表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

256/463

第二百三十五話(カイル歴513年:20歳)全ての始まり

今回より最終決戦編に入ります。

できる限り時系列に応じた流れで投稿しておりますが、数話単位で各戦線での話題を行き来します。

タイトルに〇〇戦線と記載しており、タクヒール視点ではない第三者視点のお話も増えますが、この点どうかご容赦ください。

王都での定例会議を終え、俺はアイギスへと戻った。

季節は春から夏に移り変わり、アイギスの段々畑では稲穂が大きく実り始めていた。

この頃になると、全ての戦闘要員はアイギス及びイシュタル方面に配置し、戦時体制へと移行し始めている。



「タクヒールさま! ティア商会からの急使が参っております。お通してよろしいでしょうか?」



「来たか! すぐ会おう。ここに通してくれ」



俺のもとを訪れたのは、全ての始まりを告げる急使だった。

俺は団長、ゲイル、クリストフなど主要な指揮官たちとともに、使者に面会した。



「このような形での訪問、どうかご容赦ください。ハリムから命を受け、ご報告に参上しました。

先ずは急ぎ報告させていただきます。フェアラート公国で内乱が発生しました!

サラームで得た情報ですが、既に王都は陥落した模様です!」



「なっ! 既に王都が? どういうことだ?

近衛師団を統率する国王軍が、いとも簡単に敗れたというのか?」



「ゲイル、落ち着け。使者の役目大儀。

分かる範囲で構わない、そこに至る経緯を説明してほしい」



「はい、発端は春の終わりに始まりました。

フェアラート公国南部辺境域にて、貴族反乱が発生したため、近衛師団2万名と魔法兵団の一部を率い、国王自らその討伐に出られたことに端を発しております」



「国王が王都を空けられた隙に乗じられた、そういうことか?」



「はい、国王と近衛騎士団の主力が不在の王都に、3万以上の反乱軍が突如襲ってきたこと、それに加え、魔法兵団の主力も反乱側に加担し、残留していた近衛騎士団1万も成す術もなく王都を明け渡し潰走したそうです。現在は、反乱軍が王都を占拠しております」



そうか……、既に王都フェアリーもか。

国王側でも警戒してたはずなのに、手際が良すぎるな。

黙って瞑目する俺に代わりクリストフが問う。



「で、反乱軍は王都を掌握しただけか?」



「我らにも詳細は分かりかねますが、反乱軍は各貴族を糾合し、公国の半分以上を掌握しているように思われます。裏の世界にて商いを行う者たちの情報では、サラームの領主も恐らく……」



「予め用意周到に計画された作戦なら、王都から北は全て反乱軍側の陣営と考えるべきでしょうね」



団長も続いて見解の言葉を述べた。

その読みは恐らく正しい。



「そして国内が安定したら、その矛先はこちらに向かって来るでしょうな」



「団長の言う通りですね。ここからは情報の速度が大事になるだろう。

使者として、長駆してここまで駆けつけてくれたのに申し訳ない。

可能な限り早くサラームに戻り、公国内で王国侵攻の兆しが見えた場合、侵攻軍に先立って伝えて欲しい。

そうハリムに伝えてもらえるかい?

あと、王都方面への使者は同時に出ているのかな?」



「はい承知しました。使者に関しては此方と王都、二方面に走らせております。

それでは我らは、一旦サラームに戻りますが、状況の変化に応じ、既に次の使者が立っている可能性もあります。事態はそれほどの速さで動いているようです」



なるほどな……

用意周到に準備された手を、反乱軍は矢継ぎ早に打って来ているということか。



「頼む! ハリムにもよろしく伝えてくれ。

十分に用心して、焦って無理だけはしないようにと」



「はっ! ありがたく」



そう言って使者は再び、サラームへと戻っていった。




使者を送り出した翌日、今度は王都から急使が到着した。外務卿からの使者に同行してきた者、一名を追加で伴って。


早速俺はアイギスの指揮所で彼らに面会し、開口一番で使者に同行してきた者に告げた。



「フレイム伯爵、今お国で起こっている事態、お心を痛められていることと存じます。

だが我らも今は逼迫した状況下、さしてお力になれず非常に心苦しいのですが……」



「なんと! 魔境伯は既にご存じと言うことですか?

