第二十四話(カイル歴503年:10歳)人材収集① この世界の理(ことわり)と、魔法スキル
射的場の運営はひとまず順調に進んでいる。
だがこの流れはあくまでも手段であって、目的は別にある。
目的のための土台ができたに過ぎなかった。
「レイモンドさん、今日はお時間をいただきありがとうございます」
「いえいえ、なんでも個人的に質問があるとお伺いしました。私でお役に立てれば良いのですが」
「はい、魔法士の事でお話を伺いたくて……。
もし、仮に、ウチで働いている人が、実は魔法士だと分かった時、どうすれば良いかなぁと」
「どどど、どうして……そ、そ、それを?」
あれ? 変だな。今日のレイモンドさん、らしくない。なんかいつもと違ってキレがないし。
冷静沈着な家宰が変に動揺している。
「いえ、もしこれから見つかった場合、待遇とか一般的な常識が分からないのでお聞きしたくて」
「あ……そういう事ですね。なるほど。ふう」
明らかに安心した顔をし、溜息をつく姿を見て、変なことでも言ったっけ? と不安になった。
「まず第一に、王都あたりでは魔法士は高給取りです。ざっくりと言うと、王都騎士団の中核をなす騎士と同等、と言えばご想像いただけるでしょうか?
ただ、その魔法士が何の属性か、どういった魔法を展開できるかによっても、評価は変わります」
「なるほど、相場みたいのがあるのかなぁ?」
「雇用主が何の目的で、どういった魔法士を求めるか、それで価値は変わってしまいます。
ただ、高位の貴族の中には、見栄だけのために、魔法士を何名も囲い込んでいる方もいますが」
「なるほど、需要と供給なのですね」
「はい、例えば、国境に近いソリス男爵家では、開発と軍事、この二点が最重要課題です。
その為、地・水などの開発に関わる魔法士、火・雷など殺傷能力の高い魔法を持つ魔法士が重宝されますが、他の領地ではまた事情が異なります」
「そっかぁ……うちで払うとすると、100人の兵を統率する兵士長、それと同等ぐらいが精いっぱいだよね?」
「そうですね、それでも中央と比べれば、かなり見劣りはしてしまいますが……
まぁそれまでが、どういった待遇だったかにも依ります。
例えば、もともとが一般の兵士であれば、当面は倍額の報酬でも十分かと思います。
引き抜かれる可能性を無視できるのであれば。と条件は付きますが」
「ありがとうございます。凄く参考になりました」
レイモンドさん、いつの間にか平常運転の、できる男モードに戻っていた。
「タクヒールさまは、新たな魔法士の心当たりがあるのでしょうか?」
「まぁ可能性がある、そんな確度のものですが……」
「それは楽しみです!吉報をお待ちしておりますね」
家宰のお陰で、魔法士の待遇については良く分かった。
そう、俺が射的場の運営に首を突っ込んでいる最大の理由、それは独自の戦力として、魔法士を配下に集めたかったからだ。
この世界で魔法を使えるものは、2種に分けられる。
<一種目>
それは、領主となった貴族の間ではごく一般的な魔法。
固有スキル(魔法)とも言われ、領主と血族のみに発現する可能性がある。
もちろん、血族全てではなく、通常は領主の直系血族でも、発現する確率は半々以下。
これは別名、血統魔法とも呼ばれ、血統に応じて使える魔法属性もほぼ決まっており、両親が異なる固有スキルを持っていた場合のみ、子供には違う属性の固有スキルが発現することがたまにある。
ソリス男爵家では、時空魔法スキルを持つ父と、コーネル男爵系の地魔法スキルを持つ母。
そのため、俺も時空魔法(現在消滅中)の適性を持ち、妹は地魔法(未発現)の適性を持っている。
血統に異なる属性が混じったことで、例外として兄は、珍しい光魔法の適性を持っている。
貴族の間では、異なる血統の固有スキルを持つものを婚姻させ、一族にない属性の固有スキルを生み出す試みも行われているようだ。ただ……子供に望んでいた固有スキルが出るとは限らないけど。
<二種目>
領主(貴族)に関係なく、個人に発現する魔法。
固有スキルとは異なり、領主一族の権限や血統に関係なく、貴族でなくても使える魔法。
本人に魔法適性が有ることが前提で、これを使用できる者は魔法士と呼ばれている。
ただ、この適性を持つものは5,000人に1人と言われ、非常に希少な存在となっている。
理由は簡単だ。仮に魔法士の適性を持っていても、当人が持っている属性に合った、魔法の適性確認儀式を行わないと、魔法士として目覚めることはない。
そもそも、適性の確認を試みる者に、魔法士の適性があるか、更にそれが、どの属性の魔法かなど、事前に知る術はない。
その為、魔法適性を試す場合、さまざまな属性の適性確認の儀式を、片っ端から受ける必要がある。
全ての属性の適性を確認したとしても、そもそも魔法士の適性を持っている者はごく少数であり、費用と時間を浪費しただけで終わる可能性も、極めて大きい。
さらに一番の課題は魔法儀式にかかる費用だ。
儀式には、特定の魔物から取れる、各属性にあった【触媒】が必要となり、一回の儀式でも平民からすれば、年収以上の、莫大な費用が掛かってしまう。
この理由は、儀式で使う触媒が高額なためだ。
触媒を収集するために、魔物が生息する魔境に出入りし、命がけで魔物を狩る。
