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【6巻11/15発売】2度目の人生、と思ったら、実は3度目だった。~歴史知識と内政努力で不幸な歴史の改変に挑みます~【コミック2巻発売中】  作者: take4
第六章 王都編(策謀の渦中へ)

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第百二十二話(カイル歴508年:15歳)貴族の成立

王国成立の歴史について、数多くの情報が得れたことは、非常に興味深かった。


この歴史を伝承でしか残さず、学園に通う者だけに語り継ぐこと、それにはきっと何か裏があるのだろう。


俺がそう考えている間にも、講義の内容は、その先へと進む。



〇王国貴族の誕生


各氏族の長たちは、合流にあたって、それぞれの娘をカイル王に嫁がせた。


そうして生まれた子供たちは、次代の氏族の長(貴族)として、開拓された農地を管理する任を負い、それそれの氏族の代表として、その地位を継承したといわれる。


これがカイル王国を支える貴族の始まりである。


貴族たちは、その子弟に新しい開拓地を与えるため、その後も精力的に魔境を切り開き続けた。


そういった歴史を経て、500年たった今日、かつては王国全土を覆っていた魔境も、南の辺境と東の辺境に広がるのみとなり、カイル王国には安全で、豊かな大地が広がるに至った。



「この始まりの貴族、12氏族の長を継いだ彼らは、この王国にて4つの公爵家、8つの侯爵家を継ぐ立場にあり、今でも王国の柱石たる役目を担っているわけだ。


伯爵以下の各貴族も、直系ではないにしろ、何らかの形でカイル王や12氏族の長の血と繋がりがある。


諸君らは、人々が恐れ、足を踏み入れることさえ忌避されていた魔境、これを切り拓いた、我らの祖先の血の滲む様な努力に敬意を払い、今日の繁栄がもたらされたことに、感謝することを忘れてはならない」



『うん……、やっぱりそこに持っていくのね。

まぁ貴族子弟が多く通い、その教育を目的とした学園だから、仕方ないのか……』


俺は周りに聞こえないように、小さく呟いた。



「そして、王国を支える貴族の子弟諸君、これらの事情により、君たちのほぼ全てが、初代カイル王の血を引いてる、そう言っても過言ではない。


どうか、その事を改めて認識し、500年に渡って積み上げられた歴史の結果と、諸君らの貴族としての誇りを、新たなものとして欲しい」



『そうであれば、俺も国王陛下の遠い親戚、そういうことになるのだろうか?

もしかしてカイル王国の、一夫多妻に寛容な文化は、ここから始まっているんじゃないか?』


俺の中で漠然と思っていた疑問に、自分なりに勝手な回答を当てはめていた。



〇貴族としての務め


カイル王国の成立より約30年の月日が流れ、魔境の開拓が進んだ結果、最初に他国と繋がったのは、現在の北の国境だったと言われている。


当時の北の隣国は、何らかの災厄に見舞われ、貧しく民の暮らしも非常に厳しいものであったという。


そのため、より温暖で豊かな暮らしを求め、北の国より多くの人々(人界の民)が、新しく、そして活気溢れる、カイル王国に流れてきたそうだ。


その数、数万とも数十万とも言われている。

長い年月を通じ、彼らは流入し続けたそうだ。


当時のカイル王国は、数千の魔法士に恵まれ、それらを支える地力があった。


だからこそ、カイル王は、新しい領民たちを積極的に受け入れた。元々、迫害された民、貧しい民を率いたカイル王の性分であったとも言われる。


それにより、王国の国力、人口や生産力、軍事力は飛躍的に大きくなり、今日の繁栄に繋がった。



その結果、それまで王国内で圧倒的多数を占めた、魔の民の血を受け継ぐ者は、逆に少数派となった。


魔の民が人界の民と混じることで、その血統は薄れていき、その後数百年の時を経て、西からも東からも、最後は南の国境からも人界の民は流入し、人口は増え続けた。


その結果、現在ではカイル王国内で、純粋な魔の民の血統は、既に途絶えてしまっている。



それぞれ固有の魔法を持つ、12氏族の流れを汲む、各貴族についても状況は同じだったという。


王国に合流するまでの各氏族は、同一氏族のなかで婚姻を結び、子孫を残してきた。


だが、国が大きくなるにつれ、氏族間の交流も増え、貴族となった氏族の長の子孫たちが、固有の氏族内だけで血統を維持することが難しくなった。


おのずと、異なる氏族間での婚姻も進み、更には貴族の中にも人界の民と結ばれる者も出て来た。

結果として、血は混じり、薄れていったと言える。



カイル王は晩年になって、将来起こるこの流れを憂いたそうだ。


元々氏族の代表であり、魔の民の血をより濃く受け継ぐ貴族に対し、婚姻を統制し、氏族の血統は維持できなくても、せめて魔の民の血脈を維持するよう、婚姻統制の制度を定めた。



