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第二百三十一話(カイル歴513年:20歳)周辺国の動静 フェアラート公国

9月以降の投稿について、後書きにお知らせがあります。

フェアラート公国の王都、フェアリーでは今年、国内に不穏な動きを感じさせる年明けとなった。


王宮で行われる、恒例の新年を祝う宴において、参集した有力貴族たちは、形ばかりの祝辞を国王に述べると早々に退席し、いつもの盛大な様子とは打って変わった、閑散としたものとなった。


それを見て、苦笑を浮かべた国王もまた、側近を伴って早々に執務室へと下がった。



「さて、フレイム伯爵よ。不平貴族共はそろそろ暴発するか? その態度をあからさまにしてきたな。

其方はこれをどう推測する?」



「はっ! 不平貴族の中で、既に態度を明確にしている者はおよそ60家と思われます。

現状では様子見ですが、恐らくそちらに転ぶ者が80家程度……」



「ははは、およそ半数か。余も嫌われたものだな」



「半数ではございませんぞ! 先に申し上げた者共、その中には公国の有力貴族30家を含んでおります。

勢力で言えば7割近くが敵側、そう言っても過言ではありません。このままでは恐らく……」



「公国を割る内乱となるか?」



「はい、残念ながら……

我らの力が及ばず、誠に申し訳ありません。

我らとて、日頃から不平を述べていたとは言え、奴らにそこまで気概があるとは思ってもみませんでした。

これほど一気に反乱の気運が上がるとは、これではまるで……」



「後ろで糸を引いている者がいる、そういう事か?

ここに至っては、もう致し方あるまい。一気に暴発させて片を付けるしかあるまいな。

一時の恥もやむを得まい。

これから余は、王都を追われた無能者となるだろう」



「陛下っ! それは余りに……」



「余を慕う者たちが集う、南から順次固めていく。

余は不穏な空気に恐れを抱き、王都を離れて南の反乱を征討するため出陣、いや、逃げ出すとするかな?

そうなればこの国に溜まった膿も、一気に噴き出すことだろうよ。

それに先立ち、弟と妹たちを使者として、密かに隣国に送り出そうと思っている」



「な、な、なんとっ!」



「ここに居れば、必ず不平貴族共に傀儡として祭り上げられる。

そうなれば余は、大切な弟や妹を、反乱に加担した者として、罰せねばならなくなる。

反乱の首魁ともなれば死罪、それは余りにも忍びない。本来は彼らを、政争の具にしたくないからこそ、自ら混乱を承知で王位を継いだというのにな」



「お気持ち、お察しいたします」



「カイル王にはご迷惑をお掛けすることになるが、落ち着くまで匿っていただく。

その依頼を記した文を其方に預け、弟と妹を其方に託す、どうか彼らのことを頼む」



これは前回の歴史で、カイル王家が辿った道を知る者にとっては、因果な縁としか言いようのない事であった。

前回はこの年のカイル王国滅亡の折、カイル王が王位を継がず宰相となった彼を頼り、妻子を送り出していたのだから。

それと立場を変えた逆のことが、今回の世界では起ころうとしていた。



「陛下! 私はお供させていただけないのですか?」



「ふん、近衛師団の時から、俺はお前を一番信頼してきた。腕自慢なら他にもいるが、政治向きの話が分かり、かつ事後を託せるのはお前しかおらん。

友よ、頼む。

俺は勝つつもりだが、その保証はないし時間もかかる。かの国にはもうひとり、友と呼べる男もいる。

彼にも文を託すゆえ、その繋ぎを頼みたい」



いつの間にか国王の言葉使いは、かつてフレイムと共にあった、近衛師団時代のものに戻っている。

フレイム伯爵もそれには気付いていたが、まるで昔の関係を懐かしむかのように、敢えてそれを咎めない。



「本当に貴方は変わりませんね。近衛師団の時から、面倒ごとを笑って押し付ける上官でしたよ。

それにしても、カイル王国とてただでは済まないでしょう。どうされるおつもりですか?」



「もう一人の友には既に策を授けてある。そして、先方でも色々と事情はあるであろう?

