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第百六十一話:反乱軍攻防戦④ 東方より来る光の使徒

「何だっ! 一体何が起こっている?

何故、奴がここにいる?

そんな筈……、あり得ないだろうっ!」



夜が明けて数刻後、突如東側から魔境を抜けて襲い掛かって来た敵軍に、リュグナーは先ず驚き、そして急展開する事態に呆然自失となった。



その始まりは突然だった。


数百はいるであろう騎馬隊が、まるで魔境から湧いて来たかの如く突然現れ、同時にリュグナーが待機していた本陣に向かって襲い掛かって来た。



騎馬隊は一糸乱れぬ動きで、リュグナーの敷いた陣の最も厚い中央を蹴散らし突破した。

次に、背後に出ると左右に展開して、逆に魔境側に追い込むよう半包囲してきた。


僅か100騎程度のリュグナーの軍は、不意を突かれた上、中央を引きちぎられ、まともな戦闘指揮もできないまま包囲されて、殲滅の危機に瀕している。


そして、その敵軍の先頭で騎馬にまだがり、剣を振るって味方を蹴散らしている男の顔に、リュグナーも見覚えがあった。



「帝国は一万の軍勢だぞっ!

奴はサザンゲートから動けん筈なのに……、ハストブルグは自滅覚悟で奴を此方に送り込んでいるのか?

信じられんっ!」



リュグナー自身、諜報によりグリフォニア帝国軍の第一皇子が、国境に一万の軍勢を展開させた事を知っている。


ただでさえ、辺境伯の軍勢は劣勢だ。

此方に援軍を遣わすなど、普通ならあり得ない話だ。


一体何が起きている……

彼の思考は、余りにも予想外の出来事に硬直し、味方の指揮すらできずにいた。



「リュグナーさま、どうか! 一旦お引きくだされ。この数では敵を支えきれませんっ。

我らが敵を食い止める間に、落ち延びてくださいっ」



側近の言葉に、やっと我に返った彼は、まだ信じられない、そういった表情のまま、数名の者に守られて、魔境の中へと逃亡していった。


関門前に展開し戦う400名の兵士たちを見捨てて。



リュグナーを襲った騎馬隊は、100騎が守る彼の本陣を一蹴すると、すぐさま踵を返して、テイグーンの隘路を、関門方向へと駆けて行った。



「取り敢えず、逃げ散った奴らは捨ておけ!

先ずはテイグーンを目指すぞ。ここの隘路は狭く難所も多い。各自、手綱をしっかり持てよ!」



そう配下の兵に命令すると、その男は真っ先に駆け出し、一団はその後を追い駆け出した。


彼に率いられた一隊は、狭く曲がりくねった隘路も、まるで平地を真っすぐ奔るが如く疾走する。



「この道も、この辺りの魔境も、鉄騎兵団の演習で散々通ったからな。目を瞑ってでも走れるわ!」



そう豪語した男は、先頭を駆けながら先を急いだ。



彼がこの時期に、そしてここテイグーンまで駆け付ける事ができたのには、幾つかの事情があった。



ハストブルグ辺境伯は、テイグーンからの使者から、エロールが新関門にて保護を受けた経緯を知った。


そして、辺境騎士団全軍に出動を命じると、麾下の兵と、南部辺境東側に位置する各貴族(キリアス子爵、クライツ男爵、ボールド男爵、ヘラルド男爵)を直ちに招集した。


同時に、国境を越えた先、休戦中であるグリフォニア帝国側にも、不穏な動きがある事を察知した。



辺境伯は先ず、国境に物見と詰問の使者を放った。


そして使者が戻ると、展開していた軍は、第三皇子の率いる軍勢ではなく、何故か第一皇子の軍勢である事が判明した。


この時点で辺境伯は、帝国の真意と事情を、それらを取り巻く情勢が掴めず困惑した。



だが、物見が戻りある程度の事情も掴めて来た。

国境に展開する彼らは、何故か食料不足で窮乏しており、戦意も低いため、攻勢に出る余裕がない。


いくつかの情報を集約し、ハストブルグ辺境伯は、ひとつの推測にたどり着いた。



恐らく、本来は国境を守る役目を受け、その任に当たっている第三皇子旗下、ケンプファー子爵と内輪揉めでも起こしているのだろう。


あの切れ者のことだ。第一皇子に手柄を立てさせないよう、きっと陰で暗躍しているのだろう。



その仮説を立てたころ、カイル王国内各地で反乱の火の手が上がった。

ここで、辺境伯は大胆とも言える決断を行った。



ソリス男爵ダレクよ、卿はこれより辺境騎士団第六軍を率いて、西側で戦う者たちの救援に向かえ!

国境は我らが守護するゆえ、其方は各地を平定して参るのじゃ!

この先、自身の判断で、良かれと思った行動を取ることを許可する」



辺境伯の命令一下、ダレクは直ちに動いた。


これまでの情報収集や国境の不穏な動きに対し、辺境伯が決断を下すまで、当然のことではあったが、少なからず時間を要することとなった。


仕方のない事とはいえ、救援に向かう先、テイグーンを始め、味方陣営は苦しい戦いの渦中にある筈だ。


そう考えるとこれより先は、迅速に行動する事こそ最優先である、ダレクはそう決断を下した。



彼は直ちに麾下の兵を集め、最短距離の魔境を抜け、先ずテイグーンに駆け付ける事を伝え準備させた。


幸いにも、テイグーン周辺の魔境は、彼にとって土地勘のある庭同然だったことも幸いした。


まだ夜も明けきらぬ内にサザンゲート砦を出発した彼らは、騎馬を疾走させ、誰もが想像できない速さで魔境の危険地帯を駆け抜けた。



絶望的な防衛戦を展開していたキーラたちにとって、ずっと祈るように待ち望んでいた報告が届く。



「辺境騎士団だぁっ!

