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第十六話(カイル歴502年:9歳)血塗られた大地① 出陣

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【⚔ソリス男爵領史⚔ 滅亡の予兆】


カイル歴502年、グリフォニア帝国ゴート辺境伯、

実りの時期を狙いカイル王国に侵攻す


ハストブルグ辺境伯及び周辺貴族軍、国境にて迎撃

ヒヨリミ子爵軍、大きく崩れ右翼の戦線は崩壊

最右翼ソリス男爵軍、孤軍となり四割を失うも奮戦

右翼を支え戦線の崩壊を防ぐ


ハストブルグ辺境伯軍、多くの兵を失うも侵攻を阻止

ゴート辺境伯軍、多くの敵兵を討ち意気上がるも撤退


双方とも大勝利と号すも、国境の地はカイル王国の兵の血で濡れ、エストールの民、大いに嘆く

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夏の終わりのある日、ハストブルグ辺境伯より早馬が到着した。

グリフォニア帝国に侵攻の予兆あり。可及的速やかに兵を率いてサザンゲート砦に参集すべし。


サザンゲート砦より南方の国境線、サザンゲート平原にて敵を撃滅する。



来る時が来た。

父は領内各地より騎士領を含めた常備軍(215名)と、兼業兵335名、総勢550名を徴発した。


そして一部を留守部隊として残し、360名と双頭の鷹傭兵団40名で、総勢400名を率い出征した。


この数は一般の男爵位を持つものに割り当てられた200名より遥かに多く、子爵位の割り当て600名には及ばないが十分に面目を保つ人数だ。



軍がサザンゲート砦に到着したころには、大まかな敵軍の概要も判明するに至った。


今回の侵攻は帝国軍の本体は参加せず、ゴート辺境伯の軍勢が主体であることが諜報によってもたらされたという。(まぁそれは【歴史書】から事前に分かっていたことだけど……)


今回の侵攻、帝国のお家騒動のとばっちり受ける形となった。

将来、皇帝となりカイル王国へ侵攻を指示する第三皇子の派閥ではなく、第一皇子の派閥が動いていた。


帝国南方の戦線で活躍する第三皇子に対し、目立った戦果の無い第一皇子は、競争心と敵愾心満載で、麾下のゴート辺境伯に出征を命じる。


……、カイル王国にとっては極めて迷惑なことだ。



ハストブルグ辺境伯は、敵軍の陣容が判明すると、国境付近まで進出し、カイル王国側の丘陵地帯に、鶴翼の陣で布陣した。



<右翼>

ソリス男爵軍 :400名

コーネル男爵軍:200名

ヒヨリミ子爵軍:600名

ゴーマン子爵軍:800名 

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右翼軍    計2,000名


<中央>

ハストブルグ辺境伯軍 3,000名


<左翼>

キリアス子爵軍:1,100名

クライツ男爵軍: 200名

ボールド男爵軍: 200名

ヘラルド男爵軍: 200名

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左翼軍    計1,700名




「今回の布陣、団長はどう思う?」


今回の出兵、ヴァイス団長はソリス男爵の参謀を務めている。



出征前、タクヒールは事前に兄のダレクと相談し、提案した作戦案のいくつかを、恐らくヴァイス団長が指揮すること、これが最善手と結論付けていた。


軍略や指揮という部分では、ソリス男爵も人手不足を認識しており、ヴァイス団長は男爵に乞われ、傍らで参謀役を務めることとなっていた。



「敵は我々とほぼ同数の7,000、柔軟に攻め手を変えれるよう魚鱗陣を敷いております。片や味方は、右翼、左翼とも、それぞれが防御に優位な丘の上を押さえたため、おのずとこの鶴翼陣になりました。

兵力差が無い状態で、この陣形は危うさもあります」



※布陣図


       (ゴート鉄騎兵団)

        ゴート辺境伯軍

 

