第七話 移動
「まぁ、初級魔法の事はともかく、俺のランクはどうなるんだ?」
「もちろんDランクでいいに決まってるだろ......お前の体のどこに俺を吹き飛ばすような力があるのやら......」
そういいシキを見つめるガルルだがそんな事でシキの体のことが分かるはずもなかった。
「取り敢えず冒険者カードを渡せ、ランクを変えて貰うから」
「あぁ、分かった」
シキはギルドカードをガルルに渡しガルルと共にまだなにが起きたのかを理解出来ずに唖然としているもの達を放っておいてギルドに戻っていく。
「えっと......ガルルさん?」
そこでは1人のギルド職員が困惑していた。
まさかシキのような子供がガルルを認めさせるどころか吹き飛ばしただなんて。
そしてそのギルド職員は冗談ですよね? といった視線でガルルの事を見つめている。
「いや、これは冗談でもなんでもなく事実だ」
「......実力が伴っていないランクになっても命を落とすだけというのは分かっていますよね?」
「あぁ、分かっている」
「では、本当に?」
「見ていたやつも多勢いる。そいつらに聞くといい」
「......ガルルさんがそんなすぐに分かるような嘘をつくわけありませんよね......」
そう言いながら不承不承といった感じで奥にシキのギルドカードを書き換えに行く。
「なぁ」
「どうした?」
「いや、魔物の解体とかってギルドでやってもらえたりするのか?」
シキは解体なんてしたこともなかった。
ただ、解体をしないとギルドに売るにも売れない。
その問題を早く解決したかった。
「ギルドで解体はやってもらえるが当然金はかかるぞ?」
「いくらぐらいだ?」
「ものによるってかんじだな。大きさとか、ランクとかな」
「なるほど」
そんな風に数分程ガルルと話しているとやがてギルド職員が戻ってくる。
「おまたせしました、こちらをどうぞ」
ランクD冒険者と書かれたカードを受け取る。
「なぁ、ガルル」
「ん? どうした?」
「辺境の街の場所を教えてくれないか?」
ガルルは一瞬こいつは何を言ってるんだ? と思うもやがて理解する。
「辺境に行く気なのか?」
「だから聞いてるんだ」
「辺境ってのはどんな場所かってのはーー」
「分かって」
ガルルの言葉を遮りそう言う。
そしてしばらく話しやがて渋々ながらも場所を教えてくれる。
「ありがとう、じゃあな」
「ああ、元気に暮らせよ」
シキはギルドを出て肉の焼ける匂いに釣られるように屋台を回る。
その際、どうせこの街からはもう出ていくんだとアイテムボックスをこれ見よがしに使い近くにいた人達を驚かせるのだった。
そしてシキは森の中にいた。
商人たちからなにか商売の種になるかもと話しかけられる可能性を考慮して今に至る。
そして森を歩いているとオークの気配が5匹ほど近づいて来ているのに気がつく。
「ちょうどいい、手加減の練習相手だ」
そう呟き破滅の杖を手にオークとの間合いを一気に詰める。
当然ながらオークはまだシキの事には気がついていない。
そしていきなり飛び出してきたシキに動揺してしまう。
シキはその隙をついて横に一振。
オークが粉々に粉砕し、まだ威力が衰えずに2匹目、3匹目と粉砕する。
「......まだ2匹いるし」
そしてオーク達も自分たちが襲われているのだと理解し、シキに襲いかかる。
「ブォォォォォ」
持っていた棍棒をシキの頭に向かって振り下ろす。
そんな攻撃をシキは大袈裟に避ける。
この辺が戦闘経験があまりない証拠だろう。
そんなシキに追撃をかけたのはもう1匹のオークだ。
シキもこっちにオークが向かってきているのに気がつきオークに合わせてかなり手加減して突きの一撃。
オークは後ろに吹き飛ばされ、木に体をぶつけ止まる。
そんな時だった。
頭の中に妙な声が流れたのは。
【特定の生命を5匹殺しました。嗅覚上昇を収得します】
シキは当然ながら困惑する。
ただ、もう1匹のオークはそんなシキの様子をチャンスと見て棍棒を振り上げながらシキに向かってくる。
シキもこのことは後で考えようと頭を切り替えオークの一撃を破滅の杖で防ぎ横に薙ぎ払いオークの体を吹き飛ばす。
そして、粉々になったオークと手加減に成功したオークの死体をアイテムボックスに仕舞う。
「さて、特定の生命ってのはオークだよな? そして俺の体にそんな機能は無いはずだ。となると......」
破滅の杖を見つめるシキ。
シキは破滅の杖の事を全て知っているとは思っていなかった。
ただ、まさかこんな機能があるだなんて思いもしなかったのだ。
「嗅覚上昇」
そう呟くとただでさえ不快に思っていたオークの血の臭いが漂ってくる。
「分かった、もういい、解除だ」
そして直ぐにシキはこの場所を離れる。
「とんだ罠だな......ただ、オークを5匹殺したから覚えたんだよな? なら10匹殺せばどうなる? オークじゃなくても5匹殺せば同じことになるのか?」
そう考えるシキだったが、考えたからといって答えが分かるはずもなく辺境に向かって森の中を進むのだった。