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【6巻11/15発売】2度目の人生、と思ったら、実は3度目だった。~歴史知識と内政努力で不幸な歴史の改変に挑みます~【コミック2巻発売中】  作者: take4
第十一章 魔王編(動乱の始まり)

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第四百十六話(カイル歴515年:22歳)王たる資格

捕虜引見の会場に新たな人物が引き立てられてきた。

先ほどの二人とは違い両腕を縄で縛られて拘束され、彼には座る席すら用意されていない。



「ど、どういうことだっ! 新興の国とは言え、王族を遇する礼儀すらわきまえておらんのかっ!」



兵によって無理やり跪かされた男は、身を捩りながら抗議の声を挙げていた。

見たところ三十代、だが贅沢な暮らしが身についているのか、その身体は肥満し緩んでいた。



「醜態だな……、元ヴィレ国王よ、それがお前自身の行いによるものだと分らんのか?

まぁいい、言いたいことがあるなら聞いてやる」



「余はぽっと出の新興国ではなく、三百年もの伝統と格式を持つ王国を統べる王であるぞ! 

ならば戦時であろうとも、格式に見合った礼節ある処遇で対するべきであろう!」



「如何に伝統ある国の王であっても、正当なる理由もなく他国を侵し、形勢が悪くなると戦う兵たちを見捨てて逃亡し、あまつさえ捕縛されるという醜態を晒した者に対し、礼を以て遇する必要はない。

お前には自身の行いを恥じ入る気持ちはないのか?」



そう、先程の二人と比べると奴の態度は雲泥の差だった。

ここに至り王であることを主張し、自身の待遇しか考えていない男を、礼を以て処遇する気などさらさらない。



「余が無事であれば王国は存続する。兵たちは命を以て国王たる余を守る義務があり、(逃げ出したことは)当然のことではないか!」



はいはい、俺の一番嫌いな言葉をありがとう。

この言葉だけで俺は、遠慮会釈なく奴に対すると決めたことを、奴は気付いていないだろうな。


気分を害し黙った俺を、奴は何か勘違いでもしたのか、調子に乗って更に言葉を続けた。



「そもそも今回の戦は、帝国の次期皇帝たる第一皇子からの依頼を受け、帝国内の反乱勢力を鎮圧するためのものだ。それを侵略とは被害妄想も甚だしいわ!

帝国よりの依頼に応じた我らが、大義によって帝国領内に進攻したまでのこと」



「それがお前たちの正当な理由だとでも言いたいのか?」



(帝国内だけに留まらず、俺たちの国まで侵そうとしていたことを棚上げしてよく言ったものだな)



「そうだ! ことは我らと帝国との話、礼すら弁えぬ新参者が出る幕ではないわ!

お前たちも先々で諸国の嘲笑と帝国の不興を買いたくなければ、直ちに余を解放すべきであろう!」



事実を知らぬ、いや、時節を理解できないとは哀れであり罪なことだな。

奴も踊らされた道化に過ぎないと言うことか……。

せっかくなので事実を教えてやるとするか?



「敢えて聞くが、お前の言っていた第一皇子というのは誰だ?」



「な、なにを言うか! 皇位継承者であるグロリアス殿下に決まっておろうが!」



ってかさ、そもそも奴は皇位継承者でもない。

候補者ではあったが、数年前から継承者は第三皇子に確定していたのだし。


そして今や……。



「残念だが現在の帝国には第一皇子と呼ばれる者は存在しない。帝国の次期皇帝たる第三皇子に対し反乱を企てた結果鎮圧され、皇子の身分すら剝奪されて刑に処せられる予定の愚か者なら、俺もひとり心当たりがあるけどな」



「なっ、なぁぁぁぁぁっ! そ、そんな馬鹿な話が……」



「故に今のお前は、反乱分子に同調して不当に帝国領を侵した侵略者であり、その過程で捕らえられた戦争犯罪人に過ぎない」



この言葉を言った瞬間に奴は血相を変えたが、今度は媚びるような卑屈な笑みを浮かべて俺に向き直った。



「な、ならばこれはヴィレ王国と貴国の話として要求したい。国王たる余の身柄を解放すれば相応の対価を支払うゆえ、直ちに処遇を改めて余を解放してくれぬか?」



「はははっ、最初に俺はお前を『元国王』と言った言葉を聞き逃していたのか?

