第二十二話(カイル歴502年:9歳)新しい決意
聞いた話では双頭の鷹傭兵団への報奨金について、父とヴァイス団長の間で、最初は少し揉めたそうだ。
ヴァイス団長いわく、今回の作戦は事前に俺(+兄)からの提案がベースであり、と逆に少し遠慮されたらしい。
「契約金以外の報奨にしては金額が多すぎます。彼らの功を奪うことはできない」
父が彼に対して行った説明、
「ダレクは既に王室より報奨を受けており、タクヒールには、別途褒美を用意する」
との言葉を受けてやっと全額を受け取って貰えたらしい。
その話を聞いて、ヴァイス団長の漢気に惚れ惚れした。
そして俺は今度、何が貰えるのだろうかと、楽しみになっていた。
そんな感じで過ごしていたある日、待ちかねた父から呼び出しがあった。
そこには、父と母、家宰のレイモンドさんに、兄が居た。
なんとか威厳を保とうとする父に、笑顔の母、レイモンドさんと兄はニヤニヤしていた。
「タクヒール、此度の戦において、其方の戦功、少なからずあったと認める」
「父上、光魔法の活用や地魔法の罠、エストールボウの発明と運用は、全部タクヒールがひとりで考えたものです。なので、少なからず…ではなく、むしろ戦功第一と考えますが……」
兄が追い込むと
「わかっておる!だが9歳の子供の戦功、そんな事大っぴらに言える訳もないであろうがっ!」
「それで、建前上は、少なからず…って事ですね」
あーあ、母にも追い込まれてるし。
「此度の功績により、タクヒールには金貨1500枚を、条件付きで与えるものとする」
条件付き?
「条件とは何ですか?」
俺が聞く前に兄が質問する。
「金貨500枚は、タクヒールが自由に使えるもの、残りの1000枚は予算として用意する。
今後、タクヒールの提案する内容について、我々の承認さえあれば使用可能だ」
それって……
『ナンカ、イマト、アマリカワリマセン?』
心の中でそう思った。
いや、せっかく貰えると決まったのだ、余計な口出しは止めておこう。
「ありがたく頂戴いたします」
俺は一礼した。
「所で……、以前に承認いただいた、今進めている堤防工事等の治水予算はこれと別ですよね?」
「あ、いや、それは……」
この商売人めっ!
それを目論んで1,500枚かよ!ちゃっかり、そこで回収する気満々やないかいっ!
俺の質問に父はちょっと動揺していた。
「貴方、それはそれ、これはこれですよね?」
母が父に笑顔で詰め寄っている、顔は笑っているが目が笑ってない。
これって……
絶対逆らっちゃダメな奴だ。
「も、も、もちろんだとも、これは新しい提案に対する予算……で良いんだよな? レイモンド」
おい、レイモンドさんにバトン振ったな!
「勿論でございます。これまでタクヒールさまのご提案は、何度となくソリス領を救って来ました。このような些細な金額では逆に心苦しい限りではありますが……」
華麗に一礼しながら切り返すとは、流石だ。
っていうか、父上、レイモンドさんからも嫌味言われてないかい?
そのような経緯で、当座の資金として金貨500枚と、1,000枚の予算を手に入れた。
前回の金貨50枚とは比べ物にならない金額だ。
改めて、これからやるべき(やりたい)事を考えた。
<やるべき事>
・来年の洪水対策
・兵力の底上げと、4年後の兄の戦没を回避
・7年後の疫病対策
・それ以降の対策を考え、準備すること
<進捗状況>
〇洪水対策
既に着々と進行済。できる準備はほぼ整う模様なので、洪水対策については、今の進行でできる事はやっていると思う。
〇兵力の底上げ
兵力の底上げについては、領民の戦力化を含め、強化できることはまだある。
一方で、たかが辺境の男爵程度ではできることに限りがある。
何かもっと効果的な対策が必要な気がする。
・改良型クロスボウの量産と射撃大会の実施や活用
・その他
兵器や今の戦術による優位性は、いずれ失われる。そして、より大きな戦力の相手には、今のままでは通じないだろう。
〇疫病対策
疫病対策については、正直まだ何も浮かんでいないので、全く未着手だ。
恐らくこれまで以上の大きな予算、人員、指揮命令権限が必要になるが、今の俺には全て足りない。
・分かっているのは、開拓地から広がること
・どんな病気か具体的な薬や治療法も全く不明
改めて思ったことは、
今までは両親等への提案だけで乗り切ってきたが、今後はそれでは足らない、いろんなことが。
必要なのは、自分の手足となってくれる人材の確保で、その人材を配下として雇用し、抱え込むための資金が必要なこと。
提案を自己完結できるレベルの、更に豊富な資金が。
考えてみるとこれまで、提案後はあくまでも他人任せ、他人の褌で相撲を取っているだけだった。
この先、それではきっと間に合わない。
これから3年は人材を集めることに専念しよう。
並行して小銭稼ぎも。守銭奴と言われても仕方ない。
そして人材とお金が集まれば、もっと大きな一手に移っていこうとそう考えた。
ひとつの街を自由に動かせる、それだけの人材と権限、資金力を手に入れるのだ。
今与えられた1,500枚の金貨はその呼び水として投資する。
その時、俺は改めてそう決意した。
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