ダレク様の旗印が見えますっ! た、助かったぁ〜」



この兵士の報告は、防衛に当たった皆の気持ちを代弁していた。

そして、この援軍の知らせは、絶望していた守備側の士気を一気に盛り立てた。



駆け付けたダレクの方でも、魔境側の関門を見て安堵の言葉を漏らした。



「良かった! まだ何とか持ち堪えているな。

先ずは手前の騎馬隊を蹴散らす! 我に続けっ!」



隘路を抜け、関門前に広がった空間に躍り出たダレクは、そう言って騎馬隊を突進させた。


破城槌が動いているということは、まだ関門は陥ちてはいない。一目見てそれが理解できた。



真っ先にダレク率いる騎馬隊の突撃を受け、脆くも潰走したのは、領民兵を指揮していた、リュグナー直属の兵士たちだった。


自軍の勝利を目前にしていた彼らは、予想外の事態に動揺し、敵軍の出現に激しく混乱した。

最後尾の最も安全な位置から、領民兵を督戦していた事も彼らにとって災いした。


彼らは、その背後から、怒りに燃えたダレクたちの突撃を、まともに受ける事となった。



「う、後ろからだと? な、何が起きているっ?」


「リュグナーさまの本営はどうなった?」


「撤退だっ! 撤退しろっ!」


「ど、どこに?」



片方を関門に、そして片方を狭い隘路に塞がれていた彼らには、もちろん撤退できる退路など無かった。



「奥の歩兵たちには目もくれるなっ!

先ずは敵の騎兵だけを包囲し、殲滅しろっ!」



ダレクはこの騎兵たちが最も手強い、ヒヨリミ軍の正規兵だと看破かんぱし、直ちに殲滅にかかった。


彼の剣技は『カイル王国で並ぶ者なし』、そう言われているほど鋭く、そして激しく、ヒヨリミ軍の騎兵を次々と屠っていく。



片や動揺するヒヨリミ軍は、不意を突かれ組織的な抵抗も出来ず、圧倒的に数も不利な状況下で、次々と討ち取られていく。


ダレク率いる精鋭500騎と、目前の勝利に酔い、退路を失った僅か100騎では、勝負にすらならない。



更に、突如背後から現れた敵兵に、関門前に展開していた歩兵(領民兵)たちも大きく動揺していた。


彼らは元々兵士ではなく、駆り集められた領民だ。


自分たちを指揮をする騎兵が、戦場に乱入した敵軍に次々に討ち取られて行くのを見て、ただ呆然とそれを眺めていた。



「おい、儂らこのままこっちを攻めてて良いのか?」


「分からん。兵士に聞けっ!」


「その兵士はどこだよ?」


「このままじゃ、俺たちもやられるぞ! 一箇所に固まって矢の準備をすべきじゃないか?」


「ああ、きっと奴らも仇の一味だろう。絶対に許しちゃおけねぇ」



ややあって、彼らヒヨリミ子爵領の領民兵たちは、命令されるでもなく関門前から自主的に後退し、集結を始めた。

そして、ダレクたちに向かい矢を構え始めた。


その目は澱み、どす黒い憎悪をまき散らしながら……



ダレクは圧倒的優位な騎兵同士の戦い、殲滅戦を指揮する傍ら、いち早くこの危機に気付いた。



「ちっ! 大人しくしてれば良いものを、これでは俺たちにも被害が出てしまう」



そう言うと同時に、彼の血統魔法である光魔法を、敵の弓箭兵に向かって放った。

ありったけの力で、できる強い光を!

そう思いを込め、渾身の力で……



ヒヨリミ子爵の領民兵たちが、引き金を絞ろうとした刹那、彼らに目も眩む眩しい光が襲った。

一群となって固まった彼らは、足元から突然沸き起こった光に包まれ、その強烈な光の中に飲み込まれた。



「ぐわぁぁっ!」


「目がっ! 目がぁっ!」



彼らは叫び声を上げ、大地に崩れ落ちた。

そして一様に倒れ伏し、起き上がる者は誰一人としていない。



「一体……、今のは何だ?」



この出来事に光を放ったダレク自身も困惑していた。


思わず夢中で、渾身の力を込めて放った光魔法の、思いもよらない効果に驚きを隠せなかった。


目を眩して矢を封じ、その間に騎兵で蹂躙するつもりだったが、この不思議な光景を見たダレクは、急遽その方針を変えた。


取り急ぎ窮地は脱したこと、ヒヨリミ子爵軍の騎兵たちも掃討したため、配下の兵に命じ彼らを捕縛することにした。


いずれ然るべき対処はするものの、失神し無抵抗となった彼らの、命を奪うことは憚られたからだ。


そして自身は、まだ火が燻る関門前に立ち叫んだ。



「開門っ! 開門せよっ!

当面の危機は去った。俺の顔が分かる奴はいるか?」



テイグーンの魔境側関門攻防戦は、こうして幕を閉じた。



東方より駆け付けた、希望をもたらす光の使い手によって。

ご覧いただきありがとうございます。

次回は【矢継ぎ早に訪れる凶報】を投稿予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
バ ル ス
闇に特攻すぎる。こうなると身代わりで失った彼がつくづく惜しいね
ダレクさん、なにか新しい扉開いた?開門?
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