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第三百話(カイル歴514年:21歳)北の国へ その①

年明け早々、これからすべき事を駆け足で定め、その大部分は順調に動き出した。

そして俺は、その最後の仕上げというべき幾つかの課題を解決するため、少数の護衛と共に王都カイラールに来ている。


王宮には先触れを出していたせいか、カイラール到着時には、案内が待ち受けており、すぐにいつもの部屋に案内された。

そこには、国王陛下と外務卿、内務卿、軍務卿と何故か? クラリス殿下が待ち受けていた。



「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、公王自らの突然のお越しとは、どういったご用件かな?」



『ちっ、狸爺め。用件のひとつは既に察しがついているだろうに』

そう思いつつ、俺は言葉を取り繕った。



「先ずは陛下、急な訪問にも関わらず、このようにお迎えいただいたこと、深く御礼申し上げます。

殿下もご機嫌麗しいようで、なによりです

皆様にも、お忙しい中急遽お集まりいただいたこと、改めて御礼申し上げます」



「ははは、余も待ちわびておったぞ。外務卿もそろそろ……、そう申しておったしな」



「私はあまり……、ご機嫌麗しくなかったのですが、公王に会えて嬉しく思いますわ」



ってか、また何か揉めたのか?

『麗しくない』と言ったとき、思いっきり陛下を睨んでいたけど……

ここの地雷は踏まないようにしないと。



「今回は、カイル王国の魔境公として、そしてウエストライツ公国の公王として、二つの立場でご相談したき儀があり、参上いたしました。



「陛下の仰る通り、先ずは外務卿としての儂に用があるのじゃな?」



「はい、その通りですね。

帝国との捕虜返還の件、王国側の参加者を定めませんと……」



「その件なら先程決まりましたわ。

国の体裁として王族が一名、最高指揮官として魔境公、文官からは外務卿が同席しますわ。

それが交換条件ですからね」



殿下は俺以外の三名を睨みつけるようにそう言った。

ん? まさか、ここが地雷かよ!

陛下も狸爺も、少しバツの悪そうな表情を浮かべている。



差し当たり、殿下が何かを要求した。

そこに陛下たちが反対し、しぶしぶ矛を収めた。ただし、そのかわり国王代理として捕虜返還式への立ち会いを要求した。

まぁ、そんなところだろうな。



「そうですか。先方は第三皇子が出てくることでしょうし、殿下にご足労いただけるのであれば、王国としても体裁は整いますね」



そう言うと、陛下と狸爺は少し落胆したような表情を浮かべた。


何だ?

俺が殿下を説得するとか、淡い期待でもしていたのか?

もちろん俺は、その辺りに干渉する気などさらさらない。王国のことはそっちで勝手にやってくれ。



「では私の用件のひとつ、魔境公としての相談は、これで解決したも同然ですね。

私も返還日の三日前にはサザンゲート要塞に入って、皆様をお待ち申し上げます」



俺は敢えてバッサリ切った。



「では次に、公王の立場でお願いがあります。

ひとつ、勅令魔法士やそれ以外でも、地魔法士と水魔法士、時空魔法士をお借りしたく思います。

ひとつ、今回、サザンゲート要塞を改築する許可をいただきたく思います。

ひとつ、せっかく殿下がご在籍なので、我が妻に捕虜返還の時期まで、暫くお暇をいただきたく……」



「公王は魔法士をどれぐらい必要としているのだ? その目的は?」



「はい陛下、数は多ければ多いほど嬉しゅうございます。特に地魔法士が急ぎ必要です。

目的は、旧国境周辺の安全を図る工事と、その他、帝国との交渉を優位に進めるための建設事業です」



「ほう……、では協力もやぶさかではないな。爺よ、学園長の立場として協力してやるがいい」



「承知しました。して魔境公は、その期間と最大人員、そして報酬はどうお考えかの?」



「期間は到着より三か月、最大人員は地魔法士は50名、水魔法士は10名、時空魔法士は10名を手配いただければと思っています。報酬は先払いで金貨50枚で如何でしょうか?

