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【6巻11/15発売】2度目の人生、と思ったら、実は3度目だった。~歴史知識と内政努力で不幸な歴史の改変に挑みます~【コミック3巻1/15発売!】  作者: take4
第十一章 魔王編(動乱の始まり)

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第三百九十五話(カイル歴515年:22歳)南部戦線⑪ 新たなる希望とは

後書きに小説五巻のお知らせを記載しています。

第一次ビックブリッジ包囲戦に勝利したタクヒールらは、入城後もしばらくは砦にこもっていた。

それにはもちろん幾つかの理由があった。


彼らが最優先に行う必要があったのは戦後処理だった。

砦の周囲には、一万二千にも及ぶ敵軍の亡骸が放置されており、このままでは後日に深刻な災いをもたらしてしまう。


主に水の手を豊富な地下水より得ていた砦では、地下に染み込んだ屍毒が飲料水に与える影響と、疫病の発生源となる懸念があったからだ。

それに戦場には、数多くの負傷者も取り残されていた。


ジークハルトはその膨大な数の亡骸を一か所に集め、荼毘に付して丁重に弔った。

片やタクヒールは、三千名にも及ぶ負傷者を回収すると、同行した聖魔法士たちにより手当を行った。


このことについて、今回は敵軍が侵攻してきた経緯が経緯であり、帝国側には若干の異論の声を上げる者もいたが、ジークハルトはそれに対し反論した。



「彼らの行いは、再三再四、侵略者として国境から侵略した帝国軍と何が違う?

