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【6巻11/15発売】2度目の人生、と思ったら、実は3度目だった。~歴史知識と内政努力で不幸な歴史の改変に挑みます~【コミック2巻発売中】  作者: take4
第七章 魔境伯編(躍進の開始)

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第二百十五話(カイル歴511年:18歳)領地巡回 ガイア

イシュタル、ディモス、ガイアを結ぶ道は、以前は地元の人間だけが通る間道しか存在しなかった。

特にディモスとガイア間の移動は、フラン郊外に一旦北上してから、ガイアに南下する道しかなかった。


そのため、この辺りの地が魔境伯領となって以降、2つの町を直接結ぶ道路が建設され、今やフラン経由の遠回りする道に代わり、主要街道となりつつあった。


一度道が開通して整備拡張されると、イシュタルの開発景気に乗って往来も増え、更に街道が整備されるという好循環の恩恵をディモスでも受けていた。



「この街道によって、軍の移動が非常に早くなりましたな。魔境側が封鎖されても、ガイアから騎馬を飛ばせば、イシュタルまで半日、これは大きいですね」



「そうですね、団長。フラン経由だと、この2地点の移動距離は倍だし、かなり無駄が省ける形になりますよね。

まぁ贅沢言えば、魔境側の防壁をもう少し延伸できれば、アイギス側からイシュタルまで最短距離を移動できるのですが……」



「そうですな。そもそも敵の立場に立てば、テイグーンは最も目障りで、狙いたくなる餌ですからな。

先ずはアイギスを固めることが優先でしょう。全ての工事を同時にできない今、イシュタルが最優先でやむを得ないでしょう」



俺たちは、夕暮れ時の街道を走り、ガイアへと急いだ。


日没前にガイアに到着した俺たちは、ガイアの駐留軍施設で一泊し、翌日の視察に備えた。



ガイアは、テイグーンを除けば、今現在最も入植が進んでいる街だ。

中心となる砦以外に、開拓村が20カ村と工業団地が一か所あり、疫病時に受け入れた元ヒヨリミ領の難民のうち、1,000名以上が今はガイアに入植している。


その日の夜俺は、入植した代表者たちを招待し、彼らと食事を共にした。



「こちらの暮らしはどうですか?

何か不自由な点や、要望などがあれば、この機会に遠慮なく話して欲しい」



「正直、この地に来る前と比べると夢のようです。

魔物や野盗たちを恐れなくても良い、安全な防壁に囲まれた住居で、安心して眠ることができます」



「2年間の免税をいただけたお陰で、今年は親類縁者に仕送りすることもできました。

支援金や開拓農地から家まで、何から何までお世話になって、これで文句言う奴がいたら、アタシが張り倒してやりますよ」



「男手が少ない私たちでも、子供を預けて安心して仕事ができます。

まだ工房のほうが忙しいので、せっかくいただいた農地の作付けが行き渡らず、申し訳ありません」



代表者たちの誰もが笑顔で答えていた。

うん、工房が忙しいのは、きっと俺のせいだな。



「皆さんの笑顔が見れて安心しました。

工房については、当面は忙しいので皆さんのお力を貸してください。

農地の作付けが進まないのは仕方ないです。

その分、工房で製品作りに貢献いただいているので、気に病むことはないですよ」



いずれ、農繁期は農地に専念し、農閑期は工房での仕事をしてもらう。そんな体制にしたいと考えている。

だが取り急ぎ今は、できることを中心に行ってもらえば良い。



「なお、作付けや収穫など、人手が必要な時には受付所に申請してください。

兵士たちの手が空いていれば、できる範囲での対応となりますが、お手伝いも可能になると思います」



こう伝えると、皆一様に安心した様子だった。



ガイアの最大の特徴は2つある。


現時点で入植が進んでいる20カ所の開拓村は、魔境伯領で突出した農業生産の柱であり、領地の台所を支える場所だ。

今年と来年は、免税のため俺が彼らから買い上げている収穫物が、2年後には全て税収として入ってくる。

そうなれば俺たちは、他領に穀物を売る立場に変わる。


自前で食料を供給し、備蓄できることは非常に大きなことだ。



もうひとつの柱は工業団地だ。


大量生産できるよう、工程を細分化し分業体制を徹底している工業団地では、改良版クロスボウを始めとする武器類、家具などの内装品類、衣服や燈火、石鹸などを次々と生み出している。


熟練を必要としない簡単な工程なので、女性や老人たちにも作業ができるよう配慮されているし、各開拓村から工業団地まで、朝と夕方には通勤用の送迎馬車もたくさん出している。


