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第百四十一話:東部国境戦⑤ 一夜城構築

※※※ 開戦二日目



軍議が終わった後、カイル王国軍は全軍を挙げて、敵防塞攻略の準備に入った。

基本的に、敵軍は『待ち』の陣形なので、それを逆手に取って動き出した。



先ずは囮には囮だ。


王都騎士団第二軍が、敵の防塞正面、900メル(≒m)位置に対峙し、突撃の構えを見せる。

敵は昨日と同じように、体制を整えるはずだ。


そして、100騎単位の小集団に別れ、複数の小集団で突撃を敢行し、500メルの手前で踵を返し戻る。

この行動を繰り返した。



「お前らっ! いくら敵の矢が来ようと死ななければ問題ない! せいぜい敵をおちょくってやれ!

名誉の傷を負った者は、ソリス家の女神(聖魔法士)たちが癒してくれるぞっ!」



「応っ!」



いや……、ホフマン軍団長、そんな士気の上げ方って、どうなんよ?

確かに、士気はめっちゃ上がっているけど……


彼らに対し、幾度かは敵陣からの長距離制圧射撃もあった。

だが、そもそも100騎程度の敵兵に対してだと、割が合わないし、矢の威力も弱く、重装甲の彼らの鎧を貫くことはできなかった。


ただ、矢を受けた騎馬が暴れ、落馬する者はいたが、もともとその覚悟で動いていたので、大事には至っていないし、少数で動いており、仲間の馬蹄にかかる者もいない。


こうして、皇王国軍に対する挑発は続けられていった。



戦場であからさまな挑発が続けられている頃、2万の兵が安全な距離の森に入り、木々を伐採し始めた。

目的は、大量の杭を作ることだ。


今回の作戦で一番警戒しなければならないのは、森に潜む敵、ロングボウ兵だ。

彼らが密かに森を通ってこちら側に進出し、左右の軍がタイミングを計った上で、ロングボウの一斉射撃を加えてくれば、此方は相当の痛手を被ってしまう。


彼らを森の中で封じ込め、敵陣から500メル以上先の森に進ませないこと、それを第一段階とした。



「なんとか日が沈むまでに、森の中に防御ラインを構築したいのですが……、間に合いますよね?」



「はははっ! 2万人の人海戦術です。なんとかなるでしょう。昨日の時点で、工作道具を集めに走らせておいて正解でしたね」



団長ヴァイスの言う通り、全ての人員にまで道具が行き渡らなかったのは、残念だったが、予めハミッシュ辺境伯の号令一下、近隣の農村や街へ早馬を走らせた結果、朝の時点でそれなりの数は揃っていた。


半日後、ある程度の数の杭が揃った時点で、左右の森に、それぞれ、2,000名の護衛に守られた設営班が進出、一斉に森の中で防衛ラインの構築を始めた。



「500メルの位置の木に印が付いている。先ずはそれを探せ!

見つかったら地魔法士に報告、護衛隊はその前方に進出し、設営班を守れ。

敵の弓兵がどこかに潜んでいるやも知れん。警戒を怠るなよ。

設営班は地魔法士が掘った溝に杭を刺していけ。

多少粗くても構わん、時間を惜しめっ!」



森の中では、設営班を率いる者の指示が飛ぶ。

こうして何とか日没前には、敵陣から約500メルの森の中に、防衛ラインは構築された。



「後は……、この防衛ラインを守り切るだけですな」



「はい、モーデル伯爵、左翼はよろしくお願いします」



彼は昨日の初戦で戦傷を負い、聖魔法士による治療を受け命を取り留めていた。

とはいえ、本来なら今も安静が必要な状態だ。


にも拘わらず、伯爵は朝の会議も負傷を押して参加し、俺の激発をなだめてくれた。

そして今も、左翼防衛ラインの主将を負傷を押して買って出て、ここに居る。



「くれぐれも、お身体を労わってくださいね。本来なら、まだ安静が必要なんですから」



「承知した。後は、指示された対応を遂行するのみじゃ。今の儂でも問題ないわ」



モーデル伯爵は、俺に勧められた椅子に座り、胸を張った。

この防衛ラインの守備に関しても、ヴァイス団長と想定問答を繰り返し、対策は検討している。



「夜襲に対する備えは?」


「防衛ラインができれば、明日の朝まで3交代で2,000名ずつ配置につきます。

左右それぞれ、即応戦力2,000名に、予備兵力4,000名でどうですか?」



「暗闇の中、敵の接近を察知する対策は?」


「杭の少し前方に、伐採時に出た小枝を一面に敷き詰めます。無音で忍び寄るのは不可能でしょう」



「火攻めを受けた際の対策は?」


「風魔法士をこちらも3交代で左右に配置します。彼らの魔法で、逆に敵に向かい火を誘導します」



「遠距離射撃を受けた際の対策は?」


「余った木材と、竹林より切り出した竹があります。これらを並べて簡易の屋根をつくります。

斜め上方からの矢であれば、入射角が大きくなるよう設置すれば、簡単に矢を弾くことができます。

軍勢の待機場所、休憩場所にだけ作っておけば事足りると思っています」



この他にも、幾つか対策を協議し臨んでいた。


予想通り散発的ながら、皇王国軍の威力偵察や、遠距離射撃はあったが、全て事なきを得た。

そして……、日が暮れた。



ここからが、本命の第二段階だった。

ソリス魔法兵団の本領発揮である。



何も見えない暗闇の中、敵の防塞正面、約600メルの距離で、密かに作業を進める一団があった。



「ラファール、可能な限り隠形を頼む!

