第百三話(カイル歴507年:14歳)辺境騎士団結成① 集結
夏前になって、改装と外壁強化工事を進めていた、北出丸(宿場町)が完成した。
これを機に、テイグーンの街の辺境騎士団支部が正式に発足し、ゴーマン子爵領とコーネル男爵領からも騎士団に所属する要員が、一斉に参集した。
ちなみに、テイグーンの街で建設していた、騎士団の兵舎や関連施設は少し前に完成している。
これで、既に駐留していた、ソリス子爵家の200騎、双頭の鷹傭兵団の100騎と合わせ、500騎が勢揃いすることになった。
ゴーマン子爵領からは、子爵自らが編入する150騎を率い、直属部隊と共にテイグーンにやって来た。
彼は領内から最精鋭の騎兵を集め、この辺境騎士団支部に送り込んできた。
ゴーマン子爵の兵はもともと強い。
サザンゲート殲滅戦(カイル歴502年)でも、圧倒的不利な状況で戦線を維持し、機を見て攻勢に転じゴート辺境伯の精鋭部隊を押し戻している。
サザンゲート血戦(カイル歴506年)では、彼の率いる騎兵300騎に、俺は命を救われている。
その猛者たちの中に、本来有り得ない人物を見た時、俺は思わず、その場でコケてしまいそうになった。
「タクヒールさま、またお会いできて嬉しいです。
どうしてもまた、テイグーンに来たくて、私も騎乗の鍛錬を積んできましたの」
「お兄さま、ユーカさまが此方に行かれると伺って、エストの街から私も、ご一緒させていただきました」
「……」
母といい妹といい、ソリス家の人間はフットワークが軽すぎる。
当のゴーマン子爵も笑っている。
貴方も黒幕の一人ですか!
「遠路、お越しいただき誠にありがとうございます。ゴーマン子爵自ら、精鋭を率いてお越しになるとは思ってもおらず、驚きました。
ユーカさま、私もまたお目にかかれて光栄です。
凛々しく騎乗されている姿も、大変お美しく感銘を受けました。同道させていただくだけで、兵たちの士気も上がるでしょう。
辺境故、大したおもてなしはできないかも知れませんが、ゆっくりお過ごし下さいね。
クリシア、来てくれて凄く嬉しいよ。びっくりさせることも、この兄へのプレゼントかい?」
「うむ、卿には相談したいこともあってな、娘もせがむので、その……」
その……分かってますよ。激甘お父さま。
「まぁ、歓迎してもらえて嬉しいですわ。以前、いつでもお越しください、そう、仰っていただいてはおりましたが、ご迷惑にならないかと、心配しておりましたの」
「前に、何度も呼んでいただけると仰っていたのに……、お兄さまからは一向にお話がないので、今回はユーカさまのお供で参上しました」
「ソンナコト……、タシカニ、イイマシタネ」
2人には聞こえないように呟いた。
確かにユーカ嬢には、お相手として妹がいてくれると、非常にありがたい。
滞在中、彼女たちの護衛役にはアンを、世話役にはヨルティアを付けた。
宿に泊まるので、気遣い無用と言われたが、そんな訳にもいかない。
迎賓館に部屋を急遽用意し、滞在してもらった。
一旦街に入り、落ち着いてから改めて、ゴーマン子爵とは会談した。
彼の相談事は3点あった。
第一に、辺境騎士団に編入する兵について、今回は最精鋭を連れてきたが、今後、半年毎に50騎を交代させ、領内の戦力を底上げしたいとのこと。
第二に、辺境騎士団を魔境掃討作戦に投入することは歓迎するが、落ち着けばゴーマン子爵領側の魔境にも、遠征して欲しいとのこと。
第三に、今回も俺の知る音魔法士2名と、他にも魔法士を連れてきており、当面の間、テイグーンへの滞在許可と、ヴァイス団長の魔法士訓練に参加させて欲しい、そんなお願いだった。
「それは、願ってもないお話ですが、彼女達、大丈夫ですか? 団長、訓練となると鬼ですよ?」
「気にせずともよい、兵も含め、存分にしごいてやってくれ。その訓練、儂も見てみたいくらいだ」
こうして話はまとまった。
俺からは、3点、ゴーマン子爵に相談事を打ち明けた。
一点目は、魔境側への要塞建設について
二点目は、辺境騎士団へのエストールボウの供与についてと、秘匿の依頼
