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【6巻11/15発売】2度目の人生、と思ったら、実は3度目だった。~歴史知識と内政努力で不幸な歴史の改変に挑みます~【コミック2巻発売中】  作者: take4
第八章 最終決戦編(歴史との戦い)

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第二百四十六話 南部戦線② 開戦前夜

ハストブルグ辺境伯らが守る、南国境のカイル王国軍には、東、西、北国境の状況が矢継ぎ早に届けられ、開戦を前にして、緊張感の高まりは極限にまで達していた。


南部諸侯の各軍勢は、既に予め決められていた配置に就き、臨戦態勢をとるなか、各方面の将となる主要者だけが、新たに国境に築かれた、サザンゲート要塞に集結していた。

最後の情報共有のために。



「皆、開戦前の忙しい折、各戦域から集結してもらって済まない。

ここ数年、各位の努力によって予想以上に軍備は充実し、迎撃態勢は整ったといえる。

先ずは戦に先立ち礼を述べたい」



辺境伯の言葉通り、この場には各軍団を率いる者たちが集結しており、それぞれの軍団の最終配置も完了していた。



◆中央防衛部隊(サザンゲート要塞配備)


・ハストブルグ辺境伯軍 4,400名

・キリアス子爵軍    1,400名

・クライツ男爵、ボールド男爵、ヘラルド男爵軍 1,200名


クロスボウ配備の歩兵中心で構成された、これらの部隊7千名は、国境のサザンゲート要塞にたてこもり、敵の侵攻に対し大きな楔となる役割を担う。

仮に左右の丘陵地帯から敵軍が侵入したとしても、この要塞が健在な限り、敵軍は常に後方を扼されて、補給や退路の不安が付きまとう。


だがこの作戦は、左翼側の防衛を完全に捨てた、苦渋の決断の上になりたっている。



◆機動部隊(サザンゲート砦、他配備)


・辺境騎士団本隊 4,000騎

・中央左翼陣営選抜隊 1,000騎


機動戦力となる5,000騎を率いるのは、辺境騎士団長のダレク兄さんだ。


この部隊は本拠地こそ国境より一歩下がったサザンゲート砦となるが、機動戦力を駆使して、国境の要塞を迂回してきた敵の出鼻を挫くこと、魔境内などに幾つか設けられた拠点を転々としながら、騎兵によるゲリラ戦術を取り、敵軍の侵攻を食い止めることを主眼においている。


また援軍の王都騎士団と連携し、最終決戦時には打撃戦力として動く役割も期待されている。



◆右翼防衛隊


・魔境騎士団   2,000騎

・魔境伯軍    1,000名

・ロングボウ兵  2,000名

・屯田兵      200名

・武装自警団    600名


・ゴーマン伯爵軍 1,200名

・ソリス伯爵    900名

・コーネル子爵   400名


右翼陣営は総勢で8,300名の兵力を有する形となるが、防衛線は広大でイシュタル方面からアイギス、そして魔境を抜けてゴーマン伯爵領に至るまで、総延長は50キル(≒km)を遥かに超える。

そのため全体として、軍勢は要所に分散配置して防衛に専念し、本隊のみで敵本営に一点突破作戦を採らざるを得ない状況でもある。


ちなみに、ヴァイス団長率いる辺境騎士団支部は、魔境騎士団と名称を変えている。



「さて、ついに帝国軍もゴールトの城塞から動き出したとの情報も入っておる。あと1日もすれば、国境を越えて侵攻してこよう。

各位にはこの後、直ぐに担当部署に戻ってもらわねばならんが、最終的な情報を共有しておきたい。

すまんが魔境伯、其方が一番状況に精通しておるだろう。可能な範囲で共有を頼む」



「はい、ここに至って、各方面の状況を集約した情報を共有します。

各位にはご存じの部分もあるかも知れませんが、概ねの戦況は、我々が予想した通りに推移しております」



俺はここに至って、ある程度の情報を開示することにした。

これもハストブルグ辺境伯から頼まれ、内容を相談した上でのことだ。



「まず東国境に侵攻した、イストリア皇王国軍ですが、開戦当初こそ苦戦しましたが、撃退に成功しております。現在ハミッシュ辺境伯は、敵国内に逆侵攻し橋頭保を築いており、ここは安泰といえるでしょう」



