇との戦いで事態がどう動くのか楽しみです
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