我が国の不平貴族共と、先方の復権派が結託して何か企んでおるのを掴んでいるはずだ。

有事の侵攻に備え、既に対策を採っているとも聞いているしな。俺は自身の目と友を信じるさ」



「ただ巻き込まれるのではなく、王国側にもそれなりに責のある話だと?」



「そういうことだ。その責任は取ってもらわんとな。

まぁ……、王国には後日、それなりの対価を払うことにはなるだろうが、このまま座して国を割り、分裂することに比べれば、それも些細なことよ」



「あの時から、そこまでお考えだったのですか?」



「ああ、そもそも未来を託すに値する人物かどうか、それを見極めたくて呼んだのだからな。

実際に彼と会ってみて、期待以上だったのは嬉しい誤算だった。既に今頃は、我が国の情勢も諜報により詳しく掴んでいると思うぞ」



「あの……、ただ気になることもあります。

カイル王国も今、非常に危うい状態だと聞き及んでおりますが……」



「確かにな。数年前のカイル王国なら、俺もそんな危ない橋を渡ることはなかったよ。

だが、今は違う。

フレイム、俺が近衛師団の時から、武力以外で最も力を入れていたことは何だ?」



「諜報でございましょう。特に我が国の国外諜報網については、近隣諸国のそれよりも遥かに優れていると自負しております」



「ああ、その通りだ。魔境伯にもそれとなく、その事は伝えた。自身ももっと用心するようにとな。

彼はその警告に応えた。俺の期待通りに動き始め、王国内に警鐘を鳴らすと同時に、我が国にも新たに諜報網を築きつつあるようだ」



「それと何が関係あると?」



「それだけ優秀な男が、むざむざ帝国にしてやられる訳がなかろう?

