第二十一話(カイル歴502年:9歳)英雄達の凱旋
「ソリス準男爵、只今戻りましたっ!」
出迎えに、元気いっぱい報告する兄がそこに居た。
サザンゲートの大勝利の翌月、王都にて論功行賞を受けた父と兄、ソリス男爵軍が帰還した。
「ダレク、無事の帰還何よりです。戦功まで……貴方も、戦功おめでとうございます。
ダレク、怪我は無い?本当に心配したのですよ」
目を潤ませて兄を抱きしめる母、そして、さらっと流されて少し寂しそうな父……
まぁ、そうなるよね。
軍の一部は鹵獲した物資や軍馬、荷馬車に隠蔽されたエストールボウと共に先行して帰ってきたが、本隊は王都への往復と滞在で、1か月ほど遅れた帰還となった。
「無事のご帰還と、武勲をあげられた事、家臣一同、お喜び申し上げます。なお、先に届いた物資は既に所定の場所に移しております」
続いてレイモンドさんが父に挨拶した。
父は戦闘が終了後すぐに、全兵士のエストールボウを修理と整備、という名目で荷駄に収容。
代わって往路に各自が持参していた、改良版クロスボウを持たせた。
実際、エストールボウは一緒に戦ったコーネル男爵軍しか見ていない。
まぁいずれバレちゃうけど、極力新兵器は秘匿すること、これを徹底してやっていた。
挙げた戦果が大きかったので、改良版クロスボウでも十分注目されたようだったが……
「兄さま、王都での報奨の件、戦場でのお話も、是非聞かせてください」
「兄さま、お土産は?」
俺は今回お留守番だった。その為、実際に戦闘の様子や王都の話は詳しく知らない。
その点、凄く気になっていた。
妹は、お土産が一番の気掛かりだったようだが。
「作戦はバッチリだったよ! ヴァイス団長の指揮も完璧だったと思う。
後でゆっくり教えてやるから、先ずは館に入ろう」
うん、確かに俺は兄を急かし過ぎたかも。
おいおい、詳しく話を聞く事にした。
国境の防衛に成功、敵軍に大ダメージを与えた軍は、サザンゲート砦にて休息後王都に向かった。
王都では国王始め、居並ぶ貴族のなか、戦功の表彰を受け、報奨を受けたそうだ。
<全体勲功>
ハストブルグ辺境伯 金貨10,000枚
<個別勲功>
勲功第一:ソリス男爵 金貨 8,000枚
勲功第二:コーネル男爵 金貨 5,000枚
勲功第三:キリアス子爵 金貨 3,000枚
勲功表彰:ソリス・フォン・ダレク 金貨 500枚
兄は表彰だけでなく、準男爵への昇爵も受けた。
今回は戦役は防衛戦のため、新たに獲得した領地はない。そのため、報奨は金貨での支給となった。
辺境のエストール領は、広大で未開の地も多いため、父は逆に金貨がありがたかったようだ。
報奨金の一部は従軍した兵士に分配、余ったものを内政予算として活用、領地開発にも使用予定だ。
なお、コーネル男爵は父から強く推薦された事もあり、ソリス男爵を陰から支えた勲功者として、王都でも認定された。
戦自体を得意とせず、戦場の日陰者と揶揄されていたコーネル男爵も非常に喜んでいたという。
僅か12歳、初陣で大きな勲功を挙げた兄は、一躍有名人になっていた。
光魔法で鉄騎兵団を翻弄し、戦局を変えた功績大として、金貨の他に準男爵の称号が与えられた。
父の後を継げば男爵となるわけだが、継承するまで無爵位だったのが、今では爵位持ちとなった。
領地はないので、王室から毎年俸給を貰う立場だが。
更に、今回の戦役は思わぬ成果もあった。
ハストブルグ辺境伯の指示で、ソリス男爵軍と、コーネル男爵軍が行った、戦場の後始末。
ここから得られたものも特筆すべきものだった。
おそらくはハストブルグ辺境伯の心遣いだったのだろう、得られた収穫は非常に有益だった。
戦利品として、鉄騎兵団が所有していた軍馬、武具など、中には高価な装備品も多数含まれていた。
軍馬については、さすがに傷ついている馬ばかりだったが、傷も浅く即時使用可能な軍馬が100頭、治療すれば再び軍馬として使用できそうな馬が200頭。
