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第三百三十五話(カイル歴514年:21歳)ユーカの決意

最後にお知らせがございます。

良かったらどうぞご覧ください。

王都での大会だけでなく、他の目的としていたこともほぼ思惑通りに運び、各所からその報告を受けた俺は一安心して、クサナギへの帰路に就いた。


馬上から俺は、満足気にカイラールを振り返った。

草原の中一直線に伸びる整備された街道、そしてその終点には白亜の城壁がそびえていた。


前回の歴史ではたった一度しか訪れたことのないカイラール、俺は今回の人生で、この道を何度通り王都まで行き来しただろうか?

それこそもう、10回や20回という話ではないくらい慣れた道、見慣れた風景になっていた。



「タクヒールさま、名残り惜しいですか?」



ユーカが、笑顔で俺に話し掛けてきた。

俺たちは今、馬を並走させて軍列の最後尾をゆっくり進んでいた。



「やっとひと段落かな。当面王都での目的は果たせたし、当分の間は政治に気を遣うのも、贅を凝らした料理や宴席も遠慮したい気分だね」



「そうですわね。お立場上ここは、気の休まる場所ではないですよね。お疲れではありませんか?」



「ははっ、それなりに気疲れしたかな。

毎晩毎晩、宴席では色々な方々に取り囲まれ、ずっと質問責めだったしね。

ただ、今回の旅の成果は目を見張るものがあると思う。その達成感はあるよね」



そう、宴席だけでなく、ことあるごとに追い回され、一番しつこかった……、いや、熱心だったのはゴウラス騎士団長を始め、王都騎士団の各軍団長たちだった。


彼らは大会の惨敗を受け、魔境公国とのレベル差を改めて認識すると共に、目の色を変えて弓箭兵部隊の強化、育成に取り組もうとしていた。


結局、『研修』という名目で定期的に人を受入れざるを得なくなってしまったが……


他にも宴席にて、『研修』の話を聞きつけ参加を希望してきた各貴族家への対応、クロスボウの新規大量発注、巫女服の個別発注に関わる対応など、俺は常に人々に取り囲まれていた。


日中は日中で、アンテナショップの商品を卸して欲しいと面会を求めてくる商人たち、この機に誼を結ぼうとやって来る者たちが、ひっきりなしに挨拶に訪れて来ていたし……

大会が終了した後の5日間も、のんびりする暇など全く無かった。



「そうですね、タクヒールさまの仰るとおり、今回は未来に向けた布石となる、とても有意義な旅となりましたね」



「ああ、それもユーカが色々と奔走してくれたお陰かな。アンテナショップや相談窓口を管理してくれたり、個別勧誘など他にも色々と走り回らせちゃったよね。改めて本当にありがとう」



そう、研修の受入れや商談以外に、王都での特筆した成果は、大きく5つあった。



◆ひとつ、入植者の募集


これは成功したと思う。

最終的な結果は、この先の経過を見る必要はあるものの、アンテナショップに設置した移住受付には、毎日長蛇の列ができ、行列整理に人手を割かなければならないくらいだった。

まぁ、不安要素が無いわけではないが……



◆ひとつ、優秀な女性たちの囲い込み


此方は胸を張って大成功と言えるだろう。

あのクラリス殿下親衛団から個人戦に出場し、決勝まで残った二人の選手も、ユーカがしっかり個別勧誘してくれた!

それに加え、彼女たちの話を聞いた親衛団の女性たちが、数十人も付いて来てくれることになった。

どうやらカーリーンたちの活躍の効果も、非常に大きなものだったようだ。



その他にも、意図的に広げた噂が噂を呼び、相談窓口には毎日多くの人々が訪れていた。



「あの……、私は平民です。しかも女性ですが、官吏になりたくずっと学んできました。女性でも登用の道があると聞いたのですが……」


「魔境公国では身分に関係なく、しかも女性でも活躍できるって聞いたのですが、本当ですか?」


「働きながら子育てできるって聞いたのですが……、戦争で夫を亡くした私でも働けますか?」


「あの……、噂で聞いたのですが、無償で子供たちを預かってくれて、学校にも行かせて貰えるって……、そんな嘘みたいな話があるのですか?」


「おいっ! 何でこんなに並ばなきゃならないんだよ! さっさと俺の話を聞けや!」



はっきり言ってテイグーンでずっとやって来た取り組みは、言ってみればこの国、この世界では非常識なものばかり。なので志ある女性たちにとっては、希望であると同時に、訝しいものでもあった。