みんな、隠形されているとはいえ、灯りは極力小さくするので、細心の注意を払って欲しい」



ヴァイス団長がバルトに対して、俺の指示に加えて持参(空間収納)させていた物が3種類あった。


そのうち1つが、テイグーンの開発で建築用に切り出した、大量の大型石材だ。

まぁ、残りの秘策の為に、石材を持ってきた。そちらの方が正解かもしれないが。


俺たちは、暗闇の中、バルトに取り出してもらったその石材を積み上げ、逆V字型、底辺のない三角形状の小さな防塞を築いていた。正直、このバルトの輸送能力こそ、俺たちの最大の強みと言っても差し支えない。



「基礎は固まった。アストール、次の段階を頼む。できるだけ静かに、できるだけ早く。

他のものは一基ずつ台座に据え付けをお願い」



アストールは2人の地魔法士と共に、石材で築いた防塞の内側から、トンネルを掘り敵陣側に出ると、そこから地魔法で塹壕を掘り進めた。


ここの大地は、降雨で泥濘と化すぐらい柔らかい。みるみるうちに、通路は敵陣に向かって伸びていく。


手の空いている者は、そこら中からかき集めた板、中には足りなくで荷駄から引きはがしたも物もあるが、それらを天板として、地表に小さく空いた、通路の上部に敷き詰め、その上に土を掛ける。


通路は、敵陣より500メルを切った時点で、左右三列に分かれ、横方向に伸びる塹壕となる。

なお、こちらはには天板はない。


遠く正面にある敵陣からは、横方向に伸びる塹壕は見えないし、森からもそれなりに離れている。

恐らく接近しないと気付かれることはないだろう。


念のため、敵陣500メル手前の一帯には、一面に葉のついた木の枝を散らしてある。


皇王国軍からは、俺たちがロングボウの射程を測る一環として、また、夜陰に紛れ、敵が忍び寄る対策として設置した、そんな感じで誤解してもらえると嬉しい限りだが……




    <イストリア皇王国軍 陣地>


▼   ▼▼▼▼▼▼   ▼▼▼▼▼▼   ▼

 ▼ ▼ ◇◇◇◇ ▼ ▼ ◇◇◇◇ ▼ ▼

  ▼        ▼        ▼


                    -100M-

                    -200M-

                    -300M-

                    -400M-

  ←←←←←←←←←↑→→→→→→→→→

           ↑        -500M-

           ↑

           / \

         / ★ \      -600M-

                    -700M-

                    -800M-

    <カイル王国軍本営 陣地>



★ カイル王国軍防塞

↑ カイル王国軍塹壕

▼ イストリア皇王国軍ロングボウ兵

◇ イストリア皇王国軍重装歩兵




夜明け前、やっと戦場を見渡せるようになった、皇王国軍兵たちは、我が目を疑い驚愕することになる。



「おいっ! なんか俺の目がおかしいのか? 昨日まで、あんな物無かったはずじゃねぇか?」


「やっぱり……、お前も見えるか? あれって多分、敵の防塞だよな?」



歩哨に立っていた皇王国軍兵は、防塞の正面に突然現れた敵の防塞と思しき何か、三角形状の高さ10メル、横幅60メルの構造物に、一体何が起こったか理解できないでいた。



それは、味方であるカイル王国軍の兵士たちも、同様だった。

誰もが、突然現れた、小城のような防塞を見て驚愕し、言葉を失った。



「分かってはいたが、まさか一晩でここまで作り上げるとは……」



ハミッシュ辺境伯は驚きの余り言葉を失った。



「何だありゃ、あり得ないだろう?」



ホフマン軍団長が叫ぶ。



「いやはや、魔法士を使いこなすとは、こういう事ですか。陛下の御意がやっと今分かった気がします」



シュルツ軍団長は、何かを悟ったように納得している。



「団長、やりましたね!」



「ええ、味方ですらこうです。恐らく敵軍の動揺は計り知れないでしょう。

これで、策の第二段階までは完了ですな」



俺たちは2人して笑った。


この小さな防塞の裏には、どこから持ってきたか分からない兵器が備え付けられ、三角形の頂点部分には、櫓を組んだ見晴台まであった。



兵たちはこの防塞と森の中の防壁を合わせて、【ソリス一夜城】と呼び、戦場の土産話として語り継ぐことになった。

ご覧いただきありがとうございます。

次回は【闇の蠢動】を明日投稿予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。


※※※お礼※※※


皆さまの温かいお声をいただきながら、ある程度予約投稿のストックも蓄積できました。

第百三十話以降ストーリーの展開も早く、それに合わせ2月一杯は毎日投稿を復活させて頑張りたいと思っています。


ブックマークやいいね、評価をいただいた皆さま、本当にありがとうございます。

凄く嬉しいです。

毎日物語を作る励みになり、投稿や改稿を頑張っています。


誤字のご指摘もありがとうございます。いつも感謝のしながら反映しています。

本来は個別にお礼したいところ、こちらでの御礼となり、失礼いたします。


また感想やご指摘もありがとうございます。

お返事やお礼が追いついていませんが、全て目を通し、改善点や説明不足の改善など、参考にさせていただいております。


今後も感謝の気持ちを忘れずに、投稿頑張りますのでどうぞよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] ロングボウってたぶん竹束で止まるよね
[良い点] ソリス家の女神wwwww 当の本人達は「恥ずかしいのでやめてください!」 って言ってると思われます(;´・ω・) 一夜城を作るには復権派の兵隊の協力が必須ですが、助けられたモーデル伯爵…
[良い点] 時空魔法すごい! 影の功労者ですね! [気になる点] お嬢様来襲 ハチミツをタカリに! [一言] スピード感あり なんか、秀吉化していくタクヒールが、面白かった。 お体を大事に…
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