それ以外にも深く傷つき、回復可能かわからない馬は300頭余り確保できたようだ。
そのうち、使えそうな軍馬300頭を辺境伯はソリス・コーネル両男爵家に与えてくれた。
武器、防具等は、降伏した兵や死者の埋葬時に外され、それぞれ約1,300人分確保できたとのこと。
中には穴だらけの物、ひしゃげて使い物にならない物もあったが、修繕、再利用可能な物もあった。
なお再利用できないものは、素材として鍛冶屋に売却するか、商人を通じて売却するとのこと。
分配の内訳は以下のようになった。
ソリス男爵軍
・軍馬250頭
・武具1000(再利用不可のもの含む)
・防具1000(再利用不可のもの含む)
コーネル男爵軍
・軍馬50頭
・武具 300(再利用不可のもの含む)
・防具 300(再利用不可のもの含む)
手に入れた軍馬や武具の総数を、両男爵家で単純に参加した兵数で割り分配しようとした父に対し、コーネル男爵は今回の勲功を推挙した父へ感謝し、この割合となるよう申し出たとのことだった。
エストールボウの運用を目の当たりにし、コーネル男爵は、そちらの購入も打診してきたそうだが、現時点では秘匿が必要な兵器、という理由で断ったようだ。
後日相談に乗る、という含みを持たせて。
取り急ぎ、エストールボウではないものの、改良型クロスボウ200台を、軍馬等の分配のお礼に、コーネル男爵家に送ることが決まったそうだ。
「では、父上は実質貰った金貨以上の収入があったんですね?」
「ああ、鹵獲品だけでも相当あったからなぁ、多分、戦力の充実に使うんだろうと思うけど……」
ソリス男爵家の経済的余裕、これは俺のこの先考える事に凄く大きな意味を持つ。
兄から得た情報は凄く貴重だった。
「タクヒール! また何か企んでるな? 顔に出てるぞ」
やばい、兄の話で思わず、黄金色の菓子を見た悪代官、そんな顔にでもなってたかも知れない。
気をつけねば……
後日、報奨や鹵獲品で、軍の陣容も大きく改まった。
この戦いで得た軍馬や武具を活用し、新たに鉄騎兵部隊を創設、騎馬部隊も充実させ、常備軍はほぼ全ての兵に騎馬が行き渡った。
そして兼業兵からも多くが常備軍に召しあげられた。
◯軍馬の構成
ソリス男爵
210頭(出征160騎+留守部隊50騎)+ 新規軍馬290頭
双頭の鷹傭兵団
40頭 + 新規軍馬10頭
◯戦力構成
ソリス鉄騎兵団 200騎(常備軍で構成)
ソリス騎兵団 100騎(常備軍と兼業兵で構成)
ソリス弓箭兵団 350人(兼業兵中心で構成)
予備軍馬 200頭
双頭の鷹傭兵団 50騎(傭兵契約更新)
ちなみに兼業兵とは、一定の契約金をもらい、定期的に軍事訓練には参加するが、平時は別の職業についている者を指す。
町や村の門番などの警備兵、狩人、農民、鉱山人夫など兼業兵の本職はさまざま。
小さな村では警備や駐屯兵の多くを、兼業兵が交代でまかなっている場合もある。
常備軍は名目上全てが騎兵となったが、騎兵としてこれから訓練が必要な者も沢山おり、双頭の鷹傭兵団は教官としての役割も期待されている。
当面必要のない武具は、鍛冶屋にて修繕、修復され備蓄、販売されていった。
ヴァイス団長は王都の往復のついでに新規団員も追加補充し、新たに父より譲渡された騎馬10頭も加え、傭兵団は全て騎兵として今後も従軍することになった。
父は報奨金のうち、金貨2,000枚をヴァイス団長に、報奨金及び、この先の契約延長金として渡したそうで、傭兵団の更なる増員も依頼しているとのこと。
父も今回の戦で、ヴァイス団長の価値を強く認識し、今後も囲い込んでおきたいと思ったらしい。
不要な武具の売却の臨時収入で、懐事情が良くなった事も、思い切った対応を後押ししたようだ。
こうしてソリス男爵軍は、男爵の身の丈には合わないぐらいの、充実した軍備を整えはじめた。
今後は順次、更に陣容を整えていくことになる。
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