「それは事実ですか?」



「キリアス子爵、事実です。約一万の侵攻軍は壊滅しています。これで一時的には脅威は取り除かれた、そう考えて良いでしょう。

ただ、問題は他の方面にあるといえます。

西部方面はフェアラート公国の反乱軍の侵攻を受け、クレイラットの地で現在反攻作戦に出ています」



「ク、クレイラットまで侵攻を許したのですか!」



「はい、これも予定の行動です。

我々はかねてから、クレイラットに防衛線を構築しておりました。ここを守るのは王都騎士団第三軍。

彼らは緒戦で、敵軍1万を撃退し現在は戦線が膠着しております」



まぁキリアス子爵始め、情報を知らなかった諸将が驚くのは無理もないが……

予め味方に全て話していては、罠として成立しないし。



「そして北部戦線、こちらにはイストリア皇王国本隊が侵攻を開始しているとのことです。

軍務卿のモーデル伯爵が、中央の貴族から軍を糾合して対峙しており、王都騎士団が後詰めとして待機しております」



「あ、いや、魔境伯は事も無げに仰ったが、慌てて中央で軍を糾合しても間に合わないのではないか?

しかも王都騎士団が後詰めに入れば、我らの方面には一軍しか回って来ないということですか?

我々は壮大な包囲作戦の渦中にある、そうとしか思えませんが」



うん、この辺りは士気の関わることだし、できれば余り公開したくない情報でもあったが、辺境伯からは後になって敵側の間諜から漏れると、それこそ収拾がつかなくなる懸念を伝えられて、首脳部にのみ話すことを決めた経緯があった。


あまり全てを話すと、作戦に影響が出かねないので、一部はフィルターをかけているが。



「キリアス子爵の懸念はもっともなことです。

軍務卿はその職責のもと、今年の春ごろから軍備を整え、兵を募っておりました。それゆえ、急ごしらえの即席軍ではありません。十分に地の利を見分し、その上で布陣されているので、そう易々と抜くことは不可能でしょう」



「では……、王都騎士団は?」



「現時点では一万騎、ないし二万騎をこちらに向ける前提で動いております。

王都では陛下を中心にクライン公爵が総参謀長となり、周囲の戦局に応じ対応できるよう体制を整えております。挙国一致となり、今回の国難に対する体制ができている、そう断言させていただきます。

我々を除く南部貴族軍約一万も、王都に通じる街道上に布陣し、後方を固めております。

我らは所定の作戦通り、眼前の敵にのみ集中すれば良いのです」



「おおっ!」



これには諸将から感嘆のどよめきが起こった。

実際、これまでの戦いでは、俺たちは中央の権力闘争に足を引っ張られることが多く、孤軍奮闘していたと言わざるを得ない。

今回はそれとは違う。俺たちはこの想定で準備を進めてきた。



「キリアス、色々疑念や不満もあるだろうが、我々は予め定められた役目を担うのみ。魔境伯たちが中心となって戦いに勝ち抜く算段は整えてくれておるんじゃ。将が動揺しては士気に関わるぞ」



キリアス子爵を諭した辺境伯自身、今回は自ら最も危険な配置に就いている。



「これまで我らは、正面から帝国と対峙する機会に恵まれませんでした。ですが今回……

やっと積年の思いを晴らすことができます!

