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【6巻11/15発売】2度目の人生、と思ったら、実は3度目だった。~歴史知識と内政努力で不幸な歴史の改変に挑みます~【コミック2巻発売中】  作者: take4
第十一章 魔王編(動乱の始まり)

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第三百七十二話(カイル歴515年:22歳)北部戦線⑨ 変わりゆく情勢

ヴィレ国王が率いる五千名、そしてカイン王国軍の一万名がそれぞれ、ウエストライツ魔境公国軍やグリフォニア帝国軍に敗退したとの報がもたらされると、それまでは無人の地を進むかの如く帝国領を侵攻していた各隊にも大きな影響を与えた。


彼らはここから先の難局を予想し、これまでにない連携の動きを見せ始めた。



諜報部隊によりその報告を受けたアレクシスもまた、分散進撃に対抗するため散った軍を戻し、その対応に奔走することになった。



「再び集まってもらって申し訳ないです。

新たな展開に対し、こちらも対策を講じる必要があると考え、諸将には急遽集まっていただきました」



そう話す本営の陣幕には、第一軍を率いるゴーマン侯爵、第二軍のソリス侯爵、第三軍のゲイル司令官、特火兵団臨時司令官のグレン準男爵、そしてファルムス伯爵とボールド子爵、帝国軍からはドゥルール子爵の代理としてドレメンツ副官、新たに援軍を率いて参陣したカーミーン子爵の他に、カイル王国から王都騎士団五千騎を率いて来た、シュルツ軍団長が並んでいた。



「まず状況から報告します。

これまで分散進撃により、こちらに付け入る隙があった各軍が、ここに至り再集結を企図すべく布陣しております」



「デアルカ」

「やはりな」

「奴らも動き出したか」



諸将が改めて感想を漏らした通り、新たに示された戦域図には各軍の展開が駒として示されていた。



「なりを潜めていたイストリア正統教国の本隊ですが、ここで囮部隊と袂を分かち最も西側に二万の軍勢として姿を現しました。

そしてリュート王国軍はカイン王国軍と合流し、その総数は一万三千から四千となり、西側へと移動しております。おそらくこれで、我々本隊が罠を張って待ち受ける流民たちの左右を固めた感じとなります」



「それではこれまで傍観していた奴らも、遂に動き出すと?」



ソリス侯爵が全員を代表して確認すると、アレクシスは頷いてみせた。



「ですが最も油断のならないのは、敵の最左翼、ヴィレ王国軍の存在です。

皆様には既にドレメンツ殿からの報告を共有していると思いますが、手強い将がいるようです」



「デアルな。カイン王国軍の醜態を見て、我らは三国を『戦を知らぬもの』と侮っていたようだ。

報告に基づき、我らも敵軍が遺棄していったバリスタを検証してみたが、どうやら有効射程は500メルほどあるようだ」



「なんと! それでは一昨年前の戦いで帝国軍が使用したものより、性能が勝ると仰るのですか!」



ゴーマン侯爵の言葉に、実際に帝国軍と戦って強烈な槍の雨を浴びた経験のあるボールド子爵が驚嘆の言葉を吐いた。



「確かにあの時はクロスボウの魔法連携攻撃、その有効射程外である300メルの距離で攻撃を受けたと聞いています。そして……、僕も調べて分かったことなのですが、あれはかつて、帝国において先の第一皇子が三国と戦い敗退したのを教訓とし、帝国に取り入れられたものだと分かりました」



「ということだな。であれば本家はあの三国、運用にも長けているだろうな」



「ソリス侯爵の仰る通りです。そして最も懸念すべきはその数です。カイン王国軍だけで五百基、残存する二国で合計すれば……、恐らく千基は下らないでしょう」



「「「なぁっ」」」



諸将が驚きの声を上げるのももっともなことだった。

射程外から襲ってくる数の威力、これには抗うことはできない。



「これに対するには、我らも奥の手を出すしかないようですな」



ゲイルの言葉にアレクシスは黙って頷いた。

だがそれは、苦渋の決断でもある。

本来なら圧倒的大軍を擁するイストリア正統教国に対し、戦局を変える決戦兵器としていたからだ。



「諸将には申し訳ないが、編成と布陣を再度変更いたします」



そう言うとアレクシスは、新たなる編成表を張り出した。



左翼軍:9,500名(指揮官 シュルツ軍団長)

