第百四話(カイル歴507年:14歳)辺境騎士団結成② 秘匿兵器
「殲滅射撃用意、目標前方800メル(≒m)、射角調整」
「調整完了!」
「魔法士準備できています」
「青旗上がりました! 観測員、目標地帯から退避完了しています」
報告を受け、俺は号令の準備をする。
「用意……、撃てっ!」
一台の巨大な投石器から、通常では考えられない量の金属球が発射される。
もの凄い勢いで発射された大量の金属球が、ある程度の範囲に広がりながら飛翔し、目標として観測員が旗を立てた一帯に土煙を上げて着弾した。
その打撃力は凄まじく、目標一帯の木々をなぎ倒し、大地を抉る。
遠くからでも、広範囲の木々が吹き飛び、舞い上がる様子が確認でき、その威力が窺い知れる。
少し遅れて、その着弾音が轟音となって響き渡る。
その頃には一帯は土煙に包まれ、何も見えない。
「こ、これは……」
「いやはや……」
新たに完成したばかりの、投石器の実弾射撃を見学した2人は、その威力の凄まじさに声も出ない。
ここは、以前にエランの案内で訪れた、魔境側の要塞建設予定地だ。
まだ工事も始まったばかりで、拠点となる砦の城壁、その一部が完成したばかりだ。
俺は、対魔物、対侵攻軍対策として新たに開発し、先行して城壁上に設置した、カタパルトの実弾発射を彼らに見せていた。
「もちろん、この飛距離と威力は、機械の力と、魔法士の技が融合した結果、もたらされたものです。
魔法を使わなければ、この飛距離と威力は半減する、そうご理解ください」
「何はともあれ、凄いもんじゃ。これでは敵軍は、ひとたまりもないのぅ」
「全くです。この射程で範囲攻撃を受ければ、敵は手も足も出ん。末恐ろしい物を作ったもんじゃ」
ハストブルグ辺境伯とゴーマン子爵は、やっと感想を漏らした。
実は彼らにも伝えていない事がある。
確かに、金属球の加速や、標的誘導は、風魔法士の魔法と、その力量に依るものが大きい。
だが、もう一人の魔法士の活躍が、この射撃では一番のポイントとなっている。
カイル王国でも数少ない、いや、実際には居ないといって等しい、重力魔法士のヨルティアが、発射までのタイミングで、全ての金属球に対して、重量軽減の魔法をこっそり使用している。
その為、カタパルトは投擲物の重量負荷で、アームを傷めることもなく、本来の性能以上の重量物を積載し、設置されたウェイトは、その重量の反動を十分に伝える事が出来ている。
空に放たれた金属球は、初速に乗ると本来の重量を取り戻し、それが飛翔していたのだ。
金属球も、再生利用品だ。
俺には、テイグーン防衛戦で鹵獲した、廃棄用武具やその他金属類が大量にあった。
当面、素材として使用しない物(できない物)は、全て溶かして、この金属球に姿を変える予定だ。
※
ここまでの道のりは簡単ではなかった。
第一に、
この世界にある攻城兵器を、カール親方を始めとする職人達の手で改良、独自生産できるように準備した。
その次に、
重力魔法士と風魔法士達、射撃を担当する射手での、実験と訓練をひたすら続けた。
最初は三者のタイミングを合わせることも、なかなか上手くいかなかったが、最近になってやっと、思うように飛ばせるに至った。
投擲された瞬間に、風魔法で起こした突風……、ピンポイントだが最強の台風以上の追い風で、加速され、初速が乗ったタイミングで、本来の重量を取り戻す。
その段階がうまく噛み合えば、火薬のないこの世界でも、大砲並みの威力を発揮する。
そして、榴弾砲に近い状態で、鉄球が弧を描き、目標一帯に雨あられのように、降り注ぐ。
いや、低い弧を描いているので、金属球が激しく突き刺さる、の方が適切な表現かも知れない。
大砲の無いこの世界で、通常考えられない長射程、かつ、広範囲を対象とした、更に、あり得ない威力を持った殲滅攻撃は、今後の切り札として考えている。
一回の発射で、何十基もの大砲の射撃に等しい、絶大な戦果が期待できるこの兵器を、俺は【魔導砲】と名付け、今後の秘匿兵器とした。
一字違いだが、俺はこのネーミングにワクワクした。
「ま」の字を「は」に変えるだけで、なんか……、凄い最終兵器の響きがあるから。
それとも頭に【拡散】を付けた方が良かったかな?
