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第三十三話(カイル歴504年:11歳)改変 幻の初陣①

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【⚔ソリス男爵領史⚔ 光の剣士、初陣】


カイル歴504年、ソリス男爵家長男、ダレク初陣す

この冬の終わり、エストールの地に不吉な影あり

隣領から溢れ出る流浪の輩、徒党を組み盗賊と化す

不逞の輩、村を襲い民を苦しめ蛮行の限りを尽くす

ソリス男爵家の若き剣士、軍を率いてこれを討つ

その剣技、衆に秀で、その軍略は敵を圧倒する

民、畏敬の念を込め、光の剣士と呼び大いに称える

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もうすぐカイル504年の春がやってくる。


【前回の歴史】では、この年、この時期に兄は初陣する予定であった。

ただ【今回の世界】の兄は既に初陣し戦功も上げているので、歴史には差異が出てしまっているが……



俺もこの頃の事はよく覚えていた。


実際に戦闘は起こらなかったが、隣国に不穏な動きありとの報に、父が軍を率いて出征する。

その間隙を狙い、ヒヨリミ子爵領から出てきた盗賊団が領境の村々を襲う。

兄は残った留守部隊を率いて、寡兵ながら盗賊団を殲滅、初陣を飾った。


だが【今回の世界】は、2年前のサザンゲート殲滅戦で大打撃を受け、ゴート辺境伯に余裕はないだろう。その為、父や兵士たちも領内に駐屯しており、留守を狙った襲撃は無い筈だ。



「この度、ハストブルグ辺境伯の命を受け、サザンゲート平原にて大規模な演習を行う」


父の言葉に耳を疑った。



「なお今回は騎兵のみ参加とするため、我が領内からは新設の鉄騎兵団全部隊を派遣する予定だ」


おいおい! それって非常に不味いのでは……



「今回はダレク兄さまはどうされるのですか?」


「ダレクは留守部隊を統括する経験をしてもらう」



「では領内に残られるのですね?」


「そうだ」



兄は不満気な顔をしているが、何も言わない。

事前に父に言い含められていたのだろう。



「今回の演習もヒヨリミ子爵の発案でな。前回不甲斐ない戦いをした自軍を再編し鍛え上げたいそうだ」

父の説明に、歴史がまた帳尻を合わせに来ている……、そんな風に思い震えが来た。



「昨年の水害でヒヨリミ子爵領はかなり微妙な状況です。流民や盗賊に身を落とすものも多いとか…」


俺は起こるであろう危惧、それを言葉にしかけた。



「その為にも、軍を指揮できる者を置いていく」


成る程、父もその点は考慮しているのか。



柔らかな春の陽光が降り注ぐある日、父は鉄騎兵団200騎を率いてエストの街を後にした。


そして何もない日が数日続いた。

既に父の率いる軍勢はヒヨリミ領を抜け、国境地帯に移動している頃だ。



「兄さま、どちらにお出掛けですか?」



「ああ、領地の境の村に、不審な者が出没していると聞いてな、示威行動じいこうどうで残った騎兵を率い、ヒヨリミ領境の村を回るつもりだ」



「そうですか、お気をつけて」



この時俺は、腑に落ちない点は有ったものの、状況の推移の不自然さにまだ気付いていなかった。



〜エストール領:とある辺境の地〜


日も暮れた暗闇の中、密かに会話する声がしていた。



「首尾はどうだ?」


「はい、敢えて発見されるよう、動いております」



「では予定通り奴は来るか」


「奴が残る騎馬隊を率いてエストの街を出て来るのは確実かと思います」



「そして残る戦力はほぼ空になる……」


「今度こそあ奴らに煮え湯を飲ませてくれるわ」



再び彼らの姿は闇に消えた。



「ヴァイス団長、今日はちょっと相談があって……」


「タクヒールさま、どうかされましたか?」



双頭の鷹傭兵団は今回、留守にしている父の依頼で、エストの街の護りを委託されていた。



「今回の演習、一連の動き……、どうも腑に落ちなくて」


「色々と不自然な状況が続いてます。さすがご兄弟ですね! ダレクさまも同様の事をこぼしてらっしゃいました」



「敢えて主力を留守にさせられ、ガラ空きになったエストール領を狙う、そんな事は考え過ぎですか?」


「そうでもないと思いますよ。ダレクさまも領境へ出立の際、全ての町、村で警戒体制を敷かれています。居残り部隊の兼業兵も全て出動体制を取っていますから」



「では、ヒヨリミ領の境が不穏なのも危険信号なのかなぁ」


「タクヒールさまが敵軍なら、エストール領を荒らす場合どういった作戦を取りますか?」



「えっと……

領境で揉め事を起こし、そちらに兵を集中させます。そして領内の、ただでさえ少ない兵をそちらに向かわせ、ガラ空きになった中央を……、あっ!」


「正解です!」



「でも……、兄さん、出てってますけど……」


「ダレクさまは軍略では私の一番弟子ですよ。この程度の事、分からない筈がありません」



「ソウデスネ……、すっかり騙されてました……、兄に。

では私は、予想もしていない敵襲に、慌てふためく、哀れな次男坊になり切れば良いのですね?」


「まぁそこまでしなくても良いとは思いますが、エストの街とその周辺は最大限の警戒網を張っておくべきでしょう。人の出入り、特に夜間の警備は十分に目を配る必要があると考えています」



