第三百十八話(カイル歴514年:21歳)新領土収穫祭
後書きにお知らせがございます。
よかったらそちらもご覧くださいね。
秋になると、イズモでも初めての収穫を得ることができた。
栽培期間の短い、蕪類や豆類、葉物野菜、比較的早期に植えた芋類が中心だったが、それなりの量の収穫があった。
そこで俺は、テイグーンで人気の料理店を営んでいる、帝国移住者連絡会の者たち、イシュタルで料理店を営んでいる、皇王国移住者連絡会の面々を招き、収穫した素材や別途調達したもので帝国料理や皇王国料理、テイグーン独自の蕪料理、コロッケなどを使用したカレーライスなどを大量に準備し、クサナギで三日間、その後テルミラにて一日の日程で収穫祭を開催した。
もちろん、両都市で雇い入れた人足たち、新領土の領民たちも期間中無料で飲食できるように対応し、守備を担当する兵たちも含め、全員が一日は祭りを楽しむ側になるよう手配した。
一応……、ご挨拶として近隣の領主たちにも招待状は出したが。
いや、招待状となると重くなるから、開催通知と誰でも参加可能、そんな趣旨で出していたのだが……
俺は予想もしなかった来客たちに、大いに戸惑うことになってしまった。
「いやこの辛さ! 癖になりますねっ。これなら何杯でも行けそうですよ。
いや~、ずっと食べたかったんですよね~」
「……」
(いや、貴方は第三皇子と共にスーラ公国との前線に居たのではないですか?)
「ですな。これは是非、我が兵たちの兵舎でも取り入れたく思います。
米はジークハルト殿を通じて手に入るとして、問題はスパイスとレシピですが……」
「ドゥルール子爵にはいつもお世話になっているので、後でフェアラート公国の交易商人を紹介しますよ。
彼らを通じて、スパイスセットを入手することも可能ですから」
俺は、ティア商会に対し、テイグーンの特産品であるスパイスセットも卸していた。
レシピを提供して商品の加工まで任せ、ロイヤリティ収入に切り替えているものもある。
「フェアラート公国の料理も美味しかったけれど、帝国の羊肉料理、皇王国の豆料理もなかなかいけますわね。
カイラールでは食べられないものですし。それに、いい機会にもなりましたわ」
「……」
(ってか殿下! 何で貴方がここに居るんですか? 確かに収穫祭に備え、ユーカとクリシアは王都から召還しましたよ。でも何で勝手に付いてきているんですか?
ってか、今回の収穫祭を格好の口実に使いましたね?)
「いやはや、かつては敵同士戦った者が、同じ卓を並べるとは、不思議なものデアルな……」
「義父上、そうですね。ところで今回は遠路突然のお越しに驚きましたよ」
「いや……、公王が手ずから開拓した新領土を見分し、今後我らの参考になればと……、な」
ってか、ユーカに会いたくて飛んできたんですよね?
不器用な義父の目が、どこか泳いでいた。
「タクヒール、どうしてこんなにも人が集まった?
これは一体……、どういうことだ???」
同じく娘会いたさにやって来た両親のうち、父はある一角を指して青くなって震えていた。
そこには酒を酌み交わす上機嫌の男が二人と、青くなって相伴する男が二人いた。
そりゃ……、そうだよね。
俺だって最初は震えたよ。
一人は、本来此処にいちゃいけない人間の筆頭、今は帝国の南部国境に居る筈の第三皇子だ!
確かに今回、俺はジークハルト殿を通じて、開催の案内と共に大量の米を発注した。
第三皇子が占領する、帝国の新領土では米が大量に収穫され、今年は豊作で余っていると聞き、安価で大量購入できたからだ。
だけど……、その商隊にお忍びで第三皇子が同行してくるなど知らなかった。
「いやはや、クラリス殿からお聞きしていたが、三人目が貴方だったとは思いもしなかったな。
料理も美味いが今日の酒は格別に旨い!」
上機嫌でそう話す第三皇子と、仲良く盃を交わしていたのは、もうひとりの、本来此処にいちゃいけない人間の筆頭だ。
最初は帝国西部を経由して、フェアラート公国からの通商隊が訪れると聞いて驚いたよ。
公国南部からだと、カイル王国を経由するより早いそうだし。
でも……
クリューゲル陛下! 何で貴方がここに居るんですか!
俺はフェアリーからの通商隊が到着したと聞いたとき、護衛に就いていた近衛兵団のなかに見知った顔を発見し、卒倒しそうになりましたよ!
満面の笑顔のフェアラート国王とバツの悪そうなフレイム伯爵……、いや今は侯爵らしいが、その二人を見たときは、何かのドッキリかと思いましたよ。
「ははは、俺は今、軍規破りの常習犯、近衛兵団の問題児に過ぎんからな。
かつてヴァイス殿から聞いた貴方と、酒を酌み交わせるとは思ってもいなかった。いや旨い!
