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第百話(カイル歴507年:14歳)特命 対外諜報

ずっと待ち続けていた返事が来た。


以前バルトが、海岸線のある北の国へ出た際、同行を許可してくれた商隊が、今度は南方へ旅立つという知らせだ。


かねてから俺が望んでいたこと(米の情報収集)で、ずっと様子を窺っていたが、今回は別の目的がある。


早速商隊と渡りをつけ、バルト、ラファール、他1名の同行を依頼し、交渉の結果、承諾を得た。



彼らの向かう先は、グリフォニア帝国の主要都市を巡りつつ、最終的には最南端の国境にある街。


そこはスーラ公国と国境に近く、第三皇子が本営を設けている場所だそうだ。


バルトには、帝国にはない魔境の産品(魔物から取れる武器や防具、装飾品の素材)を預けている。



商人達の条件は、産品の一部を商品として商隊に提供すること、往路はバルトの空間収納を商隊の商品輸送に使用させて欲しい事、この2点だった。


それを認める事で、商隊が便宜を図ってくれることになった。



実は、俺の手元には、通常では考えられない量の、魔物由来の素材がある。


サザンゲートの戦いの後、俺たちは戦後処理に積極的に参加し、多くの戦利品を得ていた。


戦場一帯に遺棄された、人馬の回収と埋葬(火葬)、一面に横たわる魔物の亡骸処理(焼却)、これらは当時、可及的速やかに対応することが求められていた。


魔境から溢れた魔物たちは、サザンゲート平原にまで進出し、活動していた。


これを食い止め押し返すこと、駆除を進めて、平原の安全を確保することは急務だった。


そのため、戦役が終わった後も、暫くは全軍でこの対応に当たっていた。



俺たちはこの対応中に、相当の成果を得ていた。


ハストブルグ辺境伯からは、回収に当たっては【切り取り自由】の通達がなされていたので、目ぼしい魔物の亡骸を、片っ端からバルトに収納してもらっていた。


これ以上魔物を誘因しないよう、各隊は急ぎ処理(焼却)しなければならない状況下で、俺たちは粛々と回収を進めることができた。


俺たち以外の隊は、焼却処理と並行して、手間のかかる剥ぎ取りを、思う様に進められなかった様だが……


結果、カイル王国でも高値で、グリフォニア帝国では更に高値で、取り引きされる魔物素材が多く揃った。



そうして、戦後処理が進み、ある程度落ち着いたのち、戦功のあった者は、論功行賞を受けるため王都に向かった。


ただ、戦功の乏しい貴族連合軍第一軍と、第四軍から成る部隊は、現地に残留し、引き続き魔物の掃討を行なっていた様だが。



後日、俺たちは集まった素材を処理し、魔法士の適性確認に使用する触媒、その他貴重な素材を優先して確保し、比較的入手しやすい魔物素材は、市場に出して販売した。


バルトには、これらの流通用素材を中心に、帝国に持参してもらっている。


戦時下とはいえ、こういった貴重な産品を、カイル王国から持ち込む商隊は、帝国からも歓迎されることが多く、入国や移動も認められやすいとの事だった。



春の始まり、テイグーン山で雪解けが始まったころ、3人は商隊に紛れ、こっそり旅立っていった。


早ければ半年、遅くても一年でバルトは帰還し、ラファールは情報がある程度集まれば、先行して戻ってくる予定だ。


そして、バルトとラファールには、無理のない範囲で、いくつかの調査を依頼していた。



<依頼内容>


・ゴート辺境伯領の調査

・ブラッドリー侯爵領の調査

・第一皇子勢力と第三皇子勢力の調査

・稲の入手、または入手可能性の確認

・砂糖の入手、またはさとうきびの入手



依頼している、隣国での調査内容は多岐に渡る。


商人たちの伝手でも、ある程度の情報は入手できるが、商人の思惑が入らない、信用の置ける正確な情報が少しでも欲しかった。


商人は情報も商売の糧とする。

彼らにとって、辺境のいち子爵、そのまた息子の男爵程度では、入手できる情報の質も量も限られていたからだ。


バルト達が直接、現地を検分した上で入手する、帝国の動向は、俺に取って非常にありがたい情報だ。


ちなみにこの派遣については、昨年の秋に【視察団】が訪れた際、ハストブルグ辺境伯に、準備が整えば実施したい旨を申し出て、内諾をもらっている。



〇調査内容の詳細


<ゴート辺境伯領>


ゴート辺境伯の後釜が誰になるか、これは俺たちにとっても大きな関心事だ。


