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第三十九話(カイル歴504年:11歳)バルトの帰還

「タクヒールさま、行商よりただいま帰還しました」


旅立って約一年、あっという間だったが、最上位チャンピオン大会の開催に合わせて、バルトが同行していた商隊がエストの街に戻ってきた。



「お帰りバルト、商隊での任務ご苦労様」


元気そうな様子を見て、無事の帰還でなによりだ。



「報告が沢山有ります。是非お時間をください」


早速、バルトの成果の報告を受ける事になった。

この様子だと……、成果があった様で楽しみだ。



◯牡蠣殻について



「牡蠣殻はどこでもゴミとして処分に困っているようです。

いくらでも持って行って良いと言われ、全て無料で集めることができました」


バルトは誇らしげに続けた。



「まだまだ、全てを集めきれていないので、また回収に来ることを伝えてあります」



バルトの報告に、これからも牡蠣殻を収集可能と分かり一安心した。正直もっともっと欲しい。

これで次の手が打てる。最上位チャンピオン大会が終わり、一段落したあと、早速準備を始めた。


「全部出してもらえるかな?」


「ここでよろしいのですか?」



「勿論、全てここに出して」


「……」



「な、何だこれはっ!」


予想外に多い牡蠣殻の数に思わず絶句してしまった。



家数軒分では収まらない量の大量の牡蠣殻ゴミに、たまたまその場に居合わせた父は絶叫した。


そして……、辺り一帯に漂う独特の潮の匂い……

領主館の裏庭はさながらゴミ屋敷に変貌した。


驚く父を……、俺は敢えて見てない振りで作業を急いだ。



「エラン、メアリー、お願い!」


2人は地魔法を使い次々と浅いプールを作っていく。



「サシャ、完成したところから」


水魔法により、そのプールが水で満たされていく。



「みんな、お願い」


残った全員が、そのプールに牡蠣殻を沈めていく。



皆の協力は絶大だった。少し前ならアンと2人で相当な時間を掛けた作業になってたと思う。

今後は、何度か水を入れ替えつつ塩抜きを行い、その後は半年ほど天日干しにかける予定だ。



両親とレイモンドさんには、この牡蠣殻について、


・焼いて砕き、土壌改善の肥料に使うこと

・テイグーン開拓地で下水の水質改善にも使用すること

・天日干しが終わればその実験に取り掛かること

・この後も継続し牡蠣殻は収集すること


などを伝えた。



◯芋について



「エストール領の土地に合うかどうかは分かりませんが、集められる範囲で購入してきております」

そこには何種類もの種芋が山の様に積まれていた。



「ほう、ここまでの種類、よく集めたものだ」


父から驚嘆の声が上がった。



実は、牡蠣殻の一件で懲りたのか、問題が有ればすぐ止めさせようと、その場に留まっていた。



「それぞれ、集められる範囲で、産地と栽培方法も確認しております」


「ありがとう、バルト!完璧だよ」



バルトが集めて来てくれた大量の種芋は、


・何種類か選定しテイグーンに送付する

・ミザリーさんに現地で試験栽培を実施してもらう

・エストの街の孤児院でも試験的に栽培実施


それらの目的で振り分けられた。



勿論、当然の事だが俺自分も芋を育ててみた。

蕪の時と同様に屋敷の花壇、牡蠣プール以外の空きスペースに手当たり次第畝を作り種芋を植えていった。

そしてソリス男爵の館は……、一面の芋畑になった……



そして、父が再び頭を抱えるはめになった……


「頼む……、芋だけは……、芋男爵だけはやめてくれ」



「ゼンショシマス、デモ、タミノコトバハ、トメラレマセン」


確信犯タクヒールは特に止める事も、自ら広げる事も何もしなかった。



数ヶ月後、ソリス男爵は短期間に、新たに二つ名を2種得た事でも有名になった。


【ソリス男爵に二つの顔あり。蕪のソリスに、芋ソリス、民この名を用いて大いに敬う】



◯穀物について



「申し訳ありません。エストールに無い穀物、その前提で当たってみたのですが……」


穀物、特に米については難航しているみたいだった。



米については、水を引いた畑で育てる穀物、そう言った例で探してもらっていた。

どうやらバルトが探索に行った大陸の北側では、栽培例が無い様だった。



「商人達の話では、ずっと南方、グリフォニア帝国の更に南、スーラ公国では、水を引いた畑で栽培されている穀物があるらしいです」



「その情報だけで立派な成果だよっ」


俺は興奮してバルトの手を取った。



今回の成果で、バルトには父から出ている給金とは別に、褒賞を出し、継続して牡蠣殻と種芋の収集を依頼した。


バルトは商人たちからも可愛がられ、特に荷物の無かった往路は収納魔法を使い、商隊にかなり貢献したらしい。

