表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

184/463

第百七十三話(カイル歴509年:16歳)右翼陣営再編成

王都で論功行賞のあった翌日、ゴーヨク元伯爵、ヒヨリミ元子爵、その他叛乱参加者の処刑が行われた。



「これより、王国に叛旗を翻した、大罪人共の処刑を開始する」



ゴーヨク元伯爵は終始青い顔で震えていたが、横に並んだヒヨリミ元子爵は笑っていた。

いや、本人にその自覚はないだろう。目は焦点も定まらず、口元からは涎を流し、ブツブツと呟いている。

彼は自身の首が切り落されるまで、全く変わらなかった。


直接叛乱に参加した貴族は全て、その日のうちに全て公開処刑となった。

だが、連座して死罪となっている者は、今のところ王都の牢獄に収監され、当分刑の実施は延期された。

今後恩赦で罪を一等減じる可能性もあるそうだ。



「我らの義務とはいえ、散々苦しめられた敵とはいえ、見ててあまり胸がすくものではなかったの」



ハストブルグ辺境伯の言葉に俺も同意した。

見ずに済むなら見たくなかったが、これを見届けるのも、当事者として義務のひとつだ。


俺たちはその後、辺境伯の呼びかけに応じ、王宮の一角に集まっていた。



「さて、今日集まってもらったのは、今後の役割と兵の分担を決めようと思っての。

陛下はサザンゲートに4,000騎、テイグーンに2,000騎と仰せじゃったからの」



ここに集まっているのは、発起人のハストブルグ辺境伯、ゴーマン伯爵、ソリス伯爵(父)、キリアス子爵、コーネル子爵、ソリス子爵(兄)、カッパー男爵、ヴァイス団長(男爵)そしてソリス魔境伯である俺の、計9名だった。



「先ず辺境騎士団の割り振りを決め、編成を少し変えねばならんの。

先ずカッパー男爵、そなたは今率いておる元ヒヨリミ兵を500騎の騎馬隊として再編成し、辺境騎士団第7部隊としてソリス子爵の下で動いてもらう。

この点、異存はないかの?」



「はい、勿論です。我が身、我が将兵に名誉を取り戻す機会をいただけたこと、感謝に絶えません。

誠心誠意、務めさせていただきます」



そう答えて、エロールは頭を下げた。



「ソリス子爵、其方は辺境騎士団の主将として、今ある6部隊を統合し、3,000騎を率いよ。

そのうち1,000騎は其方の直属として、今の直属兵500騎、カッパー男爵率いる500騎を取り纏めよ。


これまでの第一部隊から第四部隊、合計2,000騎は其方の寄騎として、それらも統括して、強力な打撃部隊となるよう騎兵部隊を構築せよ」



「はっ! 畏まりました。

皆さまの部隊をお預かりします」



兄ダレクは短く返答した。


これで兄は、それなりに戦局を左右できる規模の部隊を手に入れたことになる。

恐らく兄の将才で、大きな役割を果たすに違いない。



「さて、陛下の仰った4,000騎じゃが、まだ1,000騎ほど足らん。

因みに王都騎士団から新たに500騎が派遣されてくることが決まっておる。また500騎は新たに補充し、この1,000騎は遊撃部隊として、王都から派遣された将に率いてもらうものとして考えてある。


まぁ、第一軍にも王都騎士団からの兵がおるから、それらも此方に配置転換を行うがな」



この4,000騎が機動戦力として動けば、帝国の鉄騎兵団5,000騎にも、なんとか対抗できる機動戦力ができる。

この意義は非常に大きい。

参加者全員がそう思っているように見えた。



「次は辺境騎士団支部の方じゃな。

陛下も2,000騎と大風呂敷を広げられたもんじゃが……


先ずはゴーマン伯爵、ソリス伯爵、すぐにとは言わんが、お主らの領地は倍になった故、当面200騎、最終的には300騎ずつ出す事は可能じゃろう?

