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【6巻11/15発売】2度目の人生、と思ったら、実は3度目だった。~歴史知識と内政努力で不幸な歴史の改変に挑みます~【コミック2巻発売中】  作者: take4
第八章 最終決戦編(歴史との戦い)

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第二百五十六話 南部戦線⑩ 鉄壁の盾

鬱蒼とした森林が生い茂り、魔物たちが跋扈する魔境、それ自体が帝国軍にとっては恐怖の対象でしかなかった。

だがその恐怖に打ち勝ち、魔境を焼き払いながら、安全地帯を進む帝国軍の士気は高かった。


何故なら第一に、第一皇子グロリアスの作戦は功を奏し、これまで進軍では危険な魔物たちの襲撃も躱すだけでなく、それらを悉く撃退し、味方に全く犠牲なくここまで進んでこれたからだ。


第二に、この先攻略すべき魔境伯領は、カイル王国でも最も豊かと言われる領地であり、第一皇子は全兵士に対し、魔境伯領内の切り取り自由、略奪を許可していたこと。


最後に、緒戦で難攻不落と言われた、サザンゲート要塞をたった一日で陥落させていたからだ。



「ははは、これより攻撃を開始する。

城壁という穴倉の中にこもり、自身の安全を信じる愚か者どもに、天の鉄槌を加えてやれ!

攻撃開始! 銅鑼を鳴らせ!」



第一皇子の号令一下、本陣に銅鑼の音が響き渡ると、前線の森に潜む魔法士たちが一斉に攻撃魔法を放った。

帝国軍の首脳陣は、数日前に行われた要塞攻略戦が再現されると、期待に満ちた眼差しでそれを見つめた。


数百の火球が空を焦すように飛翔し、魔境伯軍の立て籠る防壁上に降り注ぐ……


轟音を響き渡らせながら、雷光が防壁に突き刺さる……


だが、炎に焼かれ、雷撃が穿つはずの城壁は、何も変わらず威容を誇り続けている。



「……、ん? どういう事だ? 何も起こらんではないか!」



グロリアスが上げた狼狽の声は、帝国軍諸将の胸の内に等しかった。


空を切り裂いて飛び、城壁に突き刺さり暴れ狂うはずの雷撃は、何事もなかったかのように城壁に吸収されていった。

城壁上を襲うはずの火の雨は、着弾する少し手前で停止したかと思うと、嫌な音を立てて消滅していった。



予想だにしない出来事に、一瞬彼らが思考停止になった瞬間、轟音と共に数千本もの矢の嵐が、前線を襲った。



「なっ! 奴らの矢が届くだと? この射程でか!

いかん、一旦兵を下げさせろ! 貴重な魔法士を失う訳にはいかんのだ!」



第一皇子はこれまでの経験から、カイル王国軍の射程は200メルから250メル、そう読んでいた。

そのため大事を取って、その射程外に展開し、魔法攻撃の射程ギリギリ、300メルから攻撃を加えることにより、言ってみればアウトレンジ戦法で、敵を薙ぎ倒すつもりだった。


だが、タクヒールの開発したエストールボウも、日々進化している。


風魔法と連携すれば、300メル程度なら十分に有効射程内であり、しかも城壁上からの打ち下ろしで行われた射撃は、帝国兵の盾を貫くほどの勢いがあった。



「ちっ! 忌々しいあの小僧め。何か対策でも行っているということか……」



この時になって初めて、グロリアスは後悔した。

政敵であるグラートに実力を示すため、緒戦から秘匿戦術である魔法攻撃を使ってしまったことに。


それは正に、ジークハルトが彼を阿呆を言ったこと、それを自ら証明する形となっていた。

そして、敵軍の弓箭兵による反撃で、いきなり200名近い兵士を失い、それに数倍する負傷者を出していた。



「殿下、そう焦らずとも良いでしょう。我らの目的は派手にやり目を逸らすこと。

次の手の準備が整っておりまする」



ハーリーがそう言って指示した先には、帝国内の技術の粋を集めた投石器が組み上げられていた。

本来、大型の重量物を打ち出し、その重量でもって城壁を破壊するものであったが、第一皇子は目的別に二種の投石器をそれぞれ5基持ち込んでいた。


今回ハーリーが用意していたのは、大量の小さな石弾を、より遠くに飛ばすことにのみ特化したものだった。その射程は優に400メルを超える。


以前の戦いで、弓箭兵に痛い目にあった第一皇子は、まだフェアラート公国の反乱兵力と結び、魔法士の援軍が得られる前の時点では、これによる攻撃を対策の目玉としていた。



「よし、敵城壁の高さもある故、400メル以内に接近し、敵の矢の射程外から石弾の雨を降らせてやれ!

これで奴らの弓箭兵も沈黙するだろう」



彼の命令はすぐさま実行に移され、事前に整地された道を5基の投石器が馬に曳かれて前進し、城壁の400メル手前まで移動しつつあった。



「ほう、魔法攻撃の後は物理攻撃ですか?

