第三百二十五話(カイル歴514年:21歳)第一回王都競技会② 両雄並び立つ
結局昨日の会議は大会説明会と称した、最高評議会で終始して終わった。
最後に俺が『大会の説明は?』と確認すると、一枚の紙切れが配られただけだった。
そこには……
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第一回王都競技会 開催概要
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◆開催概要
今回の大会に代表選手を送り競技会に参加する貴族は、クロスボウを先進的に取り入れ範を示せる以下の団体とする。
個人戦予選は午後から半日、翌日午前から本選を行い、午後は団体戦予選を行う。
最終日に団体戦の準決勝戦及び決勝戦と表彰式を行うこととする。
◆参加団体
〇カイル王国
・王都騎士団
・クラリス殿下親衛団(個人戦のみ参加)
・ハストブルグ辺境公領
・ハミッシュ辺境公領
・モーデル辺境公領
・クレイ伯爵領(個人戦のみ参加)
・コーネル伯爵領
〇ウエストライツ公国
・公王直轄領
・ゴーマン侯爵領
・ソリス侯爵領
◆参加規程
今回の大会には、各領地で個人戦に5名、団体戦に5名を選手として登録し参加させる。
なお、個人戦と団体戦の重複参加は認められない。
いずれに種目に参加するか、選手名の登録は事前に届け出たものから変更は認めない。
出場選手名の発表は試合の直前に行うものとする。
◆追則
基本的な運用は過去の類似開催に倣うが、一部独自の変更点を設けるものとする。
(個人戦)
予選は10組に分けた5名のトーナメント戦とし、上位1名のみ本選に進めるものとする。
本選は予選を勝ち抜いた10名のトーナメント選とする。
(団体戦)
予選は二つのグループに分け、それぞれ一位と二位が翌日の決勝に進む。
対戦は五人制勝ち抜き制のグループ内総当たり戦で、予選で参加組を半数に絞る。
翌日は準決勝、決勝はトーナメント戦とする。
更に決勝は、勝ち抜き戦と全員参加の団体射的の合計点にて、最終的に優劣を決するものとする。
各団体戦の参加オーダーは、試合直前の提出で構わないものとする。
◆勝者投票権
個人戦と団体戦で勝者投票を実施する。
個人戦も団体戦も、一位と二位の者の出身領を投票するものとし、個人戦は順位まで予想することが求められるが、団体戦は順位不動で一位と二位の組み合わせを投票するものとする。
カイラール各地で、開催5日前から勝者投票券の販売を行い、個人戦は開催前日、団体戦は個人戦の決勝開始までが、受付の締め切りと定める。
一般投票は、一口銀貨一枚、銀貨十枚、金貨一枚とし、最大十口とする。
特別窓口は、金貨十枚、金貨百枚の二種のみ受付するものとし、最大十口とする。
「……」
実施内容は、ほぼ丸パクですね。
でも……、窓口運営は大丈夫なんだろうか?
俺にはクレアや諸事に慣れた受付所の職員という心強い仲間がいたし、定期大会から時間を掛けて経験を積み、ノウハウを蓄積してきた。
それを一気にやるとなると、混乱しますよ?
ってか、クラリス殿下親衛団って何だ?
後でユーカに聞いておこう。
それにしても……、団体戦の規定、狸爺のあざとさが出てるな。
決勝戦に加えられた全員参加の競技、これではごぼう抜きで切り札を隠すことができない。
全ての手の内を晒さねばならなくなるということか……
まぁ、もちろん俺も手の内を全て晒すようなことはしませんけどね。
俺は俺で、悪い顔になってこの大会規定を見ながら、開催前日の夜を過ごした。
※
開催当日、いよいよお祭りの本番となったが、午前はフェアラート国王との対面式だ。
本来はそちらがメインなのだが……
それもあって、否応なしに王都には王国中の貴族が集まっている。
その衆目のなか、大会を開催し各貴族に啓発を促すのだろうけど、その目的があからさまだな。
そして俺は、玉座の間の手前で控室にて待機したのち、部屋の中に居並ぶ各貴族、高級文官たちとは別に、玉座の間に誘われた。
「カイル王国上席辺境公にして、ウエストライツ魔境公国公王陛下、ご入来」
やめてくれ、そんな勿体ぶった登場の仕方は……
そう思いつつ俺は、いつもと違う入口、玉座の間の壇上に通じるドアから誘われた。
『あれ? いつもと違う』
いつもは、さして広いスペースではない国王陛下が座る檀上は、倍近くほど大きく広げられており、そこには席が玉座を挟むように両側に席が用意されていた。
玉座の横には、クラリス殿下が慎ましく佇立している。
俺はもちろん、この世界、この国の王族に対する礼法を知らない。いや、知る由もない。
一瞬戸惑った俺を見て、玉座に座る陛下はニヤリと笑って、左側の席を促した。
『えっ? 座っていいの? ほんとに?』
俺はテンパリながらも仕方なく、国王陛下に一礼して示された席に座った。
段の下では、百名を優に超える数の人間が、跪き首を垂れている。
自分が場違いな所にいるような気がして、なんか……、慣れないせいか見る景色が気持ち悪い。
「フェアラート公国クリューゲル国王陛下、ご入来」
あ、俺どうしたらいいんだ?
座って迎えていいのか? いや良いはずがない。
俺の場合はカイル王国の臣民たることには変わりないが、クリューゲル陛下は王国と対等の友邦だ。
一瞬逡巡して立ち上がると、陛下も等しく立ちあがった。
そして笑顔で握手すると、席を進めた。俺は一礼して一番最後に着座した。
ん? これで合ってるのか? どうなんだ?
