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第二百二話(カイル歴511年:18歳)外交特使

学園長の招請を受けたのち、王宮へと向かい国王陛下に謁見することとなった。



「魔境伯よ、此度の役目、引き受けてくれたこと嬉しく思う。

また其方に……、借りができてしまったな?」



「陛下、とんでもございません。

相手先こそ違えど、辺境伯はその任の中に外交折衝、他国との関係改善も含まれております。

臣として、その任に当たるだけでございます」



「そうか……、そう言ってくれるとありがたい。

余として、其方に餞別として送るのは3点、先ずは此度の訪問、外交特使としての任を与える。


其方には相手国との折衝を、余の意思として行い、その結果の全ての責任は余に帰するものとする。

相手国が其方の、そしてカイル王国の名誉を損なうことがあれば、毅然として対応せよ。

自身の名誉と生命、同行者の生命を守るため、交戦権の行使、武力を用いることを許可する」



「はっ! 承知しました。

あくまでも最終手段として、陛下の名を損なわぬよう、礼を尽くし対応したく思います」



「2点目は、通商に関わる自由裁量権を与える。

王国の方針としては、商務卿からも人を出させるが、そなたの領地としての交易はその限りではない。

商売上手な其方のことじゃ、この機会を利用して、自由に商談をまとめてくるが良かろう」



「はい、ありがとうございます。

出る杭とならぬよう、心掛けながら対応を進めようと思います」



「3点目は、余から先方への土産を其方に発注する。

以前王妃のために行ったライトアップ、余の計らいとしてフェアラート公国でも見せてやれ。

その対価として、金貨一万枚を支払うものとする」



「ありがとうございます。

その一万枚から、幾つか産品も見繕い陛下よりの贈り物として、対応させていただきます」



「うむ、先方の情報は西国境防備の任についておる辺境伯より、と言いたいところじゃが……

外務卿、よしなに頼むぞ」



陛下はそう仰ると、横に控えていた学園長に目配せした。

なんか……、嫌な予感がする。



そのあと別室に呼ばれた俺は、学園長から先ほどの事情に関して説明を受けた。



「わざわざ此方に来てもらってすまんの。

陛下も公式の場では仰りにくいと思い、儂が其方に説明する任を受けた。

西と北は……、元々あちらの派閥の人間だからの」



「やはりそういう事ですか。

陛下のご様子から、もしやと思っておりましたが。現状、彼らに問題でも?」



「いや、彼らは復権派といっても、具体的に何か行動を起こしていた訳ではない。

先の混乱の際も彼らは静観を決め込んでおった。それ故、何の処罰も受けず以前と変わらぬわ。

ただな、其方の論功行賞にな……、褒賞が過大すぎると陛下に苦言を申し立てておった者たちじゃ」



「なるほど、私にとって敵地というわけですね。

苦言を呈したその対象が、今度は外交特使として、自分たちの職分を犯す可能性があるとなると……

彼らにとっては面白くないでしょうね」



「まぁそうじゃな。

そのため、其方に正しい情報が行かん可能性や、非協力も考慮しておく必要があるやもしれん。

まぁ、表立っての行動は慎むじゃろうが」



頭が痛い話だ。

ただでさえ面倒くさい使節なのにな……

いっそのこと、帝国の誰かさんみたいに、向こうでは天然を装って勝手気ままに振舞って帰るか?


そう思ったが、狸爺は丁寧に、事細かく先方の事情を説明してくれた。



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フェアラート公国に関する情報

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◇公国の概要


カイル王国より国土は広いが、国力はほぼ拮抗

兵力数はカイル王国とほぼ同等と考えられている

公国の国土の2割は今なお広大な魔境に覆われている

カイル王国以外で唯一、大量の魔法士を抱えている


(懸念事項)

全体として魔法士の数は王国に及ばないものの、公国内に数百人単位の魔法士を抱えており、彼らは魔法兵として従軍の義務に就いており、彼らの実力、戦闘方法が不明のため、脅威度が測れていない。



◇公国との関係


300年以上前には、国境を巡る争いもあった

ここ200年は非常に友好的な関係を維持している

何度か王族も嫁いでおり、公式に教会も移転している

今現在も上級貴族の子女が公国に嫁いでいる


(懸念事項)

カイル王国の貴族の娘は、その多くが血統魔法を行使できるため、妻として迎えるのに重宝されており、

過去50年間に復権派4侯爵の家の全てが、過去20年間なら、火と水の侯爵が娘を送っていること。



◇今抱えている公国の課題


魔法士が家督を継ぐことがこの国の習わしであり、王族や貴族もこの慣習に縛られていた。

魔法士が力を持ち、優先される国であったが、今回、慣例を破り魔法士でない王子が王位を継承した。


これにより、大多数の貴族と反目しており、国の内情は一触即発の危機にあること。

国王は、王子であったころ師団長を務めていた近衛師団を支持基盤として持ち、武力で貴族側と均衡を保っている。


今回、カイル王国より特使を迎える(公式的には招待だが)ことにより、隣国との関係を強みにしたい思惑と、非魔法士でありながら、比類なき活躍をしたソリス魔境伯に並々ならぬ関心を持っていること。