いやはや、驚きました。

私は魔境伯に、今回の事態を急ぎお伝えするため此方に参ったのですが……」



フレイム伯爵はそう言いながらも、蒼白な顔をしている。

国王の信の厚い彼が、主君の窮地に助力できないこと、恐らく身を切るような思いなのだろう。



「この度、貴国の外務卿の許可を得て、こちらに参上いたしました。先ずは我が王からの書状をお確かめください。なお、外務卿を通じてこちらの内容に類する親書を、カイル王にもお渡ししております」



そう言って、蝋で厳重に封印された書状を差し出された。


俺宛に?

フェアラート国王からの親書?


俺は訝しがりながら、内容を確認した。

そこに書かれていたことは、俺の予想通りの内容だった。



ひとつ、この書状が届く頃には、公国内で反乱が起こっている可能性が高いこと

ひとつ、反乱が起こった際、王弟と王妹の身を案じ、カイル王国に匿ってもらうよう依頼していること

ひとつ、その護衛として、フレイム伯爵を付けていること

ひとつ、カイル国王に対し、助力を求める書状を出しており、反乱軍討伐依頼書を添えていること

ひとつ、反乱軍の討伐に関して、フレイム伯爵の知見を活用してほしいこと


最後に……


『今回は我が身の至らぬ所により、貴国に多大な迷惑を掛けてしまうことを、深くお詫びする。

フェアリーで共に酒を酌み交わした夜のことは、今も忘れ得ぬ、かけがえのない思い出となっている。

いつかまた、勝利の後に共に、心ゆくまで酒を汲み交わさん』


そう記されていた。



事前に討伐依頼書を用意しているとは、抜け目がないな。


これがあれば、侵攻があっても、カイル王国とフェアラート公国が戦争状態になったことにはならない。

形式上は、国内の反乱分子が、国境を侵し侵攻しただけのことになる。

そして、カイル王国側では、侵攻軍を追って国境を越えて戦闘しても、侵略に当たらない。


もっとも、反乱軍の侵攻が発生すれば、公国は王国に対して謝罪や援助の対価を支払うこと、それが必要にはなるが……



「ではフレイム伯爵はお二人方を伴って?」



「はい、10日前に王都カイラールに入りました。カイル王、クライン公爵には此度の件で、お力添えいただいております。

私がここまで参りましたのは、書面にない報告を、魔境伯にお話しさせていただくためです」



「人払いの必要はありますか?

今ここにいるのは、わが陣営で軍事の中枢を預かる者たちですが」



そう言って俺はさりげなく周囲を見渡した。



「私は一時退席しております。クライン公爵からのご伝言もございますので、後ほどお伝えします」



フレイム伯爵に王都から同行していた使者は、機敏に察して退席した。

その様子を見て、フレイム伯爵は話し始めた。



「魔境伯と共に、軍事を預かる方であれば、問題ございません。

正直なところ、此度の反乱は我が王も予め予期されていたことでした。そして、このまま放置すれば近いうち、貴国を巻き込んだ泥沼の内乱となることも」



「では、敢えて内乱を誘発された、そういうことですか?」



「そう言われれば、身も蓋もありませんが、仰る通りです。

公国の南部一帯は、中小貴族の領地が中心であり、その多くが陛下の治世を認める者たちです。

逆に中央のフェアリー周辺、それより北部は全て、不平貴族の所領となっております」



「包囲される恐れのあるフェアリーから、核となる戦力を伴い南に進出され、そこから一気に北進して平定されるお心積り、そういうことですか?」



「はい、当初の予定では遅くてもひと月、それまでにはサラームまでは平定できる予定だったのです。

陛下は、極力貴国にはご迷惑を掛けないお心積りでしたから……」



「ふむ、では想定外のことがあったと?」



「はい、当初反乱軍の初期兵力は2万から3万程度、残りは日和見を決め込むと思われていました。

ですが、配下の者から得た報告によると、総数は約6万を超える数に膨れ上がりました」



「むう……」

「ろ、6万ですと!」

「それでは、想定と余りにも……」



思わずクリストフ、ゲイル、団長が声を上げた。

実際、俺の中でも想定を遥かに上回っている。



「王都に残していた近衛師団第三軍は、反乱軍を引き付けつつ後退し、時間を稼ぐ予定でした。

ですが、その軍が反乱軍側に回り、我らの戦力が1万減り、それが反乱軍側に……

私が王都に残ってさえいれば……」



フレイム伯爵は悔しそうに唇を噛みしめていた。

味方が一万減り、敵が一万増える。それだけでも国王軍側では二万の誤差が生じてしまう。

そして日和見していた勢力も、一気に反乱軍側に参加してしまったのだろう。


それもこれも、国王が読み違えるぐらい、裏で糸を引き、暗躍している奴でもいるのか?



