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第二百七十九話 征旅③ 王都決戦

サラームを解放した翌日、俺たちは街に守備隊として歩兵1,000名を残し、サラーム周辺に進出した。


それには理由があった。

この時になって俺たちに合流した、フレイム伯爵の要請があったからだ。


彼はクレイラッドでの王国軍勝利後、一旦カイラールに戻って各方面の状況を確認していた。

そして、南、北、東、西と、全ての戦線での勝利を確認し、後顧の憂いがないことが分かると、長躯してサラームまで駆けつけて来た訳だ。


公国の内情、貴族の旗幟や領内の状況に疎い俺たちにとっては、国境の安定や周辺貴族の情報など、利益となる部分もある。


フレイム伯爵は、少数派で思うように動けず、窮地に陥っている国王派の貴族を糾合し、日和見を決め込んでいる者たちを取り込む目的もあった。


それは、国境の安定を望む俺たちの目的に利すること、そう考えて彼に協力している。



そしてもう一人、止むを得ないが約束は約束である。

サラームを抑えた結果、思い切って戦力配置を変更するのに伴い、クラリス殿下をサラームに招聘した。


サラームの安定を確保するために、周辺の平定も不可欠だった理由もある。



ここに至って、俺たちは兵力配置と担当戦域を再度改めた。


関門防衛 1,000名(派遣軍)

サラーム 1,000名(派遣軍)

西部方面 1,000名(派遣軍)

北部方面 1,000騎(王都騎士団第三軍)

南部方面 4,000騎(魔境騎士団&第三軍)


関門防衛には、殿下の推薦のあった者を将に据え、周辺警戒に当たっていた軍をサラームに進出させた。


サラーム攻略に参加した歩兵部隊は、街道を西進させ、上流はフェアリーへと繋がる大河の、船着き場に展開させた。この二軍の指揮官を殿下とした。


もちろん俺は、彼女を前線に出す気は毛頭ない。

これが俺のできる、ぎりぎりの譲歩だった。



この西部方面の部隊の隊長にはゴルドを据え、別命を与えていた。


俺が一番恐れていたこと、それはフェアリーから水路を南下し、西からサラームに攻め入られることだ。


そのため、西へ進む街道の終点にある船着場には、歩兵1,000名を展開させたうえ、エランたちを派遣して防御陣地を構築させている。


そして指揮官のゴルドには、戦況不利となれば、船着場の防衛を捨て、サラームの殿下を連れて関門まで撤退するよう言い含めている。



また、第三軍の指揮官には、騎兵を率いて街道を北部に移動してもらい、関門やサラームに通じる要衝を確保するよう依頼した。


それら全ての展開ができて初めて、俺たちの本隊は南進できる。



そして、俺たちが南進を始めるとフェアラート公国内でも、情勢の変化が起こり始めていた。


俺たちカイル王国軍が国境を支配し、サラームとその周辺を抑えたことは即ち、反乱軍の遠征部隊三万が敗北したことを意味する。俺たちはそのことを公国内で喧伝しながら、ゆっくり南へと勢力範囲を伸ばしていった。


この影響は非常に大きく、フレイム伯爵の目論見通り、サラームより南側で未だ旗幟を明確にしていなかった公国貴族たち、そして孤軍奮闘していた国王派の貴族軍が、一気にフレイム伯爵の元に集い始めた。



「フレイム伯爵、なにやら緊急の報告があると伺ったが?」


サラームを出立して南進を始めた三日後、俺たちに少し先行して進んでいたフレイム伯爵が、直々に面会を求めて俺たちの陣を訪ねて来た。


王都まであと1日の距離に迫り、周辺勢力を糾合した彼の元には、既に6,000名近い軍が集結しつつある。



「はい、やっとフェアリーと公国南部の情勢が判明いたしましたので、報告に参りました」



「吉報、ということかな?」



俺は伯爵の明るい表情を見て、だいたいの状況を察することはできていた。

後は……、程度の問題だ。



「仰せの通りです。ここまでの諜報によって、我が王の健在が確認され、現在近衛師団第一軍及び第三軍に、南部諸侯の軍一万を加え、天然の堀である西側の河を避け、王都フェアリーの東側の平原で反乱軍三万と対峙しているとのことです」



「ほう、それでは当初想定されていた、最悪の状況を乗り切られた、そういうことですかな?」



「はい、ヴァイス騎士団長の仰る通りです。魔境伯殿の軍と我が軍、計一万の軍勢でフェアリーの後方を扼すことができれば、同数同士で睨み合っていた戦線は一気に動き出します。

実は今回、そのお願いに参りました」



「これでカタが付けば、今回の戦乱は全て終結するということですな。タクヒールさま、敵軍は恐らく、情勢を正確に掴めず、もたらされる情報に疑心暗鬼になっていると思います。

今こそ一気に進軍し、この戦乱に決着を付けるべきと考えます」



「国王陛下に代わり、私からもお願いいたします。どうか……」



「承知した。フレイム伯爵には、脚の早い騎兵のみ選抜して、決戦場まで我らの案内をお願いしたい。

我らもこれより進軍の速度を速める。

今回はアレとアレで一気に行こうとおもうけど、団長、どうかな?