このあたりの話をざっと聞かされた。

帝位継承に王位継承、どこの国でも厄介な話ではあるが……



「学園長、これって……

火中の栗を拾って来い、そう聞こえるんですけど、気のせいですかね?」



「ふぉっふぉっふぉっ、栗は火に入れて初めて美味しく食せるようになるというもの。

火傷をせんよう、よろしく頼みますぞ」



危険で困難な任務は百も承知ってことか。

不本意だが、これは仕方がないな。



「ひとつだけ確認させてください。

カイル王国として、現国王と反対派の貴族、どちらに重きを置きますか?

旗色は明確にしておくべきかと思いますが、明確に現国王に肩入れする形で良いのですね?」



「基本はそうじゃが、最終決断は其方に任せる」



「西の辺境伯と意見を異にしても?」



「構わぬ」



「では、言質は取らせていただいたので、後は職務に精励します」



俺たちは一度テイグーンに戻って、準備を整えることにした。



「今回は戦に行くわけではない。

だけど敵地と言っても過言ではないので、物見遊山で行くこともできない。

同行する人員については、2つの観点で決めさせてもらった。異論はあるかも知れないが許して欲しい」



そう前置きして、同行者を発表した。

実際には、事前にアン、ミザリー、クレア、ヨルティアと相談した上で決めたんだけどね。



「同行者を決めた観点は、今回は今まで留守を守ってくれた者たちを優先し、見聞を深めてもらうこと。

そして工事などの作業は継続し、留守中に何があっても対応できる戦力を残しておくことだ」



その前提を伝えてから同行者を発表した。


風魔法士 (クリストフ、アウラ、アラル)

聖魔法士 (ローザ)

地魔法士 (エラン)

火魔法士 (ダンケ、イサーク)

水魔法士 (ウォルス)

闇魔法士 (ラファール)

光魔法士 (レイア)

音魔法士 (シャノン)

時空魔法士 (バルト)

護衛任務 (シグル、カーラ)

同行者 (クレア、ヨルティア)



「留守の間、内政面は家宰のミザリーに全権を、軍事面はヴァイス団長に全てを託すものとする。

これまでの経緯もあり、残る側にもそれなりの戦力を残すので、留守を頼む。


行程はテイグーンを発し往復で45日程度を見込んでいるが、これはあくまでも見込みとなる。

移動は全て騎馬とし、騎馬隊200騎と、ロングボウ兵も50名ほど連れていく」



この中にアンが含まれていないのを意外に思った人間もいるかも知れない。

なんせ、最も意外だったのは何を隠そう俺自身だった。


前夜、5人で内々の確認をした際、アンを含む皆の意見でそうした。

相手が魔法士優先の国だからだろうか?


多数相手や、対魔法士の戦闘なら、クレアやヨルティアの強さは絶対的だ。

その面を考慮したのだろうか?


もともと、ライトアップがあるので、その指揮経験者であるヨルティアは連れて行きたかった。

もしかしたらその辺も考慮し、今回は身を引いたのだろう。



因みにローザは名誉司教という立場で、中央教会からの同行者という立場を合わせて取ってもらった。

なぜなら、フェアラート公国にも同派の教会があり、それなりの勢力で根を張っている。

なので、ローザの立場はそれなりに強い。



クリストフとアウラ、この2人の同行は、長槍などを始め、ロングボウ兵を最も有効に使えるからだ。

万が一、包囲陣を突破する時、長槍で敵陣に穴を開け突入することができる。


アラルとイサークは兵としても相当強いが、部隊長として200騎の指揮もできる。

剣の腕ならダンケ、ウォルスも申し分ない。

シグルとカーラは剣技特化だ。


エランには、他国の城塞や都市を見せ、今後の開発の参考にしてもらいたいと思っている。

ラファールは言うまでもない。


レイアとシャノンがいれば、夜間に逃亡するときや、暗闇での戦いで絶対的に優位に立てる。

それぞれ、こういった思惑で今回の人選を決めた。



秋の半ば、ちょうど収穫が始まったころ、俺たち250騎は多くの者に見送られながらテイグーンを出発しフェアラート公国へと馬を走らせた。

ご覧いただきありがとうございます。


次回は『初めての異国』を投稿予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。


※※※お礼※※※

ブックマークや評価いただいた方、本当にありがとうございます。

誤字修正や感想、ご指摘などもいつもありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 王はあまりにも主人公に頼りすぎなんじゃないか? また貸しがとか邪魔が入るだろうとか言ってないで自分達でどうにかするべきでしょ。 王らしいところ一度も見てないからヘイトが溜まるばかりなん…
[一言] 内憂まだいるんだ。王様がたは本当何やってたんだろう。
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