そのため、食費や宿代なども全額商人達が負担してくれて、経費はほぼ掛からず、逆に報酬で増えているとのこと。


道中、商人からは商取引の慣例や、商売上必要な情報、商人のネットワークなどを学び、一介の商人としても自信をつけつつあった。



そこで新たな提案として、初期に預けて残った金貨140枚のうち40枚と、新たにバルトが増やした60枚の合わせて100枚は、商機を見て投機に使用して良いこと、そして利益が出た場合は、利益のうち2割をバルトの取り分として、自由に使ってよいことを伝えた。


収納魔法が商人にとって、かなりチートなスキルである以上、きっと成果を出してくれるのは間違いない。


一通り対応が済むと、再び行商に出る商隊に付き従って、バルトは旅立っていった。

一年前と比べて、増えた仲間達に見送られて。


今回は別件もあり、半年ほどで、年明けには戻ってきてもらう予定だ。

バルト商会という名の商会が、ソリス男爵家の経済活動の一翼を担う未来も、そう遠くない気がしていた。



またバルトとクレアは、ソリス男爵家からの給金の殆どを、自分たちが育った孤児院に入れていた。

彼ら以外で、射的場や定期大会、最上位大会の運営要員として、雇い入れている孤児たちも同様だ。


その為、孤児達の孤児院での生活は劇的に改善した。

子供たちの生活にも余裕ができ始めたのを機に、孤児院を改装し、大きな教室を作った。


更に俺の個人的な手持ちの金貨を活用し教師を採用、教材を用意して文字や読み書きを学べるようにした。


また、この教室は孤児だけでなく、エストの街の子供たちなら誰でも参加できるようにした。

そして、午前中の授業をちゃんと受けたものに限り、無料で昼食も食べられるようにした。


昼食自体も、年長の孤児から何人かを、料理長のミゲルさんに頼み自分たちで調理できるよう仕込んでもらった。

もちろん、調理を担当した人間には少ないながら日当も出て収入も得る事ができる。



後日バルトが旅立ち、教室と昼食が軌道に乗り出した後、学びに来る子供の数は増え続け、孤児院にある教室では収まらない状況になった。


その時点で、俺はレイモンドさんに頼み込み、教室と教師を増やしてもらった。

さらに、優秀な者が学べる上位レベルの教育を行う施設を、作ってもらう事になるに至った。

幸いなことに、今後はソリス男爵家の予算で教室や教師、昼食も面倒を見てもらえる事になった。



こういった取り組みの結果、エストの街の子供たちの識字率は劇的に向上し、就学意欲も高くなった。

そしてソリス男爵家は、未来の文官候補生を数多く手に入れることになった。



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<手持ちの金貨>

・初期金貨     500枚

・射的場景品代  ▲150枚/年

・定期大会賞金等 ▲240枚/年

・魔法士紹介報酬 1,500枚   

・召喚儀式費用  ▲400枚

・バルト預け金  ▲150枚

・投票券収益    600枚

・投票券準備費  ▲ 10枚

・最上位大会賞金 ▲115枚

・最上位大会準備 ▲ 50枚

・辺境伯より報奨  500枚

・発注及び技術供与 500枚

・外注製作費他  ▲200枚

・その他     ▲ 20枚  

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・バルト臨時報酬 ▲ 10枚

・教室開設費   ▲ 15枚

・教師/教材費   ▲ 40枚/年

・教室昼食費   ▲100枚/年

---------------------------------------

差引残高     2,100枚


ご覧いただきありがとうございます。

引き続き毎日投稿を目指します。

40話ぐらいまで(もう少しできるかもしれませんが)は、毎日投稿していく予定です。


ブックマークやいいね、評価をいただいた皆さま、ありがとうございます。

凄く嬉しいです。

これからもどうぞ宜しくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最上位大会来賓の貴族は屋敷で歓待せにゃならんだろうし、貴族の庭園なんて領地の力と教養センスを見せつける立派な外交アイテムだが…… そういえば蕪農地のまま晒したのか??? [一言] ま…
[気になる点] 牡蠣殻の塩抜きした水はどうしてるんだろう?そこらに捨てるわけにはいかないし、川に流しても大丈夫なんじゃろか?
[良い点] 芋男爵笑 他にに設定とキャラ、たまにある笑いに惹き込まれます [気になる点] 1年旅をさせてまたすぐ旅とは、、、ちょっと鬼畜に思ってしまいます汗 もうすこし報いてほしいなぁ
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