※
「これが、卿の言った、万もの軍勢を退ける対策の一端か……」
ゴーマン子爵が、半ば放心しながら呟く。
「はい、次に帝国が侵攻してくる際は、少なくとも5万、もしかするとそれ以上で押し寄せるでしょう。
第一皇子なら前回の雪辱に燃え、第三皇子なら優位性を誇示するために、前回負けたこのルートも、万全の準備を行ったうえで、攻略の対象としてくる。
そう読んでおります」
「当たって欲しくない、そうならない事を願いたい予測じゃな……」
辺境伯の表情も険しい。
主戦場となるサザンゲートの砦で、前回以上の兵力の侵攻を受ければ、当然抗いきれない。
「恐らくは数年から5年程度は余裕がありましょう。
帝国も今は微妙な状態にありますから。
ただ、帝国の南部戦線が決着するか、皇位継承が定まったとき、そこから先は予断を許しません」
「サザンゲート方面は、新たな城塞建設を陛下に具申しておく、その際、こちらの要塞についてもご裁可を仰ぐとしよう。
恐らく、卿が計画しておる要塞とその防御線構築は、到底5万枚の金貨では贖えないだろうからな」
「ありがとうございます。
正面の負担を減らすよう、より多くの敵軍をこちらで引き受ける準備が整えば……、そう考えております」
「その線で行けば、話が通りやすいかも知れんな」
ゴーマン子爵も同意してくれた。
「我らが枕を高くして、眠れる日はまだ遠い、そういう事だな」
「そうですな」
「お二方には、もう一点お願いがございます。
この兵器、魔法と併用した射撃をお見せするのはお二方に限り、今後は、わが父と言えど、通常の射撃しか見せないつもりでいます。
その点、他の諸侯にも、くれぐれも内密にお願いいたします」
「勿論だとも、其方の信には信で応えよう」
「無論だ、むしろ隣領の儂にまで披露してくれたこと、卿には感謝しておる」
「建設工事には、騎士団を存分に活用するといい。
辺境騎士団の司令官たる儂が指示した、これで筋は通るであろう」
「私も、お預けする兵たちには、重々言い聞かせましょう」
俺は、懸案だったお歴々への内諾も、最高の形で認可をもらえることとなった。
横で団長も大きく頷いていた。
※
そして……、俺は2人にもまだ黙っている奥の手がいくつかある。
先ずこの奥の手開発には、いくつかの段階があった。
一つ目は、
異なる魔法を組み合わせて、その効果を劇的に高めることを研究した。
二つ目は、
その組み合わせた魔法に、予め準備した素材などで、魔法の効果を高めることの模索。
例えるなら、火魔法に油を使うなどだ。
三つ目は、
今回の魔導砲と同様に、道具(兵器)と魔法を融合させ、これらの効果を最大に高めることだった。
実際、幾つかの兵器は試作品が完成し、実験段階だ。
秘密確保の為、新たに開発中の、魔導砲以外の攻撃手段はまだ秘匿している。
これらの使用に関係する魔法士、訓練や試験運用に携わった最小限の兵士しか知らない。
また、魔導砲自体も、まだ試験運用段階だが、更にエグい武器に仕立てようと思っている。
これらの開発と配備は、砦の工事と並行して進め、要塞が完成すれば中核となる防衛施設になる予定だ。
また、大軍を相手にした際、効果的な運用についても、団長と協議し、プランを作ることに余念がなかった。
「それにしても、これらは……、私がつくづく帝国兵でなくて良かった、そう思いますよ」
俺の腹案を話した際、団長は大きな溜息を付いた。
「残酷なようですが、初撃で敵の戦意を挫き、侵攻を諦めてもらうこと、それが目的ですから。
正直、これらだけで、数の不利を覆し、勝てるとは思っていません。要は負けない戦いが出来れば、そう思ってます」
そう、どれだけ堅固な要塞を築いても、数万の敵兵を相手にするには、防御側の兵力が著しく劣る。
敵は、広大な防衛陣のなかから、兵力の少ない所を衝き、攻略してくるだろう。
ならば、勝てないまでも、敵が恐れて睨み合いとなる、そんな状況をつくる事を目的にすれば良い。
そうすれば、魔境という存在が自然の防衛網として、機能してくる(魔物が動き出す)と考えている。
こうして、魔境側の砦建設は軌道に乗り、継続して推進されることとなった。
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