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第8話:夜明け

ξ˚⊿˚)ξ本日4話目です。

「……まあ同居に関しては仕方ないか。だが旦那様と言われても困る。俺はあくまでもこれは偽装結婚というか白い結婚の類だと思っているからな」


「わたくしが子を成さないことでの離婚を考えておられますか? 離婚は難しいと思いますが」


「現状は、だろう。国王陛下が戻られれば状況も変わるはずだ」


 アレクシ様は優しいのか、残酷なのか。離縁が成立した場合、わたくしの名誉など欠片も残らぬというのに。いえ、それはあくまでも彼が貴族社会や女の社交に無知なだけであり悪意はないのでしょう。


「そうなるとよいですわね」


「さて、食事は食べ損ねたが今日はもう寝るとしよう。日が落ちてから貧民街に近いこの辺りを出歩くのは危険だ。土地勘も無いしな」


「そうですわね」


 庭には手押しポンプ式の井戸があったと、アレクシ様がタライに水を汲んでくださいました。それと箱の中から清潔な布を見つけたので、それで顔を洗わせていただきます。


「なんだこれはっ!」


 その間に2階を見に行っていた彼の叫び声が聞こえます。そしてドタドタと下へと降りてこられました。

 口をぱくぱくと開けられて言葉が出ない様子なので、こちらから声をかけます。


「わたくしは同衾しても構いませんわ」


「構うわ! 俺は下で寝る」


「しかしアレクシ様を床で寝させる訳には……」


「一緒では俺の気が休まらん。今日は君が」


「ヴィルヘルミーナ」


「……っ、ヴィルヘルミーナがベッドを使ってくれ」


「承知いたしました。わたくしも昨日今日とさすがにだいぶ疲弊しているので、お心ありがたく頂戴いたします」


「ああ」


「おやすみなさい」


 わたくしは礼を取って2階へと上がります。

 月明かりと王都の夜景に僅かに照らされる部屋の中でドレスを、コルセットを脱ぎ捨て、クローゼットとも言えないような小さな収納にかけて行きます。一番簡素なドレスにしてよかった。一人でも脱げるようなものでしたから。

 宝石入れ……はありませんしコルセットの陰に手袋を畳み、その上に置いておきましょう。ハイヒールも脱いで、床は冷たいですがやっと足が解放された気がします。家用の靴も欲しいところですわね。

 ですがもう全ては明日。わたくしはベッドの中へと潜り込むと、頭の中でおやすみなさいと考えるまもなく、意識は一瞬で闇の中に落ちました。



……………………



 眠ったのが早かったため、目が覚めたのは夜明けでした。

 曙光が顔にかかります。

 目を開けるとそこには薄桃色の布に薔薇の刺繍がされた天蓋ではなく、灰色の天井が映りました。


「平民は家の天井に絵を描きませんのね……」


 横を見るとなるほど、カーテンもなく、昨夜窓を閉めることもありませんでした。四角くくり抜かれた枠のような窓に取り付けられた板の隙間から光が差し込みます。

 もぞもぞと光から逃れるように寝返りをうちましたが、だんだんと明るさは増していき、朝の冷たい空気が顔を撫でます。

 わたくしはゆっくりと身を起こしました。こんな時間ではありますが眠気はありません。よほど深く眠っていたのでしょう。


「肌寒いですわ」


 布団を掻き抱いてぼーっとしていると、思わず声が漏れます。


「そう、ヒルッカたちもいないのよね」


 わたくしが目を覚ませばすぐに朝の支度をしてくれた彼女たちはもういません。これからはわたくしが一人でそれをせねば。

 そう決意していると階下から物音が聞こえることに気づきました。アレクシ様も起床されていたのでしょう。階段をのぼる足音が聞こえ、すぐに扉を叩く音に変わりました。


「起きていましてよ、どうぞ」


「失礼しま……うひゃあ!」


 彼は仰け反り、階段から足を踏み外しかけました。

 顔を掌で押さえられましたが、その下の頬が真っ赤です。


「おはようございます。アレクシ様」


「なななななん、おい君は」


「ヴィルヘルミーナですわ」


「っ! ヴィルヘルミーナ! なんで何も着ていないんだ!」


 わたくしは首を傾げます。


「もちろん寝間着を持っていないからですわ。それに裸で寝るのは不調法という訳でもございませんでしょう?」


「ばっ……! 俺がいるんだぞ!」


「旦那様の前ですから問題ありませんわ」


 彼はそれには答えず、怒ったようにどすどすと音を立てて下に降りていきました。

 荷物をひっくり返す音がしたかと思うと、また階段をのぼってやってこられます。


「俺ので悪いしサイズはわからんがどれか着てくれ! 俺は朝食を買ってくるから、その間に必ず、必ず何か着ていてくれ!」


 そう言って部屋の入り口に洋服を積み上げて、また階段を駆け降りていかれました。


「いってらっしゃいませ」


 ううむ、どうもお忙しいのか『おはよう』も『いってきます』も言ってくださいませんわ。言っていただけるようにしなくては。

 元家族であった公爵家も使用人のみんなはしっかりと挨拶してくれたのですが、両親ら家族はほとんど挨拶を交わしてくれなかったのです。王太子殿下もそうでしたわ。

 わたくしはアレクシ様には挨拶していただけるよう頑張ろうと心に決めたのです。頼めばわたくしの名を呼んでくださる方なのだから。

ξ˚⊿˚)ξ明日からは1日1話更新ですわ。


更新時間は7時にしておきますね。

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『追放された公爵令嬢、ヴィルヘルミーナが幸せになるまで。』(上)(下)


6月1日発売


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ビフォー アフター
― 新着の感想 ―
[一言] 条件は過酷。でも気持ちは負けていませんね。
[一言] ラッスケキターーー!!!!(大歓喜)
[良い点] ヴィルヘルミーナ! 強い子! 何も着てなくても心は貴族!
感想一覧
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