三点目は、音魔法士たちの実戦運用法について
「ほう。もう先の一手を考えておるのか! さすが、常に儂の考えの先を行く奴じゃの。愉快愉快」
エストール領ほどではないものの、ゴーマン子爵領近辺でも、魔境の魔物が活性化しており、対応には苦慮しているらしい。
将来的には、開発資金は出すので、防壁をゴーマン子爵領まで延伸できないか? そんな事まで言われた。
確かに、魔境側のルートを通れば、ゴーマン子爵領から、サザンゲート砦まで、最短距離を移動できる。
彼にとってもこのメリットは大きい。
俺にとっても、万が一の場合は、信頼できるゴーマン子爵軍が、最短距離で砦に駆け付けられるメリットは大きい。
エストールボウの供与を条件に、工事の要員として地魔法士を、コーネル男爵家より借り受けるか、そんな事も思案していた。
そして翌日、突然街を訪れた一行に更に驚く事になった。
到着前の先触れで、慌てて出迎えに街を出ると……
そこにはハストブルグ辺境伯一行が居た。
「わざわざのお越し、誠に恐縮です。でも、びっくりしました」
「辺境騎士団支部の結成式に、騎士団を統括する儂がおらんと、話にならんじゃろう?」
そう仰る辺境伯の後ろから、ちらちら見える、金髪は何でしょうか?
「フローラさま、遠路お越しくださいまして、誠にありがとうございます」
「タクヒールさま、突然の訪問、申し訳ありません。
文でユーカさまが訪問される予定と伺って、私もお父さまに無理やりお願いしてしまいましたの」
ちょっと辺境伯。嘘がばれたからと言って、照れて、そっぽを向くのはやめてくださいっ。
承知しておりますっ、辺境伯も、ゴーマン子爵も、娘さんたちには激甘だという事は。
でも、度々領地を空けて。大丈夫なんだろうか?
「領地というものは、領主が居ても居なくても回るもの。
それが正しい在り方じゃ。そなたの様に常に内政で走り回っているうちは、まだまだじゃぞ」
俺の心を見透かしたかのように、辺境伯は笑った。
「確かに、どこぞの働き者は、働き過ぎるのが欠点ですな。
まぁそれに救われた我らが言う言葉ではないがの」
ゴーマン子爵も笑っている。
「ちょうど良い機会です。
私からもお二方には相談したい事がありました。これで私の仕事も少し減るというものです」
俺は精いっぱいの負け惜しみを言った。
せめて彼らが滞在している間に、存分に機会を有効活用しよう。
今後の計画の相談もあるし。
<辺境騎士団 全容>
カイル歴507年、春時点で第一部隊から第五部隊まで編成が完了。
編成済兵力 2,500騎
〇第一部隊 500騎 サザンゲート砦
指揮官:ハイツ男爵(王都騎士団出向)
・王都騎士団出向 200騎
・南部各貴族派遣 200騎
・新規編成 100騎
〇第二部隊 500騎 サザンゲート砦
指揮官:ハストブルグ辺境伯(仮)
・ハストブルグ辺境伯 500騎
〇第三部隊 500騎 サザンゲート砦
指揮官:ハストブルグ辺境伯(仮)
・ハストブルグ辺境伯 500騎
〇第四部隊 500騎 サザンゲート砦
指揮官:キリアス子爵(配下)
・キリアス子爵 200騎
・ヒヨリミ子爵 150騎
・クライツ男爵 50騎
・ボールド男爵 50騎
・ヘラルド男爵 50騎
〇第五部隊 500騎 テイグーン支部
指揮官:ヴァイス騎士爵
・ソリス子爵 200騎
・ゴーマン子爵 150騎
・コーネル男爵 50騎
・双頭の鷹傭兵団 100騎
※予定
〇第六部隊 500騎 サザンゲート砦
指揮官:ソリス男爵(兄)
・第二子弟騎士団 500騎予定
いつもご覧いただきありがとうございます。
1月からは子爵領だけでなく、王都や帝国へと展開を広げていく予定です。
また、これまでの幾つかの疑問……
「そもそも魔法士とは?」
「権限は何故発現しないの?」
などを始め、それ以外の細かい謎も徐々に解けていく予定です。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
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