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【6巻11/15発売】2度目の人生、と思ったら、実は3度目だった。~歴史知識と内政努力で不幸な歴史の改変に挑みます~【コミック2巻発売中】  作者: take4
第十一章 魔王編(動乱の始まり)

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間話12 女神爆誕

ヴィレ王国とドゥルール子爵が率いる騎馬隊との激しい戦闘は終わった。

だがそれは、聖魔法士であるローザにとって彼女の孤独な戦いの始まりであり、自身の能力と体力の限界に挑む過酷な試練の幕開けであった。


戦場に駆け付けた彼女がまず目にしたのは、命の恩人であり彼女たちを命懸けで守ってくれた、ドゥルール子爵が今まさに最後を迎えようとしていた姿だった。


全身に傷を負いつつも満足げな顔をしていた彼は、既に意識もなく浅い呼吸を繰り返しながら大地に横たわっていた。

致命傷とも思える裂傷だけでなく、胸部に突き刺さった矢は恐らく肺にまで達しているように思えた。



「ローザ様、閣下を! どうか閣下をお救いくださいっ!」



必死に彼女に懇願した男は、ローザも面識のあるドゥルール子爵軍の中隊長だった。

彼もまたかつてはブラッドリー侯爵の配下で、瀕死の重傷を負って隘路に取り残され、戦いの後テイグーンでローザの治療を受けた結果命を長らえ、捕虜となっていた者だった。


後日行われた捕虜返還で当時のドゥルール男爵と共に帝国に帰還して配下となったこと、それをローザはクサナギで聞かされたことがあった。



「閣下は……、命に代えても子供たちを、そして貴方を救うとのだと仰り、最も激戦のなか最後まで奮戦されておりましたが、遂に力尽き……」



その言葉を聞きながら、処置を行うために子爵の傷口を調べていた彼女は、無意識に横たわる子爵を抱きかかえるような形になっていた。

子爵が命懸けで奮戦してくれていたことは、途中で彼によって逃がされた護衛の兵士たちからも聞いていた。



「どうして私なんかに……、どうしてこの人はいつも……」



そう考えるとローザは溢れる涙が止まらなかった。

ここまでしてくれた方の思いに、どうしてこれまで真剣に向き合って来なかったのだろうと。



『私はまだ何も貴方に応えていない。決して嫌いな訳じゃない。周りの皆が囃し立てるのが気恥ずかしかっただけで、その真っすぐな気持ちを受け止めるだけの勇気もなかった』



そんな彼女の涙は、感謝の気持ちと悔悟の念、その二つがぐちゃぐちゃに混じりあったものだった。

そんな中でも彼女は、為すべきことは忘れていなかった。


まず負傷した場所を正確に確認し、最初の処置として止血を行ったが、傷口の深さから出血が多すぎるようにも思えた。

王都の医術学校なら、すでに処置不能として匙を投げてしうまうかも知れない。そう思えるほど深刻な状況と分かっても、彼女は諦めなかった。



「今度は私が貴方を守る番です。私の命を削ってでも、必ず救って見せます!」



涙を流していても、ローザの覚悟は決まっていた。

そんな彼女の思いに応えるかのごとく、持てる知識と能力まほうを最大限発揮した結果、なんとか子爵の命を繋ぐことができた。


その過程でちょっとだけ、彼女は今の素直な気持ちを伝えることもできた。



『どうしよう……、治療の過程で思わず、凄く恥ずかしいことを言った気がするかも……』



気恥ずかしさもあったが、それは自然に心から湧き出た言葉であり、今後は素直に自分の気持ちと向き合うと、ローザ自身が覚悟を決めていた。



『でも今の私は、個人的な思いに囚われている時ではないわ。

子爵と同様に、命の灯が消えかかっている人はまだたくさんいるのだから』



そう考えるとローザは立ち上がり、今の彼女に求められている責務を実行し始めた。



「誰かっ! トリアージができる方はいらっしゃいますか?」



そう叫んだローザには、ある確信があった。

かつて彼女も参加した会議で、ドゥル-ル子爵は何故か彼女を護る騎士となった。


次の機会で『お友達』としてお茶をしたとき、話題に困ったローザはトリアージについて話した。

優し気な笑みを浮かべながら、それでも真剣に話を聞いてくれた子爵の姿を、今もローザは鮮明に覚えている。


そして次に請われて彼と会った機会には……。



『こんな時に申し訳ない。前回お話を伺ったトリアージというものを我が軍でも採用したく思い、医術や戦場での応急処置に心得のある者たちを連れて来ました。

どうか彼らにもそれを伝授していただけないだろうか?』



そう言って子爵は、その場に10人もの配下を連れて来ていた。

それを聞いたローザは大いに驚いたが、子爵の真摯な思いに応えて彼らに話をした。


それからというもの、子爵はタクヒールに願い出て正式に『講習会』という業務を何度も発注し、初回を含めてその対価を支払ってくれた。