ニシダが見た映画などでは、こういう場合ハグしていた場面もあったが、この世界では……
不安で一杯な気持ちと、半分どうにでもなれという開き直り、どっちもどっちだった。
「クリューゲル王よ、国王自らが帝国、魔境公国を経由してのご来訪、誠に感謝する。
三か国を踏破されるとは、話を聞いたとき余も些か驚いたわ」
(というか、真っすぐ王国を訪ねても良かったのではないか?)
「こちらこそカイル王には、我が国の不平貴族共が多大なご迷惑をお掛けしたこと、改めて謝罪したい。そのためには私自らが足を運ぶ必要があると考え、参らせていただいた」
(それにまさか王国の西国境から入れば、クラリス殿との時間は作れなかったしな)
「いやはや、王自らのご丁寧な謝罪、千金の重みがあるな。しかし道中、何かとご迷惑をお掛けしなかったかな?」
(と言うか、魔境公国でクラリスと逢っておったのだろう。いけしゃあしゃあと……。まさか堂々と二人でカイラールに戻ってくるとは思ってもいなかったぞ)
「とんでもない! 有意義で貴重な時間を過ごさせていただきましたよ。
わが友、タクヒール殿のお陰でまたとない出会いもあったことだし、大いなる収穫だったと思う」
(まさか帝国の次期皇帝と会えるとも思ってもみなかったしな)
「そ、そうか……、それは重畳なことであるな」
(なんと白々しい! どうせ事前に示し合わせてのことだろうに。
それにしても……、ウエストライツ公王よ、お前もそちら側だったのか!)
ん? なんか……、国王陛下の視線がとても痛いんですけど……
俺が逢引の仲立ちをしたと絶対思っているよな……。
クリューゲル陛下は帝国の第三皇子、グラート殿下のことを指していると思うのだけれど……。
ってか、満面の笑顔で嫌味の応酬とか、やめてくれっ!
まぁ、陛下が一方的に拗ねているのだろうけど。
「ところで陛下、遠路カイラールまでお運びいただいたのには、特別な理由があるやに思えますが」
(そろそろ本題に移りましょうよ。このままでは俺のところに余計な火の粉まで飛んできそうだし。
ってか、席が対等に用意されているからには、俺も言葉を挟んで大丈夫だよね?)
「おお友よ、そうであったな」
そう言うとクリューゲル陛下は、おもむろに立ち上がりカイル王の前に跪いた。
それを見て、多くの貴族や文官たちもざわめき出した。
「この場に限り、フェアラート公国を預かる国王ではなく、一人の男として申し上げる。
カイル王のご息女、クラリス殿下を我が妻に迎えたい。既に婚約の申し入れは使者を通じて成立しているが、男のけじめとしてお願いに参上いたしました。どうか我が願い、お聞き届けいただきたく……」
そう言って深く頭を下げた。
やるなぁ……、一国の王がそこまでして殿下を望む、なかなかできるものじゃない。
クラリス殿下なんか、柄にもなく感動で目を潤ませて……、いやキラキラさせているし。
「なっ、な、かなか……、お見事な心構えであるな。余としても娘の幸せと、二国の平和を望む者。
否とは言えまい……」
(いや、多少はごねて困らせるつもりであったが……、あ奴のためにここまでするとは。
噂通りの大器と言うことか。ここで難癖を付ければ、余の器が小さいと嘲笑されるではないか)
「クラリス殿下を通じ、カイル王国にとって強い絆で結ばれた友邦の誕生を、お祝い申し上げます
おめでとうございます」
「「「「おめでとうございます」」」」
俺の言葉に、会場にいた全員が唱和したように思えた。
「う、うむ……、先ずはめでたいことだ。
またとないこの吉事に華を添えるため、王都での催しも用意してある。更にウエストライツ王からは、今夜祝いの席に華を添えるとも申し出があった。クリューゲル王には、存分にカイラールの滞在を楽しんでいただきたい」
「「「「おおっ」」」」
諸侯の驚きはどっちのことを指しているのだ?
今夜のことは、いつもの花の灯火と花吹雪とでも思ったのかな? まぁ、あれはあれで未だに好評だが実は違う。まぁきっと……、ど肝抜かれるだろうな。ここの全員が。
俺はこっそりほくそ笑んでいた。
「それは、ありがたく……」
「ひとつ申し添えさせていただきます。
この吉事に対し、グリフォニア帝国次期皇帝、グラート殿下からも国王陛下、クリューゲル王、クラリス殿下に宛てた祝いの品をお預かりしております。ご披露させていただいてもよろしいでしょうか?」
「「「「おおっ」」」」
そりゃ、居並ぶ諸侯も驚くわな。
第三皇子は今や、隠遁して内政にも外征にも興味を失った皇帝に代わり、帝国の事実上のトップだ。
そこから祝いの品が届いたというのだから。
言うまでもなく、これには俺たち当事者しか知らない理由があったからだ。
クリューゲル陛下とグラート殿下は何度も盃を交わし、完全に意気投合していた。
年齢も似たようなものだったが、お互い慣習や身分などそっちのけで動く変わり者同士だったのも大きい。
酒の席で今回の訪問理由を知ったグラート殿下は、帰国後すぐに祝いの品を整え、俺に託すと送ってきていた。
「これは両国の未来を寿ぐものとして、新しき時代の幕開けともなろう。
誠にめでたい限りだ。では改めて、今宵の晩餐を皆と共にできること、楽しみにしている!」
最後は陛下の言葉で締めくくられた。
先ずは無事に終わってなによりだけど、俺にとってはここからが本番だ。
最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。
次回は『王都競技会③ 予想外の対応』を投稿予定です。
どうぞよろしくお願いいたします。
※※※お礼※※※
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