あまり将来の遺恨を残すのも得策ではないしね」



「アレとアレですな? では先陣は我らが務めさせていただきます。武勇で名高いフェアラート王の御前にて、それに恥じぬ戦いを見せてご覧にいれますよ」



そう言うと団長と俺は不敵に笑った。


俺の向かいには、俺たちの会話の内容を掴みかねて、きょとんとするフレイム伯爵がひとり、取り残されていた。

まぁ、アレとアレではね……



三人の会話が成された翌日、俺たちは王都フェアリーの南東、国王軍と反乱軍が対峙する戦場、その反乱軍が重厚な陣を敷く後背に出ることができた。


俺たち4,000騎と、フレイム伯爵率いる1,000騎、合計5,000騎の軍勢が決戦場となる平原に突如として姿を現したことになる。


平原を取り巻く丘を越える際、俺達からは戦場の様子が一望できた。



「俺たちの南部戦線は、魔境の木々に遮られて戦場全体を見渡すことができなかったが、ここは凄いな。

総勢六万の軍勢が、対峙している姿が一望のもとに見ることができる」



そのスケールの大きさに驚き、俺は思わず感嘆の呟きを漏らしていた。


ここから見ると、手前に反乱軍部隊が大きく三隊に別れ、国王軍に対峙している。

フレイム伯爵によると、左翼の旗印は近衛師団第二軍、中央が反乱軍の首魁、イフリス公爵率いる部隊、そして右翼と、各隊一万ずつが大きく左右に伸びた包囲陣、いわゆる鶴翼の陣で展開している。


それに対する国王軍は、恐らく五千名ずつの隊に分かれた魚鱗陣、いや、車懸りの陣かも知れない。

全軍が6つの集団に別れ、陣を形成していた。


俺は第四次川中島決戦を思い、胸を躍らせてしまった。



「団長、団長も一度は、このような大軍が相まみえる決戦場で、采配を振るってみたいのではありませんか?」



「ははは、そうですな、いつかは私も数万の軍勢をこの手で動かしたいと思ったことがあります。

ですがそれはこの旗の下で、それは外せませんよ」



そう言って団長は俺たちの軍旗、魔境騎士団旗を仰ぎ見て、誇らしげに微笑んだ。

漆黒の生地に、剣を握り羽ばたく鷹が白く染め抜かれ、錦糸で縁取られた我らの旗は、風を受け、西方向に力強くたなびいていた。



「それに、千の軍勢で万を手玉に取ること、それは我ら用兵家にとっては、いささか醍醐味のあることですよ」



そうだな……、フォローはしてくれているが、本来団長は数万の軍勢を統率していたのだ。

そして二万の精鋭騎兵部隊を、手足のごとく動かし采配を振るっていた。


一年前、休戦協定が切れる前に訪れた、グリフォニア帝国第三皇子の意を受け、招聘に訪れた使者を、一顧だにせず断り、団長は頑なに俺の傍に居続けてくれた。



「団長、今回は奇道ですが、いつか必ず、万の軍勢の采配を振るっていただけるよう、俺も頑張ります」



「ははは、楽しみにしております。

ですが私は、いや、傭兵団の全員が、貴方に付いて来たことが間違いのなかった選択として、本当に良かったこととして感謝しています。どうかその点はご安心ください」



「あっ! ひとつお願いがございます。

反乱軍の左翼、我らから見て一番左の集団は、上層部の意向に流されたとはいえ、我らと同じ近衛師団に身を置く者たちです。

彼らはきっと動きません。ですから、どうかそちらへの攻撃はご容赦いただくようお願いいたします」



ん? どう言うことだ?

彼らは近衛師団でありながら、真っ先に国王を裏切った者たちと、フレイム伯爵自身から聞いていたが……

まぁいいや。



「伯爵、承知しました。ですが、此方に攻撃を加えてきたら遠慮なく反撃しますよ。それはいいですね?」



「はい、よろしくお願いします」



フレイム伯爵の自信に満ちた顔は、この状況でかなり不自然だったが、今はそれを論じている時間はない。



「では団長、そろそろ始めますか?」



「はっ! 魔境伯軍及び王都騎士団第三軍に下命!

これより反撃体制を維持しつつ丘を下り、敵陣から1,500メルまで接近せよ」



「応っ!」



俺たちは丘を駆け下り、敵中央部の正面1,500メル付近に再布陣した。

そして騎馬隊が整列し壁となる後ろで、アストールたち地魔法士と、バルトやカウルは忙しなく動き始めて、作戦の準備を進めていた。



「あの……、三万の軍勢に四千で突撃を? 

敵軍にも魔法兵団はいるでしょうし、彼らほどではありませんが、魔法士はそれなりの数がいます。

無意味に突出するのは、あまりに危険では?」



「フレイム殿、どうか魔境伯率いる軍の流儀、とくとご覧ください」



団長が笑顔で言った言葉にも、フレイム伯爵は相当不安そうだった。


伯爵自身は恐らくこの戦場での俺たちの役割を、徒に戦線参加せず、ただ敵軍の後背を扼し、新たに戦場に現れた国王派の増援部隊として振る舞えばの良い、そんな考えをしていた節もあったし。



「タクヒールさま、各所、準備が整いました。全て青旗が上がっています」



「では団長、任せます」



「全騎馬隊! エストールボウ及び予備クロスボウの装填確認、遠隔機動攻撃を行う。縦列陣にて突撃用意!」



「鐘、連打開始!」



「突撃!」



団長の合図とともに、4,000騎の騎馬隊は、敵軍中央に陣取る最も層の厚い場所へと、突進を始めた。

縦列陣で突進する必殺の槍は、反乱軍目掛けて放たれた。



この日王都フェアリー郊外で行われた決戦は、その後フェアラート公国内で、永く語り継がれることとなった。


カイル王国の必殺の槍、カイル王国の不殺の槍、カイル王国の殲滅魔導、それを率いた、殲滅魔導士魔境伯、疾風の黒い鷹の異名と共に……

いつもご覧いただきありがとうございます。

次回は『フェアリー凱旋』を投稿予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。


※※※お礼※※※

ブックマークや評価いただいた方、本当にありがとうございます。

誤字修正や感想、ご指摘などもいつもありがとうございます。

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