そんな我らにも慈愛溢れる対応を取り続けた方々に対し、余りにも身勝手な言い分ではないか?」



この言葉で反対者はいなくなった。


後はタクヒールらの平常運転が続いただけだった。

マリアンヌやラナトリアを始め、直営部隊として従軍していた聖魔法士の数も、これまでとは比較にならなかった。


魔境公国を興して以降、大きな変化が魔法士たちの自然増加だった。

タクヒールの下には、カイル王国中から魔法士たちが集まり始めていたからだ。



一つ目の理由は、立身出世のサクセスストーリーが広まったからだ。


彼の下で、元は平民でしかなかった魔法士から貴族の称号を持つ者たちが続々と生まれた。

それだけではない、彼らは各方面で指揮官や行政部門の長として腕を振るっている。


勅令魔法士制度が始まり、以前の見世物扱いから大きく待遇が変わった彼らだが、次は栄逹や将来を夢見るようになっていた。



二つ目の理由は、学園の制度により魔法戦闘育成課程は、一部の授業がテイグーンで行われていたことだ。

魔境公国を訪れた結果、カイル王国にない文化や人々の持つ進取の気性に触れ、魔法士として移住や主人に対し派遣を望む者も増えた。



三つ目の理由は、かつてあった大戦に向けて結成された魔法騎士団が理由だ。

この結成に大きく関わったのがユーカとクリシア、公王の妻と公国を支える最大の侯爵家の次代を担う者だったからだ。


魔法騎士団自体は終戦により既に解散していたが、その中核にあった者たち、貴族の子弟や子女たちが彼女らを慕い集まっていた。


送り出した側の各貴族家も目論見があった。

新興の魔境公国ならば家を継承できない彼らにも、働きに応じた地位が新たに与えられる可能性があるからだ。



そんな事情もあり、マリアンヌ、ラナトリアを始めタクヒールが遠征軍に従軍させた聖魔法士の数はこれまでと比較にならない。


10名の聖魔法士たちに掛かれば、三千もの負傷者でも迅速に対処が行える。

次々に回復処置が行われ、ビックブリッジ砦は敵国兵の上げる歓声と感謝の涙で溢れた。



「ハハハ、これはもう……、笑うしかないね。

だからこそタクヒール殿の軍は恐ろしい。さっきまで敵だった者が、次々と味方になるんだから……。

そばで見ていて改めて分かったよ」



ジークハルトは、若干青ざめながらそう言って、彼女らの活躍を眺めていたと言われる。



もちろん戦後処理はそれだけではない。


ターンコート王国軍は東に撤退したとはいえ、一万以上の軍勢を擁している。

体制を整え再反転してくる可能性もあるため、少数の部隊を東方面に派遣して偵察と万が一の際は狼煙を使用して敵襲を知らせるよう手配していた。



そして、今後の方針を定める軍議も幾度か行われた。

それについては、何度目かの軍議でタクヒールとジークハルトは、敢えてある試みを行った。


自身らは敢えて意見を言わず、互いの幕僚たちに自由な討論をさせるというものだった。

これから共に戦う以上、幕僚間でもある程度の意思疎通や意見統一は必要と考えたからだ。



「この砦を包囲する敵は失われた。今こそ打って出るべきだろう」


「奴らは新領土の実効支配を進めるため、分散して各所に散っている。我らはまとまり、それらを潰して行けば良いだろう」


「奴らは必ず戻って来る。少数の連絡部隊だけでなく、一軍を砦の外に出して埋伏させ、砦を包囲した奴らを後方から襲えばよいのではないか?」



帝国軍から積極論が多いのは理由があった。


彼らの主君の消息が未だに不明であり、南部辺境域との連絡線を回復することは最優先、できれば南方に散ったスーラ公国軍の数を、少しでも減らしたいという思いだった。



「とは言うが、ただ打って出るだけでは我らは寡兵。具体的な策を示さない限り、みすみす敵軍の餌になるとしか思えないが?」


「各個撃破とは聞こえがよいが、敵中に引きずり出され包囲殲滅の可能性も同等にあること、留意すべきでしょうな」


「砦の外に埋伏するか? 聞こえはいいがこの砦が監視されていればどうなる?

我らも監視の目を広げているが敵軍も同じではないのか? 外に出て隠れたつもりの軍は、露見すれば確実に全滅するがそれでよろしいか?」



勇み立つジークハルトの幕僚に対し、クリストフを始めゴルド、ハイツらが反論した。

団長は俺に等しく、敢えて沈黙を貫いていた。



「では魔境公国の皆さまに伺いたい。我らは座していたずらに時を過ごし、再び包囲されるのを待てと仰るか?」



「卿らが殿下の身を按じ、積極論を言っているのは理解しているつもりだ。だからこそ力を温存し打って出るのは殿下の所在が確認されたとき。

せっかく包囲網が解けたのだ、東だけでなく物見を四方に放ち、情報の確度を上げて行くべきであろう」



うん、確かにクリストフの言葉に一理あるな。

それに対し帝国軍の幕僚のひとりが応じた。



「だが我らにとって時間は味方ではない。

それにこの大事な局面で、魔境公国の最精鋭を南部戦線に引き留め続けるのも心苦しい。

もちろん感謝はしており、今もなお力を借りなくてはならない立場で何を言うかと笑われようが……」



なるほど、彼らの積極論にはこう言った裏もあったのか。クリストフらも少し意外な顔をしていた。


ジークハルトも苦笑して俺を見た。そろそろ、ってことか?

俺が頷くとジークハルトが話し出した。



「皆の気持ちは分かる。だが新領土南部一帯の情報が遮断されている今、殿下と連絡を取るのも難しいよね?

そして今、敵軍の哨戒網を抜けて南に偵察部隊を出すのはまだ危険だと思う。

なので奴らにはいま一度、この砦を包囲してもらい、南の壁が開いた隙をつき物見が殿下との連絡線を確保する。この点を最優先としたい」



「そうだな、俺からもひとつ。

大前提として、仮に八万の軍に包囲されても一角なら二万程度。攻城戦に於いてたかが二万の軍勢など俺たちにとってはものの数ではない。

一瞬で微塵に引き裂かれて全滅するだろうな。しかも俺たちは味方の兵を一兵も失わずに、だ!」



俺はそう言って笑ってやった。

だが、満足気に頷く団長やクリストフらと違い、友軍である幕僚たちの反応は微妙だった。



「ひっ、まぉ……」 



そんなドン引きしなくても。

いや、今……、魔王って言い掛けたよね?


まぁ……、良いけどさ。

実際に拡散魔導砲四連射の極限攻撃なら、恐ろしい戦果と共に、魔王と呼ばれても仕方ないぐらいの凄惨な光景が広がるのだから。


使用するにはそれなりの覚悟が必要な兵器だけど、俺は簡単に使用の許可を出すつもりはない。

使いどころを間違うと、もはや戦いではなく単なる虐殺になってしまうからだ。

今回は更に違う意味で上回る戦果が期待できる秘匿兵器もあるし。


その時だった。

会議室に駆けつける足音が鳴り響いた。



慌ただしく議場に入った伝令は、一度タクヒールらに一礼してから言葉を発した。



「申し上げます! 東の空の遥か彼方に、グラート殿下の本隊を示す狼煙が上がっております!