その結果、相談窓口には多くの女性たちと一部のお呼びでない人々が訪れたため、急遽合同説明会を開くことになったのだけど……



「無事に終わったからよかったものの、説明会にあれだけの男性が集まったのは、予想外でしたね」



ユーカも苦笑していた。

そう、失礼な言い方だが、女性が集まるところには自然と男性も湧いて来る。


女性移住者向け説明会、そう謳っていたにも関わらず、男性たちも大挙として押しかけて来た。

そのため、夫婦や家族に女性がいる移住希望者には、『内容は女性向け』と念押しした後、会場に受け入れた。


単身男性は『後日説明会を開催する』と言って、一旦お帰り願った。



「まぁ……、あれだけ美しい女性たちが活躍しましたからね。魔境公国は美女の国、そんな噂さえ広まっていましたし……」



「ははは、同じ男して気持ちは分かるけど、それ目当てで来られてもね……」



「えっ! タクヒールさまもそうなんですか?」



ヤバイ! そんなところに地雷が潜んでいたのか?

悲しげな目で見つめるユーカに、俺は慌てて補足した。



「いや、あくまでも一般論として、だよ」



「そうなんですね。ちょっと不安に思っちゃいました。今回も女性にこだわっていらっしゃいましたので……」



『いや……、それは人口比の問題を解決するためだし……』



俺はこれ以上藪蛇にならないよう、黙って微笑んで首を振った。


今回の募集では、男性の場合は基本的に実務経験者または専門の教育を受けた文官候補者、職人などの技術者、兵卒を希望する兵役経験者、これらを除けば全員に対し塩対応だった。


そういった者以外は、移住を希望しても当面の間は人足として開発工事に従事してもらうこと、後日になって仕事ぶりに問題なければ、兵士として採用か開拓農民として土地を与える。