そんなことを、仕事にしている者もいるぐらいだ。
そういった理由もあり、結果、魔法士は5,000人に1人という貴重な存在になってしまっている。
貴重な故に魔法スキルを持つものは引く手数多で、その殆どが有力貴族に囲い込まれてしまっている。
人口も少なく有力な貴族も少ない辺境の地は、魔法士の数が、ほぼ皆無といっていい。
ソリス男爵家の領内でも、魔法の適性を持つ者は、固有スキルの領主一族以外、1人も居ない。
居ないというより、発見されていない、が正解だろう。
地魔法士であるサラは、母が実家から連れてきた者で、彼女自身がコーネル男爵家の分家出身、血統による固有スキルなのだから。
人口8,000人の領地でも、現実はこんなものだった。
触媒を使用した儀式を行わず、魔法士の適性を判断する試みや、その模索は昔から行われていた。
しかしながら、未だにその方法は確立されていない。
あくまでも、無いよりマシ、そんな風に言われている程度のことだけ分かっている。
例えば、
・地魔法の適性を持つ者
→地脈を読み、鉱山を発見したり、土木工事に秀でる
・水魔法の適性を持つ者
→水脈を読み当て、井戸に適した場所を的中させる
・火魔法の適性を持つ者
→火の流れを読み、火事でも炎に巻かれることがない
・風魔法の適性を持つ者
→風の流れを読み、特に弓の腕前に秀でた者が多い
・音魔法の適性を持つ者
→聴力に優れ、音の聞き分けや音楽の才に秀でる
魔法士の潜在的な特徴としては確度の低い、一般の人よりちょっと優れている能力がある、こんな事が文献にも書かれている程度だ。
だから、俺は策を巡らせた。
それが今行っている射的場の運営に繋がっていく。
※
2月のある日、ソリス男爵家内で行われる、洪水対策で始まった毎月の定例会議も、既に5回目になっていた。
会議の要旨としてはこんな感じだ。
〇洪水対応について
洪水対策の工事が、地魔法士の不足で予定より遅れ気味であること。
理由としては、他領でも土木工事の需要が出ており、母の実家もその依頼を受け、ソリス男爵家に回せる地魔法士の確保が厳しくなったことだ。
周囲の領主にも洪水に関わる警告を出した所、意外にもゴーマン子爵がそれを真摯に受け止め、洪水対策の工事に取り掛かっている。
母の実家も、ゴーマン子爵から工事のための地魔法士派遣依頼が届き、否とも言えず、派遣する地魔法士のやりくりに苦慮しているとのことだった。
他にも、洪水が起こった際の救済や難民対策は、前回の飢饉の際の対応を踏襲することが、今回の会議で決まった。
〇射的大会について
来月には第一回射的大会を実施することが決定した旨の報告。
実施にあたり、運営委員会を設置し俺が統括すること、上位入賞者への賞金金額を議論し確定した。
定期大会については、ほぼほぼ、自由な裁量権と運営を任せてもらえた。
〇追加提案
そして最後に俺にとっては重要案件の提案を行った。
「地魔法士の確保が今は一番の課題だと思います。それに対し、古い文献にあった方法で、領内の魔法士を探す試みを始めたいと考えています」
また、突飛なことを、と両親はちょっと呆れた顔をしたが、それは敢えて無視した。
「仮にですが、私が独自に魔法士の候補者を発見し、正式に魔法士としてウチに紹介できたなら、その対価をいただく事は可能ですか?
確実な方法が見つかった訳でもありません、ただ当面の間、自分自身の持っている金貨を使い、試したい事があるので、是非ご裁可ください」
両親はそんな眉唾な話…と積極的に反対はしなかったものの、見るからに懐疑的な様子だった。
「自己の責任の範疇で行うのであれば、止めはしない。但し貴重な金貨だ。2つ約束をしなさい。
無駄な投資はせず、少しずつ様子を見て行うこと、試して駄目なら素直に諦めること」
許可にあたりそんな条件を付けられた。
「お約束いたします。なお、魔法士紹介の対価として幾つかご了承いただきたいのですが……」
そう、ここからが大事だった。
ここでしっかり小銭を稼いでおかないと……
・魔法適性のある者を発見、紹介した場合対価を貰う
・対価は金貨とし、魔法適性儀式5回分の額とする
・5人紹介するごとに1人を、俺の専任従者とする
・従者となる魔法士でも、紹介の対価は貰うこと
・その魔法士の賃金もソリス男爵家の支払いとする
この条件を飲んでもらった。
ソリス男爵家でも、魔法士は一人でも欲しいのが現状で、儀式5回分の対価など、効率でいえば相当お得だ。
そもそも8,000人程度の人口なら、統計的には魔法士の適性を持つものは1人から2人程度。
それなら、5人を発見、紹介するなんて、夢物語だ。
どう転んでも無理だろう。
父には裏でそんな計算もあったようだ。
まぁ……、そうはならないんだけどね。
俺は周りには見えないように、ほくそ笑みながら、次の手立てに思いを馳せた。
父がお金に余裕のある間に、今後の資金をしっかりいただかないと。
俺の金貨稼ぎは、ここから加速することになる。
ご覧いただきありがとうございます。
30話ぐらいまでは、ほぼ毎日投稿していく予定です。
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これからもどうぞ宜しくお願いいたします。