「団長! 総数6万ともなると、侵攻軍は最大3万程度、それぐらいは此方に振り向けてくるんじゃないですか?」



「フレイム伯爵、私はタクヒールさまの配下で、軍事を預かるヴァイスと申します。

質問を許可いただけますか?」



「はい、構いません」



「フェアラート王の現有兵力ですが、近衛師団2万名、それで間違いございませんか?

反乱軍平定の勝算などは、どうお考えですか?」



「南部一帯の国王派の貴族を糾合すれば、3万程度にはなります。幸い南部には穀倉地帯もあり補給などの物資の備蓄も十分です。そして、陛下は軍事に明るく、近衛第一師団は国内最強です。

時間を掛ければ、数の不利も覆せると考えています。

ただ、今のところ完全に信用できるのは、近衛第一師団1万と、我らの盟友貴族の総数五千程度です。

ただし、この国に匿われている王族を、彼らに担ぎ出されることにでもなれば、もうどうしようもなくなりますが……」



「タクヒールさま、最悪のケースで考えましょう。

味方は1万5千、それを抑える敵方は3万、国内に多少の兵は残すでしょうが、侵攻軍は3万で考えるべきでしょうね。

これに二つの侯爵軍、西の辺境伯軍とその配下、釣られた周辺貴族を合わせると約1万程度。

結果として、西部戦線は4万近い敵兵力の侵攻を考えねばならないと思います」



「だよね……

因みに伯爵、魔法兵団はどうなっているか分かるかな?」



「貴族側の魔法兵団が凡そ300名、近衛第三師団に60名、それに各貴族の魔法士を加え、恐らく500名前後にはなるかと……。ただ、陛下の下に少なくとも100名前後が付き従っております」



「なら、こちらに来るのは、300名を超えるな。最悪400名想定か……、厳しいな」



カイル王国側でも、今は動かせる兵力の最大限を絞り出している。

それでも全軍で8万前後だろう。

まだ数に含めていない貴族の兵力はあるが、正直言って戦いの役には立たない可能性が高い。


一方敵軍の総兵力は、11万を軽く超えてくるだろう。

そして急所は、南部戦線の左翼と、西部戦線か。



「クライン公爵の使者と会ったあと、急ぎガイアに向かうので、クリストフは同行を頼む。

あと、エランを大至急呼び出してほしい。彼も同行して、いや、エランは彼方に合流してもらう。

そこから戻れば、直ちにハストブルグ辺境伯に会うため、魔境を抜けてサザンゲート要塞に向かう!

団長、そちらには同行をお願いできますか?

フレイム伯爵は、今話し合った最悪の想定を王都に戻り次第、クライン公爵に伝えてほしい」



俺はその後、急ぎクライン公爵の使者と会った。

その内容は、イストリア皇王国が兵力を集結しつつあること、間もなく戦端が開かれる可能性が高いことなどの情報共有だった。



やばいな……、此方が色々想定して準備していると言うのに、それも含めて想定外の事態になっている。

歴史の反撃が、ここまで悪辣だとは思ってもいなかった。

万全を期したと思っていた西側も、今のままでは防ぎきれない。


歴史は何が何でも、カイル王国を滅ぼしにかかってきている、そうとしか思えなかった。

想定を超える最悪の事態に、俺はひとり焦っていた。

【お知らせ】

いつもご覧いただきありがとうございます。

9月よりしばらくの間、投稿は今までの隔日から三日に一度のペースとなります。

お待たせして申し訳ありませんが、何卒よろしくお願いいたします。


最終決戦に向けて、楽しんで読んでいただけるよう頑張りますので、変わらぬ応援をいただけると嬉しいです。


次回は『開かれた戦端』を投稿予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。


※※※お礼※※※

ブックマークや評価いただいた方、本当にありがとうございます。

誤字修正や感想、ご指摘などもいつもありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