幼馴染が『ざまぁ』をさせてくれませんが、僕は幸せです。
好意を抱いている幼馴染に告白したら「あんたと付き合うなんてありえない」と冷たく突き放される。
どうしてそうなるのか分からないけど、失恋の直後に学園一の美少女が何故かフラれた男の恋人になってくれる。
そして幼馴染は男の魅力に気付き、フッたことを後悔する。
所謂『ざまぁ』と呼ばれるそれに、僕――椿芳一は強い憧れを抱いている。
だって爽快じゃないか。暴力に訴えず、自分のことを見下した女の子を見返せるなんて。
ネット小説ではよく見かける『ざまぁ』だけど、リアルな世界じゃ中々お目にかかることはない。そう都合のいい話が、そこら中に転がってる訳がないからだ。
でもだからこそ僕は実際に味わってみたい。『ざまぁ』というものを。
さて、『ざまぁ』を実現するためには、まず失恋を経験しないといけない。
都合のいいことに、僕には僕に対してツンケンな態度を取ってくる幼馴染がいる。
彼女には申し訳ないけど、僕の『ざまぁ』の餌食になってもらおう。
善は急げだ。さっそく放課後、彼女を屋上に呼び出して告白しよう。きっと彼女――谷口奈美恵なら、僕のことを盛大にフッてくれることだろう。
と、思っていたけれど――。
「いいわよ」
「え……?」
「だからいいわよ。あんたの彼女になったげる」
僕の想定では、告白した直後にこう言われるつもりだった。「あんたと付き合うなんてありえないんだけど」と。
奈美恵はパニックになっているのかもしれない。急に僕が告白なんてしたもんだから、思ってもいないことを口走ったのかも。
「本当に僕でいいの?」
「はぁ? あんたと付き合わないとかありえないんだけど? 私が何年芳一のことを好きだったと思ってんの?」
マジか……。
どうやら幼馴染はツンデレだったらしい。ツンの部分が強すぎて、今まで全然気付かなかったけど、彼女は僕のことを好いてくれていたようだ。
屋上で二人きりになった途端、急に顔を赤くし始めたからまさかとは思ったけど、こんなことになるなんて。
どうしよう……。さっそく僕の『ざまぁ』計画が頓挫してしまった。
本来であれば、告白が成功するという喜ばしい状況なのに、全く嬉しくない。
…………。
そうだ! 失恋からの『ざまぁ』が無理なら、寝取られからの『ざまぁ』をすればいい。
『ざまぁ』には、大きく分けて二つのパターンがある。ついさっき失敗した、フラれてから女の子を見返すパターンと、付き合ったあとに彼女が寝取られて、学園一の美少女が彼女になるパターンだ。
前者はもう不可能だけど、まだ後者なら実現が可能。
奈美恵はツンツンしてはいるけれど、男子にはモテる。彼氏がいるからと言って、全く男が近寄ってこないなんてことはないと思う。
幼馴染が寝取られるその時を待てばいい。そこからまた新たな『ざまぁ』の幕開けだ。
『ざまぁ』への道は完全に閉ざされた訳じゃない。僕の『ざまぁ』はこれからなんだ。諦めてなるものか。
★☆★☆★☆
奈美恵と付き合って1年が経った。
幼馴染は一向に浮気をする気配を見せない。それどころか、男子と会話する機会すらめっきり減った
彼女曰く、僕に変な誤解をさせたくないとのこと。話をするくらい別にいいじゃないかと思うのだけれど、奈美恵の行動は徹底している。
甘く見ていた。幼馴染の想いを。もうここから『ざまぁ』なことにはなりそうにない。
奈美恵との交際が始まってから、彼女はほぼ毎日僕のためにお弁当を作ってくれるようになった。正直めちゃくちゃおいしい。
未だにツンツンしているところはあるけれど、以前に比べ、デレの部分も大分増えたように思う。
ある日、彼女は僕に対してこう言った。
「芳一に『ざまぁ』なんか絶対させない。私はあんたのこと大好きなんだからね!」
僕の『ざまぁ』は完全に失敗した。でも、ここまで自分のことを想ってくれる恋人ができて、僕は本当に幸せだ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。