もちろんタクヒールもローザも対価の支払いは遠慮したが、それならばと彼は対価の全て……、いや、それ以上の額を、クサナギの施療院に寄付してくれた。


ローザはその時から、彼の兵や民を思い遣る心に、彼女の言葉に対する子爵の真っすぐな姿勢に心を動かされていた。



「はい、我らがお手伝いさせていただきます」



そう言って手を挙げて集まった者たちは、以前に彼女が開いた講習会に参加しており、ローザも彼らの顔を覚えていた。



「勝手に先走りましたが、我らで手分けして講習会で習った通り、きとく黄色じゅうしょうけいしょうで区分けし、トリアージを済ませております。

危篤状態の者は、不用意に移動させずその場にて応急処置を行っております」



彼らの言葉通り、既に黄色と青の布を手首に巻かれた者たちを一か所に集めるよう搬送が始まり、危篤者はその位置が分かるように地面に槍が突き立てられ、赤い布が結ばれていた。



「皆さん、完璧です。ではもう一つお願いです。

私が赤の方を対処している間に、ヴィレ王国の方々も同様にお願いします。先ずは赤を優先で」



「はい、我々もドゥルール閣下の配下です。

『マツヤマ』の流儀は心得ておりますので、今は手の空いた者からそちらの対応に移っております」



『完璧だわ。タクヒールさまの軍でもここまで自発的に動けているかしら……。

子爵はこんなところまで真摯に対応されているのね……」



そう、ドゥルール子爵を含め120名の帝国帰還者は皆、テイグーンにて先程まで戦っていた敵軍から命を救われ、手厚い看護を受けた者たちだ。


故に彼らが中心となって構成された子爵軍は、敵兵に対する救護にも全く抵抗がない。

むしろそれが、かつて自分たちが受けた恩を返す手段と考え、誰もが率先して取り組んでいた。

スーラ公国との戦いでその動きは更に広がり、今や子爵軍全体がそう動くまでに至っていた。


その結果、スーラ公国からの転向者や敵軍にあっても彼らに恩を感じた者も多く、『マツヤマ』はスーラ公国でも使用される共通語となっていた。



『ドゥルール子爵の思いと期待に応えるためにも、私は一人でも多くの命を救わなくては!』



改めてその思いを強くしたローザの無双はここに始まった。


彼女は赤い目印の立っている個所を走り回り、次々と奇跡を起こしていった。

もちろん子爵軍の兵士たちも、ローザが動きやすいよう陰でフォローし続けた。


カイル王国随一とも言われた聖魔法使いのローザ、それを完璧にフォローして回る兵士たち。

この連携は見る者たちを圧倒し、先ほどまで殺伐とした空気に溢れていた戦場は、歓喜の声が至る所で巻き起こり、それを称える歓声がこだまする場へと変わっていった。


特に初めて聖魔法を目にした者たち、命を救われた者たちの中には、涙を流して彼女に感謝する者たちが続出した。



『戦場の女神』

『慈愛溢れる女神』

『奇跡の癒し手』

『魔王の良心』



この日ローザは、これまで無かった二つ名を敵味方の兵士たちによって与えられた。

もちろん中には、後日タクヒールが聞いて絶句したものも含まれていたが……。



そしてもうひとつ、ドゥルール子爵とローザが閉口してしまう事態も起こった。



「俺は閣下を尊敬し変わらぬ忠誠を誓う! だが……、男として女神様への思いだけは別だ!」

「俺はあの時誓った! 俺は生涯女神様を守っていくと。もちろん願わくば妻として……」

「閣下には申し訳ないが、同じ男として、彼女に相応しい男になるため、俺は閣下を超えて見せる!」

「私は故国を捨てて構わない。侵略者である敵軍を救ってくれた女神に、これからの人生を捧げる!」

「主命とはいえ、私欲に駆られた自身を今は恥じている。この恥を雪ぐ日まで私は、彼女と共に在る!」



かつてイストリア皇王国の兵たちが、マリアンヌやラナトリアに対しそうであったように、帝国軍やヴィレ王国軍からもローザを崇め心酔して傾倒する者たちが続出した。


ただ、それを聞いたローザは盛大に顔を引き攣らせていたが、ドゥルール子爵は『さもあらん』と短い言葉を発しただけで、どこか満足気であったという。

最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

次回は『南部戦線⑥ 到着近し』を投稿予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。


※※※お礼※※※

ブックマークや評価いただいた方、本当にありがとうございます。

誤字修正や感想、ご指摘などもいつもありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
魔王の良心やめたれw しかしドゥルールは嫉妬より先にさもありなんとは、これは推せるかもなあ。
ラファールの次にドゥルール好きだわ(笑)
どこまでも真剣なのにどこか滑稽な… なろう系に限らず類似の数多ある作品のなかで、 類を見ない魅力を持った一団と思う。
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