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第百二十九話(カイル歴508年:15歳)一時帰領(第5回最上位大会)

テイグーンに戻った翌々日には、第五回最上位大会が開催された。


今回はヴァイス団長の希望により、辺境騎士団第五部隊も参加している。

しかも、事前に許可を取り、エストの街の定期大会を経て、この最上位大会に駒を進めていた。


サザンゲート砦からは、兄も駆けつけていた。

兄の辺境騎士団第六部隊のなかで、見どころのある者を何名か連れ、今回は見学で来ていた。


「本場とのレベルの違いを見せ、彼らにも発破を掛けたいので、よろしく頼む」


そう頼まれたので、彼らには大会前日にこっそり、本番と同じ内容の射的を体験させていた。

彼らはそれなりに自信もあった様だが、もちろん、本番の大会を見て、その自信は見事に粉砕された。



そして、もはや定例になってしまった感じもするが、隣領からはゴーマン子爵が見物に来ていた。

もちろん、ユーカ嬢を伴って。


なんせ、辺境騎士団第五部隊の参加選手のなかに、ゴーマン子爵が送り込んだ風魔法士が参加しているのだから、その応援の熱の入りようは一入ひとしおだった。



エストの街からは、父と母、そしてクリシアに加え、レイモンドさんも見物に参加していた。

クリシアを除き、俺はそれぞれに大事な用件もあったので、好都合だった。



こうして、第五回最上位大会も盛り上がり、幕を閉じた。


優勝は……、辺境騎士団第五部隊のゴーマン子爵配下の風魔法士だった。



「来年は、彼もゴーマン領代表として出てくるでしょう。正直、今の私でも勝てるかどうか怪しいぐらいですね……」


クリストフがそう呟くほど、圧倒的な勝ちっぷりだった。


「見事デアル、誠に見事!」


ゴーマン子爵は上機嫌であった。ユーカさんと抱き合って喜んでいた。

前回の合同最上位大会でも、ゴーマン領との対戦は相当苦戦したが、次回は更に厳しい状況になりそうだ。



第二位は、傭兵団から参加した選手だった。

ここ最近、大会で見せ場のなかった傭兵団も、晴れて面目躍如した形となった。



第三位は、エストール領の出身者で、俺は少し胸を撫で下した。

ただし、辺境騎士団第五部隊の人間だ。



辺境騎士団や傭兵団、すなわち、団長の率いる者たちが上位を独占する形となった。

もちろん、団長は会心の笑みを浮かべていた。


だが、上位入賞した3名とも、成績よりは無様な結果を晒し、団長より特別訓練シゴキを受ける心配がなくなったこと、先ずはそれに胸を撫でおろした。そんな噂も囁かれていた。