コーネル子爵、其方は当面100騎、最終的には150騎といった所かの」



ゴーマン伯爵は大きく、ソリス伯爵は小さく頷いた。

正直、まだ子爵級も背伸びしていたのに、今度は伯爵級の陣容を整えなければいけない父にとっては、大変な事だと思う。


ただでさえ、テイグーンから俺の出していた戦力100騎が抜け、更に増員なので若干顔が引き攣っていた。



「両伯爵の領地は極端に広大になった。

それを差配するため、機動戦力たる騎兵部隊を大きく拡充する必要があるじゃろう?

なに、増強した兵力を団長に預けて、精鋭に鍛えて貰える、そう思えば良かろうて」



それって……、俺と団長の立場はどうなるの?

なんか、頑張ってかき集めた後、訓練は俺たちに丸投げしちゃえ、そう聞こえましたけど……



「そして一番の問題はソリス魔境伯、其方の配分じゃの?」



ですよね〜。

俺の領地って、正直言ってちょっと豊かな男爵領といったレベルだし、突出しているのは金貨だけ。



「現状其方は100騎を自前で、傭兵団より100騎の戦力を騎士団に提供しておるが、最終的には双方から250騎ずつ辺境騎士団に出せるよう努力してもらいたい。

5年を目途に……、できるかの?」



「はい、誠心誠意努力いたします」



正直、領民の人口比で言えば、無茶苦茶な話なのは辺境伯も十分承知しているのだろう。

国王陛下からの莫大な報奨金がある前提での話しだ。


当然、楽はさせてもらえない。



「あとは人手じゃな。

先程の割当で、其方らが新規に供出する兵が300。

辺境騎士団支部として、必要な新規兵力が750だな。


合計して今後其方たちが必要なのは1,050名となろう。これをヴァイス団長とも相談し、その対策を講ぜよ。


今回の子弟騎士団の件もあるでな。

彼ら800名が卒業後、其方らの元に馳せ参じれば、残りは250名じゃ。何とかなるかの?」



「そうですね。彼らは団長を崇拝しています。

既に今年の卒業生は、相当数の入団が内定しています。恐らくそれなりの人数が来てくれると思います」



「支部としての新規兵力、少なくとも750騎については、陛下の仰せの通り、俸給含め諸々の諸費用は陛下の直轄地(元ゴーヨク伯爵領)から賄われる。

それらも含め、検討するが良かろうて」



正直、それがないとウチの領地は飛んでしまう。

ただでさえ、過剰な兵力を抱え大赤字が予想されるのに、テイグーン一帯で支え切れる額ではなくなる。


だが、恐らく確実にあるであろう、帝国の侵攻を受け止めるのには、少しでも多くの兵力は必要だし……

非常に悩ましい。



「ありがとうございます。

我々は、今後の受け入れを見越して、それなりに領地計画を修正する必要が有りますね……」



「そうじゃの、魔境伯の手並み、儂も楽しみにしておるからの。

団長も本来望んでいた卿に忠誠を向けることができ、これに越したことはあるまいて。よろしく頼む」



あ……、そういう意味で言ったんじゃないけど……

まぁ、いいか。

後で、ミザリーと団長を交え相談しよう。


実は今回、王都にはミザリーを伴って来ている。

色々内政面で相談しなきゃいけない事が山積しているので、こちらに同行してもらっていた。



「辺境伯の仰せ、ありがたく拝命します。

一点だけ、お伺いしたき儀がございます」



これまでずっと沈黙していた団長が、初めて手を挙げ発言した。



「南部辺境地域は、これまでハストブルグ辺境伯が全ての軍を統括し、指揮命令権をお持ちでした。

今後もそれは継続される、そういった理解でよろしいでしょうか?」



「そうじゃな……、これを明確にせんといかんな。


魔境伯は辺境伯に準ずる階位となる。

それは戦時の指揮系統、平時の外交などに対し、独自の裁量権を持つことになろう。


今後は儂にいちいちお伺いを立てることは不要じゃ。卿と魔境伯で万事取り仕切るが良かろう。

まぁ、相談や報告はもらえると嬉しいがの……


以後、独断専行を許す!

