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第百四十八話:残されし者の戦い③ 大掃除の始まり

タクヒールたちが、東部国境戦の緒戦で凱歌を挙げていたころ、王都においても彼らを支援すべく、動く者たちがいた。



「ゴウラス聞いておるか? あの者は早速、東の国境でも戦果を挙げたというではないか」



「陛下もお耳が早いですな。かように早く、でしょうか?」



「いやいや、余の元には、特別な耳を持った者がおるでな。公爵よ、其方が収集した戦況について、ゴウラスにも話してやれ」



「畏まりました。

実は初戦は……、負けておったのじゃがな。血気にはやる復権派の馬鹿どもが力押しで攻めての。

ただ、その際にもソリス男爵は直接的に2,000名、間接的には半数近くの味方を救ったそうじゃ」



「なっ! なんとまぁ……

彼の手勢は僅か200余名、子弟騎士団を合わせても1,000名程度ではござらんか?」



「そうじゃの、だがそれだけでは終わらん。


その次は策を練り、前線に出てきておった敵軍、12,000名を見事に打ち破ったそうじゃ。

散々に打ちのめされた敵軍は、構築した防塞を放棄し、国境の砦まで撤退したと聞く。

ほっほっほ、お主の配下、ホフマン殿もシュルツ殿も、彼の良い手駒になっておったというぞ」



「それは……、喜んでよいやら、悲しむべきか、判断に困りますな」



「切れ者のハミッシュでさえ、皇王国軍には手を焼いておった。

ゴウラスよ、騎士団にも余計な損害は無かったという。これは幸いと喜ぶべきじゃろうな」



「御意」



「所で今回、両名に集まってもらった理由は……、わかるの?」



「御前の思し召しは……、何も戦場ばかりが戦いの場ではない。

我らで王国のため戦場で戦う者の、足元を固めてやれ。そう推察されますが、いかがですかな?」



「そうじゃな。彼の者が此度の戦地に赴いた事情は、いささか同情を禁じ得ないでな。

魔法士の件をあげつらい、あのような噂が広がった後では、余としても庇いきれなんだ」



「我らの力が足らず、申し訳ありません。

貴族を統制する内務卿、国政に必要な収支を預かる財務卿、国内の商取引など流通を差配する商務卿、王都騎士団以外の兵を管轄する兵部卿、この4官職を奴らに押さえられている現状で、陛下のお心に沿う事も叶わず……」



「余も何かと筋を通す必要が出てしまうでな。まぁ面倒なことじゃがな。

下手に庇いだてすれば、今後叛意ある者への対処が立ち行かなくなる。奴らはそう言って大義名分を押し付けて来よるでな。

ところで、公爵よ。其方らが進めている掃除の進捗はどうなっておるのだ?」



「はっ! 此度は後手に回り、あの者にも悪いことをしたと思っておりまする。

ですが、此度の奴らは、他人の落とし穴を掘るのに夢中で、いささか失態を犯しましてな。

先ずは、我らで奴らの手足をもぎ取ろう、そう考え、ゴウラス殿と動いております」



「では、仔細は任せるが、くれぐれも頼むぞ。

彼の者の王国への忠誠は間違いない。勅令魔法士たちを活躍させ、その滑り出しに結果を出した。

我が意に沿う者として、引き立ててやってくれ」



「畏まりました」

「御意」



極秘裏の謁見が終わったのち、2人は学園の学園長室へと密議の場を移した。



「さて、陛下もそろそろ焦れておられる。今度は我らが結果を出す番、そういう事じゃろう」



「とは申しましても……、復権派の領袖共は、自らの手は汚さず、なかなか尻尾を掴ませません」



「なので、一石を投じようと思っての。

此度の子弟騎士団結成においても、貴族の間を動き回っておった鼠が一匹おったであろう?」



「確かに、ですがそれだけで罪を問う、そういう訳には参りませんが?」



「だが、王都に召喚し、ことの経緯を問いただす。それぐらいはできるのではないか?

こういう面白いものもあるでな」



そういって学園長、クライン公爵は一通の書状をゴウラス騎士団長に差し出した。



「なんとっ! これは……」



その書状には、ハストブルグ辺境伯が構築中の、国境要塞の概略図と、ソリス男爵が建設中の魔境砦の位置が記されていた。


カイル王国は着々とその防備を固めつつある。その防備が整う前に、兵を整え侵攻されたし。

我らはその尖兵とならん。


そんな言葉とともに……



「これはの、国境を巡回しておったソリス男爵、いや、男爵といっても兄の方じゃな。

密かに西の方向から、国境を越えようとしていた、間者を彼が捕らえたのじゃ。

間者は闇魔法士でな。隠行して国境を越えようと企んでおったが、相手が悪かったな。

残念ながら、その間者は自ら命を絶ってしまったが……」



「話には聞いたことがありますが……、相克ですか?」



「そうじゃの。光は闇を祓う。闇魔法士の隠行も、光魔法士の前では一目瞭然じゃ。

そして、闇魔法士……、南部辺境で闇を司さどる貴族といえば、あ奴しかおらんわ。

我らは、弟の方からの報告でも、あ奴には目を付けておったからの」



「それでは、我らは子爵を召喚する手筈を整えるとします。

それにしても、やはりハストブルグ辺境伯は、獅子身中の虫を抱えていた。そういう事ですな。

辺境伯自身も以前より懸念し、警戒していた通りとなりましたな。

ちなみに、その他の手足は如何しましょうか?」



「例の伯爵の方も、叩けば何かと埃が出るでの。

先年の捕虜返還の際、あ奴がくすねた帝国金貨の件や、諸々横領の嫌疑、そんな事でも良かろうて。

差し当たり、それら他の罪も併せて、降爵させるぐらいは証拠が集まったからの。

奴は自らの強欲さで身を亡ぼすであろうて」



「辺境での奴らの勢力を削ぎ、味方である彼らの足元を固めていく。

陛下の仰っていた事は、そういう事ですか! やっと合点が参りました。

奴らが南に打った楔を、これを機に一気に解体するという訳ですな?」



「そうじゃ、南では伯爵2家と子爵4家、これらが主に奴らの先兵じゃ。

掃除の第一段階で、そのうち伯爵家の1つが力を失うことになろうて。

そして東でも、面白い事が起こっているようでな」



「東に打たれた奴らの楔といえば、モーデル伯爵ですか? 

