第91話:囚われて
ξ˚⊿˚)ξ予約投稿し忘れました。ごめん。
わたくしは今日、簡易魔力鑑定所も休みとし、王都にいた従業員たちを全て屋敷に集めていました。
襲撃を受ける可能性も考えていましたので。
馬車から降り、玄関を抜けてエントランスホールへと入るとわたくしが通るために開けた通路分以外は立錐の余地もなく、使用人や護衛に研究者、魔術師、冒険者たちが並んでいます。
わたくしは一人、階段を踊り場まで上がり、まずは先頭にいるタルヴォに声をかけました。
「タルヴォ、わたくしがいなかった間の報告を」
「は、屋敷の周囲にて兵の監視はございますが、こちらへの侵入や攻撃はありません。使用人、社員ら一同全員が無事です。鑑定所からは一旦全ての荷物をこちらに引き上げています」
わたくしは頷き、皆を見渡します。
「みなさん、我が夫にしてこの屋敷の主人、A&V社の長、アレクシが教会に囚われました」
城を出てすぐ、連絡が回っていたのでしょう。彼らの表情に驚きはなく、ただ怒りの感情のみが広間を満たします。
「今どき流行らない異端審問官まで用意し、アレクシに異端の嫌疑があると。彼らはわたくしたちが最新の研究結果を国家に開示すれば、アレクシの身柄を解放すると言っています」
わたくしは手にしていた扇を手すりに向けて振り下ろします。
扇は折れ砕けました。
「このような蛮行が許されますか!」
「否!」
口々に否定の声が上がります。
「わたくしは屈しない。そのような要求に応えてやるつもりはありません」
そこで一旦視線を外します。
「ただ、これは王家及び、この国の教会の長が完全に敵に回ったことを示します。危険もありましょう。それは家族、友人に及ぶかもしれません。あなたたちはここから距離を取っていただいても構いません。それでもわたくしたちは決して恨むこともなく、離れていった者たちもできる限り護ることをお約束しましょう」
返事はありません。ただ、真っ直ぐにこちらを見つめる瞳があるのみです。
「では戦いに移りましょう。まずはオリヴェル・アールグレーン卿こちらへ」
「お呼びでしょうか、我らが女王」
そう言って一礼し、オリヴェル氏が階段を上がってきます。
「わたくしの魔力を使って〈結界〉の術式を」
「危険なことであり、お勧めはいたしませんが」
「是非もありませんわ」
「御意」
わたくしが手を差し出すと、彼は跪きそれを取りました。彼の展開する魔術式がわたくしの手から流れ込んできます。
自ずと声が唇から発せられ、二人の声が重なりました。
「〈結界〉」
…………
「アレクシ・ペルトラよ。随分と価値のある発明をしたようだな」
俺にそう語りかけるのはヨハンネス枢機卿だ。本来俺なんかと話すような身分ではないが、あのミーナと結婚した日以来会うのは二度目となる。
俺は王都の大聖堂に隣接するように建てられている枢機卿の屋敷へと連行された。
俺が黙っていると、彼は続ける。
「だが、そのように価値あるものはその価値を正しく分かるものが管理し、使用すべきだ。平民ではなくな」
豪奢な、玉座と見紛うような金の肘置きの椅子に座る枢機卿は侍祭から酒杯を受け取り、葡萄酒が注がれていく。
教会が質素倹約だけでは威厳を保てないと言うのは理解できる。
だが聖職者の館がこれほどまでに輝いている必要はあるのか。俺も両親が死んでから孤児院に預けられていた時期があったが、そこの司祭の部屋には燭台くらいしか価値あるものはなかったと言うのに。
ここは応接室だろうか。と言っても俺の座るための椅子はわざわざ退かされたのか用意されておらず、話を立ったまま聞いているのだが。
「何もお前たちから全てを奪おうと言うんじゃない。お前がその技術を差し出すなら悪いようにはしない」
「差し出す気はない」
彼はふんと鼻で笑う。
「無駄なことだ。審問に耐えられた者はいない。お前は自らの身体を魂を無駄に傷つけることとなる。連れて行け。ただ殺すなよ」
俺の左右の異端審問官が頷いた。そうして俺の腕を乱暴に掴もうとして、青白い閃光と轟音が起こる。
彼らは悲鳴を上げて床に転がった。
護衛たちが剣を抜きながら駆け寄って枢機卿との間に立ち塞がる。そして剣をこちらに突きつけた。
「貴様! 何をした!」
「何も」
さすがに枢機卿の護衛か。聖騎士らしく祈りを捧げ、魔術……いや神聖術か? を使ったようだ。
「〈結界〉術式を使っている様子です。恐らくは敵を弾き雷撃を加えるようなものが」
「〈解呪〉せよ!」
「申し訳ありません、私より高位の術者のようです。試していますが〈解呪〉が効きません」
「アレクシ! 貴様魔術師か!」
「どうかな」
もちろん俺は魔術師ではない。アールグレーン卿がミーナを経由し、今自分が服に仕込んでいる大量のミーナの魔石を使って〈結界〉の術式を使ったのだ。
「術を止めろ!」
だから俺からは止められない。それを教えてやる必要はないが。
皮肉げに見えるように笑みを浮かべて言う。
「あなたは枢機卿を名乗るのに、神聖術が使えないんだな」
「黙れ下賤のものが! ……ちっ、魔力が切れるまでそこにいるのだな!」
こうして俺は拷問室に行くのを免れ、応接室に閉じ込められることとなった。