王都騎士団第三軍   

第三軍(ゲイル指揮下)


中央軍:12,500名(指揮官 カーミーン子爵)

ドゥルール子爵軍   

カーミーン子爵軍   


右翼軍:10,000名(指揮官 ゴーマン侯爵)

第一軍(ゴーマン侯爵)

第二軍(ソリス侯爵)


遊撃部隊:2,100名

特火兵団(グレン準男爵)

本営付き



実は内心、アレクシスは帝国軍を右翼に回したかった。

だが……、ドゥルール子爵を欠いた今、カーミーン子爵の指揮能力は未知数であり、最も手強いヴィレ王国軍と対峙するには荷が重い……、そう考えた結果であった。


その点、ゴーマン子爵やソリス男爵なら、多少の放置状態でも信頼に値する働きをしてくれる筈だ。



だがこの編成に異議を唱えるものが一人いた。

彼は黙って手を挙げ、発言が許可されると淡々と話しだした。



「新参の我々に対し遠慮は無用です。全体の軍の運用には経験と知識が必要でしょう。

であれば、指揮官はドレメンツ殿にお任せし、我らはその指揮下に入りましょう」



「なんと!」



カーミーン子爵の発言には諸将も驚きを隠せなかった。

自ら格下の騎士爵の指揮下に入るなど、帝国貴族の矜持としてあり得ないものだったからだ。



「よろしいので?」



「戦いは爵位でやるものではありませんからな。長じている者の指揮や知恵に従う、それを私は商いで学びました。何よりも大事なのは、戦いに勝利し民たちを守ることです」



「ほう……」



アレクシスとカーミーン子爵の会話に、ゴーマン侯爵を始め緒将は感嘆の声を漏らした。



『なるほどね、タクヒールさまが敢えて手を差し伸べ、窮地を救われたことだけある。

これだけの器と見越し、手を打たれていたということか……』



一部の事情を知る者たち、カーミーン子爵(ボッタクリナ商会)がウエストライツ魔境公国と商いを始めた経緯を知る者たちは、改めて主君の慧眼に感じ入っていた。


だが……、当のタクヒールがそれを知れば、大慌てで自ら恥じ入りながらそれを否定しただろう。

今はどうあれ、当初は彼の『痛い』口上を聞き、愉快な男だと面白がって入札に参加させただけで、決して彼の本質を見抜いていた訳ではない……。


敢えてフォローすれば、その後に彼の少し方向のずれた真面目さと、自ら領地を救うために動いている姿勢を評価し、助け舟を出したに過ぎなかった。

タクヒールが彼を信じ、真の意味で仲間の輪に加えようと決断したのはずっと後のことだ。



「では、右翼は指揮官をドレメンツ殿にお願いし、カーミーン子爵には副将として帝国軍部隊の指揮をお願いします。僕は遊撃軍を指揮し、戦局に応じ各所を支援します。

基本配置は特火兵団は千名ずつに分かち、一隊をグレン準男爵に預け、二か所に配置します」



ウエストライツ魔境公国側で、軍の再編成が行われていたこの日、リュグナーの呼びかけで初めて侵攻軍でも軍議が行われていた。


参加していたのは、リュート王国軍を率いる第一王子、カイン王国軍を率いる第二王子、ヴィレ王国軍の将であるゴルパ将軍とヴィレ国王、そしてアゼルとリュグナーであった。



「今更このような場所に呼び立てて、どういう事だ?