なまじ優秀で人望もあり、復権派に付く者のなかでは、厄介な存在と思っていたのですが……

戦に限れば素人同然ゆえ、初戦で死にましたか?」



「ふむ……、死んだと言っても差し支えなかろうて。

ハミッシュ殿の報告によると、戦場で弟の方に命を救われ、心を入れ替え、生まれ変わりよった。

奴がこちら側になれば、東の有象無象は奴に倣う。

今後の戦の推移は、未だ予断を許さぬものがあるが、ひと先ずは上々の結果と言えよう」



「一気に事が動けば、さすがに領袖共も焦って動きを見せましょう。

さすれば、今度こそ奴らを国政から排除し、陛下の宸襟しんきんをお騒がせすることも無くなりましょう。


そのための一手として、鼠を王都に召喚するといたしましょうか。

あの者が嵌められたのと同様に、王都に不穏な噂が流れた後、鼠は召喚されることとなりましょう」



「ゴウラス殿、頼んだぞ。くれぐれも慎重にな」



「心得ております」



数日後から、王都は新しい噂でもちきりになった。



「カイル王国と王国貴族に対し、不逞な企みを持つ者がいるらしい。


その者は……

若き貴族の子弟を焚き付け、戦地に送り出すことで、王国貴族の弱体化を企んでいると。


第一子弟騎士団の悲劇を引き起こした黒幕であると。

不逞を企む間者が往来し、帝国と通じていると。

近く王都に召喚され、詰問を受ける予定らしいと。

闇魔法で心弱き者に付け入ることを得意としている。


その者により、心の間隙に付け入られ、闇に堕とされぬよう各々注意せよ」



敢えて、一部の情報は伏せられているが、貴族たちは好奇の目を向け、対象を特定していった。



「ゴーヨクよ! 此度の噂は一体何だ! どうなっておるっ!」



いつもの如く、復権派が主催する園遊会でもこの噂が取り沙汰され、4人の侯爵は青くなった。

直ちに、別室のサロンに呼び出されたゴーヨク伯爵は、彼らに面罵された。



「全く、根も葉もないことにございます。一体いずこからあの様な噂が出たのか……」



「王権派に決まっておろう! 奴らめ、我らに反撃を企てて来おったわ」



そう彼らは、その噂がある程度の事実に基づいていることを知っていた。


彼らは……


特定の貴族(ソリス男爵兄弟)に対し、彼らを貶める噂を流し、排斥を行っていた。

今回の子弟騎士団結成を焚きつけた。いや、配下に影響を及ぼし、焚き付けさせた。

配下である子爵の息子は、第一子弟騎士団に所属しながら、致命的な失態には参加せず生還した。

休戦協定締結を妨害するため、配下の子爵の提案に応じ、密かに帝国と渡りを付けた。


そして、その渦中にあるその子爵は、彼ら復権派に属し、闇の血統魔法を受け継いでいる。



「伯爵よ、奴は切り捨てる。我らとは関わりなき者だ。分かったな?

そなた自身も、一旦領地に戻り、身の回りを整理することだ。

国王直々の審問官が、其方に対し数々の不正のかどで審問を行う、そういう噂もあるでな」



「我らの足を引っ張られでもしたら、たまったものではないわ!」



手のひらを返され、まるで汚物を見るように罵詈雑言を浴びた伯爵は、慌ててサロンを退出した。



「ソリスの者どもめ、ハストブルグめ、目にものを見せてやるわっ!

それと中央に巣食う愚か者どもめ。復権派などと、精々児戯に等しい政争を繰り返しいるとよいわ。

自身が断頭台に立つ、その日までな」



彼は濁った目で、心の中にどす黒い感情を渦巻かせながら、振り返って侯爵たちに毒づいた。

甲高い声で笑った彼の眼は、既に常軌を逸しており、その変化に気付いた者はまだ居なかった。

ご覧いただきありがとうございます。

次回は【四の矢:病者の行進】を明日投稿予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。


※※※お礼※※※


皆さまの温かいお声をいただきながら、ある程度予約投稿のストックも蓄積できました。

第百三十話以降ストーリーの展開も早く、それに合わせ2月一杯は毎日投稿を復活させて頑張りたいと思っています。


ブックマークやいいね、評価をいただいた皆さま、本当にありがとうございます。

凄く嬉しいです。

毎日物語を作る励みになり、投稿や改稿を頑張っています。


誤字のご指摘もありがとうございます。いつも感謝のしながら反映しています。

本来は個別にお礼したいところ、こちらでの御礼となり、失礼いたします。


また感想やご指摘もありがとうございます。

お返事やお礼が追いついていませんが、全て目を通し、改善点や説明不足の改善など、参考にさせていただいております。


今後も感謝の気持ちを忘れずに、投稿頑張りますのでどうぞよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 2月は明日で終わりなんですが(@_@)
[一言] あの子爵家が闇魔法を使うのか…… 闇魔法を使う人間の快在り方も陰険や陰湿な臭いがするよね。
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