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【6巻11/15発売】2度目の人生、と思ったら、実は3度目だった。~歴史知識と内政努力で不幸な歴史の改変に挑みます~【コミック2巻発売中】  作者: take4
第十一章 魔王編(動乱の始まり)

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第三百八十四話(カイル歴515年:22歳)北部戦線㉑ 陣中閑話

各国の軍勢が互いに正面の敵軍と衝突し各地で激戦が行われた夜、アレクシスは再び諸将を本営に招聘すると軍議を開催した。


招じられた緒将は天幕の中に入ると、一様に驚きの声を上げた。

なんせそこには、この場には居ないはずのハストブルグ辺境公、勇猛果敢で名の知れたダレクが、澄ました顔でアレクシスの隣に座っていたのだから……。


もちろん最も驚き思わず声をあげてしまったのは、この場に居た二人の将の父であるソリス侯爵であったのは言うまでもない。



「ふん、知らぬうちに儂も年老いたということか。馬から落ちて卒倒するだけでなく、こうして息子たちの采配を仰ぎ見ることが普通となったのだからな」



少し不機嫌そうに言葉を発し、その場を取り繕ってはいたが、彼の口元は緩み喜びを隠せなかった。



「其方は果報者よな。二人の息子は公王に辺境公、そして優秀な娘にも負けずと劣らぬ立派な婿がおり、家を継いでくれるのだからな。とんびたかを生んだ……、いや、彼らを世に送り出された奥方こそが真の鷹デアルな」



本来なら憮然として、冷たく一瞥するだけのゴーマン侯爵だったが、今は上機嫌で僚友を揶揄していた。

なぜなら彼もこの本営で、思いがけずも対面できた人物がいたからだ。

侯爵の愛娘であるユーカは、前線から負傷者を後送するための部隊を率い、一時的に最前線を訪れていた。


イストリア正統教国の難民たちの受け入れに目途を付けた彼女は、前線での負傷者対応を応援すべく、聖魔法士のクリシアやシオルたちを伴ってクサナギから出て来ていた。



「コホン、それでは諸将も揃われたことですし、これより軍議に入らせていただきます。

王都から援軍を率いてハストブルグ辺境公が到着されたことで、我らもやっと数で拮抗することが叶いました。そのため次は我らも打って出て、帝国領から侵略者を駆逐します」



「「「「おおっ」」」」



待ちかねていたように諸将は大きく声を上げた。

現時点で敵の総数は凡そ四万、対する味方の稼働戦力は三万六千、数の上ではなんとか戦えるまでになっていた。



「現状で正面の二か国は守りを固め、大きな動きを見せていません。

よってこの隙に、その先の攻勢遠見越したかたちで対応した配置転換を行います」



「横から失礼する、卿は二国が黙ってそれを許すと?」



「辺境公のご指摘はもっともです。ですが我らの守りが固いと知った今、彼らは負けない算段に徹した動きを見せているように思われます。

事前に即応体制は整えた上で、対応したく思います」



「なるほど……、続けてくれ」



「圧倒的多数の優位をいかし、電撃戦で我らを打ち破るという彼らの初期目的は潰えました。

王都騎士団の援軍が新たに到着したことを知らぬとはいえ、我らにも彼らに劣らぬ長射程攻撃の手段があると知った今、迂闊に前に出てくることはないでしょう。僕はこの隙を衝きたく思います」



そう言うとアレクシスは、敵の布陣を記した大きな地図を広げさせた。


挿絵(By みてみん)


