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【6巻11/15発売】2度目の人生、と思ったら、実は3度目だった。~歴史知識と内政努力で不幸な歴史の改変に挑みます~【コミック2巻発売中】  作者: take4
第十一章 魔王編(動乱の始まり)

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第三百七十九話(カイル歴515年:22歳)北部戦線⑯ 死戦の始まり

ゴルパ将軍の指示により、各バリスタから1,000本もの矢が一斉に空を舞い、各部隊の頭上を襲った。

ついさっきまでは『狩る側』として侵略者の軍を追い詰めていた両軍の立場は、一気に『狩られる側』へと変化していった。



「なっ、何だと! 奴らの最大射程は500メルではないのかっ!

こっ、これでは損害が馬鹿にならん。一旦後退、直ちに射程外まで後退しろ!」



予想以上の射程に驚愕したソリス侯爵は、多少の痛手を被りながらも一時の混乱を収め、安全圏に後退しつつあった。

数多くの不利な戦いや激戦を経た経験豊かな将と、それらを経て精鋭となった兵たちは、乱れることもなく陣形を保ったまま後退しつつあった。



一方、勢いに乗じて敵陣近くまで攻め寄せていたカーミーン子爵軍の一部は、有効射程内で身を晒していたために、反対側とは比べようもない苛烈な矢の嵐に見舞われていた。

大気を切り裂いて飛翔した、短槍ほどの大きさもある矢によって強かに打ちのめされていった。



「な、何だぁぁ、あっ!」

「逃げ……、ぐぁっ!」

「て、撤退……うぉっ!」



彼らの軍列は薙ぎ払われ、高威力の矢に串刺しにされる者たちも相次いだ。



「今じゃっ、銅鑼を鳴らせっ!」



ゴルパ将軍が指示を出すと巨大な円盤型の銅鑼が、空気を震わせて鳴り響いた。

それに合わせて平素から将軍の薫陶を受けてきた指揮官たちは、一斉に馬首を巡らすと反撃に転じた。



「「「いかん!」」」



この様子を見た三人の将たちが一斉に叫んだ。



「あの猪共を後退させろっ! このままでは彼らは全滅してしまう。伝令を走らせ、射程外に出てしまえば恐るるに足らんと伝えよ。我らは退路を確保するため突入する」



カーミーン子爵は絶叫すると、直属軍と共に最前線に赴き、追撃に移った敵兵の前にたちはだかった。自らも壁となり懸命に友軍を逃がす退路を確保するために。



「直ちに騎馬隊の増援を送れ! このままでは一方的に打ち減らされてしまうぞ」



ドレメンツは直ちに信頼する配下に騎馬隊を預け、窮地に陥っている友軍を助けに行かせた。

状況が転じたことにより、事前に挙げられた不安は的中した。



三つ目の課題、それは兵士たちの実戦経験の浅さだった。

そもそも第一皇子陣営でも重要視されていなかった彼らは、彼に付き従い従軍する機会が乏しかった。

そのため彼らを率いた貴族を含め、戦場での機微や精神的な強さがない。

勢いに乗り勝利している間は良かったが、一度崩れれば非常に脆かった。

ここに来てその脆さを露呈し始めていた。


彼らは狂騒状態になって潰走を始め、救いに出たカーミーン子爵軍を巻き込み混乱を助長させていった。



「右翼を伸ばせ! このままでは食い破られるぞ!」



ドレメンツはやむを得ず、空いた穴を埋めるべく歩兵たちを右側に移動させていった。

だがそれは同時に、正面が手薄になり大きな隙を作ることになった。



「デアルナ……。窮地に陥った友軍を見捨てることはできん。それが正しい、だが……。

いかにカーミーン殿が名将であったとしても、半数以上の味方がアレでは支えきれんだろう。

救援に動いたドレメンツ殿も然り。これより我らは陣を右に伸ばし、ドレメンツ殿を補佐する!」



「ですが閣下、それでは……」



ゴーマン侯爵は不安の声を上げる部下を一瞥すると、ただ小さく首を振っただけだった。


昔から好きになれない男ではあったが、ソリス侯爵は信頼に値する男であると分かっている。

彼ならば戦況を見て後退し、守りを固めたのちに窮地を脱すべく動くだろうと考えていた。

そのためゴーマン侯爵軍も帝国軍の動きに合わせ右側へと移動し、戦場は大きくその姿を変えようとしていた。



「ふふふ、そうじゃな。そうじゃろうて。

魔境公国軍は精鋭、軍の強さには自信を持っており、率いる将はみな優秀な歴戦の強者たち。

だからこそ逆に読みやすいわ」


仮設櫓の上から戦場の推移を見守っていたゴルパ将軍は、満足気に頷いた。



「彼らには申し訳ないが……、これも戦場の習い。我らが無事に『撤退できる』だけの余力を削らせてもらうぞ。各部隊に下命! 攻勢に出よ、とな」



この命令で、ゴーマン侯爵を始め魔境公国側の各将が予想すらしていなかったことが起こった。


まず一つ目として、前衛として正面に配置されていたリュート王国軍のバリスタ300基が、急速に前進して距離を詰め、帝国軍が移動した間隙を埋めるべく展開したゴーマン侯爵軍に襲い掛かった。