「今日の、領主貴族に課せられた義務、血統を維持するため、貴族同士の婚姻を前提としているのは、これに由来するわけだ。


12氏族の血統の証、魔の民の血を引く証こそが、【権限】であり、固有スキルである【血統魔法】だ。


本来貴族でない者、功績によって叙爵され、準貴族や騎士爵になる者がいる。彼らが、子孫にその身分を継承できない理由も、これに当たる。


また、非常に少ない事例ながら、多大な功績により準貴族から、新たに領主貴族に叙される者もいる。

彼らには、同様の歯止めが設けられている。


新たに領主貴族となった彼らの多くは、氏族の血統を持たず、権限に目覚めることがない。


そういった者は【権限なし】として、一代限りの領主となり、当主没後はその領地を召し上げられる」



『なるほど……


領主貴族として認められるのは、大前提として、カイル王と12氏族の長の血脈を受け継ぐ者のみ、そういう事か。


ソリス家(父)については、騎士爵から男爵、領主貴族になった例外のひとつであり、更に権限を発現させた、例外の中の例外、そんな感じなのだろう。


商売上手の商人男爵、そんな理由だけで他の貴族から蔑まれていたのでは無く、それ以外の理由でも、父は貴族の中では異質な存在だった訳だ。


他の貴族が、父を冷遇していた理由も、ソリス家が上級貴族から目の敵にされる理由も、なんとなく分かった気がした』



【前回の歴史】では、この歴史知識(裏事情)を、俺は知らなかった。

単に、権限が発動しないのは、自身の能力の低さと嘆いていた。


逆に、元々騎士爵であった父が、領主貴族となった際、権限に目覚めたこと、これ自体がもの凄い事なんだと理解した。


そうなると、その理由は何だろうか。


父の能力の高さ故、だったのだろうか?

何世代か前の先祖が、貴族の血を引いていたのか?

たまたま、濃く魔の民の血を引いていたのだろうか?


それとも……、氏族の里であった、エストールの地が絡んでいるのだろうか?



この辺り、俺の疑問はますます膨らんだ。

せっかく王都にいるのだから、今後調べておきたい。

学園の3年間、この時間を費やして。



そう、俺には忘れてはならない最終目的がある。


時空魔法の固有スキルを得ることだ。

そして時空魔法で時を遡り、更には世界の枠を越えることだ。


だが今は、まだ解決しなければならない課題や、越えなければならない壁がたくさんある。

それをクリアしないと、そもそも全てが終わる。


そうして足掻きながら、【今回の世界】を必死に生き抜く過程で、意図せず作ってしまった絆もある。


今は二者択一を悩む段階ではない。なりふり構わず、先ずは今を必死で生き抜くことだけだ。


まだ、この世界を生き抜ける目途、それさえついていないのだから……



あ! 途中で物思いに耽り、話を聞いてなかった。



「……、諸君らは、この国の歴史を知り、自らに課せられた責務を自覚し、今後も王国の柱石たらんとする、努力を惜しむことのないように」


講義はこの言葉で、締めくくられていた。

最後の部分、ちょっと聞き逃した気がするが、まぁ良いか。



「何か質問は?」

俺は迷うことなく手を挙げた。



「大変興味深いお話でした。ありがとうございます。

先ほどのお話から、2点ほど、更に詳しく教えていただきたい事があります。

先ずは一点目ですが、最後まで合流しなかった闇の氏族、彼らはその後どうなったのでしょうか?」



「ふむ、よく気付いたな。


伝承では、闇の士族は、もともと魔の民の中でも、各氏族を導く立場にあったといわれておる。


恐らくは、その矜持もあったのであろう。

最後まで氏族として、長の合流はなく、永き時の流れの中、長の一族は人知れず滅んだのかも知れない。

そう言われておる。


ただ、闇の氏族も一枚岩では無かったようで、一部の者が王国に合流し、王国の貴族として階級を得た者もいたそうだ。


他の氏族に比べ、その数は非常に少なく、当時は小さな勢力だったらしいがな。

今でも、闇の血統魔法を持つ貴族がごく少数存在するが、彼らがその末裔と言われておる。


して、もうひとつの質問は何かね?」



なんとなくだが、肝心な部分は上手く濁された気がする。教師の物言いも少し気になった。


闇の長は合流していない。なら、そこから公爵家、侯爵家は出ていないのではないだろうか?

