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【6巻11/15発売】2度目の人生、と思ったら、実は3度目だった。~歴史知識と内政努力で不幸な歴史の改変に挑みます~【コミック2巻発売中】  作者: take4
第二章 嚆矢編(こうし:始まりの矢)

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間話2 家宰 レイモンド視点

『不気味な子供だ』


私のタクヒールさまへの印象だ。たかが3歳の子供、最初はそう思っていた。



だが、どう考えてもおかしい。彼が私を見る目は、何かおびえる様な、異様に気を使っている様な。

わざとたどたどしく喋っている姿に、私は悪い意味での、あざとささえ感じた。


そんな子供など今まで見たことがない。



私は今、新興のソリス男爵家で、身に余る待遇と領主一家からの信頼を得ている。

元はコーネル男爵領の下級官吏の息子として生まれ、父と同じ道を進むべく、王都の学校で官僚を目指すため学んだ。


そして平民の身分では、どれだけ優秀な成績を収めても中央の官僚にはなれないこと、この王国では打ち破れない身分の壁を思い知った。


卒業後はコーネル男爵領に戻り、ただ生活のためだけに、執事見習いとして仕え始めた。

この時の私には、将来への興味も希望もなかった。



だが男爵領では思いもよらぬ幸運に恵まれた。



「お前は実に愉快な、そして優秀な男だ」


少女といって差し支えない年の、長女クリス様の目に留まり、彼女の意向で半ば強引に専属従者となった。



男勝りなだけでなく、内政面でも非常に優秀なクリス様は、【男に生まれていたら……】と周囲がため息を漏らすほど、男爵領の統治になくてはならない存在として、子供ながらに活躍していた。


クリスさまは優秀さ故に、仕えるものにもつい、彼女と同等の感覚で仕事の成果を求めてしまう。


これまでも従者たちは早々に音を上げてしまっていたらしい。

彼女の専属従者になった私にも、普通の文官なら3日で音を上げてしまうほどの激務が下りてきた。


元々官僚志望だった事も幸いし、私は与えられた任務を黙々とこなし、クリス様の期待を裏切ることは一度としてなかった。



「やはり私の目に狂いはなかったわ!」



上機嫌のクリス様から、仕事面での信頼も高くなり、彼女の打てば響く対応は、私も居心地が良かった。

このままコーネル男爵領で内政に従事するのも悪くない、そう思い始めていた。



そんなある日、クリス様がソリス男爵家へ嫁ぐ事が決まった。


相手は新興の弱小男爵、領境を接する隣領とはいえ、大森林(魔境)に接した未開の地。

従者として付いていく希望者も少ない中、私は真っ先に手を挙げた。



「レイモンド、貴方も物好きね」


と、ため息を吐いたクリスさまは嬉しそうだった。



「クリスさまにご一緒できるなら、最大の喜びです」


それは、私の本心の言葉だった。



ソリス男爵がどんな方かは分からない。

でもクリスさまなら、どんな男でも手綱を握り、御しえる筈だ。


そして彼女となら、例え新興領地、未開の領地開発も刺激に溢れ、きっと楽しいだろう、そう思った。



誰にも話していないが、私には魔法士スキルがある。

王都で学生のころ、とある貴族と賭け事をして私は勝った。

身分を笠に着た嫌いな奴だった。


勝ちの代償に、本来は彼が受ける予定だった、魔法士適性の確認儀式を受けた。

もちろん彼の支払いで。


私が受けたのは、出身地に縁のある地魔法士、気紛れで選んだ時空魔法士の適性確認だった。



残念ながら、地魔法士の適性は無かった。無くて当然と思っていたので、残念とも思わなかった。

所が、驚くべきことに、時空魔法士の適性があった!


5,000人に1人といわれる魔法士適性、それが私にあったのだった。



だが、私は手を尽くしその事実を秘匿した。


私が使えた時空魔法は、空間探査と呼ばれるもので、一定エリア内の、どこに誰がいるか、その相手が私にとってあか味方あお無関心しろかが、他人には見えないマップ上に表示される。


王国では魔法士は優遇されており、望む仕官も夢ではないかも知れない。


だが、こんなスキルがあればきっと、従軍させられ斥候として最前線で使い潰されるか、貴族に囲われ政争の具にされるか、魔境にて魔物狩りを生業とする者の一員になるか、そんな未来を感じた。


