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君を守ると誓ったので  作者: 白い犬
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1話

エグロン国。それは海と山に囲まれた、自然に愛された国。獣と人が共存し、豊かで平和な国。誰しも、けっして大きくはないその国に憧れを抱く。



その国は仲睦まじい王と王妃が手を取り合い、民の幸せを祈って営まれている。二人の間には一人の王子がいた。名はアトレ・エグロン。白銀の髪に、王族の証である赤い瞳を持ち、母親譲りの優しく美しい顔立ちの王子だった。まだ伸び続ける身長は170に届き、年々魅了する女性が増えている。民のために剣の腕を磨き、知識を蓄えた。王妃は体が弱く、他に子を産むことは出来なかったが、立派な王子の姿に、誰も不安を募らせることは無かった。


ある日、こんな御触れが国を駆け抜けた。


"王弟殿下が突然の死去、その娘を王女として迎える。"


たしかに、現国王には一人弟がいた。研究を心から愛している男で、成人する前に王位を放棄していた。また、自分は王族としての役目を果たすことが出来ないからと、王宮を出て、自身の研究を進めた。彼の研究は、薬、家畜や作物の品種改良など様々なことに役立った。だからこそ無責任とも取れる行動を窘める者はいなかった。そんな男に、子供がいたなどと、国民の誰一人として知る者はいなかった。


目立つことが嫌いだった王弟殿下は、密かに結婚をして、子供を授かったのでは?いや、捨て子を実の娘のように愛したのだ。民の間では様々な噂が流れたが、国王は、「弟の娘ならば、私の娘も同然である。これからは、私が弟の分も、愛を注ぎ育てていこう」と告げるだけだった。


民は王の優しさに涙し、いつしか来る姫のお披露目を心待ちにした。












「よかった。目が覚めたみたいだね」


アトレは少女には大きすぎるベッドに腰かけて、綺麗な黒髪をサラリと撫でた。少女はまだ意識がはっきりとしていないらしく、ぼーっとアトレを眺めていた。


「お腹は空いていない?あ、水を飲んだ方がいいよね。ずっと眠っていたから、きっと喉がカラカラのはずだよ」

差し出された水差しの飲み口を、無意識に咥えると程よい量が少女の喉を潤していく。


「シェリ、何も心配いらないよ。君は僕が守ってあげるから」




シェリ


それは自分のことなのだろうか。少女はうまく理解できなかった。ここがどこかも、自分が何者なのかもわからない。


「アトレ、シェリの様子はどうだい?」

「目が覚めたって侍女から聞いたわ」

「父上、母上……」


天蓋に2人分の影が映る。どうやらこの外には男性と女性が1人ずついるらしい。そしてその2人も、少女のことをシェリと呼んだ。アトレは待っていてと言って少女の頭を撫でると、カーテンの外へ出ていってしまう。少女はそれがとても寂しく思えた。




「やはり、医師の言っていた通り高熱による脳のダメージがあるようです。今も混乱しているように思えます」

「うむ、おそらく元々丈夫な子ではないのだろうな」

「ええ、あんなに小さく痩せているのだもの。まずは十分に体を休めてあげなくては」

「はい、引き続き僕が様子を見ます。叔父上からも託されましたからね」

「ああ、頼んだぞ」

「顔を見るのは、もう少し元気になってからにしましょう」

会話は少女の耳にはっきりと届いていたが、内容は理解できなかった。少女はただ、アトレが先ほど与えてくれた温もりを求めていた。


国王夫妻が部屋を出ると、アトレは侍女が持ってきた粥を少女の元に運んだ。給仕は侍女の仕事であるが、アトレは自分が世話をすると頑なに譲らなかった。それが、尊敬する叔父との約束なのだと。


「食べられる分だけでいいからね」

アトレは人肌程度の熱さに冷まされた粥を上半身だけ起こした少女の口に運ぶ。小さい口を開けて、粥を食べていく。粥の仄かな温度が体に広がっていった。


「美味しいかい?」

反応はできなかったが、アトレは少女の様子を見て小さく微笑んだ。



「僕はアトレ、シェリの兄だ。そして君はシェリ、僕のたった1人の、愛しい妹だよ」

食事を終えると、再び横になった少女にアトレは優しく告げた。愛情たっぷりの目で見つめ、優しく頭を撫でながら。少女は、シェリ、アトレと頭の中で交互に呟きながら、また眠りについた。


ここまで読んでくださりありがとうございます

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