また、右翼側の陣営は戦時において魔境伯の指揮下に入り、その指示に従うように」



「おおっ!」



周りからも声が上がった。

ゴーマン伯爵は嬉しそうに、父、ソリス伯爵は少し複雑な顔で此方を見た。


これは俺たちにとって、非常に大きなことだ。

今まで以上に大きな権限をもらえた、即ち責任を与えられたことになる。


そして、数万騎にはまだ遠いが、団長は2,000騎の兵力を持ち、思うがままに采配を振るえることになる。


右翼陣営全体では、恐らく5,000名以上の采配を、参謀として団長に委ねることもできる。

俺にとっては、そのことが何よりも嬉しかった。



「おおっ、そうじゃ。大事なことを忘れておったわ。

陛下より、次の合同最上位大会、楽しみにしているとの伝言があったわ」



「!!!」



ですよね~。

やっぱり、いらっしゃるんですよね……



「承知いたしました。

疫病はほぼ終息したとはいえ、大事なお身体に万が一の事があってはいけません。


春になれば……、テイグーン一帯も花が咲き乱れ、陛下をお迎えをする花道も整いましょう。

そうお伝え願えますか?」



これは疫病だけの理由でもない。

右翼側陣営の貴族は全て、戦後処理、新規領地の経営など、やらねばならない事が非常に多い。

領地を空けて、テイグーンに出てくる余裕などない。恐らく最低半年、それぐらいは新領地経営に専念する必要があるだろう。



「諸将もそれで良いかの? 前回の雪辱で腕を磨いている将兵も多い。

我らも楽しみにしていることだし、こちらも魔境伯の手並みを拝見したい。万事よろしく頼むぞ」



こうして話題は一気に変わり、緊迫した空気から、各当主が次回の大会に懸ける意気込みを語る、楽しげな雰囲気となった。



頭を抱える一名タクヒールを除いて……



<南部辺境域 右翼陣営概要>


ソリス伯爵  (内乱前)(戦後) (五年後)

 辺境騎士団 100騎 → 200騎 → 300騎

 戦時従軍数 500名 → 600名 →1,200名

 ※ 内乱前はテイグーンからの派兵戦力を除いた数字

 ※辺境騎士団派兵数との合計



ゴーマン伯爵 (内乱前)(戦後) (五年後)

 辺境騎士団 150騎 → 200騎 → 300騎

 戦時従軍数 800名 → 900名 →1,200名

 ※辺境騎士団派兵数との合計



コーネル子爵 (内乱前)(戦後) (五年後)

 辺境騎士団  50騎 → 100騎 → 150騎

 戦時従軍数 200名 → 300名 → 600名

 ※辺境騎士団派兵数との合計



ソリス魔境伯 (内乱前)(戦後) (五年後)

 辺境騎士団 100騎 → 100騎 → 250騎

 傭兵騎士団 100騎 → 200騎 → 250騎

 国王負担分  0騎 →  0騎 → 750騎

 駐留軍兵士 200名 → 200名 → 計画中

 駐留傭兵団 100騎 → 100騎 → 計画中

 屯田兵              100名

 ロングボウ兵          1,000名


 戦時従軍数 250名 → 400名 →2,000名 

 ※辺境騎士団派兵数との合計

ご覧いただきありがとうございます。


次回は【ソリス家の方針】を投稿予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。


※※※お礼※※※

ブックマークやいいね、評価をいただいた皆さま、本当にありがとうございます。

凄く嬉しいです。

今後も感謝の気持ちを忘れずに、投稿頑張りますのでどうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
内政と戦歴が凄い伯爵家当主の学生に罵声を浴びせていた先生・・・南無・・・
[一言] 主人公配下だった魔法兵団の人達は国に取られたまんまなんじゃ?
[一言] 陛下・・・フットワーク軽すぎませんか? あまり南部ばかり目をかけると他の地域・・・特に北と西の貴族がざわざわしますぞwww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