「何だとっ! バリスタがこれほど機敏に……、車軸を付けた移動砲台デ……、アルカ」



ゴーマン侯爵が驚くのも無理はなかった。

本来はその重量と大きさから、バリスタはあくまでも固定砲台として使用され、移動できたとしても動きは遅く、そして再設置と調整には時間を要するものだったからだ。



かつては帝国軍の侵攻に怯え、一度は撃退してみせていたリュート・ヴィレ・カイン王国は、バリスタを決戦兵器と定め、三国に分かれたあとも、独自に進化させていた。


そのなかでヴィレ王国は射程距離延長に特化し、より強固で大型のバリスタを発展させていった。

故に彼らのバリスタは、鹵獲されたカイン王国のバリスタを凌ぐ射程を誇り、結果として魔境公国側に安全圏を誤認させることになっていた。


リュート王国も然り。彼らは得体のしれない宗教国家、イストリア皇王国と国境を接しており、三国に分かれてからも幾度も国境紛争を経験していた。

故に広大な国境線のどこにでも展開できるよう機動性に特化し、車軸を搭載するだけでなく、直ちに照準を定めることができるよう、簡易ながら各基には仰角に応じた照準器や水平儀まで装備していた。


国境が比較的安全で、差し迫る脅威が最も少なかったカイン王国だけは、その進化に取り残されており、ここ数十年の間も旧来のものより大きな進化はなかったが……


その最も遅れたカイン王国のバリスタを鹵獲したことが、対するアレクシスらの判断を誤らせる結果となっていた。

ゴルパ将軍はそれらの敗戦から生じた結果も、新たな作戦として織り込んだうえで戦術を構築していた。



「くっ……、やむを得ん。ここは一旦後退して距離を保て」



ゴーマン侯爵は唇を噛みしめて決断を下さずにはいられなかった。

これまでの戦いでは、圧倒的に勝るエストールボウの射程をいかし、戦いを有利に進めていた彼らも、流石にバリスタの射程距離には敵わなかった。


苦しい戦い戦いを続けるなか更に追い打ちを掛ける出来事が起こった。



二つ目の予想外は、カイン王国軍の無謀ともいえる突進だった。


これまでカイン王国軍は全くよい所がなく、率いる第二王子は追い詰められていた。

そして作戦で定められていた後退を無様に演じていたが、戦況の変化で起死回生の突撃を開始した。



「突撃っ、突撃! ただ前にのみ進めっ! 敵陣を破れば我らの勝利だ!」



鬼気迫る様子で眦を挙げ先頭を進む第二王子に釣られ、彼らは死兵となって後退しつつあったゴーマン侯爵の軍に襲い掛かった。


五千対三千、帝国軍をフォローするため陣列を横に長く伸ばしたゴーマン侯爵の軍は、数ほどの働きができず思わぬ苦戦に陥っていた。



そして三つ目の予想外は……



魔境伯軍の左翼にて、自軍の最後尾に留まり後退を指揮していたソリス侯爵の戦線離脱であった。

最後に放たれた200基のバリスタによる長距離射撃が侯爵を襲った時、不運にも乗馬を直撃した矢によって彼の身体は宙に投げ出されてしまった。


その結果として侯爵は一時的に昏倒し、整然と後退しつつあった彼の軍は一時的に指揮者を失い、大きく混乱していた。

もちろん無様に潰走することはなかったが、友軍(ゴーマン侯爵軍)に対する配慮ができなかった。

そこに士気を盛り返したリュート王国軍が反転し、攻勢を掛けてきたから猶更だった。



「このままでは支えきれませんっ、突破されます!」



「くっ……、兵を左に投入して何としても突破させるな! このままでは……」



勢いを得た敵軍の攻勢は尋常ではなく、腹心の報告にもゴーマン侯爵自身はただ耐えるしかなかった。

カイン王国軍に突破を許せば、反転して背後を襲い挟撃されることは目に見えていた。

そうすれば、今隣のドレメンツ率いる帝国軍を圧迫しているヴィレ王国の一隊も、こちらに向かって雪崩れ込んでくることは明白だ。


自身が崩れれば完全に戦線は崩壊する。



蟻の一穴により強固な堤防も崩れ落ちる。

戦場はまさにその様相を呈していた。


この時点に至り、各所では戦術を弄する暇もなく、単に数対数の戦いが全域で展開され、タクヒールにより後事を託された諸将は激戦の中で苦境に陥っていた。

最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

次回は12/28『戦線崩壊の兆し』を投稿予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。


※※※お礼※※※

ブックマークや評価いただいた方、本当にありがとうございます。

誤字修正や感想、ご指摘などもいつもありがとうございます。

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