そして工業団地の隣には、託児所と学校があり、それぞれ無償で昼食が出る。

同様に、工業団地でも昼食は無償、残業対応の際は追加賃金と簡単な夕食まで無償で出している。


忙しいこともあるが、自ら残業したいと申し出る者も多いらしい。


こういった事情により、工業団地で働く希望者は常に多く、女性や老人を優先して採用を進めている。



「こんな贅沢、言ってはならん事かも知れないのですが……

以前に王様がお越しになった時のように、テイグーンの街とここガイアを結ぶ馬車便があると助かります。

もちろん儂らが払える範囲の運賃なら、有料でもありがたいです」



なるほど……

ガイアからテイグーンの街まで10キル(≒キロ)前後だから、歩くとそれなりの距離になる。

まして老人には相当負担だろう。


商店の数や商品の品揃えなどは、テイグーンの街が抜きんでている。新しい移住者たちがそれらを買い物する余裕、それが彼らにも生まれたということか。



「了解しました。

無償という訳にはいきませんが、無理のない賃料で定期的に運行する馬車便を設けましょう」



「おおっ! ありがとうございます。

孫に買ってやりたい物を、こんな年寄りでも買いに行くことができまする」



そうだな、領民とそうでない者は差別化しよう。


定住している領民たちには割安で、人足など期間労働者には定価で、旅人など領地に関わっていない者には割高で。


幸いにも、俺の領地には受付所が発行する、IDカードとなるべき、金属プレートの領民証があり、日本の免許証と同様に偽造防止のナンバリングや刻印もある。


そして彼らには、これを携行する習慣も根付かせた。

この提示で、料金が決まる方式にすれば良いだろう。


馬車便の運用自体は、戦の負傷が元で兵士を引退した者や、老齢で現役引退した者でも、十分取り廻すことができるのではないだろうか?

可能なら、そういった者の雇用確保にもなる。


戻ったら、ミザリーとクレアにはかってみよう。



彼らとの会食や意見交換はつつがなく終わり、ひとまずは満足のいく声も聞けた。


余談ではあるが、彼らはしきりにエロールのことも話題に乗せていた。

最近、といっても兄の結婚式で会った彼の話をすると、すごく喜んでいた。


エロール、あいつは本当に領民から慕われているんだな……、未だに信じ難いけど……

改めてそう思った。



一番複雑だったのは、ある老人の放った一言だった。



『タクヒールさまはエロールさまの再来じゃ! 

我々は常にお二方に救われていること、心より感謝申し上げまする』



俺がエロールの再来、いや、分かっていても前回の歴史を知っていた俺には、むっちゃ複雑な話だった。



兄が以前言っていた言葉、


『今のエロールは素直で真っすぐで、弄り甲斐のある可愛い奴だぜ。それに騎士団としては、俺の右腕になる素養がある』


この言葉を聞いて、その弄られ役って……

以前の俺の役回りじゃん。

それってまさか、俺に似ているってことか?

そう思ってしまった。



そんな夜も明け、翌日の午前中はガイアの視察を行った。


先ずは工業団地を訪れると、そこにはカール工房長、兼、工業開発行政官が待機していた。



「全員、起立! タクヒールさまに礼っ!」


「いらっしゃいませっ!」



いや、それはいらないんじゃない?

そう思ったが、視察に来た他領地の人間や、発注者にこれをすると、みな驚くそうだ。



「分業とはいえ、我々は職人です。

自身の仕事にプライドを持つこと、発注者に感謝の気持ちを持つことは、最低限必要なことです」



カール工房長はそう言って笑っていた。



大量生産ラインは、職人たちが一列に並び作業を進めていた。小さな部品の作業は、浅い木箱の中に置かれた部品の加工を行い、完了すれば木箱ごと、次のラインにスライドさせる。


ベルトコンベアーはないが、ローラーを付け、木箱がスライドしやすく工夫されていた。


大型の製品ラインはそれぞれが作業カートを持ち、所定の作業が終わればカートごと人が移動していた。



いやいや、こんな発想どこで?



「どうですか?

タクヒールさまがずっと以前に仰っていた、大量生産ラインというものを再現してみました。

これで大幅に効率があがりましたよっ。本当にすごい発想です!」



え? 俺、そんなこと言っていたっけ?

いや、本人も覚えていないことを忠実に再現している君の方が凄いから。



その後も、開拓村をいくつか周り、そして砦部分の内部に設けられた商業地区、製鉄所、誘致された鍛冶屋を巡った。



「旧ヒヨリミ領から来た方々が、あちらの職人を引っ張ってきてくれたお陰で、ガイアにもテイグーンにも熟練した職人が近隣から集まっています。

単一商品だけなら、ここの生産力はもう王都にも負けないぐらいになっていると思いますよ。

エストの親方には、ちょっとは職人をこっちにも回せと、泣き言を言われましたがね。

代わりにあっちには、矢を中心に大量に発注してますから」



「ははは、もう完全にゲルド工房長が下請けとなって協力してくれてるんだ?」



「はい、職人は持ちつ持たれつですからね」



ガイアについては、万事すこぶる順調な様子だった。



こうして領内の体制を確認した俺たちは、この先の災厄に対し、準備を加速させていくことになる。


だが、新たな対策のもと準備を進めていたのは俺たちだけではなかった。

周辺国でも、来るべき大戦、災厄に備えて準備を進める者たちがいた。

ご覧いただきありがとうございます。


次回は『災厄の年』を投稿予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。


※※※お礼※※※

ブックマークや評価いただいた方、本当にありがとうございます。

誤字修正や感想、ご指摘などもいつもありがとうございます。

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