男性向け説明会ではそう伝えてもらった。


その話をしたときに、語気を荒げてきた者や、不平を述べた者たちには、その場でお引き取り願った。

新領土を取り巻く環境は予断を許さない。

甘い汁を吸う気持ちで来られてもね……



◆ひとつ、テイグーンへの教育機関の誘致


これは意外とすんなり進みそうだった。

元々俺には、テイグーンをいずれ政治と学園の都市にする計画があった。


そのための下地として今回は各方面から要望された研修を受け入れ、その先に繋げる前提で動いている。


王都の学園でも、魔法士を育成する課程は既に一時のピークを過ぎていた。

そもそも市井の魔法士の数は多くない。

故にそちらは頭打ちだし、血統魔法を行使する貴族たちの場合は、『戦場で使えるようにする』には些か問題もあった。


貴族でありながら激しい訓練に臨むことができるのは、下級貴族かほんの一部の志のある者のみ。

その他大勢は、レベルの低い訓練しか受け付けないからだ。

大きな危機も去り、安定した情勢となりつつある今、学園の魔法戦闘育成課程も、この先形骸化することが予想されていた。


このような現状で、狸爺も渡りに船だったようだ。

将来的には学園の一部課程を公国に委託してテイグーンにて行う、そんな流れで話はまとまりつつある。



◆ひとつ、中央教会との交渉


これも殊の外上手く進んだと思う。

総大司教や大司教の思惑は置いといて、実務の責任者となるクレバラス枢機卿と誼を結べたことは大きかった。

そして彼らに釘を刺すことにも成功したと思う。


魔境復活候補地で薬草の栽培、公国内での教会の独自性担保、それらも俺の許容できる範囲で話がまとまった。

まぁ、宿題もない訳ではないが……

そうなったらその時点で考えれば済む話だと思う。



◆最後は……、内政面でのユーカの活躍だ


彼女の成長は俺の目を見張るぐらいのものだった。

ユーカは他の妻たちと比べると、領内に滞在していた時間は極端に短い。

まだ結婚前、テイグーンに長期滞在していた時には妻たちから色々学んでいたが、それはもう8年も前のことだ。


その後は王都の学園に、そして卒業後も魔法騎士団設立やクラリス殿下のお付きとして、カイラールに滞在せざるを得なかった。

周辺四カ国との戦いが終わった後もズルズルと……


だがクサナギでの収穫祭以降、妹も含めその職を完全に辞して、やっと腰を落ち着けるようになった。

そうなるとすぐに、彼女は他の妻たちに対し、必死に教えを請い始めた。



あの後ユーカは、まずクレアに師事して受付所関連の業務を最優先に学び始めた。

それもあって、今回カイラールには妻たちを代表して同行し、俺の目的のために活躍してくれていた。


アンテナショップへ新商品の納品、移住者応募窓口と女性移住者相談窓口の対応、急遽実施した移住者向け説明会などを統括し、今回連れて来た10名の受付所スタッフを指揮していた。

そして学園で親しかった女性を通じ、裏で政治に関わることも動いてくれた。


そのため競技会中もそうだが、終わってからもユーカは、ほぼその対応に掛かり切りになっていた。



「今回は本当に助かったよ、ありがとう。でもあまり無理しなくても良いから、程々にね……」



そう言った俺に対しても、彼女は健気な笑顔で笑って言葉を返した。



「私はもっともっと沢山のことを覚えなくてはなりません。クレアさんの業務だけでなく、アンさん、ヨルティアさん、ミザリーさんのお仕事も、代わりが務められるぐらいに……」



いや、それってめちゃくちゃハードル高いやん!

全員がその道のプロ、しかも飛び抜けて優秀なんだし……


俺はそう思ったが、彼女の決意は変わらないようだった。

何故そこまで……、それが不思議だった。



「どうしてそこまで頑張るんだい? こんな俺が言うのもおかしいけど、ユーカは魔境公国の第一王妃という立場だし、実務は人に任せて……」



「あら? 公王陛下自らが、誰よりも一番働いていらっしゃるのに、そんな訳にもいきませんわ」



「……」



「皆さん『代わりが居ない』人たちだからこそ、力及ばずとも『一時ぐらいは支えられる代わり』が必要と思います。でないとクレアさんたちも安心して……」



「ん? クレアが安心して? それって何?」



「あっ! い、いやっ……、何でもないですっ!」



何だろう? ユーカが妙に動揺して慌てていたけど。

俺はその時、彼女の決意の理由をまだ何も知らなかった。

最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。


◆お知らせ

7月25日にコミック版の第二話がリリースされました!

アンやゲルド親方、カールさんなどが登場し、タクヒールとの出会いや登場人物の絡みなど、凄く面白く紹介されています。

掲載ページまでは、此方の作者名(take4)→最新の活動報告→からリンクを貼っていますので、良かったらそちらも是非ご覧ください!


◆裏話です

実はコミック第二話には、カイル王国の国旗が随所に登場します。

小説を書いている段階で、そういったビジュアルには無頓着だったので、漫画家さん(麦こうちゃ先生)から国旗のイメージに関する質問をいただいたとき、驚くとともにビジュアル化する上で大事なこと、漫画家さんのご苦労を改めて思うに至りました。(本当にありがとうございます)

その時慌てて(でも時間を掛けて)作った設定が、正式にデザイン化されコミックに掲載されています。


◆独り言です

因みに……、外伝の『コミック二話リリース記念間話』本日更新部分に、この国旗がいかに成立したかを描いたショートストーリーもUPしています。国旗の設定を考える段階で浮かんだ話を、主人公たちを通じて語っています。

前書き部分に登場人物の概要を記載しているので、それ以前のストーリーを端折って、いきなりそこから見てもなんとか分かるようにしているつもりです。

興味のある方は、記念間話だけでも是非ごらんくださいね。


次回は『新しい命 紡ぎだされる絆』を投稿予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] そうだね、アンだけではないよね
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