そもそも作戦会議と申しておったが、本来切り取り放題と言っておきながら作戦もなかろう!」



冒頭からカイン王国の第二王子は鼻息が荒かった。

それは緒戦の無様な敗退を責められる前に、自己の立場を強調したかったからかもしれない。



「仰る通りです。切り取り放題にも関わらず、切り取りが不十分だからお知恵を授けようと思いまして……」



リュグナーはヴィレ国王と一瞬目線を合わせると、淡々と言葉を続けた。

実はこの会議の前に、ヴィレ国王にだけは先に面会し、悪いようにしないと告げてあった。


国王自身も敗戦の弱みがあり、そこは承諾していた。



「良いですか、皆さまのお国でもそうですが、結果が全てです。

リュート王国軍はその威を以て敵を恐れさせ、敵地深くまで侵攻しました。

ヴィレ王国軍は、敵中深く進攻して敵軍を誘い出し、手痛い一撃を与え撤収しました。

ここまで話せばお判りいただけるでしょうか?」



「なっ……」



「我らが貴軍を貶めようとしているのではございません。名誉を回復する機会を作るため、協調して奴らを撃つ算段のお話をしているだけです」



「……」



カイン王国の第二王子は黙るしかなかった。

彼は国内では第二王子の立場にあり、このままでは王位継承は望めない。


戦勝でその立場を逆転するか、または切り取った新領土を自身の領土として分国を興す、そんな夢を抱いて志願し、この戦いに臨んでいた。



「我々は近々、二万の兵力で侵攻を再開します。

それに先んじて、死を恐れず突き進む神の尖兵を動かし、奴らの中枢を混乱させます」



「それに呼応して我らも動け、そういうことだな?」



「流石は聡明として周辺国にその名の聞こえた殿下の仰る通りでございます」



リュグナーは敢えてリュート王国の第一王子を持ち上げた。

その実粗野で暴れ者、内政には興味を持たず、行き場のない衝動をただ軍事面に傾倒していただげ、そんなことを知りつつ……。



「先ずは我らの尖兵、そして次に我らが動きます。

皆さまはそれに呼応して動いていただき、囲い(イズモ)の外に出てきた小僧の兵と、侵略者(帝国)の残兵を共に殲滅いたしましょう」



「余はそれに同意する」

「悪くないな……」

「同意せざるを得ないだろう」



ヴィレ国王、リュート王国第一王子、カイン王国第二王子はそれぞれの思惑の元、リュグナーの案に同意した。



『ふん、何の茶番だ。協力する意思があれば始めからそうしておれば良いではないか。

しかも奴ら(イストリア)は最右翼、右側を山脈に守られて自国の国境までも最短距離、最も優位な場所を占めていながら、これ見よがしに言うほどでもないわ』



招かれていたが問われない限り発言権はない。

仏頂面で心の中に言葉を封じつつ様子を眺めていたゴルパ将軍は、ごの軍議の危うさを感じていた。



「それに当たり如何でしょう? 皆さまの強み、奴らを蹂躙できる兵器を歴戦の将に預け、奴らに手痛い一撃を与えたのち、改めて各国の軍で奴らを蹂躙するというのは」



『なんだと!』



ゴルパは、本来であれば呼ばれないはずの軍議に何故か招かれたこと、それに主君が同意した経緯をここで知った。



「戦果の分配はどうなるのだ?」



「もちろん、供出した兵器の数に応じて……」



「よろしい、リュート王国軍は持てる600基のバリスタを預けよう」



「ふむ、ゴルパよ、我が国の700基と併せて1,300基、かつて帝国軍を撃破した戦いにも参加した其方の力量に期待しよう」



「……、陛下の仰せのままに」



この決定に将軍は逆らえるはずもない。


バリスタは移動に難があり、守備側や攻城戦には有効な攻撃手段となるが、野戦、しかも打って出る際には単なる足手まといになり、敗走する際には単なる足手まといにしかならない。

いわば使い勝手が非常に悪い兵器だった。



『やれやれ、お荷物と責任を預けられた形か……、それに儂から指揮下である一万の軍を取り上げる口実にも使われてしまったわい』



そう、ヴィレ国王は二千名もの直属兵を失っていた。

なので将軍から兵を引き抜く口実として、この作戦は正に渡りに船だった。



この時点で少なくとも三人、国王や王子たちは敗戦を危惧していない。

数を減らしたとはいえ、彼らは尖兵を含め56,000名もの兵力を有し、敵側は恐らく40,000名にも満たない数だ。

これは戦端が開かれる前の偵察や諜報でも確認していた。

そして味方には、敵軍を一蹴してその実力を示した歴戦の将軍もいる。


皮肉なことにゴルパは、その実力を示したことで味方を驕らせ、自身には足枷を付けられる事態になっていた。


ゴルパ自身、この後訪れるであろう過酷な運命に、瞑目せずにはいられなかった。

最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

次回は『名もなき者の戦い』を投稿予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。


※※※お礼※※※

ブックマークや評価いただいた方、本当にありがとうございます。

誤字修正や感想、ご指摘などもいつもありがとうございます。

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状況を巻き返し始めたか カーミーン子爵は化けたなぁ
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