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【6巻11/15発売】2度目の人生、と思ったら、実は3度目だった。~歴史知識と内政努力で不幸な歴史の改変に挑みます~【コミック2巻発売中】  作者: take4
第十一章 魔王編(動乱の始まり)

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特別篇 かつての主従③(終焉を導く作戦)

本日書籍版五巻の発売日となります!

ぜひ応援、よろしくお願いします。

五巻の詳細は活動報告にも掲載しております。

ヴァイス将軍がスーラ公国軍の補給拠点を奪ってから一週間が経つと、その効果は前線に現れ始めていた。

三か所に分散していたとはいえ、要塞線に展開していた五万の軍が消費する糧食の量は膨大で、継続した補給がなければすぐに底をついてしまう。


要塞線の三方面に展開していたスーラ公国軍は、予想外の敵襲により背後の兵站基地を奪われたとの報に接し、互いに連携することもなく慌てて軍を引き始めていた。

ヴァイスが予想した通りに……。



「いかに大軍といえど、展開できなければ意味がないわ。全軍で下馬し八千は間道の左右に潜み、二千は囮となって正面に展開、奴らの出口を塞げ!」



敵中にあってもヴァイスの大胆な迎撃指示により、数において勝っていたはずのスーラ公国軍は次々と各個撃破されて潰走していった。

撃退されて半数近くになった彼らは、再び食料の尽きた要塞線へと逃げ戻ったが、それはただ自滅を待つだけだった。



そしてヴァイスが要衝を抑えて二十日立ったころ、要塞線の攻防にも大きな変化が訪れた。


最もビックブリッジに近く最も敵兵の少なかった要塞線の出口を攻略した第三皇子は、大胆にも追撃しつつそのまま軍を進め、ヴァイスが立てこもる要衝まで軍を進めて来た。


そして主従は、再び戦場で相見えた。



「それにしても殿下、大胆な進軍でありますな?」



「ははは、お前ほどではないよ。それに予定通りの行動ではないか?」



「確かにそうですが、まさか全軍を引き連れていらっしゃるとは思ってもいませんでしたよ」



確かに第三皇子が率いていたのは二万名、ほぼ全軍と言って差し支えなかったからだ。

これでは帝国側の守りは皆無となってしまう。



「将軍の立てた戦略にはまだ先がある。

そのためにはより多くの手勢が必要だろう?」



「ですが殿下、帝国方面の守りはどうするのですか?」



「なーに、ビックブリッジに潜んでいた一万は討ったよ。逃げる奴らの背を追って要塞線に突入したが、奴らは抵抗どころではなかったからな」



ヴァイスが補給拠点を奪った結果、ビックブリッジ方面に展開していたスーラ公国軍にも大きな影響を与えていた。


そもそも要塞線に立てこもっていた部隊さえ食料に事欠くようなっており、更に前線への補給などできる状態ではなくなっていた。

そのため彼らは、沼沢地を出て要塞まで後退するしかなかったが、その後退途中を第三皇子率いる本隊に急襲された。


背後を衝かれて潰走した彼らは要塞に逃げ込もうとしたが、それは並行追撃した第三皇子軍にも侵入を許すことにもなっていた。



「奴らが立てこもる要塞のひとつは潰したし、お前のお陰で他の二か所も身動きできまい?」



「ですが……、少なくとも残る二か所で三万程度の兵力が残っていると思いますが? 

奴らがエンデ方面に侵攻すれば……」



ここで敢えてヴァイスは分かり切ったことを聞いた。

それに対し第三皇子は軽快に笑った。



「ふふふ、お前も分かっているのだろう? 三万といえど食料が無ければ身動きとれんよ。

まして今や、その三万という数が足枷になる」



「では奴らは既にそこまで?」



「奴らは砦を出て必死に食料をかき集めているが、今は収穫期でもないからな。現地調達もままならんよ。

仮に帝国方面に動けた軍がいたとしても、エンデに残してある五千名で十分あしらえると思うが?」



「そこまで理解されてのことでしたら、私が申し上げることはありませんな。

では殿下はこの先、どうされるべきと?」



そう答えてヴァイスが笑うと、第三皇子もまた不敵に笑った。



「このために俺は全軍を率いて来たからな。俺が一万でもってここの要衝で蓋をする。なれば敵は三万以上の軍勢が遊兵となるだろう。お前には更に一万の軍勢を与えるので、当初の計画通り二万で以て奴らの王都を落としてくれるか?」



「はっ、殿下のお望みのままに」



その後、再び電光石火で進軍したヴァイス将軍の軍勢は、スーラ公国の王都に残った一万余の敵軍を蹴散らすと、瞬く間に王都を陥落させた。

こうして数百年の歴史を誇ったスーラ王国は滅亡した。


一人の傑出した将軍の策によって……。



誰もが不可能と思っていた第三皇子陣営の大勝利の報を受け、帝都グリフィンは沸き返った。

長年に渡り帝国南部を侵攻し、悩まされ続けていた難敵が消えた。


更にはスーラ公国の広大な領土を新たに帝国の版図に加え、これまでグリフォニア帝国の歴史になかった快挙を成し遂げた第三皇子は、誰もが帝国の皇位継承者として認める不動の地位を得るに至った。


