第五話 ギルドと面倒事
(目立つな)
シキのような子供の見た目でしかも目を閉じて歩いていて目立たない訳がなかった。
街中ではある程度の人混み故にあまり目立たなかったのだが。
ただ目立つだけで何も話しかけられないのは何かを依頼しに来たとでも思っているのだろう。
そんな事気にした様子もなくシキは受付嬢の元へ行く。
「何かの依頼でしたらあちらですよ?」
「いや、冒険者になりたい」
「......かしこまりました。 では、こちらに記入をお願いします。 文字が書けないのなら私が代筆しますがどうなさいますか?」
「自分で書くから大丈夫だ」
下手に何も聞いてこないというのはギルドの受付嬢を任されるだけあるのだろう。
ただ、それは受付嬢の立場があるからだろう。
「おい坊主、正気か? いや、何か訳があるんだろうがそれでもお前が冒険者に向いてるとは思えないが」
そう聞いてくるのは身長180cm程の背中にハルバードを背負った男だ。
そして受付嬢も顔には出さないようにシキ達の話を聞こうとしてくる。
「そう言われてもな、冒険者になるのは自由だろ?」
「それはそうだが」
男に答えながらシキは自分の事を書いていく。
(魔法は使えるが実戦で使えるのは中級魔法の炎だけだしな杖を使って戦うとでも書いておくか)
全て書き終えるとシキは受付嬢に渡す。
「ではシキ様、今日からGランク冒険者となります。 それと、もしやる気があるのなら明日の朝方にギルドへお越しください、試験を受け合格しましたらランクD冒険者から始められるかもしれません」
「あぁ、わかったありがとう」
シキの名前と冒険者ランクが書かれているカードを渡される。
そして用は済んだとばかりにギルドから出ようとするシキだが急に肩を掴まれる。
「おい! ガルルさんが心配してくれてるのになんだその態度は!」
「ガルル?」
「俺の名前だ、悪いな」
さっきのシキを心配してくれていた男がそう言う。
シキもこの男......ガルルの事を悪く思っていた訳では無い。
自分の事を心配してくれているのは分かっていたのだから。
「そう言われてもな、心配してくれたのには礼を言うが何もこっちから頼んだ訳じゃないだろ」
「なんだとこのクソガキが!」
シキに向かって手を振り上げた所でガルルがその手を掴む。
「やめるんだ、そしてお前もお前だ、そう人を挑発するな」
「そう言われてもな、絡んできたのはそっちだろ?」
「はぁ、お前のような子供はもっと賢く生きるべきなんだよ」
「忠告には感謝するが生憎とこういう性格なもんでな」
シキとガルルが話している間にもシキを殴ろうとした男の腕を掴み暴れている男を抑え込んでるのを見ればガルルとの実力差は明白だろう。
「俺はもう行くぞ? 腹が減ってるんだ」
「......分かった気をつけるんだぞ、特にお前の性格じゃあな」
「ありがとよ」
そしてギルドから出るシキだったが、5人程の男達が近付いてくるのに気づく。
(あぁ、そういえばこいつらのことを忘れてたな......こんなに人がいるのに絡んでくるのか?)
人混み、そして冒険者ギルドの前だと思えばここにいる奴らの多くは冒険者だろう。
実際武器や防具を持たずに歩いている人の方が少ないのだから。
(まぁ、ガルルみたいな奴もいればこういう奴らもいるよな)
そう考えている内に男達はシキの前までくる。
ここでシキを囲まないのはシキを舐めているのかそこまで頭が回らないのかは分からなかったが。
「ちょっと俺達と話そうか」
「やめとく」
「......お前は勘違いしているようだがこれはお願いじゃなくて命令だ」
「生憎と俺は腹が減ってるんだ、また今度な」
「てめぇ!」
シキと話していた男は顔を真っ赤にしながらシキに殴りかかってくる。
シキに邪眼以外の戦闘経験は森での件のみだ。
だからといってこんなチンピラにやられるほどシキは弱いわけじゃない。
男の拳を避け腕を掴み投げる。
【は?】
周りの野次馬からそんな声が漏れる。
簡単なことに聞こえるかもしれないがシキの見た目で大人の男を投げる場面を見てしまえば驚くなと言う方が無理だ。
そして宙を舞いながら地面に背中から落ちる。
シキは唖然とした様子の残り4人に突っ込んでいき突進する。
そうすると3人が吹っ飛び残りも1人も尻もちをつく。
「見逃してやるから吹っ飛んだゴミを拾って行け」
まだ状況を理解していないのか最後の1人はシキの言葉に答える様子はない。
当然だろう、いいカモを見つけたと思ったらそいつは男達にしてみればとんでもない化け物だったのだから。
ただ、当然ながらシキは戦闘経験が豊富なわけじゃないので一定以上の実力者が見れば未熟だと分かるのだが。
そして周りの状況を見れば全員が何が起きたのか分からないと言った表情をしていることからここにいる人達は一定以上の実力はないのだろう。
「聞こえなかったのか? それともお前もお仲間の様になりたいのか?」
「い、いえ滅相もございません」
男は頑張って立ち上がりその場から去ろうとするが。
「待てよ」
「な、なんでしょう?」
「さっきも言ったがゴミを拾っていけ」
「は、はい」
そして男が全員を頑張って連れていくのを見たシキはその場から去る。
「早速目立っちまったな......まぁ、遅かれ早かれってやつか」
シキの言うことは間違っているわけではない。
シキは依頼を受け高ランク冒険者になるつもりなのだから。
高ランク冒険者になれば今のシキに出来ないことも出来るようになるのだ。
そして自分の体の事を考えるとそれも出来るだろうと。
それを抜きにしてもアイテムボックスの件で目立たないことは不可能なのだが。
「うん、まずは明日の試験だな、それに合格したら辺境に行くか」
当然ながら辺境に行けば出てくるモンスターのランクも上がり、危険度も増す。
その代わりとしてランクを上げやすいのだが。
そんな事を考えていると肉の焼けるいい匂いがする事に気がつく。
「屋台か、買っていくか」
そう呟き、屋台に向かって行くのだった。