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【6巻11/15発売】2度目の人生、と思ったら、実は3度目だった。~歴史知識と内政努力で不幸な歴史の改変に挑みます~【コミック2巻発売中】  作者: take4
第十一章 魔王編(動乱の始まり)

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第三百六十八話(カイル歴515年:22歳)北部戦線⑥ 我が命に代えて

廃都ローレライに残された子供たちを救うため、救援に向かったローザ一行は窮地に陥っていた。

避難民の最後尾を守る兵士は僅か100騎。

彼らが踵を返して守る後方には、約200名の子供たちとローザが一路クサナギへと先を急いでいた。



「良いか、街道を塞ぐ形で展開し一騎たりとも後方に行かせるな! 命に代えてもお守りするのだっ!

押し寄せる敵の数はせいぜい我らの数倍、先ずはエストールボウで敵軍の先頭を狙え!

続けざまに第二射を行うため、予備のクロスボウへの装填も忘れるな!」



護衛の100騎を指揮する指揮官は、後方より迫りくる馬蹄の響きと舞い上がる土煙で、敵兵の凡その数を把握していた。

せいぜい200騎から400騎前後、それなら最精鋭の彼らなら撃退することも可能だ。


そしてすぐに彼の予想が正しかったと裏付けられた。

追撃してきたヴィレ王国軍の騎馬隊は300騎程度で、街道を横一杯に広がり全力でこちらに向かって駆けてきていた。



「良いか! 最前列を狙い200メルで第一射、直ちにクロスボウに換装して直ちに第二射だ。

落ち着いて正確に、だが急いでやれよ!」



全力疾走で遮蔽物もない街道を疾駆する敵なら、200メル程度の距離は僅か十数秒で詰められてしまう。

そのため再装填はおろか、ゆっくり換装している時間もないからだ。



「用意っ! 撃てっ!」



指揮官の号令の下、獲物を見つけて湧き立つ騎兵たちに100本の矢が吸い込まれていった。



「矢だとっ?」

「ぐわっ!」



先頭を進むヴィレ王国軍の騎兵たちは、愛馬もろとも数本の矢を受けて落馬したり転倒する。

200メルも離れた距離だったが、それほどまでに矢勢は強く装甲の薄い軽騎兵だった彼らに致命傷を与えていた。



「がっ!」

「邪魔だっ どけっ!」

「うわぁぁっ、来るなぁ!」



更に先頭を進む人馬が一斉に倒れたため、後列の馬蹄に踏み潰される者、倒れた人馬に脚を取られて転倒する騎馬が続出した。



「怯むなっ! 敵の弓は馬上で再装填できるものではないわっ! 二射目が来る前に圧し潰せ!」



比較的先頭を進んでいた50騎馬あまりが斃れたなか、転倒を回避した者たちが再び馬を駆って襲い掛かった。

だが……、100メルを切った時点で再度弓矢が襲ってきた。



「くっ、早すぎるっ」



予想外の攻撃に再び50騎程度が倒れ、ヴィレ王国の騎馬隊が混乱した。

その様子を見た指揮官は大きな声を発した。



「勝機! 全騎、これより突撃っ! 公国の力、奴らに見せてやれっ!」



号令とともに魔境公国軍の精鋭100騎は突撃を開始し、倍する敵軍に襲い掛かった。

練度と実戦経験、この二つの点で大きな隔たりのある彼らは、一方的な戦いを展開すると三倍もの敵軍を蹴散らした。


だが彼らに勝利の余韻に浸る時間はなかった。



「これより我らも後方を守護しつつこの先の橋まで後退する。

いずれ敵は増援を送ってくるだろう。これまでの何倍ものな……。

我らは橋を死守して少しでも時間を稼ぐ!」



そこまで逃げ切ればなんとか……、ローザ様が安全圏まで逃げることができる時間を稼げる。

これは指揮官の願いにも似た祈りだった。


だが……、その願いは叶わなかった。

幼い子供たちを騎兵たちの馬に乗せ、少しでも先へと急いでいた彼らは、主要街道と東西に延びる街道が交差する十字路に差し掛かっていた。


この辺りは道が開けており、街道の周りには草原が広がっているため、守るのには不利な地形だった。

振り返ると彼らの後方からは、低い地響きとともに先程とは比較にならない濛々たる土煙が見えた。



「くっ、敵も対処が早い……、もう増援を寄越して来たか。

最も足の遅い幼子を載せている10騎! お前たちはローザ様と共に行け。我らは街道が狭くなるこの先の林にて食い止める」



そう言うと傍らのローザに向かい話しかけた。



「ローザ様、全ての子供たちをお救いになりたいお気持ちは分かります。ですが……、それでは全員が囚われの身となってしまうでしょう。先ずは10騎に同乗する子供たちと共に先に進み、援軍を依頼してください。より多くの命を救うために……」