それなら12氏族としての数が合わない。


このあたりの疑問は、敢えて黙っておくことにした。

今後調べていけば良い。そう自分を納得させた。



「ご説明ありがとうございます。


では2点目ですが、お話を伺い、生来魔法が使えた魔の民が、他氏族との混血や人界の者と交わったことで、純粋な血統を持つ者が居なくなり、結果として民は、魔法を使える術を失ったこと、それはよく理解できました。


であれば、定めにより血統が守られていない者たち、今なお魔法士として覚醒する市井の者は、より魔の民の血脈を濃く受け継ぐ者、そうなるかと思います。

ですがこの場合、大いなる疑問が発生します。


血統魔法を除外すれば、魔法士として覚醒する者と、同じ血脈を持つ兄弟、姉妹が、同じく魔法士に覚醒する事は、現実的にまずありません。


また、より濃い魔の民の血を持つ貴族と言えど、領主の子弟全てが、血統魔法が使える訳でもないこと。


同じ貴族の両親を持つ兄弟姉妹でも、大きな差異があることに、常々疑問を感じていました。


この矛盾について、ご教示いただけると幸いです。


そしてそもそも、貴族であっても、その当主が領主貴族になって初めて、子供たちに血統魔法が発現することなど、この不思議な現象と、先の矛盾に対する解答が見出せず、悩んでおります。


この点も、ご教示いただけると嬉しいのですが……」



我ながら少し意地の悪い質問だったかな?

憮然とし、困り顔をした教師の様子を見て反省した。



【ニシダ】が持つ、現代知識から考えると、魔法に関して兄弟姉妹で再現性がないことは、恐らくは混血が進んだ結果、適性の発現が【先祖返り】とも言われる、劣性遺伝子が生み出す偶然の産物ではないか、そう予測することはできた。


だがこの世界では、そもそも遺伝子という認識は無いし、その解答は出せないだろうと思う。


だが、父親(当主)が領主になって初めて、領主一族に発生する固有スキル、血統魔法が発生する仕組みについては、その答えが全く見いだせずにいた。


これは俺の今後にも関わる、重要なことだ。



「全て神の思し召しです」


困った顔の後、そう言って教師は笑った。



「ありがとうございます」


理由は分からない、または、理由は分かっているが、これ以上この件について、首を突っ込むな。

そのいずれかだろう。


神という、非論理的な逃げ道に入られると、もうどうしようも無い。

俺は深入りするのを止めて、一礼して礼を述べた。



この一件が、新たな出来事に繋がることになるとは、この時点では思ってもいなかった。

ご覧いただきありがとうございます。

次回は【学園長の誘い:隠された歴史】を投稿予定です。


今回のお話で、ますます疑問が深まる事態になりましたが、次話以降で少しだけ、すっきりできるようにしていく予定です。


今後ともどうぞよろしくお願いします。


※※※お詫び※※※


今回は久しぶりに毎日投稿に戻りましたが、次回は一日空きます。


なお、次回の学園長の誘いの3話部分は、毎日投稿の予定です。


その後は、また暫く隔日投稿になりますが、徐々に予約投稿済み話数も増え、20話近くは貯金ができました。


この先、色々と急展開が続く予定ですが、それまでどうぞよろしくお願いいたします。


※※※ お礼 ※※※


ブックマークやいいね、評価をいただいた皆さま、本当にありがとうございます。

凄く嬉しいです。

毎日物語を作る励みになり、投稿や改稿を頑張っています。


誤字のご指摘もありがとうございます。いつも感謝のしながら反映しています。

本来は個別にお礼したいところ、こちらでの御礼となり、失礼いたします。


また感想やご指摘もありがとうございます。

お返事やお礼が追いついていませんが、全て目を通し、改善点や説明不足の改善など、参考にさせていただいております。


今後も感謝の気持ちを忘れずに、投稿頑張りますのでどうぞよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良かった点] この国の謎に迫ってきましたね。ワクワクしてきました。 [一言] 単純誤字です。 ×伝承では、闇の士族は、 〇伝承では、闇の氏族は、
タクヒールの目標が地球への帰還だけどこっちの世界の家族や嫁をどうするつもりなんだろう 捨てるつもりで付き合ってる…は流石に無いと思うから天寿全うする瞬間に戻る気かな? 1度も触れられてないから考えがま…
[一言] 貯金は大事に扱って下さい、更新ペースも無理は駄目ですよ。
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