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【6巻11/15発売】2度目の人生、と思ったら、実は3度目だった。~歴史知識と内政努力で不幸な歴史の改変に挑みます~【コミック2巻発売中】  作者: take4
第十一章 魔王編(動乱の始まり)

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特別編① もうひとつの戦場(涙の葬送)

12月14日、活動報告を更新しました。

良かったらそちらもご確認くださいね。

ウエストライツ魔境公国は元帝国領であった新領土に建設した新都市クサナギは、今や魔境公国最大の街となるべく急速に発展し続けていた。


開発当初からこの街は、新領土防衛の要となるよう設計された城塞都市であったが、流通や兵站、広大な新領土を治める拠点としての機能も期待されていたため、首都機能を持たせるため町割りにも余裕を持たせ、それを叶えるため広大な敷地を確保していた。


そのはずだった……。


だが今や、戦禍を逃れるため帝国領各地からクサナギに避難して来た民の数は、とうに10万を超えていた。

しかもその数は今も増え続けている。


クサナギを窓口とし、更にイズモに点在する開拓村や遠くテルミラまで人員を振り分けているものの、今や街中に人が溢れかえっていた。



そしてこの街で最も活況を極めている場所、正しくは戦場さながらに人々が働き激務を極めている行政府に急使が訪れた。



「報告します! 総司令官アレクシス殿よりご依頼です。新たに一万名に近い民たちの集団をクサナギに誘導するため、その受け入れをお願いしたいと」



「「い、一万人ですか……」」


「ふふふ……、そうですか」



その報告を受けた三人のうち、二人は驚きのあまり固まり、一人はにこやかに笑っていた。

今のクサナギに統制の取れた軍ならまだしも、一万もの民が一気に押し寄せれば、受け入れるだけで街は大混乱に陥ってしまうからだ。


ここ行政府の中でも最も最高機関である内務卿室には、この三人が最高指揮官の役割を担い指揮に当たっており、それぞれの机には各種報告書や決裁を待つ書面がうず高く積まれている。



「では早速対処に入りましょう。到着はいつ頃になりますか?」



「はっ、現在暫定指揮官となられたラーズ隊長が引率し、おそらく明日にでも……」



「では受け入れの準備は急いだ方がよいようですね」



先ほどから涼し気に笑っていたレイモンド内務卿は、不安な顔で彼を見つめる二人の女性、ユーカとクリシアに向き直った。



「失礼ながら敢えて申し上げます。民たちからなる一万のまとまった集団、おそらくこれはイストリア正統教国の者たちでしょう。ゲイルさん指揮下のラーズ隊長が率いているなら猶更です。

お二人ならこの意味がお分かりいただけるかと……」



それを言われた二人は、はっと何かに気付き自らの不明を恥じた。

それは友軍が、ひとつの戦いに勝利した結果であり、しかも敵軍に利用された民たちを救ったことを意味している。



「総司令官やゲイル殿はタクヒールさまの名誉を守ってくれました。これを喜ばずになんとしますか」



そう、レイモンドを始め彼女たちにも戦況は全て報告されていた。

最悪の場合、友軍は軍を引きクサナギが最前線となることが定められていたからだ。



「そうでした。お見苦しい所をお見せしました」

「ですねお姉さま、私もアレクシスさまに笑われるところでした」



二人は自らを恥じ、レイモンドに頭をさげた。



「まぁ……、無理もありません。私自身でさえ今まで経験したことのない忙しさですし、ね。

先日もローレライからの民と、敵味方合わせて2,000名近い負傷兵を受け入れたばかりですし……」



そう、戦域が拡大するにつれ受け入れる人員の数は日々変化した。

朝作った資料が昼には全く役に立たなくなることなど、これまでにもざらにあった。

かく言うレイモンドでさえ、優秀な二人のサポートがなければ倒れていたかもしれないほどに……。


だがそれでも、命を懸けて前線で戦う者たちの苦労に比べれば、たいしたことではないと思う。

そう考えて二人は、寸暇を惜しまず働いており、疲労は蓄積していたからだ。


レイモンドの言葉で、彼女たちがここクサナギに残った経緯を改めて思い出した。



当初彼女たちは、それぞれの夫と共に戦場に出ることを望んでいた。

だが、それぞれ優しく拒絶され、新しい使命を託されていた。



『ユーカ、気持ちは凄く嬉しいし、内乱時にはゴーマン領の民を率いて街を守ったことや、クレイラッドでの活躍は知っている。だから今回、ユーカにしかできないことをお願いしたい』