先ほどお前が言った三百年の歴史を誇るヴィレ王国は、残念ながら既に滅んでいるぞ?」



「な……、何を言うかっ!」



「知らないのも無理もない話だが、既に軍を転じたイストリア正統教国に攻め込まれて王都は敢え無く陥落、王族は全て捕えられた後に処刑されたという話だ。なので今やヴィレ王国という国は存在しない。

そしてお前は既に滅んだ国の元国王であって、今は何の後ろ盾も権威もない単なる戦争犯罪人だ」



「そ……、そんな……」



あまりの衝撃だったのか床に崩れ落ち、彼はガタガタと震え始めた。

そしてしばらくのち、今度は怒りに満ちた表情となって再び顔を上げた。



「あ、あの裏切り者共めっ! この恨み……、余は……、決して許しておかんぞ!」



「ここに至っても国民や残った者たちの心配をするでもなく、愚かな自身を省みることもなく、ただ怒りをまき散らすだけか?

目先の欲に釣られた主君に従い戦地で命を落とした者、囚われの身になった者、お前の愚挙のお陰で国に残り命を落とした者たちが浮かばれんな」



そう言って俺がゴルパ将軍を見据えたとき、奴はやっと気付いたようだった。

本来ならこの場に座っているはずのない二人が、まるで俺の帷幕であったかのように座っていることに。



「き、貴様らっ、どういうことだ! ま、まさか国を売ったのか?

ひ、卑怯者の恥知らずがっ!」



「黙れっ痴れ者がっ、お前のようなクズに何が分かるっ!

