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第百八十九話 第六回(合同)最上位大会⑤ 陛下との密談

全ての準備がつつがなく終わった大会前日の夜、俺は内々に、かつ、一人で来るようにと念を押された上、国王陛下から呼び出しを受けた。


指定された通り、晩餐が終わったあと迎賓館を訪れると、ゴウラス騎士団長が入り口で待っていた。



「魔境伯、夜分のお呼びだて、申し訳ない。

これより私が、陛下の所まで案内させていただきます。どうぞこちらへ」



「騎士団長自らご案内とは、恐れ入ります。

陛下のご用件とはいったい何でしょうか? 私共に何か不都合でもありましたか?」



「申し訳ありません、私も陛下の御意は伝えられておりませんので、お答えできません。

詳細はお部屋にて陛下からお聞きください」



騎士団長も理由は知らないようだった。

何か重大な話でもあるのだろうか? 後に続く俺の足取りは自然と重くなっていった。


案内されたのは、迎賓館でも最奥にある、俺自身が密談部屋と呼んでいる一室だった。



「魔境伯よ、突然呼び出してすまぬな。

にしても、この部屋はまるで今から私がする話に相応しい、面白い作りの部屋だな」



そう、密談部屋は、二重扉になっており、廊下から控えの間、更にその奥の扉の先にある。

窓は一切なく、広めの部屋の最奥、本来なら窓を設ける場所の脇に、テーブルと椅子を置いている。



「陛下、それでは私は控えの間で待機しております」



騎士団長が一礼して立ち去った。

テーブルの上には、予めいくばくかの酒類と、簡単な食事も用意されている。


給仕の者も不要、いや、出入りを禁じているのか。



「魔境伯よ、そう身構えんでもよい。

余と其方だけで、じっくり話しておきたいことがあるのでな。

流石に王宮では、目と耳が多すぎて、このような機会を設けることすらできんわ。


其方には政治向きの話もあるが、それは敢えて別の機会に話すとして、今は別件で大事な話がある。

衆目を避ける必要のある話がな」



「陛下、ご相伴のご指名ありがとうございます。

謹んでお話、お伺いさせていただきたく思いますが、作法を知らぬ田舎貴族の不心得者、その点ご容赦ください」



「密談に作法など要らぬわ。安心するがよかろう。さて、そろそろ本題に入るとするかの。


これはあくまでも、余から其方への内々の話じゃ。

これより話すこと、この国でも国王となった者にのみ受け継がれる話ゆえ、内容の口外は禁じる。

質問にも答えられぬ場合があるので許せよ」



「はい、承知いたしました」



なんとなく、事の重大さは理解できた。

『私にそんな話などして良いのですか?』、そんな質問をすること自体が無礼なのだと思った。



「其方は爺(学園長)から、初代カイル王について聞き及んでおるな?

カイル王に関わる話は、多くが謎に包まれておる。だが、国王たる者にだけ伝わる話もある」



そう、俺も初代カイル王については、幾つか思うところががあった。

恐らく彼は、俺と同じか、似た境遇でこの世界にやって来たのだろう。



「カイル王は、この世の理から外れた世界、全く異なる別の世界から、此方に来られたそうだ。


そして彼を最初に助けた、魔の民の末裔、人外の民を率い、この国を建国した。

カイル王は、当時の世界にはなかった叡智を持ち、この世の理とは異なる魔法を行使できた。


魔法を失った人外の民から、魔法の適性を見出し、数多あまたの魔法士を復活させた。

未来の危機を予知し、予めその対策を準備したことで、幾度となくあった滅亡の危機を回避した。

更に、それまでの世界には無かった発想で、新しい施策や制度を生み出された。


まるで、どこかの誰かが行っていることに、似ているとは思わんか?」



そういって陛下は笑った。

詰問ではなく、俺の反応を見て楽しんでいるように。



「エストールの地に起こる災いを予見し、様々なことを行った者がおったな?


