第九話 飯屋
「では、私たちはこれで」
「あぁ、助かったよ」
ロール達は警備兵経由で盗賊達を売り払い街の中に馬車を進ませる。
馬車の中身を確認された時にシキの事を不思議そうに見ていたが、ロール達は信頼されている商人だったようで特に何も言われなかった。
何かあればロールが責任を取ると言ったことも大きいと思うが。
「ではシキさん、私達はここでの用を済ませてくるので明日の朝に後門で」
「分かった」
シキはロール達から自分たちの都合でシキさんを待たせることになってしまうのでといくらかの金貨を貰っていた。
1日過ごすだけでは金貨数枚どころか一枚も使い切れないとシキは言ったのだが、自分たちの立場のためですと言われてしまってはシキも言い返せない。
「んー、あの街では屋台の料理というか串焼きしか食べてないからこの街では飯屋にでも入るか」
そう呟きシキは近くの屋台で情報量として串焼きを三本ほど買い飯屋の場所を教えてもらう。
そしてシキは面倒ごとはゴメンだったので、その串焼きを人目のないところでアイテムボックスにしまう。
歩くこと数分、肉や野菜のいい匂いがし人気の出入りが他の場所より激しい場所を見つける。
「あそこか」
そう呟き店に行こうとした所で誰かの怒鳴り声が聞こえてくる。
「酒を持ってこいって言ってるんだよ!」
「も、申し訳ございませんがお酒は夜にならないと出さない決まりなんです......」
ドンッ
「んなこと知るかよ! 俺は今酒を飲みたいって言ってるんだよ!」
その男は図体がでかく見た目が厳ついことから誰も止めることが出来ないでいた。
そんな中不意に扉が開く。
もしかして誰かが警備兵を連れてきてくれたんじゃないかとそんな期待の目を向けるが、入ってきたのはただの子供だった。
他の客達は見てわかるほどに落胆する。
そんな中その入ってきた子供......シキはあることを思っていた。
(いらっしゃいませって普通に言われてみたかったのに)
シキ達が殺される前は当然邪眼は普通の人ならみんな知っていた。
だからこそ目を閉じている人物を見ると反射的に怯えてしまうのだ。
もし、少しでも自分たちを殺す気なら一瞬で殺せてしまうのだから。
だからこそシキは店に入ることを楽しみにしていたのだ。
だからといってそこまでシキに残念がっている様子はない。
シキは中でなにが起こっているかを大体理解していたのだから。
そんな中でシキも本気でいらっしゃいませ、なんて言われるとは本気では思っていなかった。
本気では、ということは多少は思っていたと言うことだが。
シキは歩いていき、怒鳴っていた男の近くの席に座った。
他の客達や店員は何やってるんだ!? といった風に思っていたのだが、シキは気づいているのかいないのかそれを無視し、注文をする。
「このオークの肉を使っているスープとオーク肉を使っているサンドイッチを頼む」
「え、えっと......か、かしこまりました」
店員は戸惑った様子を見せるもこの場から少しでも早く離れたかったのかいいきっかけが出来たと言わんばかりに奥へ戻っていく。
そうなると男は当然ながら自分の注文を邪魔した奴が気に食わなくなり、それが子供となると尚更気に食わなかった。
「おい、聞いてなかったのか? 今は俺が注文してたんだよ!」
「......お前こそ聞いていなかったのか? 酒は夜にならないと出せないと言っていただろ」
シキはため息をつきながら嫌そうに男に聞き返す。
男はまさかこんなガキが自分に向かって言い返してくるとは思っておらず一瞬理解できなかったが次の瞬間には理解する。
そして他の客達もまさかこんな子供があんなことを言うとは思っておらずキョトンとする。
「なんだとてめぇ! ガキだからって俺が手ぇ出せねぇとでも思ってんのか?!」
「お前こそ俺が子供に見えるからってお前に手を出せないとでもおもっているのか?」
「てめぇ!」
男は顔を真っ赤にしながら机を蹴り飛ばしシキの方へ向かってくる。
その際他の客達が警備兵を呼んだ方がいいんじゃないか?! などと言ったことを騒いでいたがそんな事聞こえていないかのようにシキの目の前へ着く。
「お前こそ子供みたいだな、本当のことを言われたからって癇癪を起こしやがって」
シキがそう言うと更に顔に血を昇らせ鞘に入っている剣を抜く。
他の客達はそれを見てすぐさま外に出る。
「今ならまだ許してやる、死にたくなかったら死ぬ気で謝れ」
「死にたくないのに死ぬ気で謝るのか......面白い冗談だな、ただ、そうだな、俺も目立ちたい訳じゃない、謝れば許してやるよ」
実際シキは目立ちたくなかった。
少なくても邪眼について普通の人が知っているとはこの短期間でもシキは思えなかった。
ただ、もしもの事を考えるとあまり目立ちたくはなかった。
もう今更の話なのだが。
そしてもし本当に目立ちたくないのなら辺境なんて所に行く必要は無いのだが......シキは仲間たちの分までこの時代を楽しみたかった。
隠れて安全に過ごすか、少しの危険を背負い自由に生きる方ならシキは自由に楽しく生きる方を選ぶ。
だからこそシキは冒険者になり経験を積み学園に入ろうとしているのだから。
「この、クソガキがァァァ」
剣を振り上げる男。
そしてシキは指輪を破滅の杖に変え剣を弾き、破滅の杖で突き飛ばす。
「おわっ」
こんな子供に自分が突き飛ばされるとは思っておらず思わずそんな声が漏れる。
そして突き飛ばされた方向にあった机やイスを吹き飛ばしながら壁に頭からぶつかる。
そんな中不意に扉が開く。
「もう安心しろ警備兵をつれ......てきた、ぞ?」
「これは、どうゆう事だ?」
「え? いや、俺にも分からないが、その男がそこにいる子供を殺そうとしたんだよ......だから」
「君、何故あの男が気絶しているのか分かるかな?」
警備兵は現場にいたものに聞くのが手っ取り早いと判断しシキに話しかける。
ただ、シキはどう答えようか迷う。
自分が倒したと言っても間違いなく信じてくれないだろうと。
(どうしたもんか......店の店員も奥に行ってたしな......あ、ギルドカードを見せればどうにかなるか? ここで嘘をついて嘘を見抜く魔道具でも持っていたら面倒事になりそうだしな......いや、その場合はむしろ信じてもらえるか)
そんな事を考えながらシキは警備兵に向かって口を開く。
「俺が倒した」
「......そのぐらいの歳だとそうカッコつけたい気持ちも分かるけど、今は正直に話してもらわないと困るんだよね」
警備兵はそう言いシキの言葉を全く信じていない様子だった。
無理もない警備兵を連れてきたという男も苦笑いなのだから。
ただ、そんな警備兵にシキはギルドカードを渡す。
「ランクD冒険者!?」
その言葉に警備兵を連れてきた男も目を丸くする。
ランクD冒険者、そこまで高い訳では無いが、シキの見た目で言ってしまうと高いランクだった。
「ほ、本当に?」
「ああ、俺が倒した」
「少し、話を聞かせてもらえるかい? 決まりでね」
「俺は飯を食べに来たんだが......」
「すまないね」
そんな警備兵にシキは渋々といった感じでついて行くのだった。