帝国軍は魔法士の恐ろしさをまだ十分に知らん。

これまでの魔境伯の戦いは、運用できる兵も魔法士も数は少なく、採れる戦術も限られていた。

だが今は違う。魔境伯は本気で魔法士を使った戦術を構築し、恐ろしいまでの力を振るうだろう」



「貴方の魔境伯への肩入れは、相当なものですね」



「同じく自らが魔法士でないことに苦しみ、逆に冷静に魔法士の力を見据えることができるからな。

同じ立場の俺には、それが非常によく分かる。

このこと、当のカイル王国内ですら、理解している者は殆どおらんだろうよ」



「そんなものですか? 私にはよく分かりませんが」



「ああ、俺の予測では王国は必ず勝つよ。

今回は王国の中枢も彼の味方だし、軍務卿も何やら動いているようだしな。問題は被害の程度、といった所だろう。

王都までは絶対に落ちん。俺はそう読んでいる」



「仮に対外諜報魔法というものがあれば、貴方は一番の使い手となっていたでしょうね。

断片的な情報を集めて仮説を立て、更にそれを検証して確証に変える。この技術はもはや才能ですから」



「ははは、魔法が使えん半端者だ。それぐらいの取り柄がないと、立つ瀬がないわ。

今回の反乱、当面の敵軍は2万から3万、その予測で間違いないか?」



「そうですね。ただの反乱ともなれば、二の足を踏む日和見者も多いでしょう。

弟君や妹君がご不在で、祭り上げることができなければ、フェアリーの留守を襲えるのは3万程度です。

領地を全て空けて軍を出すわけにもいきませんからな」



フレイム伯爵の言葉に、国王は何か含みを持った笑顔を見せた。

長年の付き合いで、彼はよく知っていた。国王がこんな顔をする時は、何か別の考えを持っている時だ。



「まぁ妥当な読みだろうな。春の終わりか夏の初めには餌を撒き、此方は夏中に片を付けるつもりだ。

できるなら、先方に迷惑を掛けたくないからな。

仮に敵軍が予想の倍、四万以上としてもなんとかなるだろう」



「四万以上ともなれば……、日和見者たちもこぞって敵側に回った計算になりますな。

そうあって欲しくないですが」



「だがこれは戦だ、万が一のこともある。お前の存在が、弟や妹には必要なのだ。彼らの傍らにな。

友よ、頼む、引き受けてくれないか?」



「……、不本意ながら、敢えてそう言うことをお許しいただきたい。

貴方の信頼に応えさせていただきますが、本心は別にあること、ご承知おきください」



「すまん」



フェアラート国王は、信頼する部下に深く頭を下げた。

このあと、彼の計画のもと準備は進められ、春の終わりにはそれが実行段階に移されることになる。



彼らと同様、フェアリーにて新年の宴が催されて暫らく後、ある有力貴族の屋敷に集まり、密儀を交わす者たちがいた。



「今年の宴は閑散として、非常に無様であったな」



「叔父上に倣い、多くの貴族が早々に退室したことで、貴族たちの旗幟が明らかになりましたからな」



「その通りですな。永きに渡る慣例を無視し、我らの意向すら無視し継承を行った愚か者に相応しい、盛大な宴、いや物笑いの見世物だったというべきでしょうな」



「公爵、我らはいつまで矜持を捨てて、忍ばねばならんのでしょうか?」



「間も無くよ。春が過ぎれば火の手は上がる。我らはそこから動く。隣国でも我らの賛同者は多い。

そういうことだな?」



「仰せの通りでございます。皆さまがこの国の、本来のあるべき姿を取り戻された際には、我が国もそうするためのお力をお借りしたく思っています。

勿論、お力添えいただいた暁には、国土の一部を返礼として割譲する用意もあります。

此度は賛同される有力貴族も、それなりの数に登ると聞いております。新しき統治に、分配できる土地は多いに越したことはないでしょう」



「リュグナー殿、御父上の侯爵には、我らも長年に渡り友誼を持って来た。我らも貴国を正しき道に戻すこと、喜んで支援させていただく。

どうぞよしなに、そうお伝えくだされ」



「ありがとうございます。公爵閣下のご厚情、父も喜びましょう。

私はこれより報告のため領地に戻りますが、皆様が決起される際には、必ずや援軍を率い馳せ参じましょう」



こう言ってリュグナーは深く一礼した。冷酷な笑みを浮かべながら。

そしてこの会合の席を辞し、国境へと帰路に就いた


だが、リュグナーには父などいない。反乱を主導した罪で、処断されて四年も前に刑死していた。


リュグナーは、闇の氏族の力を借り、とある侯爵に取り入っていた。そして念入りに周囲に暗示を掛けて洗脳し、侯爵の義息として迎え入れられていた。

彼の暗示に陥ちた侯爵は、既に操り人形となっていた。


そして次に、その侯爵の名代として、王国西部を守る辺境伯を懐柔した上で国境を越え、フェアラート公国にまで、その触手を伸ばしていたのだ。



『お前たちが望んだ舞台は用意してやる。最後まで踊り狂って、自らを滅ぼすがいい。

王国を道連れにな』



リュグナーは、誰にも聞こえないよう小さくそう呟くと、騎馬を走らせていた。


カイル王国内、フェアラート公国内の双方で、反乱の準備は順調に整えられていった。

後は首謀者たちを暴発させ、侵攻を煽るだけだ。


こうして、リュグナーが描いた、壮大な包囲網の一環が実現しようとしていた。

【お知らせ】

いつもご覧いただきありがとうございます。

9月よりしばらくの間、投稿は今までの隔日から三日に一度のペースとなります。

お待たせして申し訳ありませんが、何卒よろしくお願いいたします。


最終決戦に向けて、楽しんで読んでいただけるよう頑張りますので、変わらぬ応援をいただけると嬉しいです。


次回は『不吉な前兆』を投稿予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。


※※※お礼※※※

ブックマークや評価いただいた方、本当にありがとうございます。

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