第一に彼らは、主命により我らと戦ったが対等なる敵手。如何に愚かな命令であったとしても、彼らは黙々と責務を果たそうとしていた。

第二に彼らは、最後まで最善を尽くして戦い、余剰戦力があるにも関わらず勧告に応じ降っただけだ。

第三に彼らは、降伏したとき自らの首を差し出す代わりに、将兵たちの助命と寛大なる処遇を願い出た。

愚かなお前には、その違いすら理解できんのかっ!」



「ぐっ……」



「王があって国があるのではない。王たる資格がある者を仰ぎ支える民や兵があって初めて、国が成り立つのだ。

その資格を示すために王は、自らの命を賭して彼らを守る義務がある。それすら理解できない者を俺は王と認めない。

これがお前を王として遇さない一番の理由だ」



「恐れながら公王陛下……」



俺の言葉を聞きゆっくりと席を立って跪き、何か言おうとしていたゴルパ将軍を、俺は手で制した。


彼は長年に渡りずっとしがらみの中で生きてきたのだ。それを振り切るのも簡単ではないだろう。

きっと自らの命を差し出す代わりに、元国王の助命を乞うつもりなのだろうが、彼からその言葉を言わせてはならない。



「ゴルパ将軍、長年一国の重鎮として仕えた卿の気持ちは分かる。どんな愚物でも其方にとって王は王。

だが、其方の命の使いどころは別にある。侵略を受けて苦しむ民たちを救うこと、その為に命を張ることだ。

それが其方に与えた罰であることを忘れるな」



ここで俺は、敢えて『罰』だと言った。

彼の心を救うためにも……。

俺の言葉の意味することを理解したのか、ゴルパ将軍はその場で泣き崩れた。



「元ヴィレ国王よ、お前には決してゴルパ将軍の涙の意味が、何故身をよじるまでに苦悶しているか分からないだろう。

だからお前は王としての資格がないのだ」



「く……、余を、どうする気だ?」



「俺一人でお前を処断することはできんからな。帝国と協議の上でお前には相応の罪を背負ってもらう。

それこそ先ほどお前が言っていた『一国の王として相応しい』形で責任を取ってもらうぞ。

それまでは国王に相応しい礼遇で虜囚として預かってやるが、それはあくまでも捕虜としてだ。

これにて捕虜の引見は終わる、連れていけ!」



入って来た時とは異なり、悄然とした様子のヴィレ国王は連れ出された。

これで全ての体裁は整った。


そして俺は立ち上がると、新たに席を与えられた二人を見つめた。



「では、改めてリュート・ヴィレ・カインの三国を束ねる、新たな国を代表する唯一の王族(・・・・・)として、クラージユ殿下に問いたい。貴方は我らに何を求められる?」



それを確認した時、第一王子は立ち上がると俺の前に進み出て跪いた。

そして深く頭を下げ、目を伏せながら話始めた。



「はっ、不当な侵略を受けた我らの故国を救うため、ウエストライツ魔境公国に助力をお願いいたします。

民を救うために、我ら両名の命を対価として、どうか何卒……」



「承知した。二人には敢えて命じさせてもらう。

捕虜の中から最大で一万名の精鋭を募り、故国奪還の兵を準備いただきたい。

ただし、一刻を争う事態ゆえ全て騎乗できる者に限らせていただく。騎馬と武器はこちらで支給する。

出立は今より三日後だ!」



「はっ! 先ずはご助力には感謝を、心より感謝いたします。侵略者として不逞を働いた我らに対する陛下のご温情、この命に代えても……」



そう答えた第一王子の声は、若干上ずっており立派な体躯は震えていた。



「命に代えてもらっては困る。生きて故国を解放し、『責任』を取ってもらわないとな」



「承知いたしました。必ずや罪を償うため戻って参ります。これよりゴルパ将軍とも相談の上、直ちに準備を進めさせていただきます」



その返答を受け、俺は団長に向き直った。

やっと戦いから解放された兵たちには申し訳ない気がするけど、彼らだけを出す訳にはいかない。


それに奴ら(皇王国)の戦術は俺たちも熟知しているしね。



「団長、彼らを支援する援軍として我らの軍は一万騎が妥当と思うけど、どうかな?」



「そうですね、三日もあれば魔境騎士団は大丈夫でしょう。あとは帝国より連れ帰った一千騎についても、志願者がいれば機会を与えたく思います。

ただ特火兵団ですが……」



団長が言葉を濁した気持ちも分かる。

特火兵団はその全てが元イストリア皇王国出身の兵たちで構成されている。

そうなれば同胞同士で相打つことになってしまう。



「横から失礼します。意見具申させていただいてもよろしいでしょうか?」



総司令官として留守部隊を指揮し、残留していた二千名の特火兵団を指揮していたアレクシスがそう言ってきたので、俺は無言で頷いた。



「今回、ゲイル司令官の部隊と共に最も士気が高かったのは特火兵団です。この二つの部隊は今回の遠征にも強く従軍を希望することと思います。

少なくとも留守を守っていた特火兵団については、お心遣いは無用です」



「と言うと?」



「彼らは元身内の不始末に対し、自身の手で決着を付けたいと強く望んでおります。

そしてゲイル司令官の無念を晴らすため、敵軍を討つことに躊躇ためらいはありません」



なるほど……、そういうことか。

ならば遠征軍に入れても問題ないか。



「となると……、規模として最大で一万二千騎、というところになりますかな。

復興や残った捕虜の管理にも、それなりの兵は残しておく必要もあるでしょうし」



確かにその通りだな。本来ならもっと兵を率いていきたかったけど、団長の指摘にあったように俺もそれを考えて一万騎としたんだよね。


もともと北部戦線の捕虜総数は24,000名、少なくとも14,000名の捕虜は残留することになる。

これだけでも残る兵力より捕虜の数の方が多くなってしまう。

俺たちは戦時のため各地から兵を集めていたが、いつまでもそれを維持することはできない。

一部は旧カイル王国側の領地に戻す必要もあるし……。



「本来なら我らも参戦させていただきたいのですが、当面の間なら我らはクサナギに残留することも可能です。

魔境公国を守ることは、当初から我らが国王陛下より与えられた命ですので」



ありがたい!

