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第三百十話(カイル歴514年:21歳)新世界

王国側の兵力配置も終えた俺たちは、遂に本隊を率いで関門を越え、新領土に進出した。


その第一陣は俺が親率し、魔境騎士団(8,000名)、特火兵団(3,000名)、新領土駐留旅団(900名)そして、魔法士や後方支援部隊(2,000名)、合計約14,000名にもなる。


彼らの多くは元からの軍人であり、簡易な天幕で暮らすことにも慣れている。


この部隊のうち、新領土駐留旅団は早速各地を周り、新領土一帯を慰撫して回るが、残りの全員は一気にクサナギ建設予定地まで進出し、都市建設の拠点を構築する。


現地で帝国側のから人足を受け入れるにも、仮設でその拠点をまず構築する必要があるからだ。


そして、俺たちの後方に続くのは、アレクシス率いるイズモ屯田兵団5,000名で、彼らはサザンゲート要塞改め、サザンゲートの街から日帰りで通い、旧国境関門に近いところから、開拓農地の開発に従事することになる。


因みに、街の改装工事や旧国境関門の二次工事は、カイル王国側で募集した人足や、帝国及び皇王国移住者家族に担ってもらっている。



俺は本隊が行軍する中央にあり、兵士以外に参加していた文官たちと共に駒を進めていた。



「ではタクヒールさま、我らはこれより隊を分かち、各方面を巡回して回ります」



「うん、マスルール、頼む。統治に当たっては、領民たちの心情を踏まえて、柔軟に頼むね。

一時的にではあるけど、新領土駐留旅団には治安維持に関わる権限を与えるので、よろしく頼む」



「はっ! それではこれより、失礼します!」



そう言ってマスルールに率いられた900騎が、早々に軍列から離れ、各目的地へと移動を開始した。



「それにしても……、千騎程度が減っても、全く目減りした感じがしませんね。

この軍勢、見ているだけでも壮観ですよ。流石タクヒールさまです」



「いえいえ、これだけの軍勢だと、糧食の手配だけでも大変です。それにこの先、更に増えますからね。先ずはクサナギ含むイズモ一帯の政務、大変だと思うけど内務卿としてよろしくお願いします」



そう、俺が今回、のほほんとしてられるのも、新領土の内政一切を取り仕切る内務卿、レイモンドが同行しているからだ。



「ははは、申し訳ないなんて仰らないでください。私は今喜びで震えてますよ。長年の夢が叶ったと」




そうか……、昔、母から聞いたことがあった。

レイモンドは本来、国政レベルの内政に携わりたくて、王都の学園に通っていたことを。

いわば彼にとってこれは、本懐とも言えるのだろう。



「ところで、出発にあたりお話しした内容、お決めになりましたか?」



「ん? ああ……、一応は」



そう、レイモンドからは幾つかの命名を依頼されていた。

『テイグーンの関門、イシュタル側の関門、そして旧国境を塞ぐ関門、どれも固有の名称がありません。今後、命令遂行に語弊が生じないよう、名前をお決めください』

そう言われて、確かに、と、思った。



「そうだね。名は体を表すと言うし、それぞれの立地、特徴に応じて付けてみたよ」



・テイグーン魔境側関門 アビス

・アイギス南魔境側関門 ラセツ(羅刹)

・旧国境線関門     イザナミ(日本神話)