今は亡きファルムス伯爵の勇名、それを受け継ぐ我ら3名も思う存分働いてみせまする!」



今回の戦いで最も士気の高い3名、クライツ男爵、ボールド男爵、ヘラルド男爵が立ち上がった。

今を遡ること20数年、初めてグリフォニア帝国軍が侵攻してきたとき、今のハストブルグ辺境伯には3人の盟友がいた。

狸爺が以前涙した、その戦いで失われた優秀な当主たちだ。



そのひとりがファルムス伯爵で、当時は今のキリアス子爵領、3男爵の領地を全て治め、広大な領地と勢力を誇っていた。だが、味方の失策もあり奮戦虚しく戦場に散った。


当時はまだ10代であった彼らは、その戦いで生き残った一族として、断絶したファルムス伯爵領の一部を引き継ぎ、主家の再興を夢見てこれまで戦ってきた。

新しく旧ファルムス伯爵領の一部に転じてきたキリアス子爵の与力として。


今回の戦いのため、3家合わせて1,000名を超える戦力を整えたことで、ハストブルグ辺境伯からは独立した一軍としての立場を与えられ、ファルムス軍としての行動が許されている。



「……」



まだ若く、非常に優秀だが完璧主義なキリアス子爵にとっては、戦局全体の、いや、いち戦局においても主導的な立場にないこと、止むを得ず焦土戦術を採用するため、自領を敵軍に明け渡す作戦についてなど、当初から不満はあった。


だが、左翼軍には敵軍を受け止める兵力も、その力もない。

限られた戦域を担当し、大きな武勲の機会も少なく、手足となる与力も今回は独立してしまった。

今回の作戦は、彼にとっても苦渋の決断であることは言うまでもない。



「キリアスよ、そして諸将も同様じゃ。今回の作戦、南部戦線の結果は王国の存亡に関わるもの。

そして、その光明は右翼軍の勝利、ここにある。

それぞれの思いは多々あろう。じゃが、最も辛く重い役目を魔境伯に任せていることを忘れるでないぞ。

我らは、その勝利のため一日でも長く戦線を維持し、味方を支えることじゃ。

皆、頼むぞ」



「応っ!」



こうして諸将はそれぞれの配置に散っていった。

ずっと秘匿してきたジークハルトとの会話、密約についても、この時点で共有しているのは辺境伯と兄だけだ。彼らが右翼を担当し、第一皇子が左翼、テイグーン方面の主攻となることも。


二人には密かに、敵右翼軍がお茶を濁している間は、こちらも極力犠牲が少なくなるよう、敵に倣いお茶を濁して、敵軍の兵站破壊に徹するよう頼んでいる。


もちろん、本格的に動き出せば全力で対応してもらう前提だが、ジークハルトの戦術は油断がならない。

彼が本気で我らの左翼を攻撃してくれば、それは即ち南部戦線の崩壊にも繋がりかねない。



その為にも、俺たちは敵左翼、第一皇子軍をいち早く潰すこと。

これに専念しなければまらない。



「では辺境伯、兄さん、これより右翼防衛のため出発します。

皆様のご健闘と、ご壮健を心よりお祈り申し上げます」



「魔境伯、ずっと其方とは不思議な縁じゃったな。

初めて投資の件で、其方がひとり、我が元を訪れた日のことが、今となってはとても懐かしいわ。

支える側の立場だった儂が、今となっては其方に頼ってばかりじゃな。

すまんが……、頼むぞ。

ダレク卿は勿論だが、儂は其方も我が息子のように思っておる。決して死ぬでないぞ」



「タクヒール、戦いが終わったら、次は二人でゆっくり、ハメを外して飲み明かそうぜ!

俺より早く父親になった、お前の子供も見せてくれよ。

義父上もお誘いして、この三人で飲んで語り明かそうぜ」



2人に見送られて俺はサザンゲート要塞を後にした。

俺はその光景を見ながら、言いようもない不安が沸き起こったが、それを心にしまった。


誰もがこれから死地に入る。

未曾有の国難、戦役が始まるのだから、それも当然といえば当然だからだ。



「ラファール、後は任せる。辺境伯の身辺、よろしく頼む」



そう呟くと俺は、後ろを振り返ることなく、騎馬を走らせた。俺はこの時の光景を、一生忘れない。

後になって考えれば、多大なる後悔に苛まれる別れだった。

いつもご覧いただきありがとうございます。

次回は『最終決戦の始まり』を投稿予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。


※※※お礼※※※

ブックマークや評価いただいた方、本当にありがとうございます。

誤字修正や感想、ご指摘などもいつもありがとうございます。

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辺境伯?ラファール?どっちかが死んじゃうのか…
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