第二十七話(カイル歴503年:10歳)人材収集④ ソリス魔法兵団の誕生
「タクヒール、またなのかっ!」
父が顔を引きつらせながら、大きな声を上げた。
「はい、新たに3名が魔法士としての適性が確認できました。これで累計10名になります」
「お前という奴は…」
あいた口が塞がらない、半分呆れながらも、少し父は嬉しそうだった。
これまでの短期間に、既に俺は7名を父に紹介し、ソリス男爵家お抱えの魔法士としていた。
〜1人目と2人目〜
始まりは3か月前、第一回射撃大会が終わった後だ。
若年ながらに高い才能を示した、クリストフとカーリーンについて、俺は両親に作戦開始を告げた。
「特異な弓の才能は風に愛されているもの、という話もあります。2人に対して、風魔法の適性を確認するため、魔法儀式をやってみたいと考えています」
そう、父に申し出た。まぁ父からすれば、そんな都合の良い話が……、という感じで、
「無駄遣いはするなよ」
そう念を押されたが、許可してもらった。
結果は予想通り、二人に風魔法の適性が確認された。
「タクヒール!それは真かっ?」
「はい、ソリス男爵家で初めての魔法士です」
領内で初めて(母が連れてきた地魔法士サラは元々他領の魔法士)の魔法士発見に父は大いに喜び、早速2人は高給をもって男爵家に雇い入れられた。
2人はまだ若く、実戦に出ることは憚られたが、兄や俺と一緒に学ぶ機会が与えられ、ソリス男爵家家臣として働きながら学ぶ待遇が保証された。
「俺が……、家臣に、本当ですか?」
「ありがとうございます。私が働けば家計の助けになります! でも、本当に良いんですか?」
2人はあまりの好待遇に、遠慮しつつも、喜んで受け入れてくれた。
〜3人目と4人目〜
その勢いで、数日後には領民の部で上位入賞(2位、8位)した2人も魔法適性の確認を提案、彼らにも適性確認の儀式を受けてもらった。
実は2人とも俺の中で既にリストアップされていた人材なので、完全な出来レースだけどね。
彼ら(ゲイル、ゴルド)は、大会の結果を受け、弓箭兵として正式に召し抱えられており、今後は従軍魔法士としてソリス弓箭兵部隊の一員になった。
〜5人目〜
クレアは既に俺の右腕として活躍してくれていた。実は一番最初に発見できた候補者も彼女だった。
難民対応や、射的場運営など、身近な所で尽力してくれてた彼女の名前を、リスト上に見出した時、俺は嬉しさのあまり飛び跳ねて喜んだぐらいだ。
彼女については、根拠も理由づけも無かったので、両親には黙って適性確認を受けさせ、後に発見したものとセットで伝えるつもりでいた。
「私にこんな力があったなんて……、これで、やっと、ご恩に報いる事ができますっ!」
クレアは自身の魔法士適性に泣いて喜んだ。
「クレアは今までも十分報いてくれてるよ、だから気楽に構えてね」
最初に彼女を孤児院から採用した事、それを凄く恩に感じている様だが、気にしないで欲しいなぁ。
孤児院からは、年長者でまとめ役のクレア以外に、働く事が可能な多くの子供たちを雇用している。
今や射的場や、実行委員会の仕事は、彼らにとって貴重な働き口になっている。
実は、孤児院には他にも何人か魔法士候補者がいる。
エストの街の孤児院は街の規模に比べかなり大きい。
両親が孤児の救済には熱心で、院への支援金も十分に行き渡るよう配慮されていたからだ。
そのため、エストの街の孤児院には、周辺の領地からも孤児が集まり……、引き取られてくる。
今では100人前後の孤児がいるはずだ。
少しでも孤児たちの糊口を満たすため、孤児たちは幼いころから一生懸命働く。
彼らにとって、真っ当なお仕事、俺が用意した様な好待遇、かつ定職は非常に少なく、彼らの採用には凄く感謝されていた。
〜6人目と7人目〜
6人目はエランだ。
彼も実行委員の補佐として、既に囲い込んでいた。