この裏では、予想もしなかった政敵の大勝利に第一皇子の陣営は驚愕し、大いに慌てふためいたと言われる。

もっとも……、この時点で第一皇子には政敵の実績に対抗できるほどの戦果も無く、その決定を覆すことはできなかった。


そして彼らは、起死回生の一手に出るための策を巡らし始めた。



スーラ公国を滅ぼした常勝将軍ヴァイスは、その戦功により数万の軍を率いる軍団長にまで昇進していた。

今や彼は、帝国北方の攻略を目指す第一皇子と、軍務上では同格の存在にまでなっていた。


ただ彼は栄達に驕ることなく、更に先を見据えて対策に余念がなかった。



「ふむ……、これで終わりとはならないだろうな。奴らは最後の抵抗を試みてくるだろう。残された手段はただひとつ……」



そう呟きながら彼は、第一皇子配下のゴート辺境伯が長年に渡って攻めあぐねていた北の隣国、かつての故国を描いた地図を見つめていた。

土地勘のある彼にとって、地図には描かれていない間道や拠点となる場所が次々と目に浮かぶ。



「正面のサザンゲート砦は勇猛で名を馳せたハストブルグ辺境伯が守り、攻略に手間取れば王都騎士団三万騎が駆けつける……。それを撃破して中央街道を進むとしても……、時間と将兵の命を浪費してしまう、か。真っ当に戦えば……、難題だな」



口では難題と言いつつも、彼の口元は笑みを浮かべ表情は自信に満ちていた。



「奴らも既に後がない。我らが攻略を進める途中で足を引っ張ってくるだろうな。二つの敵を抱える我らは、それらを封じるためにも……」



そう言って彼が指さしていた場所は、特に地図には名も記載されていない辺境の山だった。

国境を出て西に迂回し、踏破不能と言われていた魔境を抜けた先にそびえる、テイグーンという名の……。



「スーラ公国を撃破した作戦、なにも南だけのものでもない……。南の戦で要となった拠点、北の場合は……、ここだ!」



彼の脳裏には、かつて自身が苦難の旅を続けた道がまざまざと浮かんでいた。

苦い記憶とともに……。



「難敵となる王都騎士団だが……、可能な限り南に誘引して奴らに任せ、我らだけで大規模な迂回作戦を行う場合、要となるのがテイグーン山だ。

天然の要害である隘路を利用して蓋をすれば、敵も味方の追撃もかわせる、か?」



彼には敵だけでなく、味方となる者すら警戒する必要があった。

そして彼の予測通り、魔境を知らぬ味方は彼の進軍ルートに付いてくることはまず不可能だろう。



「正面は奴らに任せ、我ら本隊は疾風のごとく北上すれば……、エストを抜けて裏街道を進み、カイラールまで我らの進軍を遮るものは……、ない!

これならば……、勝てるっ!」



そう言ってヴァイスは不敵な笑みを浮かべた。

そのあと……、何かを思い出したかのように大きなため息を吐いた。



「キーラを始めあの地で命を落とした十二名、やっと彼らの墓標を立ててやることができるな。

あの時の無念、ここで果たすことによって彼女らの墓前に、はなむけとして添える、か……」



かつては彼も思い描いたものの、実現不可能と思われたてい作戦、それは形を変えてスーラ公国を滅ぼした。

そして今、彼は不可能と断じたことを可能にできるだけの力を手に入れていた。


これにより彼は、誰もが予想すらしないルートを予想以上の速度で進軍し、『疾風の黒い鷹』と呼ばれた異名に相応しい作戦を実行に移すことになる。


そしてそれが、二度目の人生でタクヒールの終焉を決定付け、新たな世界の幕開けとなった。



今はもう過去の歴史と呼べない2度目の世界、そして新たな歴史として塗り替えられた世界、共に時代が動く転換となったのが、このビッグブリッジと呼ばれた地であった。


この地はまさに様々な因果の始まりであったといえる。


二度目の人生ではタクヒール(カイル王国)が滅ぶ起点となり、三度目の人生でも、彼が長駆してビックブリッジに駆け付けなければ第三皇子の軍は敗北し、勝利した第一皇子によりウエストライツ魔境公国は窮地に陥っていただろう。


だが三度目の今、タクヒールは自らの決断で因果の始まりを打ち破り、新しい世界を拓こうとしている。

新しい未来を掴み取るために……。

最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

こちらで特別篇は終了となり、次回は通常通り5/27『誘いの罠』を投稿予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。


書籍版も遂に五巻までお届けできることが叶いました。

これまで応援、そして書籍版を購入いただいた皆さまには、改めて感謝と御礼申し上げます。

現状、書籍版は六巻の発行も決まり、今は鋭意その作成に取り組んでおります。


更にその先の書籍版についても変わらずお届けできるよう、どうかこれからも皆さまのご支援をお願い申し上げます。

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