もちろん、あくまでも最大人員で、実際はその半数近くでも集まれば、そう思っています。

なお、住居と食事はこちらで用意させていただきます」



「ほう……、それは大層な数じゃな。まぁ、できる範囲で努力はしよう。

してそれは、学園の生徒でも構わんのかな?」



『狸爺のことだ。おおかた授業の一環にでもしようと考えているのだろうな……』

まぁ、それでも構わないけどね。



「二つ条件があります。

ひとつ、捕虜返還まで公国を出ること、即ち一時帰国はできません。

ひとつ、手紙は検閲し、使者を介した外部とのやりとりは禁止させていただきます。

ことは国防と、交渉に関わるお話ですので……

なお人員は決定次第順次お送りいただいて構いません。集合はサザンゲート要塞で、滞在はそこか又はアイギス、このいずれかになりましょう」



アイギスと言った瞬間、狸爺は目を細めた。

きっとその他工事が何であるか、探っているのだろうな。



「それは承知した。して、二番目の目的は?」



「はい、本来ならサザンゲート要塞は、目の前に敵国が控えていてこそ、その存在価値を持ちます。

ですが今は、無用の長物に成りかねません。ですので、新たに街として改装を進めたく思っています」



「それならばあの要塞も、今は公国領のもの。我らに許可も不要でしょう」



「はい、内務卿の仰ることももっともです。ですが、心情的な問題もありましょう。

かの要塞は、帝国防衛のため王国の予算を投じて建設されたもの。自由勝手ともいきますまい」



「ほほほ、公王も気を遣われているようじゃな」



「はい、晴れて改装が成りましたら、王国の大使が駐留する施設も、ご用意させていただく所存です」



「なるほどな。これまでの話を聞けば、余も否とは言えんな。王国としては問題ないと明言しておこうかの」



「寛大なるお言葉、感謝いたします」



「私の方も……、ちょっと寂しいけどユーカさんはお返ししますわ。私の我儘に付き合わせていても申し訳ないですし……」



「殿下の寛大なるお言葉に感謝いたします」



「ユーカさんはこの後、ご一緒に公国へ?」



「結果的にはそうなります。ですが、今回は私に同行してもらいます。

今回のお話がまとまれば、私は妻を伴ってモーデル辺境公の元に伺う予定ですので」



「そうなんですの! なら私も是非!」



「なりません!

第一に、殿下を伴って行くには、護衛やその他の準備が整いません。

第二に、政治的な問題も発生します。北の地だけに向かう訳には行かなくなりますよ。

第三に、ユーカとは初めての旅です。ですが殿下を伴えば、接待旅行になってしまいます」



「くぅっ、そんな……、そこまではっきりと言わずとも」



「私には責任が負いかねるお話です。殿下は今、王国だけでなく、フェアラート公国の要人でもあるのですよ! クリューゲル陛下に嫁ぐ身であれば、その点をご自重ください」



「つい先程、サラーム行きを諦めたばかりですのに……」



それか!

なるほど、どおりで都合よく彼らが揃っていた訳だ。

頭の痛い問題を議論していた時に、ちょうど俺の先触れが着いた。

ならばいっそ、巻き込んでやれ。

そんな思いで、すんなり謁見となったのだろうな。



「殿下がサラームに行けば、そこだけの滞在で済みますまい。どうせ彼方の魔境やフェアリーまで勝手に足を伸ばすことは目に見えてます」



このじゃじゃ馬のことだ。

王都を離れたら自由に動き出すに決まっている。



「しかも、殿下だけを公国に行かせる訳にもいかないでしょう。ハストブルグ辺境公も同道しなくてはならないでしょう。兄は今、荒廃した領地の復興でそんな余裕はありません」



「……」



「私も北に遊びに行く訳ではないですよ。新領土の開発に必要な商談に行くのですからね」



そう、ユーカを伴うのは、あくまでもついでだ。

ついでと言うと失礼な言い方になるが、この機会にうまく言い訳が立つから、そういう意味のついでだ。


それに、彼女とはこれまで、一緒に過ごした時間が他の妻たちと比べて短い。

学園を卒業しても、ずっと王都に留まって動いてくれていたのだから、そのお礼も兼ねての小旅行だ。



「分かりましたわ。では私は、ウエストライツ公王国への旅を、楽しみにすることにします」



「旅ではありませんよ。お仕事ですからね!」



ってか、そこの3人!

人にばっかり話させておいて、ただ嬉しそうに頷いてるだけなんて、勘弁してくれ!


人を勝手に、じゃじゃ馬の調教師とでも思っているのか?



まぁ多少の不安は残ったものの、俺の要件は片付いた。

早々に切り上げて退室……



「そうじゃ、忘れておったわ」



ん? 陛下、何ですか?



「このカイラールにも、公国の出先機関は必要じゃろう? まして、居館も今のままでは体裁も悪かろう?」



なんか、嫌な予感がする。



「ほほほ、陛下の仰る通りですな。

この辺り、じっくり議論を進めなくてはならないじゃろうて。北に行った帰りにでも、相談するとしようかの」



ちっ、帝国との戦いが終わり、当面の安泰が確実となった今、できる限り俺を王都に留めておきたいのか?

力ある者は、できる限り身近に置いておきたい。

狸爺たちがそう思うのも無理はない。


江戸時代の参勤交代の如く……


でも、公王にしたのも、力(責任)を与えたのもそっちのせいですからね!

俺はしれっと割り切ることにした。



「ならば後日、テイグーンより文官を送りますよ。

今我らの急務は、新領土の防衛手段の確立です。なんせ今は、我々はある意味死地を託された訳ですからね。王都の居館はその後でも差し支えないでしょう」



「そ、そうか……」



うん、この大義名分いいわけは当面の間なら通用しそうだな。



「では、皆さまもお忙しいと思われますし、我らも新領土の対応で、北に急ぎ向かう必要があります故、これにて失礼します」



そう言って俺は、深みにはまるのを避けて、早々に王宮を出た。


既に俺の心は北に飛んでいる。


この世界では、初めて見る大地、そして何より海!

それを考えただけで、俺の心は逸る。

そして、大事な商談はあるとは言え、今回は国からの命もなく、戦いのための外征でもない。


初めての、旅行らしい旅に、期待で胸を膨らませていた。

いつもご覧いただきありがとうございます。

次回は『北の国へ その②』を投稿予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。


※※※お礼※※※

ブックマークや評価いただいた方、本当にありがとうございます。

誤字修正や感想、ご指摘などもいつもありがとうございます。

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[良い点] 正妻だけ新婚旅行はずるいって言われそう 後日それぞれデートに誘わないと
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