どうした、フレイム、ラファール殿、楽しい酒の席で、元気がないではないか?」
「……」
肩を組まれたラファールは、少し恨めし気な目で俺を見た。
『ごめん! 後で代わるから、今は大好きな酒を好きなだけ飲んでくれ。
だってクリューゲル陛下直々のご指名だったし……』
まぁ、将来の帝国皇帝、現在の国王、そして侯爵に囲まれたラファールは、それこそ生きた心地がしなかっただろう。
「それにしても、貴方も大胆なお人だ。
ご自身が兵士に身をやつし、ここまで来られるとは」
「なーに、タクヒール殿は我が国の恩人、そしてずっと以前より俺の友でもある。
一度は彼の街を見たかったのでな。今回は求婚のためカイラールに向かう際、ちょっと寄り道をしたに過ぎんよ。そういう貴方もこの状況下で大胆なお人だな」
「いやいや、悪事を企む古狸が、今はそれを悟られぬよう狸寝入りを決めているからな。
却って動きやすいというもの。それに俺も、今は商隊護衛の任を受けた、一介の傭兵に過ぎんからな」
「ははは、お互い護衛同士、無事に任務が果たせたことを祝い、新しい盃を開けるとしようか」
「望むところ」
「……」
いやホント、有り得ないんですけど……
どうしよう、そろそろ俺も輪に加わらんとダメかな?
クリューゲル陛下が手招きしてるし……
俺は覚悟を決め、彼らの座るテーブルへと移動した。
「友よ、やっと来てくれたか」
俺はいきなり肩を組まれた。
「いやはや、驚きましたよ。まさか逢引のだしに使われるとは、思ってもいませんでした」
「いやいや、それは違うぞ。彼女にはカイラールに行けば会えるからな。俺は友に会いに来たのだ。
この後は噂に聞いたテイグーン一帯を見分する傍らで、魔境の狩りを楽しみ、カイラールに向かう」
「へっ?」
「どうした? クラリスから貰った行程表には、そう記されていたぞ?」
あのじゃじゃ馬、やりやがった!
俺が絶対に許可を出さないから、隣国の王という最終兵器を持ってきやがった。
俺は実際、一度ならずもフェアラート公国にて魔境での狩りを許可してもらっている。
なのでもちろん、自領での許可を出さざるを得ない。
「承知しました。私自身がご案内しますよ」
「ほう……、それは是非俺も参加したいな。ジークハルト、こちらに加われ!」
第三皇子はそう言うと、カレーライス、いや、コロッケカレーに夢中になっているジークハルトを呼び出した。
片や呼び出されたジークハルトは、いかにも嫌々ながらの様子でテーブルに加わった。
「予定を変更する。あと一週間ぐらいこちらに滞在しても問題ないな?」
「せっかく料理を楽しんでいたのに……、影武者の往復する行程を考えると、一か月は対応できるように指示して来ましたから……。でも帰りは、強行軍になりますよ。僕はゆっくり旅を……
所で何処に行かれるんですか?」
「もちろん魔境だ!」
「それを早く言ってください! 一週間程度の延長なら全く問題ないですから」
『いや皆さん……、俺の意思は? 先ずは俺に確認じゃないのですか?』
「皆さん、お立場もありますし……、そもそも安全の確保が……」
そういった俺に、4人が『何か問題でも?』そういった表情で視線を投げかけてきた。
クリューゲル陛下に第三皇子、ジークハルト、そして何故か突然席に加わってきたクラリス殿下……
ってか、どんな嗅覚してるんだよ!
魔境の話になったら、食事そっちのけで酒の席に加わって来た。
「わかりました。でも、収穫祭は抜けられませんからね。
こちらであと二日、その後にテルミラで一日、その後に二日だけですよ。騎馬での強行軍になりますから覚悟しておいてくださいね。もちろん、準備が間に合わないので、おもてなしなどできませんよ」
「「もちろんだとも」」
「もちろんですわ」
「もちろんです」
四人は大喜びだった。
「そうでしたわ。父から預かっていた書状がありますの。公王は早めに中を確認されたほうがよろしいかと思いますわ」
そう言ってクラリス殿下は、懐中から一通の書状を取り出した。
何だその思わせぶりな言葉は?
もう嫌な予感しかしなかった。
『ウエストライツ魔境公には、新領土の開発も軌道に乗ったと聞き、誠に嬉しく思う。
この度、延び延びになっていたクロスボウの腕を競う競技会を、フェアラート国王歓迎式典に華を添えるため、カイラールにて開催することとなった。
以前の約束より期間は伸びたが魔境公として、団体戦5名、個人戦5名の参加者を率い、カイラールを訪れてほしい』
何ですかこれは!
ってか、これに記されている開催日って、20日後じゃないですか!
まぁ、日数的には十分余裕はあるけど……
『ちっ、忘れていなかったのか……』
クレアの以前に言っていたフラグ、見事にまた炸裂したんですけど……
勘弁してくれ、色んなことが予想外過ぎて、もう頭が回らなくなってきた。
身分や立場が変わっても、俺の『巻き込まれ体質』は変わらなかったようだ……
最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。
5/29に三巻のお知らせに関わる活動報告をUPさせていただきました。
良かったら、作者名のリンクよりご覧ください。
次回は『四か国同盟』を投稿予定です。
どうぞよろしくお願いいたします。
※※※お礼※※※
ブックマークや評価いただいた方、本当にありがとうございます。
誤字修正や感想、ご指摘などもいつもありがとうございます。