何か所かの中継を経たものと思われ、距離があるため詳細は不明ですが、殿下は……、殿下はご健在の模様ですっ!」



「何だとっ!」

「それではっ!」

「閣下っ!」



帝国軍の幕僚全てが、歓喜の顔で席を立った。

誰もが今すぐ外壁上に登り、東の空を見たいに違いない。

ジークハルトにその許可を求めているかのようだった。



「狼煙は東のどの方向から続いている? 起点はどこだ?」



そう尋ねたジークハルトは、ただ瞑目したまま腕を組んで座っていた。



「はっ、複数個所を経由しているため正確には分かり兼ねますが、おそらくはガイテーあたりかと思われます」



「あそこか……、だったらかなりマズイな」



「閣下?」



「……、時と場所、その両方が最悪だ。

今頃は撤退したターンコート王国軍を追い、南部各所からスーラ公国軍が東に集結しつつあるだろう」



ジークハルトは、第一報に接し心の中に沸き起こった喜びを押し殺し、冷徹に状況を分析していた。


恐らくスーラ公国軍は、辛くも逃げ延びた兵から事情を聞くと、卑怯な裏切り者を許さないだろう。

ある程度の数でこちらを再包囲しつつ、裏切り者を追撃するため、それなりの数を振り向けるはずだ。

そしてガイテーの狼煙台は、周囲からの見晴らしもよく南から通じる主要街道の直ぐ脇にある。


スーラ公国軍がターンコート王国軍の追撃に入っていたら、間違いなくその狼煙に注目するだろう。

おそらく南から彼らが東を目指す街道の進路上、もっとも都合の良い場所にガイテーはある。


結果として東側から殿下の上げた狼煙は、味方だけでなく敵軍であるスーラ公国軍をおびき寄せる口火となってしまう。

何も事情を知らない殿下にとっては、むしろ当然の行動であったが、そのタイミングと方角が最悪なんだよな。



ここでジークハルトは目を見開いて立ち上がると、タクヒールの前に進み出て跪いた。



「公王陛下にはこちらの事情で勝手なお願いとなり誠に恐縮ですが、伏して申し上げます。

せっかく我らに届けられた希望を告げる報、ですがそれは、今や危うい砂上の楼閣に過ぎません。

間もなく我が主君は、東へと進出したスーラ公国軍と対峙することになりましょう。

戦いに勝利せずとも構いません。どうかまず我が主君を救い出すため、お力をお貸しくださいませ」



そう言うと、ジークハルトは深く頭をさげた。

そこで初めて、幕僚たちもジークハルトの懸念を察して一瞬青ざめたあと、慌てて一斉に跪き頭を深く下げた。



「遠慮は無用だ。

俺たちは友を救うため戦いに来た。それがひいては自分たちの未来を勝ち取る戦いとなる。

全騎、直ちに出撃用意っ」



「「「「応っ!」」」」



ヴァイス、クリストフ、ゴルドらタクヒールの幕僚たちは、一斉に大きな声で応じた。



「公王陛下の騎兵に追随できる戦力、我らには二千騎ほどしかございませんが道案内に同行させます。

彼らは東地域の地理に詳しく狼煙台まで陛下の軍をご案内します。

万が一敵軍と遭遇した際は、その二千騎を陛下の盾として遠慮なくお使いください」



「任せられよ、これよりグラート殿下を迎えに行ってくる。晩餐の準備をよろしく!」



そう言ってタクヒールは魔境騎士団を率い、帝国軍より選抜した騎兵二千騎とともに砦を出立した。

新たなる戦いに、そしてこの先の勝利に欠かせないカギを手に入れるために……。

最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

次回は3/20『御旗の下に』を投稿予定です。


◆お知らせ

小説五巻が情報公開となりました。

5月20日(火)発売で現在予約受付中です!

詳細は活動報告にも掲載しておりますので、どうぞよろしくお願いします。

どうぞよろしくお願いいたします。


※※※お礼※※※

ブックマークや評価いただいた方、本当にありがとうございます。

誤字修正や感想、ご指摘などもいつもありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
同行した聖魔法士たちにより手当を行った。ではなく、 同行した聖魔法士たちが手当を行った。or同行した聖魔法士たちにより手当が行われた。 の方が適切かな?と
魔王、いいじゃない 敵性魔族とかいないんだし別に人類の敵という認識じゃないだろう この世界だと魔法使いの王というニュアンスでは
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