敵もなかなか、周到に準備をしてきたと言えますな。まぁ我らの手の内を彼らも知りようがないですが」



「そうですね、団長。

クリストフ、アウラに下命! 長槍にて敵の投石器を叩き潰せ!」



俺の命令は速やかに実施された。

元イストリア皇王国のロングボウ兵から選抜された、特殊攻撃部隊は、2人の指揮のもと隊列を組み駆け出していった。



「彼らに攻撃開始を告げる旗を揚げろ!」



俺の指示で、自由射撃開始の旗が上がると、2人はタイミングを合わせて秘匿戦術、長槍を発動した。


一点突破に長けた2人の風魔法士により、とてつもない破壊力と飛距離を与えられた矢群は、空気を切り裂く音とともに、発射準備態勢にあった2基の投石機を直撃した。


それはまさに、凄まじい勢いで槍の嵐が襲ったのごとく。



「なぁぁっ!」



後方で発射のタイミングを見守っていた第一皇子は、驚愕の余り声を上げた。

安全な射程距離外、そう思って配備した投石器には、ハリネズミの如く矢が深々と突き刺さり、それを構成する部品の脆い部分は、鉄槍の攻撃を至近で受けたかのごとく、粉々に砕け散っていた。


そして第二射。


同様に他の2基の投石器が、見るも無残に破壊されていった。



「下げろ! 投石器を後方に下げろ!」



第一皇子の指示が届く前に、後退を始めた最後の投石器に、第三射が襲った。

運悪く後退中であったため、曳行えいこうする人馬もろとも、二組の放った長槍をまともに受け、投石器は粉砕し人馬は引き裂かれた。



「くっ、これでは我らは奴らの武功の引き立て役でしかないではないかっ!

バリスタを前面に出し、一斉射撃で奴らを引き裂いてやる!」



「殿下! 落ち着いてくだされ。

われら本隊の目的をお忘れか? そう熱くなられては、目的を見失いまするぞ!」



「う……、そうだったな。すまぬ、ハーリー」



ハーリーの諫言に、落ち着きを取り戻した第一皇子は、再び不敵な笑みを浮かべた。



「これより作戦の第二弾に移行する!

先ずは魔物を誘引しないよう、死者は直ちに埋葬すると共に、負傷者は拠点に後送せよ。

キリアス卿から言われた、臭い消しの葉を共に埋めるのを忘れずにな。

しかる後、盾歩兵は100名単位の小集団となり、魔法士を護衛しつつ各所に分散せよ!

各所で、配置につき次第攻撃を再開する!」



帝国軍は、再び新たな戦術で攻撃を再開した。



俺は攻撃が再開された帝国軍の対処を、配下のゲイルに任せ、団長とともに戦局全体を見渡すよう視点を変えた。



「それにしても、帝国軍は我々にとって最も嫌な戦術に、対応を変えてきましたな」



そう、俺たちは帝国軍左翼部隊に対し、数で圧倒的に劣る。その数、三分の一以下でしかない。

延々と続く、アイギスの長い防衛線を守備するには、圧倒的に人手が足りないのだ。


帝国軍は数の利を生かし、分散して防壁の各所に魔法攻撃を加えてきた。

その数、約50か所。

とてもじゃないが、兵力も魔法士も足らない。



「ですね。兵を配置できていない場所もあります。これだけの場所を同時に攻撃されたら、我々の兵力では手も足も出ませんね。

幸い、アイギスの強固な城壁は彼らの魔法攻撃にも、びくともしませんが……、あまり気分の良いものではないですね」



「はい。彼らの攻撃はその殆どが、無人の防壁上を削っているだけです。

今のところ、その思惑が不気味ではありますが……」



「その後、他方面、関門やイシュタル、山岳地帯の状況に変化はありませんか?」



「はい、こちらの戦端が開かれたことは気球で伝達しておりますが、他方面に動きはありません」



俺と同じく、団長も何か、帝国軍の動きに得体のしれない不気味さを感じているようだった。

だが、油断させておいて、兵力の薄い部分を一点突破される恐れもある。


この鉄壁の、広大な防衛線が俺たちの弱点でもあることに、俺は内心忸怩たる思いでいた。



その日は、それ以外に目立った攻勢はないまま、夕暮れとなり、帝国軍は拠点へと撤退していった。

その引き際も見事で、逆に俺たちが拍子抜けするぐらいだった。



「奴らも夜の魔境で、攻勢に出るほど愚かではなかろう。しかし、警戒は引き続き厳重に行え。

篝火を城壁の途中まで降ろし、取りつく敵兵がいないか厳重に見張れ。

魔法攻撃に備え、見張りは必ず天蓋を設けた位置から行うように」



団長は各隊の指揮官に交代で休息と見張りを指示していた。



「シャノン、申し訳ないが夜はシャノンの耳が頼りだ。

日中は存分に休んでもらう代わりに、夜間の警戒を頼む。何か不審なことがあれば、遠慮せずにすぐ起こしてくれ」



「そうですな、今日の戦いで多少なりとも血が流れました。

魔物たちが活性化し、夜は危険で斥候も出せませんゆえ、シャノン殿が頼りです」



「はい、夜の警戒、確かに承りました」



俺は団長とも協議の上、事前に幾つかの仕掛けも施していた。

各防壁の直下には敵襲を知らせる仕掛け、城壁の真下に存在する落とし穴、そういった物も施している。


恐らく、敵の夜襲を受けても、不覚を取ることはないはずだ。



開戦初日、アイギスの防衛網は、鉄壁の盾の名の通り、帝国軍の攻勢を全て跳ね返していた。

だがこの時点で、俺は帝国軍、第一皇子たちの意図することを、まだ理解していなかった。

いつもご覧いただきありがとうございます。

次回は『真の攻略目標』を投稿予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。


※※※お礼※※※

ブックマークや評価いただいた方、本当にありがとうございます。

誤字修正や感想、ご指摘などもいつもありがとうございます。

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