飢饉を予見し、今は忘れられていた義倉を復活し

干ばつや洪水を予見し、水車や堤を構築する


敵の侵略を予知し、事前に兵器や兵力を強化し

奇抜な発想で、兵の育成や登用の仕組みを作る


あり得ない数の魔法士を、市井の中から見出し

蔑まれた魔法士を、仲間と呼び活躍の場を与える


大軍で襲い来る侵略者に抗う為の拠点を開発し

開発した領地を要塞化し、寡兵で見事に勝利する


強敵に立ち向かうため、この世界にない新兵器を作り

未知の戦術を駆使し魔法と兵器を融合し勝利する


疫病の発生と危機を予見し、あらゆる手を尽くし

未知かつ独自の防疫策を構じ、対処法を準備する


これらのことは、どこぞの誰かが歩んだ足跡であり、余の疑問を肯定することばかりじゃの。

特に初代カイル王のことを知る余にはな……」



「いえいえ、とんでもありません。

私は過去の書物に記載されていたことを読み漁り、似た事例を元に予測していただけです」



俺は背中に冷たい汗が流れ落ちるのを感じた。

冷静に……、狸になるんだと心に念じた。



「まぁ、他にもあるの。


疫病でも使われた消毒液というものの開発

土地改良に海を知らぬ辺境の者が牡蠣の殻を使い

自警団の発想や松山方式という捕虜の待遇


どれもこれもこの国には、いや、この世界にはないものじゃったの」



「……」



ああ……、だめだ、もうぐうの音も出ない。



「其方は知っておるか?


其方の領地での子供たちの識字率は、王都でさえ軽く凌ぐことを。

領民全てを受け入れる教育機関を用意し、無償で昼食を与え、子供たちや両親に学ぶ理由を与える。

こんな場所、この国で他にはどこにもないだろうな」



「……」



やばい……、確実に追い込まれている。

調子に乗って俺は色々やりすぎたということか?


そろそろ、誤魔化しきれなくなってきたな……



「責めておる訳ではない。話題を変えようかの。

カイル王の本当の名も、王族にのみ一部だけ伝わっておる。『カイ』という名だそうじゃ」



カイという名なら、思いつくことはあった。

例えば、日本で言えば苗字で甲斐、名前で櫂など。

確か……、ドイツや北欧、ベトナムでもそんな名前があった気がする。



「何やら思い当たる節がありそうじゃな。

そして、そのカイが生まれた国は、『ニッポー』という国だそうだ。聞いたことはあるかの?」



「それは……、聞いたことがありません」



恐らくそれって、日本だろうな。

あとは中国の寧波ニンポーの可能性もあるが、それは国名ではない。


ただ、ニッポーという名の国なら、俺は聞いたことがない。多少、屁理屈な気がしないでもないが……



「そなたは伯楽という言葉を知っておったな?

これはカイル王が、自らをそう呼んでいたことから、この国のごく一部の者にのみ伝わっておる。

が、しかし、其方の言う書物には、その事を記載されてはおらんぞ」



陛下は笑っていた。

もう観念しろ、そういうことか?



「余は当初、其方がカイル王と同じ道を辿り、この世界に舞い降りた者ではないかと思っておった。

じゃが、どう調べても其方はソリス伯爵夫人の胎から産まれてきた子供、この事実は変わらんかった……」



ってか、そこまで調べていたの?

そんなこと、微塵も気付かなかったんですけど……



「なに、余には調べることが大好きな狸がおるでな。

因みにその狸は、カイル王についての事情はそれほど知らん。いや、王族でも知らされておらん。

依って、余ほど疑問は感じておらんがの。


其方は何を知っている?

其方は何を思って、この世界の常識から外れた、知恵や英知を生み出す?

其方の志、見据える未来はどこにある?