恐らく、当主が戦死し全軍が壊滅した以上、残った一族が跡を継ぎ、辺境伯の任にあたる事は事実上不可能だろう。

大事な国境線を守ること、その重要な任務を引き継ぐ有力貴族が出てくる筈だ。


サザンゲート血戦の最後の追撃戦で、巧みな用兵を見せた一軍があった。その軍を率いた者が、辺境伯領の後釜となれば、非常に厄介だ。


それ以外でも、戦意旺盛で優秀な者が辺境伯として統治に当たれば、此方への影響は大きい。



<ブラッドリー侯爵領>


当主共々、今回の戦役で全滅した、そういう意味ではブラッドリー侯爵領も同様だ。


此方の場合、テイグーンに居る捕虜たちが所属する地でもあるため、この領地の去就も気になっていた。

捕虜たちにとっても、恐らく最大の関心事だろう。



<皇位継承争い>


帝国の後継者争いの動向は、俺たちにとっても最重要事項となる。

今はその勢力が分散し、互いに牽制しあっているが、後継者が定まり国内が落ち着けば、最悪のケースでは、全軍を以って侵攻してくる可能性もある。


そうなれば、前回のサザンゲート血戦とは比較にならない大兵力が、大挙して押し寄せる事となる。


用意周到に準備された、少なくても五万の軍勢の侵攻を受ければ、とてもじゃないが敵わない。

今のハストブルグ辺境伯の陣営や、南部貴族を結集しても焼け石に水でしかない。


特に第一皇子なら、前回の雪辱として、テイグーンを狙ってくる可能性も高い。


できれば、帝国内でお互いに消耗し、共倒れになってくれれば良いのだが、そうはいかないだろう。


彼らの動向を調査することは、バルトたちに【特命】として、与えるにふさわしい任務だった。



<稲(米)の入手>


もうこれについては、ずっと念願だったことだ。

たまたま俺は、帝国に住まう人間からその情報を得たとき、飛び上がらんばかりに喜んだものだ。


今回、第三皇子が拠点にしている街まで、足を延ばしてもらうのはこのためだ。

きっと何か手掛かりを、入手してくれるだろうと期待している。


栽培について、気候の問題はどうしうようもないが、水問題は新年にエランが行った提案で、解決するかもしれない。

稲作に必要な大量の水の確保が、テイグーンでは難しいと諦めていたので、光明が差した気持ちだった。



<サトウキビ、又は砂糖の入手>


正直、サトウキビの栽培は、気候的にできるかも知れないと考えている。

だが、取り急ぎ欲しいのは、大量の砂糖。


この世界、いや、カイル王国では特に、砂糖は希少で高価なものだ。

王国では、砂糖を使用し作られた菓子は、貴族か裕福な者のみが楽しむ贅沢品に分類されている。


だが、スーラ公国まで南に行けば、砂糖は一般的なもので、庶民でも何とか手が届く範囲のものらしい。


交戦中の隣国の、更に、その隣国の交戦国に砂糖の産地がある。

そんな事情で、カイル王国では、砂糖が届けられるまでに多くの商人を経由し、値段は格段に跳ね上がってしまう。


中世ヨーロッパで、胡椒が非常に高価で価値があったことと同様に、カイル王国では砂糖は非常に高価で価値が高い物だった。


スーラ公国まで行かなくても、グリフォニア帝国最南部の地域では、砂糖が生産されているらしい。

今回はそれの入手を狙っている。



バルト達には多くの任務を課し、地理不案内な帝国に送り出したこと、内心申し訳なかったが、今回同行した彼なら、きっと2人の助けになってくれる筈、そう思っている。


決して無理はしないよう、それだけを改めて念押しして、彼らには伝えた。



こうした俺の意向を受け、3名は旅立っていった。

ご覧いただきありがとうございます。


ブックマークやいいね、評価をいただいた皆さま、本当にありがとうございます。

凄く嬉しいです。毎回励みになります。


また誤字のご指摘もありがとうございます。

本来は個別にお礼したいところ、こちらでの御礼となり、失礼いたします。


これからもどうぞ宜しくお願いいたします。


<追記>

10月1日より投稿を始め、遂に100投稿を超えるまでに至りました。

日頃の応援や評価いただいたお陰と感謝しています。

今後も感謝の気持ちを忘れずに、投稿頑張りますのでどうぞよろしくお願いします。


また感想やご指摘もありがとうございます。

お返事やお礼が追いついていませんが、全て目を通し、改善点など参考にさせていただいております。

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