キキ                  ソソコ 

キキキキ              ゴゴゴゴ

   男男男          ヒヒヒ

      伯伯      伯伯 

       伯伯伯伯伯伯伯伯

          伯伯伯




伯:ハストブルグ辺境伯軍

キ:キリアス子爵軍

ゴ:ゴーマン子爵軍

ヒ:ヒヨリミ子爵軍

ソ:ソリス男爵軍

コ:コーネル男爵軍

男:クライツ、ボールド、ヘラルド男爵軍




「というと?」



「恐らく敵は、両翼のいずれかに各個撃破、または勢いに乗じて中央突破を図る可能性もあります。

それに対し、わが軍は包囲陣を敷いたため、厚みに欠け、かつ一旦戦闘が始まると遊軍ができる可能性があります」



ヴァイス団長は隣の陣を見渡しながら言葉を続ける。



「更にわが軍の右翼は連携を欠き、疑心暗鬼、敵が右翼に攻勢を集中すれば、右翼は崩壊の可能性もあります」



「我々は敵に対しても、味方に対しても警戒しなければならないということか…」



「はい、此度の戦で子爵達が、過去の遺恨を晴らすことを実行するかも知れません。

敵の攻勢を支えきれず、ゴーマン軍とヒヨリミ軍が後退すれば、我々は敵中に孤立しますので……」



「危ういな……」



「おそらく、敵もそう思うでしょうね」


ヴァイス団長は不敵な笑顔で笑った。



「敵の主力、ゴート鉄騎兵団は強力です。この突進をまともに受ければ、我々では持ちこたえられないでしょう。

まぁ、まともに受ければ……ですが。そこが我々のつけ入る隙でもあります」


そう言った団長の顔は、自信に溢れていた。



「地魔法を駆使し、陣地構築に長けたコーネル男爵の軍が我々と共にあること、わが軍は全ての兵士がエストールボウを装備していること、新たに編成できた200騎の騎兵戦力があることで、それなりの戦いができると思ってます。


幸いにも、味方の左翼を率いるのは、勇猛で名を馳せたキアリス子爵軍です。機を見るに敏な子爵がこちらの攻勢に応じ、半包囲に移れば、戦局は逆転します」



そう、【前回の歴史】にはなくて【今回の世界】にはあった最も大きなこと、それは……


・ソリス男爵軍にヴァイス団長(常勝将軍)がいる

・数こそ少ないが、彼が率いる精強な傭兵団もいる

・ソリス男爵全軍にエストールボウが配備されている

・そして前回と比べ格段に増えた騎馬兵力がある


軍略の天才でもあるヴァイス団長の采配は、多少の不利など覆すだろう、戦場にいないタクヒール達にもそう感じさせるほどの、不思議な安心感があった。


またソリス男爵軍では、専門職の弓兵を全て廃止、代わりに騎兵を含め全員が、エストールボウと呼ばれる新型クロスボウを所持している。


技量に大きく左右される弓と違い、クロスボウは熟練を必要としないため、召集された兼業兵でも、その利点を十分生かすことができる。



因みにソリス男爵軍に騎兵が増えた事には裏がある。


2年前の穀物暴騰の際、男爵はちゃっかり軍用馬を中心に、安値で買い集めていた。


他領では食料が足らず、酷いところでは馬を潰して食料にしたり、馬を売り対価として穀物を得たりしていたため、人が食べる食料も不足する中、軍馬に費やす余裕もなかった。



今後、エストール領では大量の馬が必要になる。

更に、大森林近くに、大規模な開拓地を作ることを予定している。


場所柄、大規模な魔物の襲撃があった場合など、万が一の際は全領民が速やかに逃げられるよう、大量の馬を配備する必要がある。


そんな名目で各地から馬を購入、対価として穀物を放出していた。


その結果、ヴァイス団長の傭兵団は全員が騎兵(契約料の一部を馬で現物払いしていたため)、あと常備軍にも騎兵が多く配属されていた。



「そろそろ敵が動き始めますな。コーネル男爵にお借りした地魔法士による陣地構築は終了しております」


「全軍、戦闘準備!」


ソリス男爵の号令でソリス男爵軍全軍が戦闘態勢に入った。



後日、サザンゲート殲滅戦、と言われる戦いがついに始まった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 1万人切ってる…本当に小競り合いだったんだな
[一言] Black Death 始まり
[良い点] 伝説の始まりですね
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