指揮官の覚悟が伝わったローザは、泣く泣く思いを断ち切るしかなかった。

ここからも先は長い。

子供たちと彼らを守るには、誰かが援軍を呼びに走るしかない。


涙ぐみながらローザが頷くのを確認した指揮官は、それぞれの騎馬に分乗していた子供たちを下ろすと優しく話しかけた。



「後ろは俺たちが守る、だからなんとか頑張って逃げてくれ。

俺たちは戦いながら後退しつつ時間を稼ぐ!」



その言葉を受けた子供たちは無言で頷くと一斉に走り出し、幼い子供二人を馬に乗せたローザも続いた。

指揮官はそれを見送ると、すぐ近くまで接近した敵軍への対処に移った。



緒戦で100騎の護衛たちが立ち塞がり必死に勇戦したこと、それは皮肉な結果をもたらしていた。

報告のため戻った(逃げ帰った)兵の口から、彼らには命を賭して守る『何か』があることが、ヴィレ王国軍の知るところとなったからだ。


その遭遇戦で遺棄されていた貴重な神具や教会の財宝は、その先に更に貴重な『何か』がある証拠として、彼らは妄想を大きく膨らませていた。


ヴィレ国王はその財貨を接収するため、ローレライに500名ほどの略奪部隊を残し、直ちに全軍を指揮して追撃に移っていた。



「来るぞ! これより3隊に別れ、街道の幅を利用した一撃離脱戦法を採って順次後退する。

どれだけ大軍が来ようと、正面に展開するのは30騎から50名程度、我らの半数以下だ!」



馬蹄が近づくのを感じた指揮官は、街道の狭い部分を最大限利用して、順次後退する戦法を採用した。

彼が豪語したように、道幅の制限から敵の正面兵力は限られる。

ただ……、敵側は彼らにとって無限とも思える回復力があるが、彼らにはそれがないことだ。


順次削られつつも体制を維持して時間を稼ぐこと。

そして先行させた10騎には、この先の橋を落とし敵軍の足を止めるよう指示も出してある。



「来るぞ、用意……、撃てっ!」



ヴィレ国王は、大きな獲物を前にしながら、進むべき道に蓋をされたような苛立ちを感じていた。



「敵は僅か100騎程度であろう? 何故易々と踏み潰せんのだ!」



「は、彼らは街道の道幅を利用し、長射程の弓も所持しているようで思うに任せません。

我らが進めば一斉に矢を放ち、その後一隊が突出して一撃離脱を試みております。

反転した奴らを追えば、残った二隊が矢を放ってくるうえ、最初と異なる一隊がまた一撃離脱で突進し……」



側近の答えに国王の怒りは頂点に達した。



「奴らの戦法に付き合う必要がどこにあるか! そんな命を削るような戦いが続く訳がないであろう。

犠牲を厭わず数で力押しせよ!」



国王の指示で騎兵が後退し、前面にはやっと追いついて来た盾歩兵が展開し、その後方には弓箭兵が配置についた。

そして、犠牲を厭わぬ前進をを行うと魔境公国の精鋭たちを追い詰めていった。



「前方の空に何かの浮遊物!」



側近の報告にヴィレ国王は北の空を見上げると、大量の赤い『何か』がふわふわと空に舞い上がっていた。



「何だあれは?」



ウエストライツ魔境公国や第三皇子委任統治領とも直接交易もない、ヴィレ王国の者たちがそれが何かを知る由もなかった。


この二つの地域では、交易商人たちが利用する主要街道の要所要所に、危急を知らせるランタンが各所に設置されていた。

それはタクヒールの発案とジークハルトの協力により、野盗の出現や街道での事故、道路の崩壊などに際し、商人たちが助けを呼ぶ術として設けられていた。


北へと逃亡するローザたちは敢えてこの設置場で停止し、子供たちも協力して一斉に数百のランタンに火を灯すと、一斉に空へと舞い上がっていた。

彼女たちを守る兵たちの危急を告げるために……



「隊長! もう……、持ちこたえるが……」



満身創痍となり報告してきた兵だけでなく、指揮官たる彼も身に何本もの矢を受け、馬に跨がっているのがやっとの状態だった。

もはや十字路には敵兵が溢れており、歩兵や弓兵はその先の林を抜けて進み始めていた。



「橋までは持たないか……、もう……、いかんな」



口惜し気にそう呟き、ローザたちが逃げ去った北の空を見上げた。


!!!


その時彼らの目にも、北の空を舞いあがっていた深紅のランタンが瞳に映った。



「ローザさま……、我らのためにわざわざ……」



彼らにはそれが、ローザが行ったことと分かっていた。

そしてその思いが伝わり、最後の力を振り絞ることができた。



「これより全騎で街道に壁を作る、少しでも長く、少しでも多くの敵兵を道づれにせよ!」



そう命を発した時、彼は東の方向に馬蹄が巻き起こす新たな土煙を発見した。



このローザが上げたランタンを見て、ローレライに向かう途上で急遽進路を変えた一団があった。



「ローザ殿はきっとあの方角だ! 急げっ!」



その軍を率いる指揮官の号令の下、騎馬を疾走させていた一軍は、前方の十字路の先に今もなお戦いが行われている兆しを確認した。



「前方で戦いが行われている模様、おそらく友軍は健在です!」



この報告にドゥルール子爵は勇躍した。



「このまま突撃態勢を維持、友軍の間に割って入るぞっ!

これより愛すべき我らの民(ローザ)を守る。我が命に代えても!」



突如として街道の西側から現れた1,000騎の集団は、街道の十字路に展開する5倍近くの敵軍に対し、強引に突撃を敢行していった。

最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

次回は『新たなる盟友の到来』を投稿予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。


※※※お礼※※※

ブックマークや評価いただいた方、本当にありがとうございます。

誤字修正や感想、ご指摘などもいつもありがとうございます。

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ヴィレ国王への戦後処理は一段厳しくして欲しい 蛮族許すまじ
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