今日は国王と臣下、その立場を超え、これらのことについて、其方と本心で語りたくてな」



もうダメだ。ここまで来れば、致し方ない。


陛下は本気だ。

国王にしか伝えられていない話まで、代々王国に伝わる禁を冒してまで、俺に問いかけている。


どう考えても、もう逃げ場はないな。



「ふぅっ……

あ! 申し訳ありません。


私も真実を語らねばならない、そう覚悟できました。

通常であれば、誰もが信じられるような話ではございませんが、今、陛下のお話を聞き、陛下なら信じていただけると確信いたしました」



「おおっ! では、やはり?」



「私は真実、父、ソリス・フォン・ダレンと母クリスの子供として生まれました。

ですが、生まれた時より、私にはもうひとつの人生を生きた記憶があります。


恐らく、カイル王の生まれと同じ国、日本での。

彼の国は、世の理もその文化も、多くの面でこの世界と異なります。


カイル王とは異なるかも知れませんが、私には、漠然と未来の危機が分かります。


ただしそれは、私が20歳になるまでのものです。

もしかすると私は、20歳でこの世を去る定めにあるのかも知れません。

もちろん今も、そうならないための努力を、日々行っているつもりですが……」



「やはり、やはりっ……」



陛下の様子がおかしい?

何か、感極まっているような……



「これだけは申し上げておきたきことがございます。

私には、王家に忠誠を誓う、ソリス家の血が流れております。そして、私の思いも同様です。


私は今の家族を、私を慕ってくれる者を、そしてこの国を守る使命を背負い、それを誓っています。

例え異なる記憶があろうとも、この誓い、忠誠を違えることはございません」



「ああっ! 本当じゃった。

カイル王の遺言は、誠であったわ。500年の時を経て、余が国王であるこの時代にそれが成された。

王家の者にとって、こんなに嬉しいことはない」



陛下の目からは涙が溢れていた。

俺はどう言葉を返していいか分からなかった。



「カイル王の遺言?」



「そうじゃ、カイル王は看取られる最後の瞬間に、ある遺言を遺されていた。


『既に伝えた通り、私は本来、この世界の住人ではなく、遠く異なる世界、国からやってきた者だ。

いつの日か、この世界のことわりや知識を超えた発想や叡智を持ち、改革をもたらす者が現れるだろう。


そういった疑いのある者が現れた暁には、手元に置き注意深くその為人ひととなりを見極めよ。

王国に忠誠を示し、有為な者と判断できた場合、友として全力でその者を助け、王国の味方とせよ。


その者はきっと、王国を救う導き手となろう。

このこと、王国の秘事として、必ず代々継承すべし。

私は今際の際(いまわのきわ)にあたり、ただこれのみ遺さん』


そう言い遺され、この世を去られたそうじゃ」



「そんな事が……」



と言うか、初代カイル王って、どんだけ凄い人なんだろう。


同じ日本人ってことは……、いや、単純に考えたら500年前といえば戦国時代か?

その時代なら、知識チートは殆どないし、度量衡としてメートル法もない。

そこの矛盾は、どう考えても解決しない。



「実はな、其方を学園に招聘したのは、余なんじゃ。

カイル王の遺言を実践するため、狸爺に依頼してな。


大事な時期に……、そう、例え其方に恨まれたとしても、余はそれを確かめずにはおれなんだ。

そして、カイル王の遺言通り、其方は幾度となくこの国の危機を救ってくれた。

改めて、礼を申し上げる」



陛下の言葉で、これまでの疑問が色々すっきりした。



以前、陛下がテイグーンにわざわざ来られたこと。


領主貴族ですらない、いち男爵が代官として治める地に国王が訪問するなど、通常であればあり得ない話であり、どう考えても合点がいかなかった。

単に国王陛下の酔狂で済まされることではない。



突然、学園長からの学園への召集令状が来たこと。


これもずっと不審に思っていたことだ。態々辺境の子爵家次男(男爵)に対し、公爵である学園長の名で希望もしていなかった学園の入学許可証が、直々に送られてくることなどあり得ない話だった。


しかも後日、学園長は大事な時期に領地から引き離して申し訳ないと言っていた。

それを分かっていながら、何故行ったのか?