そう言うとタクヒールは戦略的後退作戦の急所、それを行った際に発生する膨大な数の避難民対応について彼女に助力を請うていた。

受付所を統括していたクレアは、出産を控えアンと共に後方のテルミラでミザリーを支えている。

その間、受付所で避難民の受け入れについて陣頭指揮できるのはユーカだけだった。



『それにさ、万が一籠城戦ともなれば、ユーカにもクロスボウ部隊を率いて活躍してもらうことになるからね……、クサナギだけは最後の砦なんだ』



夫からそう言われて、ユーカは自身の思いを抑えてクサナギに残留していた。



『クリシア、僕らが安心して前線で戦えるのは、後方の兵站が安定し不安がないからだ。

内務卿の手腕は凄いと思う。でも……、それに付いていける官吏はまだ少ないと思う。

クリシアはソリス伯爵(当時)領の内政を看ていた経験もあるし、どうか内務卿を支えてほしい。

前線で戦う僕らのために……』



確かに夫の言うとおり、今回の戦いには帝国に住まう多くの民が巻き込まれてしまう。

従軍する兵だけではない、彼らの食い扶持まで整えてこそ、初めて兵站は成り立つ。


実際ミザリーたちは魔境公国の旧カイル王国側、そしてカイル王国の全土から食料や物資をかき集め、ブルグからテルミラを経由した物資を満載した隊列は、整備された街道をひっきりなしにクサナギへと移動している。

その受け入れと管理だけでも、並大抵の官吏ならパンクしてしまうほどだ。



『それに……、前線から負傷兵はクサナギに送ることになる。

彼らを癒す聖魔法士として、命を奪う側の僕らの罪を、一人でも多くの命を救うことで償いに君の手を貸してほしい』



この夫の言葉で、クリシアも残留することを承知せざるえを得なかった。



「その……、もうひとつお知らせが……」



レイモンドと彼女たちの遣り取りに遠慮していた使者は、もうひとつの大事な報告、タクヒールが信頼する仲間の死を伝えた。



「そんなっ!」

「どうして……」

「くっ……」



この知らせには、常に冷静沈着で知られたレイモンドすら、思わず立ち上がり震えた手で書類を握り締めていた。

ユーカとクリシアは両手で顔を覆い、ショックを隠せない様子で絶句していた。


タクヒールが最も信頼した最古参の仲間のひとり、そして自らの拠り所である旧魔境伯領を預けた男、それがゲイルだった。

彼を失ったことへの喪失感は、この三人にとっても大きな衝撃であったことは言うまでもない。



「奥方への知らせは?」



沈痛な表情でレイモンドは小さく確認の声を上げた。



「はっ、別途任を受けた者がアイギスに走っております。テルミラまでお迎えする予定です」



「そうですか……、ではゲイル殿がクサナギを通過される際、最高の礼を以てお見送りできるよう手配いたしましょう。併せて私の方でもミザリーさんにも使いを走らせます」



務めて冷静に振舞うように努力していたレイモンドを見て、ユーカも顔を上げた。



「レイモンドさま、タクヒールさまに代わって、私から奥様にはお手紙を書かせていただきます。

いつも、亡くなった兵士のご家族にはそうされていましたので……」



「そうですね……、お願いいたします。経緯が経緯ですし、この後で民たちの受け入れに当たる受付所の者も、率いられて来る民たちにも護衛は必要ですね。二つの意味で……」



そう、降伏し帰参した者たちとはいえ、間接的にゲイルを殺したことになる彼らは、憎悪の的になる可能性もある。そして……、彼らの中にまだ危険人物が潜んでいる可能性も考えられる。