「本当に、僕にお仕事をいただけるのですか?」
初めて声を掛けた時、突然の申し出が信じられない、そんな感じで怪訝な顔をしながら、聞き返した顔が印象的だった。
彼はエストの街の貧民街出身で、少しでも家族の食費や食べ物を得る、その目的で毎日射的場に来ていた。そんな彼は、思いがけない幸運で得た仕事(実行委員補佐)を真面目にこなし、懸命に走り回った。
「エラン、そんなに根を詰めなくて良いよ!帰ろう」
「あ、タクヒールさま、もう少ししたら帰ります」
「頑張ってくれるのは嬉しいけど、ほどほどにねっ」
「僕、お仕事いただけてる事が、嬉しくてつい……」
エランと俺のお決まりの会話だ。
毎日遅くまで頑張るエランに、気分転換、とばかりにエストの街の郊外に同行してもらった。
俺が行く、治水工事視察のお付きとして。
そこでは洪水に備えた治水工事が行われていた。
何百人もの兵士や人夫が働き、一角では地魔法士が魔法を行使して、大地を削っていた。
地魔法士の様子を特に興味深く見ているエランに、
「工事について何か思う所でもあるかい?」
「この堤、オルグ川の氾濫に対するものだと思います。だとすると、これでは危ないと思います」
「どうしてそう思ったのかね?」
横からレイモンドさんが優しい言葉で入ってきた。
「このままだと……水が逃げません! 単に周りを削って土を盛るより、水の逃げ道を作り、そこから土を削るべきです」
普通なら家宰に声を掛けられた時点で、彼は恐縮し、かつ緊張して何も答えられなくなる筈だった。
でも、工事の事については、不思議なぐらい毅然として、自身の意見を述べた。
「タクヒールさま、暫く彼をお借りしても?」
「はい、レイモンドさんに彼をお預けします」
事前知識がない彼が、堂々と述べた意見に感じるものがあったのだろう、レイモンドさんは地魔法士と彼を引き合わせ、何と彼の意見を工事で採用した。
地魔法士も、地形を正確に読み、適切な提案ができるエランに対し、驚きながらも、彼の意見が価値のあるものとして評価してくれた。
エランは本当に暫く(数週間)帰って来なかった。
その地域の工事が終わった後も……
こんな経緯もあり、エランの適性確認は簡単に許可が下りた。
「エラン同様、兆候があるものを数名確認しますね」
俺はこの機会に、『ついでに〇〇もいかがですか?』……、の作戦を実行した。
結果、エランとメアリーの2人に地魔法士の適性が確認できた。
メアリーはマーズの町にできた、射的場で受付として働いていたのを発見、すぐに囲い込んでいた。
彼女の場合、儀式を受ける為の根拠はない。
敢えて言えばエランのついで、たまたま居た、その程度だ。
理由を求められれば、そんな感じでしか言えない。
歴史書では、彼女はマーズの町出身で、今年が没年になっていた。
おそらく【前回の歴史】では、洪水の犠牲になってしまったのだろう。
でも、【今回の世界】は違う。
彼女は地魔法士として、町を守る側になったのだ。
そこにクレアも今回発見した事にして抱き合せで一気に3名を報告した。
彼らを両親に紹介した時、一番喜んだのは母だった。
「今、1番必要な時に、貴方は……本当にありがとう」
母は何かを言いたげだったが、言葉を飲んでそっと俺を抱きしめてくれた。
「エランとメアリーは母上にお預けします。彼らが地魔法士として、活躍できるようお願いします」
そう、元々工事に携わる地魔法士は母の実家の助力を頼りにしていたが、ゴーマン子爵の派遣要望もあり、コーネル男爵は非常に苦しい立場だった。
これで実家の顔も立ち此方も工事が進む目処も立つ。
母は凄く喜んでいた。
これにより、数か月経つころには、土木工事も一気に進み、遅れていた進捗は一気に捗ることになった。
更に母は彼らの世話や教育など、仕事以外の面倒も見てくれ、実の子供のように可愛がってくれた。
そういった経緯で、ここまで7人を的中させ、男爵家に仕えて貰っていた。