シュルツ軍団長率いる王都騎士団の残留部隊、彼ら五千騎が留守を支援してくれるのであれば、状況は大きく変わる。


彼らは参戦したくとも所属はカイル王国の兵だ。

魔境公国防衛以外の任務は政治的にも差し障りが出てしまう。



「シュルツ軍団長、お申し出に感謝します。

引き続き駐留経費や後日の褒賞については、この点も含めて対応させていただきたく思います」



そう言って安堵の息を吐いた時、アレクシスがおずおずと手を挙げた。



「あの……、ところで公王陛下、まさか今回の遠征、親卒されるなんて……、仰らないですよね?」



ん? アレクシスは何を言っているんだ?

そんなの当然のことじゃないか。



「行くに決まってるじゃん。皆を戦地に送り出すのに俺がここに残る理由があるか?」



「「「「「ありますっ!」」」」」



いや……、全員がハモらなくても……。

ほら、第一王子もゴルパ将軍も呆気に取られているしさ。


もちろん俺には、そうしなければならない理由がある。



「今回の遠征は政治的にも微妙だからね。現地で責任を負える人間がいないと話にならないだろう?

俺ならグラート殿下に話を通すこともできるし、万が一帝国軍と鉢合わせても俺が居れば、ね?」



そう、この話はもちろん帝国にも早馬を出して報告する。

だけど帝国側でも情報を掴んで対応に動いていることだってあり得る。まぁその可能性は低いけどね。

仮にそうなった場合、現地で揉めないようにすることも必要だ。



「ですが……、公王陛下自らの御出馬はあまりにも危険です!」



「アレクシス、今回の件は王として俺が決断を下した。ならば王として責任を取る必要もある。

まして俺はたった今、不心得者(ヴィレ王)には王たる資格を問い、信じると決めた者(リュート王国第一王子)には王になり代わって責任を負うように迫ったばかりじゃないか。そんな俺が責任から逃げてどうするんだよ?」



アレクシスの言いたいことは分かる。

仮に敵地で一万もの軍勢が裏切ったらどうなるか、俺たちは全滅を余儀なくされるだろう。

まして今は国家存亡の時でもない。



「前に言った話かもしれないけど、敢えてもう一度ここに明言したい。

ウエストライツ魔境公国で公王と呼ばれる者は、常に前線に立ち兵と共に危難に対し身を晒す。

これができない者には未来永劫、公王として王位を継ぐ資格はない!」



そう言って立ち上がり全員を見回した。

そうすると真っ先に反応したのはリュート王国第一王子とヴィレ王国のゴルパ将軍だった。



「我らは公王陛下のご恩とご信頼に対し身命を賭して働き、陛下の身をお守りする所存です」


「私も陛下の軍が何故あのように強いか、たった今理解できた思いです。我が命に代えても!」



そう言って跪くと、深く頭を下げた。

それに続き、これまでずっと黙っていたゴーマン侯爵が口を開いた。



「デアルナ、陛下は陛下の道を征かれるがよかろう。我らが留守をお守りします。御一同、よろしいな?」



「「「「「応っ!」」」」」



この日、南部戦線より凱旋したばかりというのに、ウエストライツ魔境公国は新たな出兵を決した。

因縁の戦いに決着をつけるために。

最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

次回は8/19『銃後の守り』を投稿予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。


※※※お礼※※※

ブックマークや評価いただいた方、本当にありがとうございます。

誤字修正や感想、ご指摘などもいつもありがとうございます。

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さて、神の名を騙る者どもに諸君らのやることはただ一つ! 魔王の名のもとに地獄を作れ!! 公王の心意気は良しだが、ホントに全部の戦場に立つつもりなら現実問題公王の全権委任を受けれるような代理統治者を決…
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