「はい、私が陣頭に出て受付所の皆を指揮します。団長から最低限身を守る術は叩き込まれています。

それに……、弓矢なら私が防ぐことも」



『危険すぎる!』そう思ってユーカの顔を見たレイモンドは、諦めるしかなかった。

何かを決意したかのような彼女は、揺るがない意思を持った目で自分を見据えていたからだ。



「決して無理はなされぬよう、それだけはお願いしますよ。あと、クサナギに駐留する兵からも護衛は付けさせていただきますからね」



そう言って彼らは、為すべきことを行うため、それぞれの対応に移っていった。



翌日、ゲイルの亡骸を乗せた馬車がクサナギの街を通過した。

死因こそ伝えられなかったが、敵国の民を誰一人として殺さず、彼らを保護したゲイルの偉業は広く伝えられ、クサナギの街にいた民たちの多くが、その死を悼み見送りに参加していた。


棺を乗せた馬車に続き、彼の愛用した武具を乗せた荷馬車は、塵ひとつないほどに掃き清められたメインストリートをゆっくりと進んだ。



「黒旗掲揚! 我らが英雄、ソリディア・フォン・ゲイル男爵に哀悼の意を表し剣を捧げよ!」



最前列に並んだ治安部隊、自警団の面々がレイモンドの指示で一斉に抜剣すると、目の前に高く剣を掲げ葬列を見送った。

その時だった。

ひとりの少女が前に進み出ると、武具を乗せた荷馬車に花を捧げた。


これは、花を用意して葬列を見送っていた少女に、レイモンドの意を受けた兵が案内したものだった。

それを見て、自主的に花を手にした人々は一斉に荷馬車に花を捧げ始めた。



「親方……、親方ぁっ!」



彼を知る人足、彼の人となりをよく知る民たちは、ゲイルが生前最も好んだ呼称を叫び、涙を流して彼を見送った。



「神の使徒、御使いゲイルさま……、我らの同胞を、ありがとうございますっ。

イシュタールさまと共に……、我らは末永くその栄光を讃えると誓います」



目立ったのはイストリア皇王国出身の者たちで、彼らは大地に伏して額を地に擦り付けながら、各々が小さな声でゲイルに感謝の言葉を述べて見送った。



「ゲイルさん……、悪い人です……。

タクヒールさまは、誰一人欠けちゃいけな……、いっ、て……。ごめんなさい……。

本当に、本当に……、ありがとう、ございます」



そう言ってユーカは涙ながらに、クリシアと共にゲイルの棺に花を捧げた。

同じ風魔法士として、かつてはユーカもゲイルに教えを乞うたこともあった。


初めてテイグーンで鬼の訓練を受けたとき、王都でゲイルが学園の魔法戦闘育成課程に参加した時、魔法騎士団結成の際も、ゲイルは惜しまず彼女に助言してくれた。

それらの思い出と共に、彼女はゲイルを見送った。



『私たちの戦いも、これからが本番! ゲイルさんに笑われないように、きっとやり遂げて見せます!』



ユーカは決意とともに彼を見送った。

そして……、彼女たちの戦いもまた、このあと一層熾烈になって幕を開ける。

本日遂に、第四巻の発売日となりました。

この一年で一巻から四巻まで発売に至れたこと、本当に嬉しく思っています。

ひとえに皆様の応援によりここまで来れましたこと、心より御礼申し上げます。

本当にありがとうございます。


嬉しいことにコミックもご好評をいただき、一巻が同時発売されております。

そちらも併せてよろしくお願いいたします。


詳細は活動報告にも記載しておりますが、来年も書籍版はまだまだ続き、既に書籍版五巻もほぼ書き上げております。

四巻の内容は長編となるため、引き続き五巻も楽しみにしていただければ幸いです。

これからもどうぞよろしくお願いいたします。


明日も引き続き、特別編『もうひとつの戦場②』を投稿予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。

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