「敵正面を敢えて手薄にして、いざという時に機動戦力となる王都騎士団第三軍をここに、そして帝国軍部隊は西側の牽制に残しますが、その他の軍は東側に移動します」



「ふむ……、そして俺は戦場を大きく迂回し、敵の側背を衝く訳だな?」



「はい、恐らくですが彼らのバリスタは前方及び左右を照準としていると思います。

仮に後方に配していたとしても、その数は限られたものとなりましょう。

ダレク様の攻撃に対して敵軍が後退すれば、シュルツ閣下は騎兵の足の利をいかし、追撃していただきたいと考えております」



「その間にイストリア正統教国軍はどうする?」



ダレクの問いにアレクシスは大きな息を吐くと、殺気のこもった険しい表情で続けた。



「彼らに『闇の使徒』が関わっている可能性がある以上、圧倒的優位な体制で……、必ず殲滅します。

今回こそ奴らを逃がす訳にはいきませんので、敢えて二正面作戦を回避します」



アレクシスが放った言葉、『闇の使徒』には多くの諸将が戦慄を覚えた。

かつてハストブルグ辺境伯の帷幕であった者たちは、彼らの蠢動により多大な被害を受け、主将たる辺境伯を討たれる結果に繋がっていたのだから……



「デアルナ」

「ふむ、奴らを生かしては帰さん!」

「辺境伯の無念、今度こそ……」

「奴らの蠢動で散った、多くの兵たちのためにも……」



ゴーマン侯爵、ソリス侯爵、ファルムス(クライツ)伯爵、ボールド子爵らは一様に硬く拳を握り、自身の思いを吐露せずにはいられなかった。

そこにダレクが言葉を重ねた。



「なるほどな、先ずは二国を破った上で俺の隊が奴らの後方で蓋をする。そういうことか?」



「ご明察の通りです。そのため第一軍から第三軍は、東の戦いに呼応して正面の敵の目を引くよう動いていただきたいのです。この時点では引き留めるだけで構いません」



「承知した」

「良かろう」

「はっ!」



「ダレク殿には明朝、こちらを目指す王都騎士団の本隊と合流いただき作戦行動に移ってください。

これより諸将には、作戦に応じた旗の合図を共有します。常に北の空だけは確認するのを忘れぬようお願いいたします」



「「「「応っ」」」」



このあとアレクシスと諸将は、詳細な説明や段取りの確認を行ったのち、軍議は解散した。



一方、前線で動きのあった敵を見据え、新たな戦術を検討していたゴルパ将軍は、この日何度目かの煩わしい使者の来訪に内心辟易としていた。


何度か居留守を使ったが、今、再び現れた使者は兵たちの制止を振り切ってゴルパの前に現れた。



「勅命である」



冒頭でそう宣言し、周囲の者たちの介入を制すると傲然と胸を反らし将軍に話しかけた。



「ゴルパ将軍、前線に二千の兵を残し残りの八千名は直ちに後方に送るように!」



「はて……、異なことを仰るもんじゃ。

陛下は総退却でもご決断なされたのかの?

この時点で八千もの兵を引けば、ここを支えることは到底できんが……」



「そんな話は聞いていない! これは勅命である!

異論があるようなら直ちに将軍を解任し、捕縛するよう命を受けているのだぞ!」



そう言われたゴルパは、ただ黙って項垂れるしかなかった。

その様子を見て使者は、薄ら笑いを浮かべると言葉を続けた。



「何をそう悩む。簡単な話ではないか?

将軍はただ兵を後方に送ればよいだけのこと。残った二千の兵を以て将軍とリュート王国軍がこの地を支えれば事足りる話ではないか」



「ば……、馬鹿なことを。陛下は我らを一体……」



勅命には反論しようもないゴルパに対し、使者は嘲笑うかのように口元を歪めながら、勅命に跪くゴルパ将軍を見下ろしていた。



その時であった。

陣幕の陰から一人の偉丈夫が姿を現した。



「おっと、それは聞き捨てならん話だな。

兵を前線に出し攻勢に出るとの申し合わせは、先の四か国で行われた合同軍議で決まった話ではないのか?

それとも何か? 俺の知らぬところで国同士で新たな申し合わせでも行われたか?」



「あっ! いや……、それは……」



突然姿を現したリュート王国第一王子の言葉に、使者は大いに焦り言葉を濁した。

それに対し、第一王子は突然テーブルを蹴り上げた。



「この無礼者がっ!