既に父から貰った紹介料【儀式5回分金貨×7人分】は相当な額にのぼっていた。
「今後は候補者が見つかれば此方の責任で進めても構わないですか?」
もう父から「無駄遣い……」という言葉は出てこない。
「もう、そろそろ……」
「貴方のお陰で非常に助かってます。これからも、思うようになさい」
何か言葉を言いかけてた父を、母が別の言葉で上書きした。
そんな父を見て、少し心が痛んだが、結局俺は完全にスルーし、母の言葉に従った。
〜8人目、9人目、10人目〜
あまりにも的中率が高すぎると怪しまれるので、今回はわざと失敗を混ぜた。
「1度目は練習だから、好きな属性を選んで」
俺は悪戯をする子供の顔で3人に告げた。
「もったいなくて……」
「練習だなんて……」
「本当に良いんですか?」
躊躇する3人に俺は説明した。
「実はね、調子に乗ってしまい、これまで上手く行きすぎて……
このまま10連続で成功なんてしたら、ちょっと周りの目が厳しくなるんだよね。
3人に適性があるのは、確信を持ってるんだけど、少しでも誤魔化すため、失敗の事例を作りたいんだ」
うん、正直に話したけど、物凄い怪しい話を自分自身がしている自覚はあった。
「なので、本番前に少しだけ協力して欲しい」
「あたし/私/俺で良ければ、喜んで!」
サシャは元々難民だった。
エストール領の中で最も最果ての村に住み、3年前の干ばつで耕作地が全滅、仕事を求め家族と共にエストの街に流れて来ていた。
難民の自立支援の一環で、彼女は受付所で働き、それ以降も色々と仕事をして貰っている。
ローザはエストの街の施療院で働いていた。
施療院は無料で傷病者の治療を行う(薬代は有料)
領主から支援や寄付で運営され、戦時には看護兵を供出している。
俺は大会の際、万が一の怪我や負傷に備えて、そういう理由を付け彼女を確保していた。
バルトはクレアと同じ孤児院出身だ。
まとめ役のクレアに対し、面倒見の良い兄貴分として孤児達から慕われ、人気もクレアと二分していた。バルト自身はクレアを姉のように慕っていたが……
それぞれ、予定した失敗の後、水魔法士、聖魔法士、時空魔法士として、無事適性を確認、彼らは新しい世界にその一歩を踏み出した。
※
そして、父には無事10人を発見、囲い込んだ事を報告した。
「もう勝手にやってよい」
悲鳴のように声を出し、諦めた父は苦笑いした。
ソリス男爵領は短期間に、これまで一人も居なかった魔法士を一気に10名も抱えることになった。
もちろん、他領の目や流言飛語を防ぐ必要があった。
あらぬ脅威として誤解されると面倒だったので、魔法士の件は、非公開情報として秘匿された。
従軍魔法士として軍に所属しているゲイル、ゴルドを除いて。
2人以外、その他の8名は、男爵家に直接出仕するものとして、囲い込まれた。
名目上は母や兄、俺、妹を世話する従者として、実際はこれまで通り、射的場の運営や定期大会実行委員の一員として従事した。
これが後に、ソリス弓箭兵団、ソリス鉄騎兵団と並び、ソリス3兵団として称されるようになった、ソリス魔法兵団の始まりである。
〜参考 魔法士一覧〜
①風魔法士 クリストフ(射的大会3位) 領主館付
②風魔法士 カーリーン(射的大会9位) 領主館付
③風魔法士 ゲイル (射的大会準優勝)常備軍へ
④風魔法士 ゴルド (射的大会8位) 常備軍へ
⑤火魔法士 クレア (実行委員幹部) 領主館付
⑥地魔法士 エラン (実行委員補佐) 母付き
⑦地魔法士 メアリー (実行委員補佐) 母付き
⑧水魔法士 サシャ (実行委員補佐) 領主館付
⑨聖魔法士 ローザ (街の施療院から)領主館付
⑩時空魔法士 バルト (実行委員補佐) 領主館付
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