第24話:アレクシ様改造後
こうして、仕立服のできあがりこそまだ先になりますが、それ以外の普段の服も改めてサイズ直しをしてもらいました。
自宅でわたくしとセンニの二人を前にファッションショーです。
「素敵ですわ、アレクシ様」
「旦那様、似合うじゃないですか!」
わたくしがそう言うと、センニもアレクシ様を褒め称えて手を叩きます。
アレクシ様はそっぽを向かれて仰いました。
「つまらないお世辞を……」
「いえいえ、お世辞などとんでもない」
「そうですよ旦那様!」
まあ実際のところ多少はお世辞も入っていますけども、それでも今までとは本当に雲泥の差ですから。
「とても魅力的でしてよ。アレクシ様ご自身もそうは思われませんか?」
髪を短くし、眉毛も整えたことでお顔立ちがすっきりと見えます。もっさりしていたのが知的な風貌に見えますわね。また無精髭や顔の産毛を剃ったことにより顔色がとても明るくなったように感じられます。
そしていままでは着ていた服の胸やお腹、太腿の生地がだぶついていたのが、すっきりと身体にフィットしたことにより貧相な印象は受けません。
もちろん痩せ過ぎではあるのですが、よく言えばすらっとしていると言えないこともないような気がしなくもないところです。
まあ貴族的には富貴の象徴とも言える洋梨体型の真逆ですし、騎士たちの力の象徴とも言える逆三角の体型でもないですからね。一般的に魅力的と見えづらい体型なのは仕方ないところでしょうか。
それでも若くして下腹の出てしまっている貴族の殿方は、個人的にあまり好ましくは思えませんし。それよりはずっと良いと言えますわ。
アレクシ様は顔を赤らめて呟かれました。
「うーん。まあ……思ったより見られなくはないのかなと」
「そうでしょうそうでしょう!」
わたくしたちは全力で肯定します。ええ、こういうのはご本人に気分良くなって貰わなくてはならないのですからね。そうでなければ続きませんし、さらなる改善も見込めませんから。
アレクシ様から初めて自身の容貌やファッションに対して肯定的な意見が出たのは喜ばしいことですわ。
「どうしてもお値段はかかってしまいますが、今後は服を買ったら毎回こうしてサイズを直していただくべきです」
「そうだね、今後は気をつけるようにする」
何着か服を試していただき、鏡でご自身の姿も見て貰って、アレクシ様もご納得いただけた様子です。
どうせいても悪癖になっているためか段々と背筋が曲がってくるので、それはこまめに注意していきます。
「しかしあれだな。目を見せるなと言っていた上司たちは文句を言い出すかもな」
アレクシ様が額に手を当てて不安を口にされたので、わたくしは告げます。
「ではこう仰ってください……」
…………………
翌日、俺が研究所へと行くと、遠巻きにざわざわと囁きが交わされているのが分かる。
そして早速というか予想通りというか、上司であるトビアス、伯爵家の三男で四十絡みの男に絡まれた。この研究所の魔道具開発部の部長の一人であり、取り巻きというか太鼓持ちのようにくっついている研究員を従えている。
伯爵家の領地に住む平民や、近隣の男爵家からの縁故採用で派閥を作っているという者だ。
「どうしたねペルトラ君。随分と様子が変わったじゃないか」
髪を切ったから顔がよく見える。そして背すじを伸ばしているためか彼の薄くなりはじめた髪がよく見える。
「おはようございます、トビアス上長。単に髪を切っただけですが」
彼は顎を片手でしごきながら嫌味たらしく言う。
「ふぅむ、だが君の汚い瞳の色をあまり見せるなと伝えてあったはずだがねえ」
案の定の反応ではあった。
昨夜、ヴィルヘルミーナに言われた言葉を使ってみる。
「申し訳ありません、妻に髪を切るようにと強要されまして」
「ははは! 奥方の尻に敷かれているのかね! そうかそうか、君は元公爵令嬢を娶ったのだからな!」
トビアス上長は笑う。
取り巻きの者たちも追従して笑った。そのうちの一人が続ける。
「服まで買い替えたのか?」
「いや、いつもと同じのですよ。ただ、妻に全て仕立て直しに出されまして、いやあ金が飛びました」
再び笑いが起きる。
ああ、そうか。元公爵令嬢の傲慢さに困っている俺が見たいということなのか。なるほど、貴族だなんだと言っても単純な人間たちなのだな。
「平民の俺とはなかなか価値観が合わず……」
彼女が言っていたように適当に合わせていくと、トビアス上長たちは見るからに機嫌良さそうになった。
「ははは、かの悪女だ、気位が高くて大変だろう!」
俺は頭を下げ、内心で舌を出した。