・サザンゲート要塞   テルミラ



「ほう? 異国の言葉ですか? 実に面白い名ですね。どういった意味が」



「そうだね……、全て遠い異国の話から取った。

深淵を指すアビスは、テイグーンより魔境の奥深くに繋がっている。だから、深淵という名にした。

ラセツは、元は魔物だったが、神々を守る守護神となった者の名だ。

イザナミは、冥界を司る女神の名で、冥界への入り口の黄泉比良坂よもつひらさかに立ち、死者の魂を迎える」



そう、ラセツは元は敵だと思っていたゴーマンが、今や命の恩人、頼れる味方として戦いで威を振るった場所だ。



「なるほど、冥界即ち魔境、そこに繋がる関門の名に相応しくありますな。因みにテルミラとは?」



「終着点であり始発点でもあることを指す異国の言葉を、少し語尾を変えた感じかな」



「確かにテルミラは、旧王国領の終着地であり、帝国側の新領土の始発地でもありますね。

いや、いつものことながらお見それしました」



詳しくどの国の言葉か、などの無粋な質問を彼がすることはない。

その辺はなんとなく、信頼している。



夕暮れの少し前、俺たちはやっとクサナギ建設予定地に到着した。

そこには、先行部隊と共に既に現地に入っていた、エランやバルト、カウル、サシャ、メアリーらの魔法士たち、及び建設工事に携わる職人部隊たちが待ち受けていた。



「タクヒールさま、お待ちしておりました。

一応現段階で縄張りは完成していますので、この先は一気にクサナギの基礎工事に入る予定です」



「エラン、みんな、待たせて申し訳なかった。一応それなりの数は率いてきたから、皆の手足となってこの先、存分に働いてくれると思う」



「一応、僕とカウルで、ガイアで大量生産した建材を持ち込み、一部は組み立ても済んでおりますので、雨露は凌げると思います」



「バルト、カウル、ありがとう。

でも、流石カール工業開発統括官だね。仮設とは思えないほど、ちゃんとしたものだね」



「水路はまだ一本しか完成していませんが、旧国境側から水を引いており、井戸も複数個所で試掘を終えています。取り急ぎではありますが、飲料水の確保はできています」



「サシャ、メリーもありがとう。

水の手は俺たちにとって最も重要事項だ。引き続き水路の充実に努めてほしい」



「それにしてもなんか、テイグーンの時を思い出しますね。

レイモンドさまを含め、あの時に現地調査に行った者たちの殆どが、再びここに集っているのですから」



そう言えばそうだな。

あの時のメンバー、レイモンド、エラン、メアリー、サシャ、クレア、カーリーン、クリストフ、ローザ、ミア、そして2人の子供を育てていたサラも、今回は臨時で魔法士としてレイモンドと共に参加していた。


今此処に居ないのは、サラの子供たちを預かり、花凛と共にテルミラにて待機しているアンと、今は亡きクランぐらいか……



「あれからもう、10年か……。考えてみると、あっという間だったな。そして仲間たちも増えたよな。

俺は……、皆に支え続けられてきた、果報者だな。改めて感謝したい」



「いえいえ、あの時からずっと有事に備え、我らを導かれてきたからこそ、今があるのです。

我々が、当時は夢にも思わなかった新世界に」



「レイモンドさまの仰る通りです。無学で、生きる術さえなかった僕らは、生きる道筋と多くの人々を救う力を、タクヒールさまより与えていただきました。僕らのほうが感謝していますよ」



「そうね、エランの言う通りだわ。

ところで、帝国側の人足や工事関係者はいつ頃来るのかしら。その受付対応ができる場所も気になるのだけど……」



「クレア姉さん、それもばっちりです。

臨時行政府と臨時受付所は、水の手の次に優先して用意しています。帝国からの人手は、受け入れ態勢が整ったあと、二週間後に来てもらえるよう、ドゥローザ商会からの使いには話しております」



「あ、エランに追加します。

今回、ケンプルナ商会と、アストラル商会には、王都から派遣してもらった時空魔法士を、それぞれ5名ずつ、護衛と共に派遣しています。こちらも人足の到着までには、第一陣が到着すると思います」



「バルト、あと商人たちの話も報告しないと。

食料などの発注品は、順次到着しており、臨時倉庫に積み上げられています。当面十分に賄える量が整いつつあります」



「そう良かったわ。ではそこを臨時の商品取引所として、運用を始めさせていただきますね。

当面の間、市は全て露天商となりますが、気の早い人たちは私たちに同行して来ているので、彼らが市を開いても差し支えない場所を、メアリーさん、お手数ですが後で案内してくださいね」



「はい、ヨルティアさん」



「じゃあ私は、報告が終わったら、臨時受付所が設けられている場所に案内をお願いね。

今回、旧魔境伯領から100名、モーデル辺境公領から研修に来ている娘たち50名、合計で150名連れてきているから、早速準備に入るわ」



「エラン、バルト、メアリー、そしてみんな。諸々の対応ありがとう。

全体の運営、進捗管理はレイモンド内務卿に集約させていくよう、今後も頼むね。

さあ、これから俺たちの新世界だ。

帝国の人々が驚くぐらいの新しい街を、新しい農地を、俺たちの流儀を、作る国を見せてやろう!」



「「「「はいっ!」」」」



新世界での俺たちの活動は、これより始まった。

どんな未来が待ち受けているのか、俺達にはまだ、何も分からなかった。

いつもご覧いただきありがとうございます。

次回は『想いを貫くもの』を投稿予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。


※※※お礼※※※

ブックマークや評価いただいた方、本当にありがとうございます。

誤字修正や感想、ご指摘などもいつもありがとうございます。

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