どれも殺伐として、内政には縁がない仕事だ。


なので私は、魔法スキルを秘匿し、この先も一切口外しない、そう心に誓った。

もちろん、コーネル男爵家に仕える時も、この事実を伏せたままお仕えした。



新興のソリス男爵家に移ると、色んな所で人手が足りなかった。

私はクリスさまの推薦もあり、比較的重要な地位、内政官のひとりとしてエストの街で働いていた。


活気ある新しい街は、多くの商人、移住してきた者、仕事を探しにやってきた者で溢れていた。

私は自身の魔法スキルを活用し、信用の置ける者を積極的に登用、配下として仕事に就かせた。


数年後には、男爵からも私の働きぶりが高く評価され、20代にして家宰という大任までいただき、領内の内政全般を統括するようになった。



そのころになって2つの不思議な事に気づいた。


一つ目は私のスキルの変化だ。


これまでは、私個人にとって、あか味方あお無関心しろの表示だったが、家宰である私は、もはやソリス男爵家と一心同体だった。

それが原因か、ソリス男爵家にとって、あか味方あお無関心しろに、表示されるように変わっていた。


仕事をする上では、そちらの方がより便利だったが。



二つ目はソリス男爵家の次男についてだ。


不気味な子供、と思っていたタクヒールさまについて、ある時驚くべきことに気が付いた。

タクヒールさまは、幼児と言っても差し支えない年齢にも関わらず、その知識と発想力には驚くべきものがあった。


そこから私は、日々彼を注意深く観察していた。

驚いたのは、タクヒールさまと関わった人間たちの色が、どんどん変わっていくのだ。


当初は男爵家に無関心しろだった人間が、次から次へと味方あおに変わっていく。

交渉上手にまいじたの商人達、街の領民達、彼に関わる者たちが、変わっていく姿は驚愕だった。


私の中で、【不気味な子供】はもういない。


非常に興味深い、そして、ソリス男爵家の今後を左右する存在になるかもしれない子供。

自然とその認識に変化していた。



彼に興味を持った私は、本来なら、長男のダレクさま付きとして、確保していたメイド見習いを、私の権限で、タクヒールさま付きに変えた。

そして彼女アンには、毎日、タクヒールさまの様子を報告するよう義務付けた。



それからは、まさに驚愕の毎日だった。


タクヒールさまは、私も見たこともない道具を考案し、製作しようとしている。

珍しいだけではない、それらがこの領地を救うかもしれない物なのだ。


その後も彼の行動には、まるで何らかの危難を知っていて、それを必死で回避しようとしている。

そんな鬼気迫る様子が見て取れた。


事実、ここ数年間の彼の提案は、客観的に後から見れば、起こるべき危機に対して、事前に対策を行い、それを見事に回避している。


もしかして、彼は私と同じく、隠された何らかの魔法スキル、未来予知のようなスキルがあるのでは? そんなふうに思い至った。



たとえ彼が未来の危険が予知できたとしても、周りの大人たちから見ればたかが子供の発言、真剣に取り合ってもらえないこともあるだろう。


そして私の空間探査と同様に、他人に見えないものを、根拠として示すのは難しいだろう。



その時から私は、自分の権限の及ぶ限り、彼の理解者として、タクヒールさまを陰日向に支えて行こうと誓った。

私が想像もできない新しい世界、輝かしいソリス男爵家の未来が見れるかもしれない。


それが私の楽しみになった。



アンから受ける、今日のタクヒールさま、と題した報告は、私が毎日楽しみにしている日課だ。

当初は興味なさげに、淡々と報告してきたアンも、いつの間にか言葉に熱がこもり出した。

きっと彼女も私と同様に、彼の価値に気付いたようだ。


ある日彼女が、


私を超え、『タクヒールさまの一番の崇拝者になる』と言い切った時は、少し面食らったが。



私の人選は間違ってなかった、そう確信した。

もちろん、今後も私は一番の座を譲る気はない。

ご覧いただきありがとうございます。

30話ぐらいまでは、ほぼ毎日投稿していく予定です。


ブックマークやいいね、評価をいただいた皆さま、ありがとうございます。

凄く嬉しいです。

これからもどうぞ宜しくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
完全ではないが大ハズレでもないタイプかあ(未来予知)
[一言] 面白かった
[良い点] なんだ、CIA長官いるじゃん! 嘘発見器持ちとか無双出来るじゃん! ボンドとかバウアーとかハントとかそういう人たち集めて情報男爵の称号を主に贈ろう
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