仲間の魔法士を守るため、復権派から守るためなら、俺を何かの口実で王都に召集するだけでよく、長期間学園に在籍させる必要はなかったと思う。



それらの理由が今やっと分かった気がする。



陛下は既にあの頃から俺に対し疑念を感じ、密かに目を付けていたということだ。

もしかしたら、金貨5万枚の投資も、疑念に一石を投じる材料だったのかも知れない。


俺はこれまでの様々な裏事情が一気に分かり、身震いした。



「今回の論功行賞にも異論がなかった訳ではない。


前代未聞の三段跳びの昇爵について

前代未聞の褒賞額について


あの時点で、余は既に確信に近いものを感じていた。それ故、遺言に従い其方を全力で支援した。

それが今、間違いではなかったと確信できたのじゃ。この喜びは其方には分かるまい」



「やはり、異論や反対はあったのですね?」



「戦を知らん者どもの戯言ざれごとゆえ気にすることはない。


苦言を言って来た者どもに余は言ってやった。

同じ境遇で武勲を挙げたなら、其方らも同様に扱う故、帝国との戦役では最前線を望むようにと。


数倍の敵軍に、寡兵で見事に完全勝利して見せよと。

難攻不落の要塞を味方の犠牲なく落として見せよと。

疫病の民を抱え5倍の敵に囲まれて勝利できるのか。

解明されていない難病の治療法を、発見できるのか。


このうち一つでも成しえたら、昇爵させてやるゆえ、機会があれば遠慮なく手を挙げるようにとな。

更に、これらを達成した数だけ、昇爵させてやるゆえ遠慮はするな、そう笑って言ってやったわ。


苦言を呈した者共は蒼ざめておったがな」



「お心遣いには感謝の言葉もございません。

ですが……、決してご無理はなされぬよう」



「其方には、感謝を……

本来であれば、初代カイル王と同等、それに近い処遇で遇すべきであろうが、今は我慢して欲しい。

いずれ儂は其方を……」



「何を仰います!

既に私は、過分な爵位と立場をいただいておりますゆえ、どうか、お気に病まれないよう。

私は今でもカイル王国の民、そしてこれから先も、陛下への忠誠を誇りとする王国貴族の一員です」



「国の道理もある故、これからも其方には不自由な思いをさせるかも知れん。

この会話が終われば、元の国王と魔境伯、その関係に戻るだろう。どうかその点、許して貰いたい。


じゃが、其方を友として、今後も陰から援助は惜しまんつもりだ。どうかよろしく頼む」



「これ以上にないありがたい仰せでございます。

これまで通り、陛下の臣のひとりとして対応いただければ、私にとってはそれで十分でございます」



「其方は誠に……

初代カイル王も、異界の地で我らの祖先、虐げられた民の仲間となり、彼らを救い王国を作った。

自身も人外の民のひとりとしてな。

王国の民として生きる、其方と同じように」



そこまで話すと、陛下は笑顔を見せた後、一声発した。



「相伴、ご苦労であった。誠に愉快!

楽しめたぞ、魔境伯。大儀である!」



最後に大きな声でこう言うと、陛下の顔は元に戻っていた。

ゴウラス騎士団長が静かに扉を開け、俺を外に送ってくれた。



この時交わした言葉が、後になって俺の運命を大きく変えること、俺はまだ何も知らない。

ご覧いただきありがとうございます。


次回は【最上位大会⑥個人戦】を投稿予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。


※※※お礼※※※

早いもので遂に200投稿となりました。

これも皆さまの応援あってのものと心より感謝しております。


本当は記念間話にしたかったのですが、最上位大会の競技中に水を差すのどうだろうと思い、国王陛下とのサシ対談という形で、少し特別話に仕立ててみました。


なお、事前告知させていただいた通り、外伝として初代カイル王についてのお話を、本編に並行して本日より投稿していきます。(詳細は作者名のリンク先、活動報告に記載しております)

もしよろしければ、そちらも併せてご覧いただければ幸いです。


ブックマークや評価いただいた方、本当にありがとうございます。

誤字修正や感想、ご指摘などで学ぶ機会も多く、皆さまのご厚意に支えられ、ここまでくることができました。

この機会に改めて御礼申し上げます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お互いに腹を割って話し合ったこと タクヒール君が今までにやったことを列挙していけば、十分すぎるほど異常にまみれたことやってますよね(^_^;) それこそ未知の知識を手に入れたとしか思え…
[気になる点] 全然出てこない国王陛下の名前 伏線だったりするのかな? [一言] やっと国王陛下は、タクヒールの信用を得たみたいですね。 今までの国王は不信すぎるw
[一言] 200話到達おめでとうございます。
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