たかが使者風情の分際で、リュート王国軍を率いる第一王子たる俺に、前線に残りヴィレ国王の盾となれと命じるのか!

増長にも程があろうっ!」



「ひっ、ひぃぃっ!」



激発した第一王子を前に、使者は腰を抜かして後ろに倒れこんだ。

彼もまた、粗暴で手の付けられない暴れ者であるという、第一王子の噂を知っていたからだ。


ガタガタと震える使者を前に、第一王子は後ろを振り返ると、呆気に取られているゴルパにだけ分かるように片目を瞑った。


そして再度、傲然と使者の前に進み、今にもまた激発し殴りかかりそうな表情で続けた。



「使者に命じる。先程言った俺の質問を、其方の主に突き返して参れ!

そしてこう言ってやるがよいわ。

『周りに兵士が居らず不安なのであれば、それは気の毒な話。前線まで参られるが良かろう!』とな。

さもなくば黙って後方で大人しくしておれっ!」



「ひっ、はぃ……」



第一王子の逆鱗に触れた使者は、ほうほうの体で逃げるように主の元に帰っていった。

その背を見て、ゴルパは大きなため息を吐いた。



「まぁ……、悪名というのも、こういう時には役に立つものだな。しかし将軍、其方も苦労が絶えんようだな」



「いえ、此度はお救いいただきありがとうございます。愚物の下では兵たちも生きて帰る道が閉ざされてしまいますので……」



ここに至るまで、既にゴルパの心は決まっており、主君を愚物と呼ぶことにも遠慮がなかった。


先程の命令も然り。あのような者の指揮下では局地戦に勝利することすら覚束なく、兵たちに多くの犠牲を出すことになるだろう。



「なーに、せっかく心を決めてくれたのだ、一蓮托生となった友に対し、俺は助力を惜しまんつもりだ」



『友か……、このお方は儂を……、友と呼んでくださるのか!』



第一王子が何気なく発した言葉にゴルパは震えた。

彼の脳裏には数十年昔の懐かしい、だが、終生忘れられない記憶が鮮やかによみがえった。


そうだ……、かつてディバイド大王も、共に帝国軍と戦った諸将を友と呼ばれ、幾度となく戦場で語らい、肩を組んで杯を傾けられていたものだ。

あの時の儂はまだ下っ端であったが、端から見ていても、とても眩しく見えた光景であったわ。


懐かしいの……。

間違いなくこのお方(第一王子)は、ディバイド大王の血脈を受け継いでいらっしゃる。


もしこの方が三国の主であれば、儂は……。

そしてこの先、兵たちの未来を託せる人物は……。


ゴルパの脳裏には叶うはずのない願いと、叶えたい思う未来が浮かんでいた。

そして思わず溢れ出た熱い何かが、いつしか頬を伝って流れ落ちるのを感じていた。



「……、将軍、どうかされたか?」



「いやいや殿下、失礼しいたしました。

所で今後の対応ですが、索敵によると敵は夜陰に紛れて何か動いておるようです。

おそらく明日あたり、何らかの手段で攻勢に出てくるものと思われます」



「なるほど……、で、将軍はどう受けられるつもりかな?」



「はっ、策はございます。我らもまた今宵のうちに……」



そこまで言うと、再び戦士の顔に戻ったゴルパは、新たに立案した作戦を第一王子と協議し始めた。


この先アレクシスとゴルパ、それぞれが思案を重ねた新しい局面が、日の出とともに始まる。

最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

次回は1/17『崩壊の始まり』を投稿予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。


※※※お礼※※※

ブックマークや評価いただいた方、本当にありがとうございます。

誤字修正や感想、ご指摘などもいつもありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
今後の三国の後始末を任せられる人材が出来たようだ
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