前回大会の上位3名も、引き続き参加していたが、それぞれ4位、5位、6位となった。


国王陛下の御前で行われた、カーリーンたちの演武に実力差を知り、相当刺激されて研鑽を積んできたようで、射的の腕前はかなり向上した様に見えた。


だが、それを上回る者たちの出現に、涙を飲んだ形となった。


彼らは、これを機に、ゲイルのスカウトを受け、テイグーンの常備兵として採用され、更なる研鑽を積むことになる。



俺には隠し玉(新しい風魔法士)が2名居たが、今回は出場していない。

疫病の件が無事解決し、来年の合同最上位大会が開催された暁には、この2人と、更に囲い込みを進めている者が台風の目になるよう、密かに目論んでいる。



因みに、現在王都の学園にいる一人、フローラさまを除いたギャンブラー娘たちは、今回も勝っている。

ユーカさんが、ゴーマン領出身の参加者を押すのは分かるが、妹までも……


どうやら有力候補を軸に、オッズを見ながらマイナスにならない様、流し買いをしていたようだ。

新しい参加者についても、彼女たちの立場を強みにして、情報収集も余念がなかったようだ。


彼女たちの賭け方が、どんどん高度になっている。

彼女たちが耳に赤鉛筆を差し、情報新聞と睨めっこしている姿が、俺の脳裏に浮かんだ。


俺はぞっとして、寒気を感じた。



大会後、レイモンドさんには、預けていた文官候補者の状況を聞くつもりだったが、既に預けていた10人のうち、4人を伴って此方に来ていた。


流石だ……、この人はいつも俺の一歩先を読んで行動している。



「取り敢えず、即戦力として申し分のない、そしてミザリーにとっても扱いやすい4名を連れてきました。残りの5名も鍛え終わったら、順次テイグーンに送りますよ」



そう、忘れていたけど、この人も行政面の実務の鬼だ。

ヴァイス団長とは分野は違えど同類だもんなぁ。



「あれ、1名足らないようですが?」



「ああ、その1名は能力は優秀なのですが……、間諜の可能性が高いので、エストの街の行政府で、差支えのない役職で飼い殺しにしています。

見破られたと露見し、新たな間諜を送られても面倒ですし。まぁそのうち、有効な使い方もあるでしょう」



そう言って不敵に笑った。

懐に入り込んだ間諜さえ、諜報戦において欺瞞情報の発信などで有効活用するようだ。

やっぱ、この人の優秀さは群を抜いている。



父には、勅令魔法士に関する経緯と、その対応について、俺の腹案を伝えた上で許可を貰った。



「実際に、領主として拝領していないとは言え、テイグーンはお前が作り上げた街だ。

当初の取り決めから、魔法士は全てテイグーンに帰属し、お前に任せる事になっていたであろう?


思うようにするといい。お前も今や男爵家の当主。

子爵家を守ろうなどと考えずともよい。

お前の進む道に、子爵家をうまく利用する。

この事だけ考えよ」



久しぶりに父の大きさと、寛容さに心から感謝した。



母にも別件の相談が2つあった。



「例の、私のスキルの件ですが、近いうちにエストール領内で疫病が流行する可能性があります。

今、疫病発生時の対応マニュアルと、対策として準備している事を取りまとめています。


マニュアルはご滞在中にお渡ししますが、後日ミザリーをエストの街に派遣します。

有事の際の対応を協議いただき、事あれば母上から、領内に発信いただきたく思います」



「そう……、なのね。貴方の予感なら、ほぼ確実に起こるわね。しっかり準備を進め、対応するわ。

貴方は、一人で頑張りすぎちゃダメよ」



「はい、今の私には、母上が授けてくれた、何でも相談できる仲間がいます。今も皆で考えています」



そう言いうと、母は凄く嬉しそうに、でも一抹の寂しさを感じるような優しい笑顔で微笑んだ。



「もうひとつお願いがあります。

長きに渡り、サラをお貸しくださりありがとうございました。

今回、母上にサラをお返ししたく思っています」



「あら? 彼女はもうお役御免かしら?」



「いえ、とんでもないです。正直言って、彼女の力はこれからもずっとお借りしたい。これは本心です。


でも、彼女は今年30歳です。

遅ればせながら、女性としての幸せも掴む時期ではないかと思います」



「あら? サラにそんな人がいるの?」



「はい、恐らく……、個人的にはお互いに想っている筈です。ただ、サラは分家とはいえ、男爵家の出身で、彼は主筋のお嬢様に手出しはならぬ、そう思っていると思います」



そう、俺は確定に近い情報を持っていた。


【前回の歴史】で、病床に臥した家宰がサラに遺した最後の言葉、それを後日サラから聞いていた。


そしてサラの想いも。


彼女は俺の両親も、妹も亡くなったあと、最後に逝った家宰の亡骸に縋り付き、一晩中泣いていた。


そして、失意のままソリス男爵家を去り、コーネル男爵家へと帰っていった事を知っている。


今まで、彼女の力が必要で、つい伸ばし伸ばしになってしまった計画だが、今の機会を逃すと次はいつになるか分からない。



「まぁっ、そういう事なら任せてっ」



早速母が動いた。

何をどうしたか、それは俺も知らない。


大会が終わり、父と母たち一行が戻る時、家宰は幸せそうに笑うサラを伴って、エストの街へと戻っていった。


後日、新年の宴の折に合わせて、ソリス家とコーネル家の両家合同で、盛大な婚礼の祝宴が行われた。


俺も参列し、王都で調達したベビー服一式を贈ったが、その時既にその使用は確定している事を伝えられて、俺を含め皆は驚かされることになった。



「流石です! できる男は何でも仕事が早い」


俺は思わず呟いた。

ご覧いただきありがとうございます。

次回は【一の矢:策謀の始まり】を投稿予定です。どうぞよろしくお願いいたします。


※※※ご報告※※※


一時的ではありますが、間もなく(2月10日予定)

毎日投稿を復活する予定です。


この先王都編は急展開となる予定で、それに合わせて一時的に毎日投稿できるよう準備を進めています。


それまでどうぞよろしくお願いいたします。


※※※お礼※※※


ブックマークやいいね、評価をいただいた皆さま、本当にありがとうございます。

凄く嬉しいです。

毎日物語を作る励みになり、投稿や改稿を頑張っています。


誤字のご指摘もありがとうございます。いつも感謝のしながら反映しています。

本来は個別にお礼したいところ、こちらでの御礼となり、失礼いたします。


また感想やご指摘もありがとうございます。

お返事やお礼が追いついていませんが、全て目を通し、改善点や説明不足の改善など、参考にさせていただいております。


今後も感謝の気持ちを忘れずに、投稿頑張りますのでどうぞよろしくお願いします。

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