「では、目立たぬ様、兵を配置し備えておきます」


「それがよろしいかと思います」



兄はヴァイス団長とこっそり打ち合わせの上、エストの街をわざと空けた。

いや、空けた様に見せかけた、という事か。



〜エスト郊外〜


「報告! 約200名程度の賊がどうやら領内中心部に向かって移動しつつあります」


「そうか、我々の動きは気取られていないな?」



「はい、領境に向かった別働隊を本隊と思い込んでいる様で、エストの街は空になったと安心し切っている様です」


「そうか、エストの街には最も恐ろしい男が居るとも知らずに……、哀れだな」



「では我らは?」


「このままこの森林で待機! 決して気取られるなよ」



彼らは再び茂みの奥に姿を消した。



〜同時刻、エストール領内〜


薄汚れた、身なりの良くない50名ほどの集団が街道や町や村など、人気ひとけのある場所を避け、移動している。周囲に見張りを立て、警戒しながらゆっくりと……



「おい、大分進んだが俺達はどこ迄まで行くんだ?」


「知るかっ!そんな事。小頭こがしらに聞けっ」


「この辺りはもう蕪男爵さまの領地じゃねぇのか?」


「何っ!それは本当か?」


「ああ、陽の位置を見てみろ。街道や村は避けてるがずっと西に進んでるからな」



一部の者たちが、小声で呟く。



「それは聞き捨てならねぇ話だ」


「俺はあのお方の領地に手を出したくねぇ」


「ウチの家はあの方達のお陰で冬を乗り切れたんだ」


「ウチの娘もだ。あのお方達に救ってもらった」


「……」



「逃げるか?」


「それじゃ、恩を返せねぇ」


「なら…夜を待って、やるか」


「俺は他の村の奴にも声を掛ける」


「決まりだな」



彼らは何かを心に決め、周りへ散って行った。



少し前、彼らは普通の農民だった。

オルグ川の洪水で住む家も農地も失い、途方に暮れたが、隣領からの救援や食料援助で、冬はなんとか乗り切れた。


だが、ヒヨリミ子爵は被災者に対し冷酷だった。

救援策や税の軽減などもなく、途方に暮れていた。

ある日、村を訪れた怪しい男が言った言葉……



「俺たちの苦しみを知らず、のうのうと暮らしてる奴等から、生きる為の糧を奪おう」


彼らはその言葉に乗ってしまったのだ。



最初の仕事は簡単だった。


被災地に駐屯する兵士の食糧庫を襲うことだった。

子爵家への不満もあり、言われた通り付いていくと簡単に食料が手に入った。


2回目も同様だ。彼らの指示通り襲撃すると、いつも殆どの兵士は出払っており、守る者は数名、その数名も戦わずに逃げ出した。


襲撃後は、気前良く分配された食料で彼ら自身、そして彼らの家族は食い繋ぐ事が出来た。



「次は民から食料を搾り上げ、それで贅沢三昧に暮らしている奴等を討ち、獲物を困窮した者に分配する」


そんな誘いに再び乗ってしまった。



盗賊に我が身を落としても、家族のため、困窮する者のため、役に立てるなら、そう思っていた。



盗賊団の本隊に合流すると、そこには100名を超える盗賊達、そして100名弱の、同様に複数の村から出て来た者が居た。


そうして、彼らを率いる盗賊の頭目が叫んだ。



「今度の獲物は大きいぞ! 富を独占している奴らの本拠地を襲う。

奴らは今出掛けていて留守だ。今迄とは比べ物にならないお宝や、女がたくさん居るぞっ!」


生粋の盗賊達は野卑な笑い声を上げて歓声を上げた。



その後頭目は、隊を四つに分け、彼らに目立たぬ様に潜伏しながらの移動を命じた。


領主ヒヨリミの屋敷でも襲うのだろうか、それなら今まで味わった苦渋の意趣返しができる。

彼らはそう思っていた。

ご覧いただきありがとうございます。

引き続き毎日投稿を目指します。

40話ぐらいまで(もう少しできるかもしれませんが)は、毎日投稿していく予定です。


ブックマークやいいね、評価をいただいた皆さま、ありがとうございます。

凄く嬉しいです。

これからもどうぞ宜しくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] やはりヒヨリミ達はゴーマン以上の癌だったか。なんとか証拠を掴んで辺境伯にチクってまえ
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